黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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003 索敵反応

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 探索で全周警戒を始めて5日目、これって水面に落とした水滴の波紋をイメージしているのなら、波紋を強制的に広げることも出来ると思いついた。
 広がる波紋に魔力を乗せればより広範囲を探れるはずだ、ガイドも言っていた魔法はイメージに魔力を乗せれば良いと言ってたな。

 探索はスキルだけど、波紋が広がるのをイメージしているのなら魔力を乗せることは可能だ・・・な筈・・・多分。
 今こそ魔力操作の成果を試すとき、4日間しか練習して無いけどやってみる価値は有る。
 やれる、やってみせる、やってやろうじゃないか!

 100分割した魔力から一つを選び、小石の代わりに魔力の一つを水面に落とすイメージ・・・。
 ドッポーンって擬音が聞こえそうな、派手な水柱のイメージと乱れた波紋が広がる。
 落とした魔力の量が多すぎた様だが、イメージに魔力を乗せることは可能な様だ。
 魔力量を1/200、1/300、1/500と減らしていき1/100の魔力を16分割して丁度良くなった。

 静かな水面に魔力を落とすと、イメージの波紋が広がり続けるのがよく判る。
 これをアクティブソナーと命名、と思ったが長いのでアクティブと短縮。
 感覚的には今までの探索スキルで探るより、3~4倍くらいは探索範囲が広がった様に感じる。
 外から来る水面の乱れを静かに探知する事を、パッシブと呼ぶことにする。

 朝起きるとアクティブ一発で周囲の安全確認、その後ドームに24時間の延長料金代わりの魔力を送り込む。
 朝食後にマジックバッグの拡張の為、バッグの口に向かって70/100の魔力を一気に押し込む。

 マジックバッグには、生活用品や食糧,薬草等を余裕を持って入れたいので、最低ランク2、8㎥程度の容量は欲しい。
 それに結界を強化した後は出歩かないので、朝に容量拡大で一気に魔力を使い、寝る前に時間遅延能力増大の為に魔力を送り込む。
 最初に鑑定した時には〔マジックバッグ・1/3〕だったが1/7に変化している。

 マジックバッグ拡大の日課を終えると、後は魔力の回復を確かめながらドームの使用方法をあれこれと模索し実験する。

 何せ余命三ヶ月の設定だと思い、身の安全に必要な結界魔法と病気を治す為の治癒魔法を選択した為に、攻撃魔法が無い。
 探索スキルと鑑定スキルをどう小細工しても、攻撃には使えそうもない。
 なら魔法はイメージの言葉を信じて、結界魔法を使った攻撃方法を模索しなければならない。

 敵と出会っても結界魔法で安全は保たれるが、居座られたら身動き出来ずに下手すりゃ餓死してしまう。
 遠距離攻撃は必要無い、周辺に屯する敵を攻撃したら一目散に逃げる。
 追いつかれる寸前になれば結界の中で一休みし、又攻撃して逃げる程度にはなりたい。

 それが出来る様になれば人里に出て、此の世界にも在ると聞いた冒険者ギルドで登録をして、冒険者になることも出来る。
 治癒魔法を使って稼ぐことも考えたが、ラノベの知識では迂闊に治癒魔法を披露すべきでは無いと思われる。

 そうなると薬草採取か、ガイドから聞いたクリーンの上位版リフレッシュで稼ぐ方法が一番手っ取り早い。
 リフレッシュを自分に掛けて見たが、固い地面の上で寝て強ばった身体が楽になり気持ちよかった。
日本でのエステかマッサージに行く程度だと思うので、1日2~3人の客を掴めば寝食はまかなえると思う。

 ・・・・・・

 索敵に正体不明な生き物の接近を感知したのは、ガイドと別れて20日程経った頃で10個以上の個体の接近を感知した。
 塒のドームから離れていた為に、バリアの一言で結界を張り巡らせる。

 結界は俺の知る限り最強の物で、戦車の装甲をイメージし対戦車砲弾の攻撃に耐えられる優れもの(自画自賛)
 一工夫して外部からは迷彩柄で結界内が見えないが、内部からは外の様子が分かる様にしている。

 何せ男から女への変換で、一番困ったのがトイレだった。
 男なら小便をすればプルプル振って終わりだが、ズボンを下ろしてしゃがみ込みと手間暇掛かって大変だ。
 しかもお尻丸出しで、風に吹かれる心細さは男であったときには考えられないもの。
 実用面からも、お尻丸出しでは突発事態に対処出来ないのも事実。

 人の居ない森の中とはいえ開放感より羞恥心が勝っていて、誰にも見られないトイレタイムを思案した結果迷彩柄のトイレに至った。
 アクティブで探知してから20分程経過した頃、接近の速度が遅くなりパッシブでも探知できるようになった。
 動物の群れの動きでは無い、明らかに知恵を持った物の行動である。
 バリアの中に潜み、外から俺の姿は確認出来ないはずだが息を潜め、接近するものをはっきり確認する為に覗き穴から見張る。

 パッシブでは距離感が掴みにくいので一度アクティブで位置を確認する。
 35~60メートルほどの所に潜み俺の方を伺っている様だが、動物とは違う気配がする。
 となれば、人の住まう場所より10日ほど離れているので冒険者の類いか。
 数は13、パーティーを組んで行動するとガイドが言っていたが、数が多すぎる気がする。

 木の陰から姿を現したのは人間だが、手に弓を持ち矢をつがえている。
 すらりとした体躯に遠目でも判る美形で・・・多分男。

 「私はヤラセンの里のオルサン、姿を見せてくれないか」

 「弓に矢をつがえたままの男の前に立つ勇気は無いのでお断り。何の用だ?」

 一つ頷き、弓から矢を外して矢筒に矢を戻すと合図をする。
 彼の周囲に潜んでいた者達が姿を現したが、美形の仲間にケモ耳に巨漢と第一種接近遭遇にしてはバラエティに富んだ人々。
 なる程、これが各種人族で俺もエルフと龍人族のハーフって事か。
 敵意は無さそうだが油断は禁物、夜露に濡れるのを防ぐ為に開発したシールドを服の表面に張り巡らせてから、迷彩柄のバリアをゆっくりと透明化させる。

 〈子供じゃ無いか〉
 〈一人か?〉
 〈長老は一人と言っていたぞ〉
 〈逃亡奴隷じゃないのか?〉
 〈しかも女だ〉

 「何をしている?」

 「何をって?」

 「君の様な子供が、何故一人で森の奥に居るのかって聞いているのだが」

 「それね、中々説明しづらいのだけど、今のところは魔法の練習かな」

 「我々の里に来て貰えないか」

 意味が良く判らないが、命じられて俺を探しに来た様な口振りだ。
 ガイドはアリューシュ様の世界アーリッシュランドって言っていたが、此の世界に知り合いは居ないはずだ。

 「それって強制かな」

 「強制じゃないが、長老達が会いたがっていてね。来て貰えると有り難い」

 何かが表面をなぞる様な感触、頭の中に侵入してこようとしてバリアとシールドに阻まれているのかな?。
 本能の教えに従い、バリアを強化し侵入してこようとする何かを意志の力で引きちぎる。

 〈ウッワッ・・・〉頭を抱えて蹲る男を見て、精神攻撃かもと疑念が湧く。
 此処は魔法が存在するお伽の国だ、日本の常識は通用しない。

 「その男は何をしようとした? 余り友好的とは思えないので、招待はお断りするよ」

 「済まない、仲間が許可を得ずに鑑定してしまった様だ。ヤラセンの里の名にかけて、オルサンが君の安全は保証する。里に来て長老達に会って貰えないだろうか」

 「なぜ長老達に合わせようとするんだ? 初対面で勝手に人を鑑定する様な奴が居る集団を、信用しろと言っても無理だね」

 「判った、詳しい話をするから少し待ってくれ」

 オルサンと名乗った男が、仲間達に向き直り彼等を俺の視界から遠ざけた後バリアの直ぐ傍に来て話し始めた。

 「長老達が言うには、精霊達が騒いでいる。森に異質な者が現れたとな」

 おいおい、真顔で精霊だなんて言い出したよ。
 俺の表情から信用していないと思ったようで、別なことを問いかけて来た。

 「君は君の周囲を飛んでいるものが見えるかね。長老の話では君には見えている筈だと言っていたが」

 ふむ、此の世界に転移してから気になっていた事を、ズバリと問いかけてきたね。
 それも、この場に居ない長老の言葉として。

 「それは親指の爪ほどの大きさで、綿毛の様な様々な色に光る存在かな」

 「私には見えないが里には見える者もいるし、長老もそう話した。長老達は貴方のことを迷い人と呼んでいる。此の世に在らざる者にして、迷いて此の地に降り立った者だと」

 迷いてねぇ、半強制的な転移だけどな。
 然し、長老達に会って話を聞くのも悪くなさそうだ。

 「ヤラセンの里って、どの方角になる?」

 「此処からだと北になるな、我々の足で10日程度かな。君だと12~13日かそれ以上必要だろう」

 「その長老達に会っても良いが、条件が有る。俺の足に合わせて歩く事と、道中見付けた薬草等を教えてくれること。野営は君達とは別に勝手にするので、如何なる干渉しないこと」

 「約束しよう。そして今話した事は、仲間達には言わないで欲しい。彼等も俺と同じ様に精霊が見えないし、迷い人と言っても笑うだけだろうから」

 「判った、俺の名はアキラだ。宜しく」

 オルサンの言葉に頷き名を名乗り、異世界での第一種接近遭遇は何とか無事に終わったが、気は抜けないな。
 ただ、俺はアキラと名乗ったのに、オルサンはアキュラと俺に呼びかけてくる。
 俺の発音が悪かったのか、此の世界の言語でアキラと発音出来ないのか不明。

 翌日オルサンを含む13人と共に、ヤラセンの里に向けて旅立った。
 オルサン達は女性3人を含む集団だが、全員武装していて女性達は俺の世話係をしてくれている様だった。
 女性三人はフルーナ,メルサ,ヨエルと名乗ったが、男達はオルサン以外殆ど口を開かず黙々と周囲の警戒と俺の護衛の様な立場で行動している。
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