黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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064 草原の牙

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 「魔法の使い方を話していたんだけどなぁ。話の内容は治癒魔法の事だけど、魔法の発現に必要な事を話していたんだよ」

 「何処がよ~」
 「魔法を人並みに使いたいのよ」
 「治癒魔法の上級者が扱う魔力と、魔法に四苦八苦している私達を同じに見ないでね」

 「そんなに難しい事かなぁ~。ちょっと冒険者ギルドに寄ってみようか。彼処なら魔法の練習が出来るでしょう」

 「ギルドの訓練場で練習するの」

 「王都の冒険者ギルドなんて行った事ないわよ」

 「冒険者なんだから借りられるでしょ。それに思い出したけど売りたい物も有るし」

 「まさか、ポーションを売るつもりじゃ無いわよね」

 「んー・・・マジックバッグの肥やしになっている物が有るんだ、生物だし好い加減処分したいしね」

 一度ホテルに戻り、全員で冒険者ギルドに向かう事にした。
 王都冒険者ギルドに馬車を横付けし、御者のボルヘンを残して俺達は混み合う買い取りカウンターに向かう。

 雑多な格好の冒険者達の中で、揃いの服を着た俺達は目立ちすぎ。
 稼いでいる高ランクの冒険者パーティーでは、時にお揃いの鎧を身に付けている者もいるが、上等な仕立てでお揃いの冒険者服は注目の的だ。
 然も男三人女三人だ、余程珍しいのだろう珍獣を見る目付きで見てくる。

 〈おい、見ろよ女が三人もだぜ〉
 〈いい女だねぇ。餓鬼が混じっているが、あれももう少しすれば食べ頃かな〉
 〈お前は相手にして貰えなさそうだな〉
 〈何処の高ランクパーティーだ〉
 〈王都じゃ見た事も無い奴等だな〉

 外野が煩いが、上等な揃いの服は虫除けになるのか誰も直接関わってこない。

 「初めて見る顔だな、売り物は何だ?」

 「オークキングとシルバータイガー」

 「あぁ~んんん、何だって」

 「オークキング一体とシルバータイガー一頭だよ」

 〈おいおい、ちっこいのがオークキングとシルバータイガーだとよ〉
 〈冒険者パーティーにしちゃー綺麗な服を着ているから、大方豪商相手の護衛専門だろうに大きく出たな〉
 〈然も小娘がだぜ〉
 〈マジックバッグを持っているから稼ぎは良い様だが、オークキングなんてまさかなぁ~〉
 〈オークキング何て見た事無いから、ちょっと見にいこうぜ〉
 〈シルバータイガーって何だよ~〉
 〈俺も聞いた事も無いぞ〉

 「冗談じゃ有るまいな!」

 ポンポンとマジックバッグを叩いてニヤリと笑うと、横の通路を開けてくれ「奥に解体主任が居るから其奴に言え」と一言言ってブスくれている。

 揶揄われていると思っている様だが、此処でそんな事をしたら後が恐そうなのでしないよ。

 「まぁ信用しないわよねぇ」
 「当然よ、実物を見ても信じられないのに」
 「でもアキュラならドラゴンでも楽に討伐しそうだぞ」
 「そそ、無敵の結界魔法使いだからな」
 「解体主任ってのが可哀想だぜ」
 「然も、アキュラは未だにアイアンランクですものね」

 「誰だぁお前達は、売り物でも持って来たのか・・・マジックバッグ持ちか。得物は何だ」

 「オークキングとシルバータイガー、何処に出せば良い」

 「・・・揶揄ってるんじゃ無いだろうなぁ、ゴブリンや猫だったら承知しねえぞ!」

 低音の魅力満載で脅しを掛けてくる解体主任、バリアでも防げそうに無い威圧感だが見せてやるよ。

 オークキングをドン、体高4m越え灰色がかった緑色の剛毛で一本角。
 続いてシルバータイガーをドン、体長4.5m体高2m越え、鼻先から尻尾の先迄約8mオーバー。

 〈・・・マジかよ〉って、解体主任見た事なかったのかな。

 〈ウォー、マジでオークキングだぜ〉
 〈でかいし、あの腕を見てみろよ〉
 〈腹回りでも其処らの牛より太いぜ!〉
 〈シルバータイガーって本当に居るんだ〉
 〈こんなの良く討伐出来たな〉
 〈俺は、終生薬草採取で生きるわ〉
 〈俺も討伐はゴブリン程度で満足しておくよ〉

 買い取りでの遣り取りを聞き、興味を持った野次馬がゾロゾロ入って来て煩い。

 買い取り主任が唸り声を上げながら獲物を子細にチェックしているが〈オイ! 傷が無いがどうやって討伐した〉と銅鑼声を張り上げる。

 「冒険者に手の内を聞くなよ。買い取って貰えるんだろうね」

 「勿論だ! だがシルバータイガーはオークションだな。この大きさで無傷となれば高く売れるぞ。オークキングの査定をするから、食堂で待っていてくれ」

 「ギルドの食堂でエールなんて、久し振りだぜ」
 「最近は楽な仕事で、すっかり鈍っちまったからな」
 「対人戦の訓練ばかりで、今じゃオークどころかゴブリンにも負けそうだぜ」
 「いやいや、流石にゴブリンには勝てるだろう」

 馬鹿話をする俺達を、獲物を見た冒険者達が遠巻きにして近寄ってこない。
 此れでマジックバッグの肥やしは片付いたが、覚えの無い綺麗なマジックポーチが出てきた。

 こんなマジックポーチを教皇や教主共から巻き上げた覚えは無い。
 ネイセン伯爵様の所で、ランガスと名乗る男から娘の病気回復の謝礼だと押しつけられた物だと思い出した。

 若い女性が持つ様な綺麗な刺繍の施されたマジックポーチには、金貨の袋が五つ入っていた。
 何か手違いの謝罪だと言っていたが、今更返す訳にもいかず当分マジックポーチの肥やしかな。

 教皇や大教主から巻き上げた、マジックポーチとマジックバッグが売るほどある。
 これをどうしようかと考えていると、ギルドに入って来た集団が大声で話しながら食堂にやってきた。
 既に一杯やっているのだろう少々顔も赤く大声でゾロゾロやって来るが、彼等を見た周囲の反応がよそよそしい。

 〈おっ、見掛けねえ面だが女を三人も侍らせて豪儀だな、少しの間貸してくれよ〉
 〈チビ助も混じっているけど、女なら文句は言わねぇよ〉

 ランカンが何か言おうとするので、足を蹴って黙らせる。

 「チビ助で悪かったね、少しの間貸せって何様のつもりなの。小汚くて臭いおっさんに用は無いから消えな」

 「ほう、洒落た口を利くじゃねぇか。揃いの服を着てるところをみると、豪商相手の護衛で稼いでいる様だな。チビ助、おっさんは嫌いか? 小汚くて臭いって言ってくれたが、口の利き方を知らない様だな」

 「匂わないと思っているの? お前等がギルドに入って来た瞬間から、食堂にまでゴブリン並みの匂いが漂ってきてるよ」

 「アキュラ、ゴブリンに失礼よ。ゴブリンだってもう少し・・・似たようなものかしら」

 アリシアが〈ブーッ〉って吹き出している。

 「メリンダ、本当の事を言っちゃ駄目だよ。見て、皆気を使って言わずにいてあげているでしょう」

 「あんたが一番辛辣なのよ」

 「オイ・・・女と思って好き勝手を言いやがって、お仕置きが必要だな」

 ボス格の男がアリシアに手を伸ばしてきた。

 「てめえら、人の女房に何をする気だ! 舐めた真似をするんじゃねえぞ」

 〈おっ、遣る気なら何時でも相手をするぞ〉
 〈おーし、一丁模擬戦で潰してやるか〉
 〈男は俺達と模擬戦、女は俺達とホテルで本番だな〉
 〈用が済んだら娼館に売り飛ばしてやるよ〉

 「お前等、ひょっとして勝った気でいるの。相手を見て喧嘩を売れよ」

 〈チビ助は見学してな、後でじっくりと相手をしてやるから〉

 手を伸ばして来たので指を掴んで捻り上げる。

 〈いだだだだ、離せ!〉

 「汚い手で触りにくるな、ゴブリンは嫌いなんだよ。模擬戦をして俺達を手に入れたいんだろう。さっさとギルマスを呼びなよ」

 〈おっ、〔草原の牙〕と遣り合う気だぞ〉
 〈彼奴らと遣り合って勝てるのかよー〉
 〈どちらに賭ける?〉
 〈うーん・・・あれを見るとなぁ〉
 〈いやいや、草原の牙に勝ち目はねえよ〉

 〈ようチビ助、お前達のリーダーは誰だ〉

 「リーダー・・・俺はソロだよ。お前達の様に、群れて意気がる趣味は無いのでね」

 〈おい、てめえ等も遣るんだろうな!〉
 〈まさか小娘の後ろで震えているつもりか〉
 〈いやいや、女房の尻に敷かれて震えているのかもな〉

 ギャハギャハ笑うゴブリンもどきを見て、ランカンが笑いながらお断りしている。

 「あー・・・残念だが俺達は雇われの身でね。ご主人様の勝利をお祈りするのが仕事なんだ」

 〈ご主人様だぁ~〉

 〈お前達か、模擬戦をやろうって連中は〉

 〈おう、ギルマス、此奴等が喧嘩を売ってきたから買ったまでよ〉

 「良く言うよ、ゴブリンは嘘つきだねぇ。ギルマス模擬戦を受けるのには条件が有る、俺は此のマジックポーチと、解体場に出した獲物を賭ける。そいつ等が全財産、パンツ以外全てを賭けるのなら模擬戦を受けるよ」

 マジックポーチの中にはマジックバッグも入っていると教えて、欲を煽ってやろうかと思ったが必要無さそうだ。

 〈オイ、マジックポーチだけでも金貨30枚だぞ〉
 〈それに獲物の代金だとよ〉
 〈かー、俺が代わって模擬戦をやりたいぜ〉
 〈瞬殺間違いないから、死にたきゃ代わってやりな〉
 〈そうそう、草原の牙はゴールドとシルバーだけののパーティーだ、勝ち目がねえよ〉
 〈威張り散らすだけの実力は有るからなぁ〉

 〈おいチビ助、今の言葉は取り消せねえぞ〉
 〈かー、今日は良い日になりそうだぜ〉
 〈鴨がマジックポーチを持ってやって来た〉
 〈ちげえよ、小娘がお宝抱いてやって来ただよ〉

 馬鹿が、勝った気でいるが犯罪奴隷に落として遣るからな。

 「アキュラ、あんたが負けるとは思わないけどさ」

 「大丈夫だよ、特大の餌をぶら下げなきゃ身ぐるみ剥がせないからね」

 「何を考えているの」

 「彼奴らを鑑定したら盗賊って出るんだ。盗賊,奴隷狩り,殺人とか胸くその悪い事が色々とね」

 「それは又・・・何というか」
 「自分から奴隷になりに来るとは・・・」
 「頑張ってねー、アキュラ」
 「んだな、ご主人様の実力を示して奴等を黙らせろ」

 「酷いねぇ、俺一人にやらせるつもりなの?」

 「俺達はシルバーランクにブロンズがチラホラ、相手はゴールドとシルバー俺達では勝ち目はねぇよ」
 「それをアイアンのアキュラが叩きのめす。王都冒険者ギルドの語り草になるぜ」
 「そのつもりで煽っていたでしょう」
 「ねぇ~アキュラちゃん、早く片付けて魔法の練習をしましょう」
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