能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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 「何とも甘い雇用条件ですね」

 「ルシアンの治療依頼にニーナも同行して経験を積んでいましたが、古傷まで治してしまった様なのよ。それが噂になり、再生治療が出来るのではないかと思われているの」

 あー、不味った。
 ルシアンも何たら侯爵を治療したときに、動かなくなっていた古傷まで治して問題になったと、マークスから聞いたな。

 「ルシアンの時、フルブラント侯爵が無理難題を言いだした為に、王家の逆鱗に触れて降格させられました。ニーナも貴方の指導を受けて、ルシアンに劣らぬ腕前と噂になっています。成人したばかりの若い娘ですので・・・」

 「契約した後で、結婚をちらつかせて取り込もうと画策する輩が湧いて出ますか」

 「それが原因で、貴方と問題が起きることを王家は恐れているのよ」

 俺の家に居ても俺の配下じゃなく雇用契約もしていない。
 雇用は王家となれば、有象無象が迂闊に手が出せない。
 俺の家から通えば、ニーナも弟妹のガブルやアイラと暮らせるので要望通りになる。
 メイド長のカレンに言って、ニーナ達の兄弟用の部屋を用意させなきゃな。

 「ニーナが良ければ、王家の申し出を受けさせて下さい。俺の家なら部屋は幾らでも空いていますので、ニーナ達が住むのに問題ありません。ゴールドマッシュは準備中ですので、もう暫くお待ち下さい」

 * * * * * * * *

 ミレーネ様から連絡が有り、契約に立ち会ってくれと頼まれてニーナと共に王城へ向かった。
 ミレーネ様の控えの間に到着すると、案内の侍従に導かれて宰相執務室へ向かい、契約書に署名をする。
 契約金金貨100枚と月々の給金が金貨10枚で、週に一度王城に出仕してミレーネ様の控えの間で待機していれば良い事。
 別途呼び出しと治療を必要とする場合、連絡するので出仕する様にとの事だ。

 雇用契約書にニーナが署名すると、後見人にミレーネ・モーラン伯爵様と俺が署名する。
 そしてニーナに渡されたのが王家の特級治癒魔法師が持つ身分証と、馬車に付ける王家の紋章を渡された。
 王城への送り迎えは王家にしてもらえるが、私用の際に乗る馬車に付けていれば面倒事を避けられるとのこと。

 俺は何の地位も権力も無いただの冒険者なので、家の馬車で治療に出向いたときには都合の良いお守りになる。
 少しマシな馬車を用意して、王家の紋章を付けておけば格好が付くってものだろう。

 出仕の際には専属の侍女が付き、王城での全てをサポートしてくれるとのこと。
 サポートなしではニーナはただの小娘で、貴族達の餌食になるのでお任せするしかない。
 ミレーネ様の控えの間に戻ると、待ち構えていた仕立屋に採寸されてお役御免となったが、刺激が強すぎたのかニーナがボーッとしている。

 家に帰ると、ニーナの部屋と居間を挟んでガブルとアイラの部屋が用意されていて戸惑っている。

 「ガブルとアイラは、引き続き俺の家の小間使い兼カレン達のお手伝いだ。ニーナが治療依頼で受ける報酬が貯まれば、家を買って一緒に住めば良い。其れ迄はこの家に住んでいれば良いからな」

 そう伝えると、深々と頭を下げて礼を言われた。
 暫くミレーネ様の所へ預けている間に、随分としっかりしてきたものだ。

 三日後には仕立屋がニーナの衣装を届けてくれたが、王城に出仕する際に着る服には煌びやかな王家の特級治癒魔法師の紋章が刺繍されている。
 それとは別に二着、私用や治療依頼で出向く時用で、王家の紋章入りの服を着用するようにとの指示書が添えられていた。

 家令のムラードに命じて、ニーナが依頼で治療に出向く際に付き添う侍女と護衛の服を新たに作れと命じ、金貨の袋を五個ほど渡しておく。
 王家の紋章入り革袋にムラードの眉がピクリと跳ねるが、賢明にも何も言わずに頭を下げている。

 「馬車は如何致しましょうか」

 「あ~、俺の馬車は貧相だよな」

 ムラードが苦笑しているので、金貨の袋をもう五個渡しておく。
 俺が使っている馬車は使用人用と変わらず、バネとクッションを上等な物に替えているだけ。
 RとLの二頭を従えているだけでも目立つのに、キンキラの馬車から冒険者が降りたら余計目立つってものだ。

 * * * * * * * *

 ニーナが王城へ通い始めて三月、何時までも蛇を腹の中に抱えているのも嫌なので、ニーナに書状を預ける。

 ニーナは王城へ出仕してミレーネ様の控えの間に落ち着くと、宰相閣下に届ける様にと専属の侍女に俺からの書状を渡した。
 ニーナから書状を渡され、差出人がシンヤとなっていたので黙って頭を下げる。
 ニーナの専属侍女となる時に聞かされている名なので、何の疑いも持たずに宰相執務室に向かった。
 侍女から書状を受け取った宰相補佐官も、シンヤの名を見ると黙って受け取り宰相に知らせる。

 「宰相閣下、シンヤ殿からの書状です」

 開封して宰相に差し出すと、んっと言った顔になったが黙って開く。
 読み進むうちに顔が硬直してくるが、同時にあの味を思い出して喉が鳴る。 此れは一大事だ、早速陛下にお報せせねばと国王陛下の下へ急ぐ。

 「あの男、ザンドラに行っていたのではないのか」

 「確かにザンドラへは行ったようですが、僅かな滞在で街を出てそれっきりでした。帰って来てからは、大量の茸を干していると聞いております」

 「茸とはあれか?」

 「その様ですが、誰も茸のことを知らないのか、使用人達は変わった事をすると思っているようです。それで、彼の要請には」

 「勿論応じてやれ。グリーンスネークの肉半分と引き換えに、残りは全て貰えるのだから断る理由が無い」

 「では、彼の屋敷に空間収納持ちを向かわせます」

 * * * * * * * *

 グリーンスネークを引き渡してから、適度に乾燥させたゴールドマッシュを薬草袋に戻してマジックバッグに入れ、ガブルとアイラを連れて王都の外に出た。

 馬車を草原に乗り入れ、目立たぬ場所に止めて周囲を壁で囲むと、隣りに大きめなドームを作る。
 俺の魔法を珍しそうに見ている二人に、マジックバッグから取りだしたゴールドマッシュを、ドーム内に吊す手伝いをさせる。
 半数ほどを吊るし終わると、中央に煙突の無いストーブを作りファイヤーボールを入れて魔力を追加し、ドームから逃げ出す。

 二人とも俺が変わった事をすると変な目で見ているが、此れは乾燥室なんだよ。
 中にぶら下がった茸は、金貨の山を生むお宝なんだけどなぁ。
 四日ほど掛かって全てのゴールドマッシュの乾燥を終えたが、乾燥室って火を止めても暑いままなので、冷えるまで中には入れず随分待たされた。

 二人には退屈な四日間だった様だが、此れから石臼で挽く大変な作業が待っているんだけどね。
 まっ、全て終わったら特別ボーナスをはずもうじゃないか。

 完全に乾燥したゴールドマッシュは、籠に七つ程と少なく軽くなった。
 ガブルとアイラに作業室を与え、石臼でゴールドマッシュを挽き粉にする方法を伝授し、中瓶20本を渡しておく。
 作業台の横にはたっぷりのお菓子とお茶を置き、急がないので丁寧に作業するようにと言いつける。
 二人の作業部屋は立ち入り禁止にしているので、誰からも邪魔されずにのんびり出来るだろう。

 最初の五本の品質を確認し、それを持ってミレーネ様の所へ出掛けてお渡しする。
 最初に五本渡しているので渡しすぎだと思ったが、ニーナがお世話になっているのでお礼代わりだ。
 尤も中瓶一本で金貨300枚の返礼を貰えるので誰も損をしない。

 * * * * * * * *

 世は事も為し。
 二度目の魔法大会の招待状が届いたが、誰も見に行きたいと言わないので一人で出掛けて行く。
 今回も15名分の席が確保されていて、別な意味で目立ってしまう。
 上等な街着を着ているので、前回の様な蔑む言葉は投げかけられないが、無遠慮な視線は相変わらずである。

 魔法部隊の攻撃展示の威力も上がっているし、冒険者の部では以前より遥かに威力を増した魔法を使う者が数名現れ、観客達から響めきがあがる。
 攻撃も防御も前回より格段に上達していて、数年もすれば魔法巧者が多くなると思われる。

 二度目の魔法大会からは、各部門の優勝者には金貨200枚が与えられる代わりに、自分の練習方法を公開する義務が課された。
 拒否すれば優勝賞金は従来通り金貨100枚なので、皆進んで練習方法を公開した。

 その為に3、4、5回と魔法大会が進むほどに魔法巧者が増え、魔法の威力も上がった。
 今では攻撃魔法は頑丈な的を射ち抜くのは当然で、背後の防壁を何れだけ崩せるかが出場者の目標になりつつあった。

 魔法巧者が多くなるにつれ、ウィランドール王国は魔法王国と呼ばれる様になり、魔法を授かった冒険者達がウィランドール王国で修行をするのが流行となっていた。
 腕を上げて母国に帰ると、出世の糸口となり冒険者のままでも上位ランクになれるのが当然となった。

 それと同時に、ドラゴンハウスは王都ラングスを訪れた際に、必ず見学しドラゴンの弱点などを研究する場になっていた。
 それは何時か自分もドラゴンを討伐し、名を挙げてやると目論む魔法使いの研究の場になっていた。

 俺は、三年目からは冒険者席に潜り込み出場者の魔法を見ていたが、威力は上がれど速さは三人張りの強弓か石弩程度だった。
 フランやエイナ、コラン達が出場しないので誰もそれに気付かなかった。
 それでも八回目の魔法大会一月前に、遠国グロセント王国でドラゴンが討伐されたとの報がもたらされた。

 但し、それはドラゴンを求めて森の奥深く遠征して討伐した、10mクラスのテラノドラゴンとの続報に俺はがっかりした。
 だが魔法大会に出場する冒険者達は、先を越されたと地団駄を踏むと同時に小物だと笑い飛ばした。
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