黒髪の聖女は薬師を装う

暇野無学

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001 誘い

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 「なんじゃこりゃー!!!」異世界転移第一声は、某刑事ドラマの有名な台詞だった。

 何でこんな事になってるんだ?
 長い黒髪と涼しい股間に・・・ちっぱい。

 《ガイド! 聞こえるか?》

 《御用ですか》

 《御用ですかじゃない!!! 俺は男だぞ! それが何で異世界転移で女になっているんだ!》

 《健康で長生き出来る身体を望まれ、選択された魔法とスキルに合わせました。貴方は了承されましたよね》

 《だが、女になるとは聞いて無いぞ》

 《生物学的に、雄より雌の方が生命力が強く長命です。健康で長生きなら雌になるのは当然です。因みにエルフと龍人族のハーフですので身体能力が高く、事故や闘争などで死なない限り長命は保証します》

 (なんてこったい。異世界転移第一歩から大誤算とは)

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 月に2回の週休二日、アパートに帰るとビールを飲みながらスマホでネット小説を読む。
 ありきたりな生活が高校を卒業してから早8年、何時もと変わらぬ生活だ。

 「書け! 読め!」のアプリをクリックし、スマホの画面に浮かび上がったのはアンケート。
 無料小説なので、広告やアンケートが時々優先的に表示される。
 この時もその類いだと思い、気軽にポチった。

 曰く、〔貴方の余命は三ヶ月です〕
 〔寿命を受け入れ消滅しますか、其れとも特典を貰って異世界に転移しますか?〕
 ほうほう、今回はそう来ましたか。
 余命三ヶ月、最後の晩餐の希望じゃないんだ。

 〔人生を終わらせる〕〔異世界で生き延びる〕

 ネット小説の読者としては、異世界転移一択でしょう。
 迷わず異世界で生き延びるをホチッ。

 〔特典1、魔法二種類を選択して下さい。風魔法・水魔法・火魔法・土魔法・雷撃魔法・氷結魔法・治癒魔法・転移魔法・結界魔法・空間収納魔法〕
 〔特典2、スキルを二種類を選択して下さい、調薬スキル・鍛冶スキル・建築スキル・調理スキル・調教スキル・生産スキル・探索スキル・細工スキル・剣術スキル・弓術スキル・体術スキル・鑑定スキル・隠形スキル・精製スキル・・・etc.〕

 生き延びるるがテーマなら、治癒魔法と結界魔法で身の安全を図るのが妥当だろう。
 スキルは何事も危険かどうかの判定に鑑定スキルと、周囲の安全確認に気配察知が見当たらないので探索スキルだな。

 〔通常の身体能力〕〔異種混交な身体能力〕〔異種頑健強靱な身体能力〕〔選択した魔法とスキルに合わせた身体能力〕

 当然選択した魔法とスキルに合わせた最適な身体が良いに決まっているので、四番目をポチッ。

 画面がブラックアウトすると同時に、頭の中に音声が響いた。

 《高町晶さんの異世界転移を承認しました。特典として治癒魔法と結界魔法に魔力100が与えられます。同時にスキル鑑定と探索が発現しました》

 野球場の案内放送で聞く、ウグイス嬢の様な柔らかな声が聞こえる。

 「誰? なにか言った?」

 《高町晶さん、私は貴方を異世界に誘う者が遣わしたガイドです。貴方は現在膵臓ガンを患っており、余命三ヶ月です》

 頭の中に響く声を聞きながら、此は夢か・・・其れにしてはリアルなビールの冷たさと味だ。
 などと考えながら気がついた、膵臓ガンが本当なら仕事を休んでガン検診を受ける必要があるな。

 《その時間はありません。身寄りが無く余命が短く確実に死ぬ人々からランダムに抽出し、異世界転移を選択し魔法とスキルを決めた瞬間から48時間で、転移が発動します。色々と条件は有りますが、貴方は其れに該当しました。私が貴方に語りかけたのは、親しい方々にお別れの時を与える為の措置です》

 不思議なことに、言われている事に嘘偽りがないと判る。
 沈黙の臓器、発覚した時点でほぼ手遅れ気味と言われていたっけ、然も26才じゃ進行も早いから手遅れだろうな。
 膵臓ガンで死なない代わりに、異世界転移の覚悟を決めろって事か。

 《なぁガイド、此の世界から持ち込める物は有るのか?》

 《出来ません、知識と記憶のみ保持されます。それも多少制限されますが完全に忘れる訳では有りません》

 《何故異世界転移などと面倒な事をしてまで、俺を送り込むんだ? ラノベの様な魔王討伐とか英雄になれる男ではないぞ。今だって死なない程度に、のんべんだらりんと生きて行ければ良いと思っている俺だ。何か役割でも有るのか?》

 《何も有りません。強いて言うなら新しい血ですか、様々な種族が生きている世界に刺激と変化を与える為です。静かな水面に小石を落とすと思って貰えれば良いです》

 《何も持ち込めないとなると、衣服や食料とか当面必要な物は支給して貰えるのか》

 《そのサポートは致します。言語は理解出来ますし転移後3日間、不明な点について問われれば私が答えます》

 ビールの酔いも回ってきたし、今生の別れ、水杯を交わすほどの人も居ないので寝る事にした。
 深夜に目覚め、冷たい水で意識をはっきりさせてからガイドに声を掛けた。

 《聞こえるか? ガイド》

 《何でしょうか》

 やっぱり夢ではない様だな。

 《転移先の基礎知識を教えてくれないか》

 《禁則事項ですので何一つお答え出来ません。現地に到着後にお聞き下さい》

 あっそ、お別れする家族は既に居ないし、ぼっちの俺に最後の晩餐を楽しめって事ね。
 最後の晩餐はちょっとお高い回転寿司を食べ、お土産の折り詰めを手に酒屋で飲みたかった高めのウイスキーを買って帰ったのが、日本での最後となった。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 二日酔いもせずにすっきりと目覚めたが、ん? 何か違和感が有る。
 目の前に簾がと手を伸ばせば髪だ、髪・・・最近散髪に行ってないが目に掛かるほどでも無いはずなのに。
 違和感は胸にも股間にも有る・・・そーっと手を当てれば・・・無い! ない! ナイ!

 「なんじゃこりゃー」 OMG! オー・マイ・ゴッ! 神様ぁぁ! 違う俺は仏教徒だ、仏様ぁぁぁ!
 落ち着け俺、何かの手違いだ! 手違いに違いない!
 今なら間に合う、急げ!

 ガイドを呼び出して問い詰めたが、無情な返事が返ってきただけだった。
 呆然としていると、ガイドに注意喚起される。

 《ぼんやりしていて、野獣と遭遇すれば殺されますよ。持ち物の説明をしますから確認して下さい》

 殺されるって、野獣に?
 持ち物・・・そうだ異世界に来てるんだ。
 魔法を授かっているんだから、自分の身は自分で守らなくっちゃ。

 《取り敢えず、女になっている事は置いといて説明してくれ》

 《肩から下げているバッグの中に、必要な物は全て入っています》

 へっ、こんな小さなメッセンジャーバッグみたいなのに全てって。

 《おいガイド、こんな弁当と水筒を入れたら終わりみたいなバッグだけなのか》

 《其れはマジックバッグです。既に貴方用に登録されています》

 《ヘッ・・・マジックバッグだぁ~!》

 《フラップを開けて下さい。そうすれば中に入っている物が頭に浮かびます》

 キャンバス、帆布製の様なごっつい生地のフラップを上げると、剣やナイフフライパン等の映像が頭の中に浮かぶ。

 《頭に浮かんだ映像から欲しい者を選んで手を差し出せば取り出せます》

 そう言われ、頭に浮かんだナイフを思いバッグの口に手を差し出すと、ナイフが手にあたる。

 《ショートソード、ナイフ、着替えの衣服、フライパン等の生活用品と食料一ヶ月分に三ヶ月程度は生きて行けるお金が入っています》

 《これってどれ位の量入るの》

 《ランク1と呼ばれるマジックバッグで、現在1㎥の容量ですので1メートル角の箱一つと思って下さい》

 《現在って事は容量が増える事も有るの》

 《見掛けは最下級品に見えますが、中級品で魔力の込め具合で8メートル前後の容量まで拡大出来ます》

 《ガイドって魔法の指南は出来るの》

 《魔法は使用者のイメージが全てです。イメージに魔力を送り込めば発動します。注意すべき事は、魔力切れにならない様にして下さい。魔力切れを起こせば死に繋がります》

 《ん、回復して魔力も増大するんじゃないの》

 《死にます。此の世界の、生きとし生ける全てのものに魔力が存在しますが、魔力の消失は死を意味します》

 おいおい、ラノベと違うじゃないの。

 《俺って魔力100って言ったよね。どれ位の魔力を魔法に使えるの》

 《各種人族では、保有魔力の8割を失うと倦怠感ついで脱力感を覚え、魔力5を切ると行動に支障をきたします》

 本格的にガイドから色々聞き出したが、人族で魔力が1~4迄の物は基本的に生活魔法が使えないか使えてもしょぼく、身体も弱い虚弱体質。
 魔力が5以上でも生活魔法が使えない者が2割前後程度いること。
 魔力が30以上有れば一応魔法を使えるが威力は低いそうで、威力を高めれば使える回数が極端に減るか魔力切れを起こして死ぬんだと。

 死なない為には、非常用を含め最低2割程度の魔力を常に温存しておく必要が在りそう。
 魔力が少なくなれば、倦怠感脱力感という警報が有るのは助かる。

 今更ながら気がついたが、周囲は木々が茂った森の中、取り敢えず我が身の安全の為に結界を張る練習をする。
 結界と言えばドーム状か楯かだが、全周防御の為にドームをイメージして魔力を・・・

 《なあ、ガイド。魔力ってどうやってイメージに送り込むんだ》

 《身体の中から押し出すんのです。貴方の場合は魔力操作ができなくても、腕から魔力を送り出すイメージで出来る筈です》

 半球状のドームをイメージし(結界!)腕からイメージに魔力を押し込む仕草をすると・・・腕の力が抜ける感じがしたが何も出来てない。

 《出来ないや・・・何が悪いのかなぁ?》

 《出来ていますよ》

 《ヘッ、何も無いよ》

 《少し前に歩いて下さい。見えてないだけですから》

 そう言われて足を踏み出すと、5歩目で何かにぶつかった。
 見えない結界、初めての魔法の成果にニンマリして中に入ろうとしたが、入り口が無い。
 何度か入り口を作るイメージでやってみたが、見えない物に入り口を作るのは大変で、新たに自分の周囲を囲むドームに変更する。

 (結界!)見えない壁をペタペタと障り、結界のドームの完成を確認して座り込む。
 取り敢えず安全確保の第一段階は出来た。

 《此って閉鎖空間だけど、呼吸はできるの?》

 《出来ますが匂いなどは通しません》

 《ラノベでよく有る毒物や煙なんてのは?》

 《通しません。内部で発生した毒物や煙も外部に出ません。あくまでも生存に必要な空気だけを通します》

 ガイドに強度を確認すると、ビッグボア程度の突撃やオークの打撃に耐えられるだろうとのこと。

 ちょっとちょっと、何か嫌な言葉が出てきたよ。
 俺は戦闘なんて想定してないぞ、ガイドにもっと強力な結界を作る方法を尋ねる。

 《一番簡単な方法は、現在出来ている結界に二重三重に魔法を掛けることです。馴れれば強固な結界をイメージして魔力を流せば出来ます》

 そう言われ、結界に手を当てて存在を確認し強度を上げるイメージで魔力を押し出す仕草をする。
 ガイドに出来ていると言われて一安心、持続時間を尋ねると24時間程度で消滅するが、再度魔力を込めれば24時間追加出来るって。
 消滅させたいときには、結界の魔力を解放して霧散させれば良いと言われた。
 延長料金の代わりに魔力を込めるのと、キャンセルね。
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