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157 討伐放棄

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 後でお肉を振る舞うと約束してビーちゃん達を解散させ、アリエラに安全だと合図を送る。
 ミーちゃんを胸に抱いて恐々近づいて来るアリエラ、左右にRとLが控えていて、アリエラがテイマーの様に見える。

 「これっ、どうするのよ!」

 「ん、どうもしないよ。御領主様が怒ってきたら、ビーちゃん達がお仕置きしてくれるから。俺はテイマーだけど、なーんにもしてませんよ。全てはテイマー神様の加護のお陰です。南無」

 「なむって、何よ」

 「気にしない気にしない。ちょっとサブマスの所へ行って、文句を言ってくる。話が通じないなら帰らせて貰うよ」

 「兄さん凄ぇなぁー、テイマーってこんな事も出来るんだ」
 「おお、キラービーの大群を操るなんて初めて見たぞ」

 「勘違いするなよ。俺は能力1で最低のテイマーなもので、テイマー神様が特別な加護を授けてくれているんだ。俺を憎んだり攻撃してくる奴は、ティナ様が遣わしたキラービーに刺されるんだよ。それと俺がお願いした時なんかもね」

 「お前の命令で動いているんじゃねぇのか?」

 「テイマーで虫を使役出来る奴なんて居るの?」

 「まぁ・・・聞いた事がないな」
 「上を飛んでいる奴は襲って来ないよな?」

 「あんたが俺を攻撃しなきゃ大丈夫・・・だろうさ」

 「なんだ、その間は。俺はお前を攻撃なんかしねぇよ」
 「蜂塗れになって死ぬなんて御免だぜ!」
 「これ、放っておいても良いのか」

 「ポーションくらい持っているだろうさ」

 「サブマスの所へ行くのなら、俺達も行くぞ。事と次第に寄っちゃ帰らせて貰うからな」
 「強制招集の持ち場放棄にならねぇかな」
 「俺達の上前を撥ねる領主の為になんざ、命を賭けられるかよ!」
 「此処の領主の遣り口を、盛大にバラしてやるさ」
 「ムスランのギルドも、何で領主に好き勝手をやらせているんだ」
 「おお、それもおかしな話よな」

 集まった冒険者達の不満が爆発寸前で、サブマスの居る村長の家に押し掛けることになった。
 こうなると俺は蚊帳の外で、獲物をタダ同然で取り上げられた冒険者達が先頭になりサブマスを問い詰め始めた。

 「サブマス、何とか言え!」
 「命を賭けて狩った野獣をタダ同然で取り上げられたんだぞ」
 「俺達の獲物を領主だからって取り上げる権利はないだろうが!」
 「野獣討伐に領主の軍が出るのは判るが、持ち場を勝手に放棄して俺達をはじき出すとは何事だ!」
 「サブマス、答えろ!」

 「喧しい! 此処には此処の掟が有るんだ!」

 「なにおぅ、俺達の規約にそんな掟は無いぞ」
 「サブマスだからって、規約を無視する権利はないだろうが!」
 「王都の本部に報告させて貰うからな」

 「ふん、おのれ等が何を言っても通るものか。黙って持ち場に戻って討伐を続けろ!」

 「もしかして、金でも握らされているのかな。それとも弱みでも掴まれたとか」

 「誰だ! 今言った奴は前に出ろ!」

 お~お、赤鬼の様な形相で殺気を振りまいているよ。
 一触即発状態の冒険者達を掻き分けて前に出る。

 「俺だよ。図星みたいだな」

 「小僧、確かテイマーだったな。余計な事を口走れば死ぬぞ」

 「それって脅しているの? 図星だから口封じをするつもりなら、自分の命を落とすことになるので止めておけ。俺はこの討伐から抜けさせて貰うし、冒険者ギルドの本部にも報告させて貰う」

 「そんな事が許されるとでも思っているのか」

 「許して貰う必要はないさ。お前に俺を止める力は無いからな」

 「大きく出たな。俺に逆らって生きていられると思っているのか」

 「あ~、死ぬのはそっちだよ」

 家の外に待たせていた十数匹のビーちゃん達を呼び寄せる。

 《入っておいでビーちゃん、俺の前に居る奴だけだよ。それ以外は刺しちゃ駄目!》

 《マスター、お任せを》
 《ずるいぞ、俺が先だ!》

 〈痛っ〉

 《へへーんだ》
 《二番ーん♪》
 《そーれーっ!》

 〈蜂だ!〉
 〈逃げろ!〉
 〈何でこんな所に?〉
 〈余計な事を言ってないで、そこを退け!〉

 〈糞ッ、何で・・・蜂・・が・〉

 「死んだのか?」

 「さぁ~、どうでも良いよ。俺は此処の持ち場を放棄して帰るよ。グレン達はどうする?」

 「俺は帰りたいのだが・・・」

 「私は放棄するわ。冒険者登録を抹消されても獲物は狩れるし、安いだろうけど肉屋に売れば良いだけよ」
 「俺もかあちゃんに従うぞ」
 「ああ、貴族が冒険者の上前を撥ねるなんてのは初めて聞いたぞ」

 「氷結の、俺達も帰るわ。帰ってギルマスに文句を言ってやる!」
 「サブマスもグルみたいだし、ムスランの冒険者ギルドも信用ならねえ」
 「ギルドと領主がつるんでいるに違いない。帰って報告するぞ」
 「俺達も帰らせてもらうわ。こんな阿呆らしい事はやってられん」

 部屋の片隅で震えている村長にサブマスが蜂に刺されて重体なので、毒消しのポーションが有れば飲ませてやりなと指示して家を出る。

 ドラゴン討伐は、貴族の馬鹿がやりたいのなら勝手にやらせておくさ。
 魔法が上達する様に手を打ってきたのだから、ドラゴン以上の野獣が現れても対応出来るだろう。
 後は、アマデウスが授けの儀でせっせと魔法を授ければいいさ。

 * * * * * * * *

 ムスランからオーガスを抜け、国境の町ランサスに向かって歩いている時、後方から馬蹄の響きが聞こえて来た。
 振り向けば砂塵を挙げて騎馬の一団が迫ってくるので、皆をそのまま進ませて最後尾に立つ。

 《近くに居るビーちゃんは皆集まれー》

 《居るよ、マスター》
 《お呼びですかー》

 《あっちから来る馬・・・四つ足に乗る人族を、三回だけ刺してくれるかな》

 馬群が近いので、ビーちゃんの集合が間に合わないかもしれないと思い、作戦変更。

 《ビーちゃん、四つ足の顔を刺して! 一度で良いから顔や鼻を刺して!》

 《お任せをー♪》

 いきなり先頭の馬が顔を振り、狂った様に暴れ出した。
 ビーちゃん達に襲われた馬群は、あっと言う間に暴れ馬の群れとなった。
 馬上の騎士が必死になって抑えようとしているが、狂った様に暴れる馬から次々と振り落とされている。

 「此れもキラービーがやっているの?」

 「なんで見物しているのさ」

 「えっ、あんたが何をするのか興味が有るからよ」
 「キラービーを操って、騎馬軍団を止めるとはな」
 「魔法を使わなくても無敵だな」
 「此れで攻撃魔法が三つに結界魔法が使えるんだから、誰も勝てないだろうさ」

 先を行っているはずの者達も立ち止まり、右往左往する騎士達を笑いながら見ている。
 此処で魔法攻撃をすれば、明確に俺が攻撃したと思われるか背後の冒険者達の攻撃と受け取られる。
 ならばビーちゃんの攻撃と思わせれば、疑われても俺一人が狙われるだけ。
 キラービーを操っていると訴えたら、頭がおかしいと思われるだろけどそう信じ込ませてやる。

 「誰も、俺に近づかせないでね」

 「何をするんだ?」

 「ちょっと話し合いを、かな」

 最初に来た数十匹に俺の頭上に居て貰い、後から集まって来た大群には遥か上空で旋回していてもらう。

 馬から振り落とされて倒れたままの奴や、何とか飛び降りて無事な奴と様々だが、皆何が起きたのか判らずに狼狽えている。
 一番身形の良さそうな男の所へ向かい、見下した目付きで笑いながら問いかける。

 「どうしたんですかぁ~、変わった馬の乗り方ですねぇ」

 「何だ、己は!」

 俺に怒鳴った瞬間、頭上のビーちゃん達が男の前に降りてきてホバリング。
 目の前に浮かぶキラービーを見て、怒りの表情が驚愕に変わる。

 「あんまり俺に敵意を向けない方が良いですよぉ~。テイマー神様が俺につけてくれた護衛ですので、俺に対して攻撃的になると刺されますよ」

 半笑いで教えてやると、馬鹿にされていると思い顔色が変わるが、一匹がスイーと前に出て、男の鼻をチクり。

 〈ギャー〉って、汚い悲鳴を上げて尻餅をつく。
 俺との遣り取りを見聞きしていた者達は、俺の頭上や周囲を飛ぶビーちゃんを見て腰が引けている。

 「スンザ村で、多数の兵士達がキラービーに襲われたでしょう」

 腰の引けた男達に向かって問いかけると「あれはお前がやったのか」と怒鳴りつけてくる。
 尻餅をついている男を指差し「さっきのを見ていたでしょう」と態とらしく、溜め息交じりに尋ねる。

 「俺に対して攻撃的になると、キラービーが俺を守る為に相手を攻撃するんですよ。スンザ村の時も、俺達から獲物を取り上げようとしたので、この子達が怒って襲い掛かったんですよ」

 周辺を飛び回るビーちゃん達を指差すと、指の周囲に十数匹が飛んで来てホバリングしたりグルグル回ったりする。

 「さっきも俺達を踏み潰す勢いでやって来るので、こーんなに集まっちゃって」

 へらっと笑い、上空のビーちゃんの群れを見上げる。
 無事だった兵達がつられて上空を見上げ、キラービーの大群を見て顔色を変えている。

 「俺達はあんた達のご主人様の配下じゃないので、獲物を取り上げられてまで強制招集に応じて闘う気はありません。この事はギルド本部にも報告させてもらいますね」

 にっこり笑い、チラリと上を見上げてから背を向けたが、誰一人追ってこようとしなかった。

 * * * * * * * *

 ウィランドール王国内に入ると、キルゲスやミルダンの街から強制招集に応じた者達が集団から離れて行く。
 彼等は口々にスンザ村でやられた事をギルドに伝えると言って別れて行った。
 彼等がギルマスに報告した後は、食堂でエールを飲みながら今回の一件を吹聴するだろう。

 俺の事も知れ渡るが、悪い噂話は燎原の火の様に広がり、ムスランの冒険者ギルドと領主の信用は地に落ちる。
 領主のことは判らないが、ムスランのギルマスが無事に済むとは思えない。
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