黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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025 風の翼

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 ハランドの家で在庫の薬草を使ってポーション作りに精を出すが、効力は王都で買い込んだポーションに準ずる物にした。
 怪我の回復ポーションは初級と中級品を大量に作る。
 大量と言っても初級ポーションは50本単位で卸すつもり、中級品は20本単位に決めた。
 上級品は5本単位だが、在庫は1,2回分程度を常に確保しておく事にする。
 エリクサーもどきの最上級品は10本を保管するが、おいそれとは出して遣らない。

 病気回復ポーションも同じ様にするが、あまり大量に提供すると市場価格を乱す事になるので注意が必要だ。
 それは体力回復ポーションや魔力回復ポーションも同じだし、大量に買い込む奴は注意が必要だ。

 闘いになり魔力と体力が無尽蔵に回復すれば、ほぼ無敵状態と言っても過言じゃ無い。
 暇になったら長期保存が不可能な物を市販し、長期保存が可能な物は万が一に備えて備蓄することにした。

 人が真剣に調合しているのに〈ガンガンガン〉とドアを叩く音がする。
 ノッカーは静かに使えよ〈ドン〉って鈍い音はドアを蹴っているのに違いない。

 ・・・ ん? 静かになったと思ったら、人の言い争う声が聞こえる。
 覗き穴から確認しようとしたが、背伸びしてもドアの外より天井近くしか見えない。
 人の頭? 後頭部が見え話し声ははっきり聞こえる。

 〈だからお前等は何だってんだ〉

 〈俺達は、領主様から此の家の警備を頼まれている者だと、何度言ったら判るんだ〉

 〈そんな寝言は制服を着ている時に言え!〉
 〈兄貴、やっちまっいましょうや〉
 〈おらっ、怪我をしたくなかったら引っ込んでろ!〉

 領主様から警備を頼まれて・・・
 俺の家を警備している者がいるなんて聞いて無いが、取り敢えず表に出てみた。

 〈おっ、やっぱり居るじゃねえか〉
 〈おらっ、俺達は此奴と話すから消えな〉

 〈アキュラに何の用だ、御領主様に逆らうつもりなのか〉

 ん・・・聞き覚えの有る声。
 いきなり胸ぐらを掴んで持ち上げられたよ。
 失礼な奴だね、俺の頭をコンコン叩きながら〈人が訪ねて来ているんだから、さっさと出て来いよ〉なんて言いやがる。
 でかい図体の奴等ばかりで周囲が見えないって不便。

 〈何をしている!〉

 第三者登場・・・らしい。

 〈おう、どうした〉

 〈ああ、アキュラを訪ねて来たと言ってるが、乱暴な奴等でね。話しにならないんだ〉

 〈おい、お前達、警備隊詰め所まで来て貰うぞ〉

 宙づりのままなのは不快なので、掴まれた腕を両手で掴み絞り上げる。

 〈痛だだだ、何をしやがる!〉

 「何をも何も、人の胸ぐらを掴んで宙づりにしやがって、俺は猫の子じゃ無いんだぞ!」

 〈貴様等ぁぁぁ、アキュラ様に何をした! 取り押さえろ!〉

 あららら、階段の踊り場で乱闘騒ぎになっちまったよ。
 俺の胸ぐらを掴んで居た奴の腕に輪っかをプレゼントして絞り、隣で警備兵と揉めている奴も腕と足に輪っかを作り締め上げる。
 俺が4人、警備隊の者が3人取り押さえて静かになった。
 聞いた様な声は、アリシア達風の翼のメンバーだった。

 「アリシア達って、伯爵様に雇われたの?」

 「そうだけど、此奴等はどうなってるの?」

 「あっ、これね、結界魔法の応用だよ。取り敢えず全員中に入ってよ」

 警備隊の人達にも中に入って貰い説明を受ける。
 此の家を自由に使ってくれと預かったが、俺は貴族のごり押しを潰す為に間を置かずに王都に行ってしまった。
 アリシア達は伯爵様からの依頼で、留守番代わりに此の家の警備を受け持っていると聞かされた。

 「あたし達はあんたと顔見知りだし、丁度良いとギルマスの推薦でね」
 「我々は御領主様から、此の家に近づく不審者は徹底的に取り調べろと命じられております」

 そう言って敬礼する。
 転がされている7人の顔色が段々悪くなっているが、気分でも悪いのかな。
 気分が悪いのは、胸ぐらを掴まれて吊り上げられた俺の方なんだけど。
 身体の表面にシールドを張っているので、怪我は無いけど腹が立つ。

 「徹底的に取り調べるって、ちょっと先に此奴等から話を聞いても良いかな」

 警備隊の面々が顔を見合わせて困惑している。

 「怪我をさせたら、ポーションをただで飲ませて回復させるから大丈夫だよ。効き目は伯爵様のお墨付きだし」

 横でアリシアが吹き出している。
 少しの間で良ければと、警備隊の隊長らしき男の許可が出たので、俺の胸ぐらを掴んだ奴の結界をキャンセルする。

 いきなり腕が自由になって戸惑う男を、球体のバリアで包み込みゆっくりと締め上げていく。

 〈ちょっ、何だ此れは? おかしいだろう・・・何で段々狭くなってくる・・・止め〉

 見えないバリアの中で、段々押さえつけられ丸まっていくのを見て皆が驚いている。
 一番驚いているのはバリアに閉じ込められ、締め上げられている男だろう。
 体育座りより窮屈な姿勢で呻く男に〈誰に頼まれて来たの〉と聞いてみる。

 〈此れはお前がやっているのか、止めねえと後悔するぞ!〉

 良い根性をしているのでもう少し小さくしてやると〈グエッ・・・狭い、止めてくれー〉なーんて言っているが質問には答えない。

 「質問に答えたら緩めてやるよ。もう少し締め上げると、身体の骨が折れ始めるけどどうする?」

 返事を躊躇っているので、話しやすくする為に又一段と小さく絞ってやる。
 バリアは見えないが服も身体も綺麗な球体になり、ゆっくりと小さくなって行くのを、皆が不思議そうに見ている。

 〈やっ止めて、許して下さい。喋りますから許して〉

 「質問に答えてないよ」

 「ギルド長、ギルド長に頼まれたんだ。お前からポーションを貰ってこいって」

 「何処のギルド長だ?」

 「薬師、薬師ギルドのギルド長ライドだ。話したんだから此れを止めてくれぇぇぇ」

 バリアをキャンセルして、呆れている警備隊に引き渡す。

 「後は宜しくね」

 数珠繋ぎにされ連行される馬鹿の一団を見送り、アリシア達を食堂に招き入れて話を聞く。

 「あんたの家の警備を頼まれたけど、留守で暫く帰って来ないって聞かされてたのさ。時々あんなのが現れるけど、何時もは留守だって言ったら大人しく帰って行ってたんだけどね。此れってあんたの家なの」

 「伯爵様にポーションを卸す交換条件で借りているんだ。冒険者ギルドがあれじゃねぇ」

 「ほんと、間抜け揃いのギルド職員だからねぇ。お陰でまともなポーションが手に入る様になったと皆喜んでるよ」

 「アキュラのあれはなんだい、あんな魔法は初めて見たよ」
 「おう、詠唱無しであっさり使っているけどなぁ」

 バンズとボルヘンが首を捻りながら聞いてくるのを、ランカンが頷いている。

 「あれは結界魔法だよ。ちょっと人とは違う使い方をしているけど、結構便利だよ」

 「はぁ~・・・あれが結界魔法ってか?」
 「結界魔法って楯や障壁として使うもんじゃないの」
 「あんた無詠唱で魔法を使えるって、師匠はだれだい?」

 「師匠はいないよ。まあ強いて言うなら、ヤラセンの里で色々教わったからね」

 「ヤラセンの里かぁ、彼処の連中は腕の良いのが多いと評判だからねぇ」
 「ヘイロンから西に10日程森の奥に在るんだろう、私達の腕じゃ危なくて行けないねぇ」
 「あんた程腕の良い薬師なら、冒険者になる必要は無かったんじゃ無いの」

 「それねー、欲しい薬草・・・てか俺の作るポーションは、自分で採取した新鮮な物だけを使って作っているからな。ポーション作りだけで食えると思わなかったんだよ。薬草を求めて旅をするにしても、身分証がいるだろう」

 「あー確かに、あんたが薬師ギルドに行ってたら飼い殺しだね」

 「メリンダもそう思う」

 「薬師ギルドにポーション買いに行っても、古くて糞不味い物しか出してこないしね。ヘレサさんが居る時にだけ買いに行ってたよ」

 「それね。俺が持って行った薬草を高く買ったら、ギルド長から買い叩けと怒られたって、婆さんが言ってたからな」

 「アキュラ、お前のポーションは飲みやすいし、効き目もバッチリだからなぁ。やっぱり薬草も新鮮な方が良いのか」
 「新鮮な薬草って、俺の村で作っていた薬草だって、新鮮で綺麗だけど買い叩かれていたぞ」
 「ああ、新米冒険者が採ってくる萎れた薬草と同じ値段だもんな」

 「腕の良い薬師は薬草も良い物を使うんだねぇ」

 王都で買い込んできた食料を提供し、食事をしながら冒険者ギルドのあれこれを聞き出した。
 冒険者登録をしてから今まで、一度も依頼を受けた事が無いので勉強になる。

 パーティーについても尋ねてみた。
 パーティー〔風の翼〕はリーダーがランカンでバンズ,ボルヘン,ガルムとメリンダにアリシアの6人パーティーだそうだ。
 ランカンとアリシア、ガルムとメリンダが夫婦で森の浅い所を稼ぎの場にしているそうだ。

 今回の様な依頼は初めてだったが、俺の家の監視と不審者や俺に無理難題を言う奴等が来たら止めて、警備隊に知らせるのが仕事なので引き受けたって。
 家の監視って何だよと思ったら、まあ警備会社と同じ侵入者対策だった。
 俺が作った高品位ポーションはお宝だから、それを狙ってくる奴等もいるのだろう。
 侵入しても調合用のテーブルと椅子しか無いけど、それは黙っていよう。
 風の翼の仕事を無くしちゃ悪いもんね。

 伯爵様、俺の家を用意するにあたって、1階の貸店舗はそのままで2,3階を買い取っていたよ。
 空き家にして2階の一つを俺に貸しだし、向かいの家を監視用に使ってる贅沢仕様にちょっと呆れた。
 風の翼の面々は、長期安定雇用の上に宿代が浮くので喜んでいるが、あんた達の職の安定は風前の灯火だったんだとは言わないでおく。
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