黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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010 殲滅

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 盗賊団のアジト制圧に向かったのは、オルセンと俺を含めた総勢51人。
 屈強な獣人族を中心に魔法巧者を加え、捕らえた賊の中から比較的従順な四人を道案内に連れてきた。

 討伐参加希望者が殺到して人選に苦労した様だが、俺は蚊帳の外。
 と言うか、攻撃力は皆無に近い俺は戦闘には参加しない。
 結界を使っての防御と、事件の発端が俺だったので渋る長老達を説得して参加した。
 結界でグズネス達を無傷で捕らえた実績があるので、俺の参加は他の討伐参加者からは支持され長老も拒否できなかったのだ。

 公開尋問と裁判は、ボルム以下43名は取り敢えず生かしておく事が決まった。
 盗賊団も生け捕りが前提だが、抵抗する者には容赦しないと決まった。
 人質が居るかも知れないが、此の世界は貴族や金持ち以外の人質に価値は無いので、楯にされたら諦めて貰うことに決定。
 犯罪者に対する譲歩は愚策の極み、てのはどの世界も同じか。

 ・・・・・・

 ヤラセンの里から南東に5日の場所に、死んだゴラント達のアジトが有る。
 素直な賊の供述通り盗賊団がヤラセンの里に行く道で、多数の人間が何度も往復した為に獣道が出きている。
 最期の野営地、此処からダグリン率いる盗賊団のアジト迄残り1日、最期の作戦会議をする。

 アジトに到着するのが夕方になるので、少し手前でもう1日野営する事にし、2日目の朝に奇襲する事にした。
 野営は俺のバリアの中、音や視覚を遮断した結界の中で悠々と眠り、空の色が薄明るくなると共に起きて準備を始める。
 アクティブ探査で獣や人の気配を探り、俺の安全確認が終わるとバリアを消滅させる。

 先頭は斥候役が3人、続いて俺がアクティブ探査で安全確認をしながら続き、その後ろに弓を持った6人が続く。
 獣の気配とは別に、3カ所から人の気配を感じ一時停止、目印の巨石
からの配置と違うところに一人居る。

 巨石の上と巨石の割れ目が見える位置、此方からは見えない場所に居るのは判っている。
 然し、そのどちらも見える木の上に3人目が潜んで入る。

 素直に喋ると思ったらそういうことか、万が一に備え2人の見張りの位置だけ喋る様に取り決められていたんだろう。
 未だ見ぬダグリン親分は相当頭の切れる男の様だ。
 こうなると岩の割れ目の入り口以外に脱出口があるかも知れないが、今更のんびり尋問も出来ない。

 作戦変更、列の後ろにいる者達に煙がよく出る生木の枝葉を集めさせる。
 その間に岩の上と木の上の見張りを弓で射殺すと、足の速い者と共に掛けだし見えない場所に潜む見張りを殺す。
 警戒の叫びと音が聞こえるが、岩の割れ目まで駆けて割れ目をバリアで封鎖する。

 バリアの直ぐ奥にある、侵入者防止用の柵と扉が災いして俺達の姿を確認出来ていない。
 バリアに開けた穴から、野営用の薪をドンドン投げ込み魔力を込めたフレイムで火をつける。
 投げ込んだ薪の下に、魔力を込めたフレイムを10個近く作ったので火が点くのが早い。

 パチパチと薪のはぜる音と共に炎が上がり出すと、薪の代わりに生木の枝葉を投げ込むと濛々と煙が出始める。
 俺は奥の柵と扉を壊す為に、地面との隙間に小さな三角のバリアを作り段々と大きくしていく。

 柵や扉を作った奴も、下から持ち上げられるとは思っていなかっただろう、あっさり壊れてしまった。
 駆けつけて来た風魔法使いが、バリアに開けた穴から風を送り込むと岩の奥で咳き込む声が聞こえる。

 ここまでやれば俺のやる事は無くなる、後は高みの見物だ。
 生木を投げ込んだ者達は巨石の周囲を取り囲み脱出口を探している。
 少数の者は巨石に登り上から監視しているが、岩の隙間から濛々と煙が上がり難儀している。
 人の抜けられる穴は無しと確認され、皆が出入り口のバリアの傍に集まって来る。
 
 〈盗賊の燻製が出来るな〉
 〈食えたもんじゃ無いだろうけどな〉
 〈盗賊の燻製って売れるのか?〉
 〈領主様に聞いてみろよ、盗賊は生死に関わらず金貨2枚だ〉
 〈金貨の燻製か〉

 馬鹿な冗談を言っていると〈止めてくれぇー、降参するから・・・助けてくれー〉と中から声がする。

 〈何だよぉ~、あっけねえなぁ〉
 〈嬲り殺しにしてやろうと思ったのによ〉
 〈身内が何人も行方不明になっているのだ、落とし前は付けないとな〉

 水魔法を使える者がせっせと水球を火に投げ込み消しているが、奥に流れた煙は中々消えない。

 〈オラーッ、1人ずつ丸腰で出て来い!〉
 〈武器を持っていたら即座に殺すからな!〉
 〈さっさとしろ! のんびりしていたら又火を付けるぞ!〉

 言っている傍からファイアーボールが飛んでくるが、バリアに当たって砕け散る。
 ストンーランスやアイスランスも細々と飛んでくるが、全てバリアに当たって落ちるだけ。
 バリアの後ろに控える男達が、飛んでくる魔法攻撃を指差して笑っている。

 〈おー、殺る気満々だぜ〉
 〈甚振りがいがあるってもんだな〉
 〈コラーッ、大人しく出て来ないと蒸し焼きにするぞー!〉
 〈おい、ありったけの薪を持って来い! 焼き殺してやる!〉

 〈待ってくれ、出て行く、出て行くから止めてくれ〉

 〈なら、情けない魔法なんか射ってないで出て来いや!〉
 〈一人ずつ出てこい! 出口で武器を捨てたら一回りしてから指示に従え!〉

 ケモ耳を寝かせしょんぼりした男が恐々といった感じで現れ、バリアの前で武器を外して外に投げさせる。
 直径30センチの穴から武器を投げさせると、足下にある60センチ程の穴からハイハイして出て来させてそのまま後ろ手に縛る。

 次々と出て来る賊を流れ作業の如く縛り上げ、縛った奴から並べて首にロープを掛けて数珠繋ぎにする。
 全部で13人・・・聞いていた話と違い少なすぎる。
 内部を調べても一人も居ない、脱出口の類いも無いし拉致してきた者も見当たらない。

 縛り上げた13人の尋問タイム、ズタボロにされて漸く喋ったが脱出口は無いが地下室に隠れていると話した。
 地下室なんて無かった、と言うか床なんて無いのにと???

 案内させ砂利をどけると、板を敷き詰めた床が現れた。
 地下空間に天井を作り、その上に砂利を敷き詰めているんだと。
 普段は出入り口の所は開いているが、万が一の場合幹部達が逃げ込み砂利を被せて逮捕を免れる。

 後から捕まった仲間を奪い返す事になっているって・・・どおりで出てきた奴等は小物感満載の奴等ばかりな筈だ。
 然し、脱出口が無いのは致命的だよな。

 〈ごらぁ~、ダグリン! 出て来い!〉
 〈大人しく出て来ないのなら、火を付けて丸焼きにするぞ!〉

 がっちりと閉じられた蓋を蹴りつけ怒鳴りつけるが音沙汰なし。

 〈構わねえ! 薪を持って来い! 焼き殺して後腐れ無しにしてやる〉

 アジト内に有る雑多な物を積み上げて火を付けると、煙を上げて燃えだしたが物が崩れ落ちる音と共に中から声が聞こえる。

 〈待ってくれ・・・出て行く、出て行くから火を消してくれ〉

 〈あ~ん、素っ裸になって1人ずつ出てこい! 抵抗したら嬲り殺してやるからな!〉

 里の荒くれ男達が槍や棍棒を持って待ち構えるなかを、1人ずつゆっくりと階段を上らせ床に手をつかせる。
 素っ裸の男7人を後ろ手に縛り地下室を確認すると、一角に丸木で作った牢が有り数人の少年少女が震えていた。

 「オルセン、話より少ないな」

 「ああ、後20人位はいるはず何だが」

 「んじゃー、裸のオッサン連中を火炙りにして聞いてみようか」

 「また薪に火を付けるのかぁ~、一々火を付けたり消したりと面倒なんだがな」

 「あっ、俺のフレイムを使った玉焼きなら簡単だよ」

 「止めろ! グズネスのあれを見ただけで股間が縮み上がるわ!」

 〈確かに、男にとっては見るだけで背筋が寒くなるな〉
 〈あれだけは止めて欲しいぞ〉
 〈ズタボロに殴られる方がよっぽどマシだよな〉

 皆真剣な顔でそんな事を口々に言い出した。

 「玉焼きは極めて有効な尋問手段じゃないの、親分で試してみようよ」

 「待て待てアキュラ、俺が優しく聞いてみるから待て!」

 オルセンがダグリンの前にしゃがみ込み、チラリとダグリンの股間を見てから優しく問いかけている。

 ダグリスの顔の横にフレイムを浮かべてやると、ギョッとした目でフレイムを見つめている。
 テニスボール大の炎が浮かび、一向に消える様子が無いのを見て冷や汗を流している。
 此れが精一杯の大きさだが、普通のフレイムより大きく燃えている時間が長い。

 「ダグリン親分、ヤラセンの里・・・グズネス達の応援に出した奴等以外の者は、何処に居るんだ。素直に喋べらないと、自慢の息子さんが火炙りになるぞ。お前の手下のゴラントは股間をたっぷり焼かれた挙げ句、グレイウルフの餌にされて死んだぞ」

 「糞ッ、街に買い出しに行かせたよ!」

 「何人だ?」

 「11人だ」

 「それだけじゃ無いだろう」

 「9人は狩りに出ている。買い出しに行った奴等は、今日明日にも帰って来る。此れで全部だ!」

 オルセンが納得して立ち上がるが、甘いね。

 「じゃあー、替わって俺が質問ね。少年少女を監禁しているが誰に売るのかな、教えてくれる」

 「アキュラとか言ったな、グズネスの言ってた治癒魔法が使えるガキか」

 「そうだよ、グズネスの玉をこんがり焼いてあげたら、ぺらぺら喋ったよ」

 「糞ッ、あんなチンピラの言葉に乗ったばかりに此の様か」

 「俺を誰に売るつもりだったのか、監禁していた者達を誰が買うのか話して貰うよ。勿論役人の協力が無ければ難しいだろうから其方もね」

 オルセンに今言った事を全部聞き出しておいてと頼む。
 裸のオッサンの尋問なんて俺の趣味に合わない。
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