黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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078 成金趣味は無い

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 女神教大神殿ではレムリバード宰相とネイセン伯爵様と、フェルナド,ウェルバ二人の大教主が待っていた。
 大テーブルの上にエメンタイル王国とアリューシュ神教国、両国の教皇猊下や大教主から没収したマジックバッグを置く。

 俺が次々とマジックバッグを取り出したので不思議そうに見られる。
 そりゃそうだ、個人でこんなに沢山のマジックバッグを持つ者などいない。

 「此れはエメンタイル王国の女神教とアリューシュ神教国教団の、教皇猊下や大教主及から取り上げた物です。中には彼等が溜め込んでいたお宝が入っています、金貨の袋に関しては女神教の教主からも提供を受けて居ますがね」

 「此れをどうするつもりなのかね?」

 「この中に入っている2倍の金額を、アリューシュ神教国教団と女神教から提出させて下さい」

 フェルナド,ウェルバ二人の大教主を見ると、頷いている。

「集まった金で、此れまで拘束されてきた治癒魔法使いや魔法使い,鑑定使い,薬師等の保証に充てて下さい。新たな法によって自由になったときの生活費が必要でしょう。アリューシュ神教国教団,教皇猊下のマジックバッグは、俺に対する謝罪金として私が貰いますので宜しく」

 〈ブーッ〉と吹き出す声が聞こえ、ネイセン伯爵様が噎せている。
 慈善事業じゃないんだから、手数料をきっちり徴収するのは当然でしょう。
 手数料は時価、マジックバッグの中に幾ら入っているのか解らない。
 ラフォール・ウルバン教皇猊下が、清廉潔白な方であれば格安料金で働いた事になるのだけれどね。
 マジックバッグを持っている時点で、推して知るべしってところかな。

 後はレムリバード宰相とネイセン伯爵様が、国王に進言して何とかするだろう。
 俺は暇な時に、時々指示通り遣っているか監視するだけにするよ。

 ・・・・・・

 王都の冒険者ギルドに行き、獲物を持って来たとだけ伝えて解体場に入らせて貰う。
 数組のパーティーが、ホーンボアやオークを置いてお喋りしている。
 解体主任が俺達を見付けて、ランカンを手招きする。

 「今日は何だ?」

 「少し大きいので場所を指定してくれ」

 「ん、此処じゃ駄目か?」

 「だから大きいって言っているだろう。此処で出すと、其奴等が潰れてしまうんだよ」

 「おい! いったい何を持ってきたんだ?」

 「ギルマスが言ってた奴・・・ゴールデンベアだ」

 〈ゴールデンベアだぁ~、ブーッフワッハハハハハ吹くねぇ〉
 〈まさかねぇ~、王都周辺にそんな獲物は居ねえぞ〉
 〈こりゃー、王都冒険者ギルド最大の法螺話になるぞ〉

 「マジかよぉ~・・・こっちへ置いてくれ」

 〈おいおい解体主任さんよ、何を本気にしてるんだ〉
 〈解体主任さんもノリが良いねえ〉

 「馬鹿かおめえ等は、ギルマスが頼んでいたんだよ!」

 馬鹿が騒いで煩いけど、ガルムが指定された場所にゴールデンベアを〈ドン〉と置く。

 〈カーアァァァ・・・マジかよぉ~〉
 〈ゴールデンベアって初めて見るぜ〉

 さっきまで馬鹿にしていた奴等が、ゴールデンベアを見て駆け寄ってくる。

 「ドチンピラが邪魔だ、其処をどけ!」
 「お前等が其処に居たら獲物が出せねえだろうが!」
 「どかないのなら、お前の上にゴールデンベアを乗せるぞ!」

 ガルム,バンズ,ボルヘンと三人の、連携の採れた怒鳴り声に舐めた態度の男達が慌てて横に逃げる。
 逃げた瞬間を狙って、ガルムがゴールデンベアを其処に〈ドン〉と投げ出す。

 〈凄っげぇなぁぁぁ〉
 〈マジ、ゴールデンベアだぜ〉
 〈然も二頭だぞ〉

 「解体主任、ギルマスに討伐して来たって言っといてね」
 「俺達はエールで一杯やっているから査定を宜しく~」
 「少し焦がしちゃったけど高く査定してねぇ~」
 「沢山穴を開けちゃって御免ねぇ~」

 皆のりのりで解体主任を揶揄っている。

 俺達が食堂でエールを受け取っていると、先程の馬鹿が駆け込んで来た。

 〈おい! 解体場にゴールデンベアが持ち込まれたぞ〉
 〈然も二頭だぜ、あんな馬鹿でかいゴールデンベアなんて聞いた事も無いぞ〉
 〈俺なんて、ゴールデンベアを目の前に出されて・・・少しちびっちまったぜ〉

 あ~あ、食堂が大騒ぎになり、酔っ払いの大移動が始まってしまった。
 暫くすると、解体場の方から〈邪魔だ! 失せろ!〉〈飲むのなら食堂で飲め!〉なんて怒鳴り声が聞こえて来た。
 解体場からゾロゾロと戻って来た冒険者達が、俺達を横目で見て通り過ぎて行く。

 〈おい、彼奴らって、草原の牙を叩きのめした奴等じゃねえのか〉
 〈ばーか、草原の牙を叩きのめしたのは、チビ助一人でだよ〉
 〈おお、奴等が子供扱いされてたな〉
 〈どっちが子供だか判らないくらい強かったぜ〉

 〈他の奴等はチビ助の護衛だなんて惚けていたが・・・〉
 〈凄腕の魔法使いが二人も居るからなぁ〉
 〈魔法だけで、ゴールデンベアを軽々と倒しているぞ〉
 〈以前もホーンボアを魔法の一撃で討伐して持ち込んでいただろう〉
 〈いやいや、あんな巨体のゴールデンベア何て、魔法じゃなきゃ倒せないだろう〉
 〈あんな化け物に、槍や剣なんか通用するものか〉

 「おう、アキュラすまねえなぁ~」

 「違うよ、俺は何にもしてないよ。あれを倒したのはお姉さん二人だよ」

 「それにしても良い腕だな。護衛なんぞしてないで、討伐専門ならもっと稼げるだろう」

 「嫌ですねぇギルマス、討伐は恐いから遣りたくないのよ」
 「そうそう、恐いから連続攻撃をして焦がしちゃったわぁ~」
 「私も、恐いからアイスランスをポンポン撃っちゃって穴だらけよ」

 エールのジョッキを片手に、討伐は恐いと宣う二人。
 それを他の四人が、にやにやと笑いながら見ている。

 〈聞いたかよ、討伐は恐いって〉
 〈あんなものを狩ってきて、討伐は恐いって言われてもなぁ〉
 〈ゴブリン相手に冷や汗を流している俺って・・・〉
 〈俺達の立つ瀬がねぇなぁ〉

 支払いは風の翼の口座に入れてと頼み、俺は王都の森に向かいランカン達はホテルに戻った。

 ・・・・・・

 はやり病の時に根こそぎ採取した薬草も生えそろい、精霊達も森の中を縦横に飛び回っている。
 精霊樹の周辺だけでなく池の周囲以外の場所も薬草を植え、当初の予定通り王都の森の隅々まで薬草を植える準備を始める事にする。

 森の中の少し開けた場所に俺専用の小さな家を作る事にして、“だいち”にお願いして整地して貰う。
 それとは別に正門から少し入った所に厩と馬車置き場を作らねばならない。 ガルムとバンズが、薬草の面倒を見ているとき、何時までもバリア住まいでは不便だし一々ホテルに帰るのも面倒だろう。

 翌朝やって来たガルムとバンズに、森の隅々まで薬草を植えたいので、精霊樹周辺以外でも生えるものを検討してくれと頼む。
 ランカンとアリシアは、俺と共に商業ギルドにお出掛けだ。

 久方ぶりの王都商業ギルド、ギルドの会員カードを示して小さな家と厩と馬車置き場を建てたいので、関係者を紹介して欲しいと伝える。
 受け取ったカードをチラリと見て、返事もせずに奥に下がった。
 嫌~な予感、暫くすると奥の商談室へ案内されたが、着飾った初老の男と事務方らしき中年女性が待っていた。

 「アキュラ様で御座いますかな。私、王都商業ギルドの会長グロストと申します。アキュラ様には口座のご確認を頂きたいので御座います」

 「口座の確認?」

 「はい、以前ギルド会員の登録をして以来王家より何度か入金が御座います」

 女性が差し出した書類には、ギルド会員登録時の610,000,000ダーラの下に、150,000,000ダーラと300,000,000ダーラ1,000,000,000ダーラの記載がある。 150,000,000ダーラは、ランバート領ボルトンの領主ハティー・オーゼン子爵から巻き上げた、ポーションの代金だろうと思う。

 300,000,000ダーラ、此れは王都のはやり病の治療依頼に対する報酬だが、判らないのが、1,000,000,000ダーラだ。
 此れって金貨10,000枚だぞ、一月程前に振り込まれているが心当たりがない。
 総額で2,060,000,000ダーラ、金貨にして20,600枚になる。

 数千枚単位で結構使ったはずだが、俺のマジックバッグの中にも相当お宝が眠っているので自分でも幾ら有るのか判らない。
 王家の振り込みなら、レムリバード宰相に聞かなければ判らない。

 「あのー、アキュラ様・・・何かご不審な点でも」

 「ああ、すまない。最近振り込まれている金貨10,000枚が何の為なのか心当たりが無くてね。まっ、後でレムリバード宰相様に聞いておくよ」

 「それで家をご購入為されたいとか」

 「部屋数にして数室の小さな家と、馬車数台を置く小屋と厩を建てたいので紹介して欲しくてね」

 「はぁ~、数室・・・ですか」

 あからさまにガッカリしている。
 成金御殿なんて建てる趣味は無いので、期待するなよ。
 横に座るランカンとアリシアは、魂の抜けたような顔でソファーにもたれ掛かっている。
 翌日基礎工事をする土魔法使いと大工を、ホテルまで寄越すと言われて商業ギルドを後にする。

 「あんたの規格外には馴れたつもりだったけど、金貨10,000枚とはねぇ」
 「商業ギルドの会長が出て来る筈だわ。然も王家からの振り込みだって、一対何をしたらそんなに支払われるんだ」

 商業ギルドから王城に直行し、レムリバード宰相に面会を申し込むと、直ぐに侍従が迎えに来た。
 最近王城やら宮殿に大神殿と、身の丈に合わない場所ばかりを徘徊している気がする。
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