黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

文字の大きさ
上 下
28 / 100

028 森に向かう

しおりを挟む
 バルバスと問題の2人を呼び、バルバス達に問題は無いがその2人は雇えないと告げる。

 「何故だ、仲間を斬り捨てて仕事を請け負う気は無いぞ。何が問題だ! アキュラ、はっきり言え!」

 〈そうだぜ、部外者のお前ぇにパーティーを抜けろって言われる筋合いは無い!〉
 〈糞アマが、伯爵様に可愛がられていると思って逆上せやがって、夜道には気を付けろよ〉

 睨めつけ脅し文句が出るが、先に夜道を歩けなくしてやろうかと考えてしまう。

 「お前等、俺が何故伯爵様と取引をしていると思っているんだ。腕の良い薬師ってのはな、鑑定能力も高いんだよ」

 「お前えぇぇ、黙って鑑定しやがったな」

 「大人しくこの街を出るのなら見逃して遣るよ。それとも本性を出して一暴れするか」

 〈ケッ・・・バルバス抜けさせて貰うぜ〉
 〈おめえの顔は忘れねぇぞ〉

 「口は災いの元って知ってる」

 顔を覚える必要が無い様にバリアで包み込み小さくするが、身動き出来ない状態で止める。
 「糞ッ、何だ此れは?」

 「余計な一言を言うから怪我をするんだよ。バルバス、悪いが此奴等は街から消えて貰うぞ」黙ってマジックポーチからナイフを取り出す。

 「何をするつもりだ、仲間に手出しはさせない!」

 「仲間ねぇ、そいつは〔盗賊・裏切り〕、そしてこいつは〔盗賊・誘拐〕って鑑定に出るんだ。庇うのならこの仕事は無しだ。この2人も解放してやるよ、但し長生きは出来ないな」

 「嘘じゃ有るまいな、もし違っていたら・・・」

 「(鑑定!)〔バルバス・♂・68才・熊人族1/2人族1/2・魔力55・剣術スキル・農耕スキル・牛馬飼育スキル・統制スキル・怪力・・・〕 未だ聞きたいか、人を徹底的に鑑定した事は無いが、試してみるても良いよ」

 「判った、信じよう。お前等2人は追放だ」

 〈小娘の寝言を信じる熊野郎が、覚えていやがれ!〉
 〈街を出ていってやるよ! 出せよ!〉

 バリアをキャンセルして解放し、素速く簀巻きにする。
 熊野郎って毒づいた男も簀巻きにして隣に並べ、口にボロ布を押し込んでから膝裏の筋を一本切断する。
 次いで腕の肘の筋も一本プッツンしてから治癒魔法で軽く治療してやる。
 2人ともまともに歩けないし腕も不自由になるが、死ぬ事は無い。

 「お前、治癒魔法が使えるのか?」

 「使えるけど、腕が悪いので治癒魔法じゃ食えなくてね。薬草の勉強をしてポーションを作っているのさ。治癒魔法の腕が良ければ、面倒な事をしなくても稼ぎ放題なのにねぇ。俺の治癒魔法じゃ傷は治せても血止め程度、不完全な治療で後々碌に動かないから」

 口からボロ布を外してやると、盛大に喚きだしたが一言で黙らせる「ん、次は口を蹴り潰してから治療してやろうか」ってな。

 翌日の朝追放する2人を乗合馬車に放り込み、それぞれに銀貨10枚を持たせてさようならをする。
 バルバス達と警備の引き継ぎを済ませ、昼前には森に向かう為にハランドの街を出た。

 先頭は斥候役のガルム続いてバンズ,俺,アリシア,メリンダ,リーダーのランカン殿役のボルヘンの隊列

 ガルム・斥候、探索,槍術,農業,薬草栽培スキル
 バンズ・楯役、防御,剣術,農業,薬草栽培スキル
 俺
 アリシア・雷撃魔法、探索,弓術,機織りスキル
 メリンダ・氷結魔法,風魔法、料理,裁縫スキル
 ランカン・リーダー、統率,剣術,料理スキル
 ボルヘン・剣術,槍術,探索スキル

 魔法やスキルだけ見ると、割にバランスの取れたパーティーだと思うが能力はどうかな。
 ガルムとバンズの農業と薬草栽培スキルが、このパーティーを連れて森に行こうと思ったきっかけだから。

 と言うか、ワラント公爵邸で戦闘中に何度か精霊を見掛けた、人に付いているのでは無く屋敷の裏から現れ俺に纏わり付いてきたのだ。
 俺の精霊なら顔の周囲は飛ばない、というか視界に入る様に跳ぶのは横になっている時だけと頼んでいる。
 彼等と話は出来ないが、口に出して頼んでみたら視界から外れてくれた。

 ヤラセンの里で多数の精霊を見慣れていたし、精霊樹の存在も知っていたので、ワラント公爵邸か周辺に精霊樹が有ると判っていた。
 『王家からは望みの物が有れば、君に贈る用意がある』と言われた時にヤラセンの里で見た薬草の畑が頭に浮かんだ。

 畑と言っても人が耕している様には見えないが、薬草の群生や混生で埋まっていた。
 森の中でしか採れない物も有るが、精霊樹の周囲に生えるのなら収穫が楽で良い。
 ハランドの街から王都迄、転移魔法陣を使えば日帰りも出来る。
 精霊樹が有ればの話だが、精霊樹は存在したしその周りには精霊が乱舞していた。

 街を出ると、風の翼が知る道を通り森に入る。
 彼等の良く知る森を西へと直進するが、ホームグランドにしているだけ在って迷いが無い。
 斥候のガルムの索敵も中々良いが、索敵範囲は精々50メートル前後といった感じだ。

 最初の野営地に到着した時、風の翼用のバリアを作る。
 見えないと戸惑うだろうし、出入り口も判らないと不便なので半透明にしておく。
 ガルムとバンズは見慣れた物だから、平気で中に入り椅子を出して寛いでいるが、残りの四人が戸惑っている。

 〈どうした入れよ、タープより快適だぜ〉
 〈そうそう、出入り口さえ封鎖すれば襲われる心配も無いしな〉

 寛ぐ二人を疑わしそうに見ながらもバリアを手で叩き硬さを確認している。
 俺はメインドームの両脇に小型のバリアをくっつけてトイレルームにする。
 最後に俺用のテントを取り出して壁際に設置し、何時ものテーブルにエールの樽を乗せキャンバス張りの椅子に腰掛ける。

 〈おいおいアキュラ、一人で楽しむつもりかよ〉
 〈あら! アキュラちゃん、勿論私達もお呼ばれできるわよね〉
 〈何よ、まるで冒険者ギルドの食堂じゃないの〉

 みんな自分のコップを持ってわらわらと集まり、勝手にエールを注いでいる。 仕方がないので出入り口を封鎖し、夕食前の一杯を楽しむ事にした。

 「アキュラが、西の森を一人で行動していると聞いた時はまさかって思ったけど、結界魔法を自在に使うのを見れば納得だな」

 〈ああ、王都の森で初めてこの結界を見た時は魂消たぜ〉
 〈野営で温かいご飯が食べられるなんて、思いもしなかったわ〉
 〈アキュラに限っちゃ、治癒魔法が大して使えなくても関係ないな〉

 ・・・・・・

 5日目に俺のパッシブ探査に、群れで近づいて来る野獣が引っ掛かった。
 後ろを歩くアリシアに知らせ、隊列を止めてもらう。

 「どうした、アキュラ」

 「後ろから近づいて来る群れがある。多分ウルフの群れだろうと思うが数が多い。結界の中に籠もってやり過ごした方が良いと思う」

 ウルフとドッグ系の野獣は匂いを辿って追って来るので良く出会す、今回も同じパターンだ。
 一瞬考えたが流石はリーダーをしているランカン、全員を俺の周りに集めて俺の視線の先を見つめる。

 「本当にウルフの群れの様だな」

 ガルムの声が聞こえたかの様に、俺達の歩いてきた場所から1頭のグレイウルフが顔を覗かせると一気に走り出した。
 次々と藪や木陰からグレイウルフが飛び出して後を追い、俺達に迫ってくる。
 あっと言うまに目の前に来たかと思ったらジャンプして・・・バリアにぶつかって〈ギャン〉と鳴いてズルズルと滑り落ちる。

 〈ふぅ~、結界が有ると判っていても、飛びかかってくるのを見ると剣を抜いちまうわ〉
 〈ほんと、冷や汗が出るわ〉
 〈いやー、滅多に見られない光景って言うか、見た時は死ぬ時の光景だな〉 〈ちょっと、此れは心臓に悪いわねぇ〉
 〈アキュラ、何とかならんのか?〉

 「持って帰るのなら殺すよ」

 「待って待って・・・アキュラ、こんな大きなグレイウルフを殺すって」

 「まぁ見ててよ」

 バリアの前で俺達に噛みつこうとしている1頭の首に、リングを作ると一気に締め上げる〈カハッ〉て一言悲鳴にならない悲鳴を上げて倒れ、足がピクピクと痙攣している。

 〈えっ、何をしたの?〉

 倒れた仲間を不審に思い近寄って来た奴も、首輪を作ると同時に締め上げる。
 ビックリして一瞬走り出したが、首が折れて横倒しに倒れて痙攣している。
 次の奴は慎重だったが結果は同じ、異変に気付いた群れの動きがおかしくなる。

 一声吠えて動きを抑えたのは、他の個体より一回り大きな群れのリーダーだろう。
 残ったグレイウルフが其奴の回りに集まり、俺達を見ている。
 僅かな間の睨み合いの後、リーダーがくるりと背を向け歩き出すと次々と群れのウルフが後に従い消えていく。

 〈いやー、凄い迫力だな〉
 〈彼奴は貫禄有ったな〉
 〈流石は群れのリーダーって感じだぜ〉
 〈あー、金タマが縮んだぜ〉

 〈然しアキュラの探索能力は大したものだな、暇な時にどうやって探っているのか教えてくれよ〉

 「別に良いよ。野営の時にやり方を教えるよ、但し出来るかどうかはガルムの能力次第だよ」

 〈アキュラ、もし良かったらあんたの魔法の使い方を教えてよ〉
 〈私も! 無詠唱って憧れるわぁ~〉

 〈取り敢えず、此れを片付けて先を急ぐぞ〉

 ランカンの言葉に、グレイウルフをマジックバッグに入れようとするのを止める。

 「ん、何でだ?」

 「そのままギルドで出すと、どうやって倒したのか色々聞かれそうだろう」

 「まあな、無傷でグレイウルフ討伐なんて聞いた事が無いからな」

 「俺の手の内は晒したくないので、首や心臓を2,3ヶ所刺しておいてよ」

 「そりゃーアキュラが望むのならそうするけど、変わってるな。此れ一頭お前が倒したと申告すれば直ぐにブロンズに昇格するぞ」

 「風の翼が討伐した時の同行者扱いで良いよ。冒険者ギルドには、多少は俺も活動をしている実績だけ有れば良いので。稼ぐのはポーションだけで十分だよ」
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?

秋野 木星
ファンタジー
隣国の貴族学院へ使命を帯びて留学することになったトティ。入国しようとした船上で拾い物をする。それがトティの人生を大きく変えていく。 ※「飯屋の娘は魔法を使いたくない?」のよもやま話のリクエストをよくいただくので、主人公や年代を変えスピンオフの話を書くことにしました。 ※ この作品は、小説家になろうからの転記掲載です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...