黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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067 詠唱

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 「症状だけを鑑定鑑定できませんか? 必要なのは何処が悪いのか、それさえ判れば宜しいのです。悪い所は何処ですか?」

 「胸の病で、その為の発熱でしょう」

 「(鑑定! 症状)〔胸の異常・微熱〕」声に出して鑑定し結果を告げてやる。

 俺達二人の鑑定結果を受け、胸に手を当てて「慈悲深きアリューシュ神様の加護を、この者に賜らん事を、ヒール」と唱えて治療している。

 「(鑑定! 症状)〔健康〕」

 「恐れ入ります聖女様、先程鑑定の発動に症状とのみ唱えましたが・・・」

 「人それぞれの鑑定方法が有るでしょうが、必要な情報だけを引き出せるように練習すれば、出来る様になると思います。それぞれ人に知られたく無い事も有るでしょうから必要な事のみを鑑定しなさい。一番簡単な練習は見た事も無い茸を食用か否か、後は猫や鼠の雌雄の鑑定とかかな、必要な情報のみを引き出す練習です」

 エンデ達の治療を見学し、治癒師や治癒師見習いへの教え方を聞かれたりする。
 此れから増えるであろう一級や二級治癒師達と話し合い、お互いの指導方法や詠唱を教え合いながら、よりよい方法を模索しなさいとしか言えない。
 ただ一つ、詠唱はもっと短縮出来るし治療効果も上げられるとだけ言っておく。

 そこから先は自分達で考えろってこと、俺のやり方は異世界のラノベから学んだ禁じ手だからね。
 女神教にも魔法部隊が居た事を思い出し、魔法訓練場を借りる事にした。

 ・・・・・・

 「聖女様、あれだけで魔法の腕が上がるの?」

 「大丈夫だよ、詠唱を短くして魔力の流れを教えただけでも相当良くなっているからね」

 「じゃあ、私達も一気に腕が上がるかしら」

 「あー・・・それはどうかな、彼女達は助言する前でも一流の腕前だったからね。取り敢えず二人の魔法は、基礎の確認からかな」

 魔法訓練場は教団の敷地の外れ、余り人の寄りつかない場所に有って都合が良い。
 アリシアの雷撃魔法とメリンダの氷結魔法に風魔法、見せて貰うのは雷撃と氷結だが撃たせる訳ではない。
 先ずアリシアに雷撃を見せて貰う事にした。

 「アリシアは掌の上に雷撃を出現させてよ。撃つのでは無く掌の上1メートルの所に雷様を出してよ」

 「エッ、撃つのでは無く出すだけなの」

 「そうだよ、魔法攻撃では、先ず玉を作れなきゃ撃てないでしょう。玉を自由自在に作れてこそ撃てるんだから。俺の結界魔法だって最初はしょぼいものだったよ。先ず基礎からだね」

 日本のラノベ参考だが、結界魔法の訓練でも十分役に立ったのだから大丈夫・・・多分。

 〈集え! 高き空に轟く雷鳴の如く、我が魔力を糧に雷を手の上に現し、我の願いを聞き届けよ!〉

 《はーい、お手伝いするよー》

 《待てまて“らいちゃん”手伝っちゃ駄目だからね》

 《えーでも、今小さい子達を呼んだでしょう。私が手伝えばもっと大きなものを撃てるよ》

 それが不味いんだよー・・・精霊の力無しで出来なきゃ意味が無いんだよ。
 ・・・ちょっと待てよ、小さい子達が手伝おうとしていたのか。

 《“らいちゃん”、小さい子達にもお手伝いは駄目って言っておいてね》

 危ない危ない、アリシアの掌の上1メートルの所に特大の雷様が出現するところだった。

 その間に詠唱が終わり掌の上に雷が現れるが、大きな線香花火のようで雷光が安定しない。
 一応、雷を作る事は出来るのだから改良だけだな。

 「アリシアちょっと待って、詠唱を短くしよう」

 〔集え! 高き空に轟く雷鳴の如く、我が魔力を糧に雷を手の上に現し、我の願いを聞き届けよ!〕なーんて中二病全開だし、傍で聞いていても恥ずかしい。
 高き空に轟く雷鳴の如くねぇ、集え! は却下で高き空も要らないか。
 我が魔力を糧に雷を手の上に現し・・・雷を手の上に現しも不要だな。
 我の願いを聞き届けよ!、完全に中二病患者の雄叫びだから削除!

 〔我が魔力を糧に、出でよ! 雷光!〕短縮詠唱としてはこれくらいかな。
 此れなら最低限のイメージは保てると思うから。

 「アリシア、詠唱は〔我が魔力を糧に、出でよ雷光!〕ね。ちょっと言ってみてよ」

 「そんなに短くて大丈夫なの?」

 「一級治癒魔法師達の詠唱を聴いていたでしょう、あれでも半分以上斬り捨てて短くしているんだよ。それでも問題なく治癒魔法は発動しているよ。本当はもっと短く出来るけど、治療する人々の安心のために長めにしているんだよ」

 「確かに治療は出来ていたから、間違いないのでしょうけど」

 「詠唱してみて、スムースに言えるようになったら本番ね。その時には詠唱しながら雷光の大きさと、出現させる場所を思い描くんだよ」

 保険のために、アリシアとメリンダにシールドを張っておく。

 ブツブツと何度か繰り返した後、掌を上に向け〈我が魔力を糧に、出でよ! 雷光!〉

 現れたのは直径50センチ程の閃光を放つ雷、〈パーン〉と破裂音を残して消えたが、俺達三人は雷撃を受けて跳ね飛ばされた。

 〈キャー〉とか〈イッャー〉なんて聞こえたのが奇跡。
 良く鼓膜が破れなかったと感心した。

 〈おい! 大丈夫か?〉
 〈怪我は無いか! 今のは何だ!〉

 糞ッ、そんなに女房が大事かよ。

 「ただの雷撃魔法の出来損ないだよ。怪我もしてない筈だよ」

 「ごめーん、大きさを間違えたわ。もっと小さな物を思っていたのに」

 「もーう、ビックリさせないでよね」

 「アリシア、無理矢理魔力を絞り出したでしょう」

 「何時もの魔法の練習通りにやっちゃいました・・・御免ね」

 「まっ、こんな事もあろうかとアリシアとメリンダにはシールドを張っておいて良かったよ」

 「有り難う、助かったわ」

 「然し、あれだけの助言であの威力って何よ」

 「アリシアって魔力が70以上有ったでしょう。それを無理矢理絞り出すくせが付いているから暴走したんだと思うね」

 「どうすればコントロール出来るの?」

 「ん・・・何時もコントロールして魔法を使っているじゃない」

 二人とも?マークが見えるくらい不思議そうな顔をしている。

 「生活魔法を使うときには、魔力を絞り出したりしないでしょう」

 「そりゃー生活魔法を使うのに、魔力を無理矢理絞り出す必要なんて無いからね」

 「それだよ、フレイムを出してみてよ」

 そう言うと、二人揃って目の前にフレイムを浮かべる。

 「何故そこにフレイムが有るの」

 「何故って、あんたが出せって言ったから」
 「アキュ・・・〈コホン〉聖女様、貴方様が出せと言われましたので」

 「フレイムを出す、何処に、大きさは、魔力を無理矢理絞り出さずに使える。フレイムと言った時に、出す場所と大きさを無意識に決めているから、思った場所にフレイムが浮かぶんだよ。その時ほんの極僅かだけど魔力も使っているんだよ」

 「確かに、生活魔法も魔法だから、魔力の極端に少ない者は使えない者もいるわね」

 「今日から生活魔法を使うときに、魔力が抜けていく感覚を探ってみて。それが判る様になれば、本格的な魔法の練習を始めようね。あっ、今言った事も此れから教える事も口外禁止だよ」

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 一週間程してネイセン伯爵様から、アリューシュ神教国の教団宮殿内の片付けが終わったと連絡が来た。
 そうだった、奴等の攻撃に対し精霊達にウエポンズフリーを宣言して反撃した結果、破壊と殺戮の大被害を出したんだった。
 その片付けは当然教皇猊下と大教主達が一丸となってしていたのだが、何故このような惨劇が起きたのかと、中堅どころからの突き上げが酷いらしい。

 俺が授けた言い訳も、俺と精霊が居ないので納得しなくて大変だそうだ。
 そりゃー大教主の席が三つも空いたのだ、上昇志向の強い奴は何処にでもいる。
 空いた席に座るより、上位者を引きずり下ろしてそこに座ろうとしているらしい。
 対岸の火事なら放置するのだが、内紛や内乱が起きたら俺の気楽な生活予定が狂ってしまう。
 アリューシュ神教国に跳び、ウルバン教皇猊下に拝謁する事にした。

 転移魔法陣を出るとネイセン伯爵様が教団管理責任者のスフレン・シンドと共に出迎えてくれた。

 「状況は?」

 「教皇や大教主達の説明を、疑問に思う者達が指示に従わなくなり始めています」

 「教皇と大教主達は?」

 「礼拝所の控えの間に居ます」

 「シンドは他の者達と一緒に来い。教皇猊下を連れて煽っている奴等の所に行くぞ」

 「アキュラ殿、大丈夫ですか」

 「精霊達を連れて顔見せに行くだけですから」

 《皆、姿を見せてよ。此れから攻撃をしてくる者には遠慮しなくて良いよ。口だけで煩い奴は、鼻の頭か口に中に痛いのを一発お見舞いしてやってね》

 《任せて!》
 《火炙りにしちゃうよ》
 《やったー! 真っ黒焦げにするよ》
 《ギュッは駄目なの?》

 《“しろがね”は俺の後ろを付いてくる者達を守ってね》

 《はーい》

 教皇のお付きをしているシンドと、抜けた大教主の付き人を含めた八人を連れて礼拝所に向かう。
 其処此処で睨みを利かせている警備兵達だが、俺達の姿を見ると震えだしたり逃げ出す者や跪いて祈る者と様々だ。
 然し敵対行為に及ぶ者はいない。

 「ウルバン教皇猊下、お散歩に付き合いなさい。大教主の皆様もね」

 「聖女様、お申し付けのように説明致しましたが信用せず、煽る者まで出てしまい・・・」

 「ウルバン、私をそれらの者達の所へ案内しなさい。先頭はウルバン、私の後ろにシンド,大教主,新たなお付きの者達の順で、他の者達は此処で待っていなさい」

 ウルバン教皇が先導する俺達一行、俺の周囲や頭上には精霊が浮かび、噂の精霊の巫女だと一目瞭然。
 出会う者達は、先導者が教皇猊下と有っては逃げ出す事もせず跪くが、目は俺と周囲に浮かぶ精霊に注がれたままだ。
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