能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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151 討伐練習

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 中へ入るといきなりロングドラゴンとご対面、ほぼ正面から見るドラゴンはえもいわれぬ威圧感で、勇んで中へ駈け込んだ人々の足を止めさせる。
 皆はドラゴンに驚いていたが、俺は商人の屋敷だったところがドラゴン展示の為に二階の床をぶち抜き、高い天井と二階部分を回廊にして上からもドラゴンを観察出来る作りに感心した。
 奥にはタートルドラゴンがでんと置かれ、ロングドラゴンとは別の威圧感を撒き散らしている。

 エイナやコランが立て看板を熱心に見ているので何事かと見に行くと、ドラゴンの特徴と弱点や攻撃方法が図入りで記されている。
 ご丁寧に俺が教えた攻撃箇所まで矢印で示しているのを見て、笑いが漏れそうになった。

 ロングドラゴンを一回りするとタートルドラゴンの前に進む様に順路が作られていて、柵越しとはいえその迫力に皆言葉少ない。
 二階へ上がる回り階段にはウィップドラゴンが飾られていて、先のドラゴンと比べて小さいので軽口を叩いて見ている。
 冒険者達は注意書きを見て立ち止まり〔ウィップドラゴンは尻尾を鞭の様に振り回し、周囲の物を叩き潰す。特に前足で身体を支えて身を捻り、尻尾を振り回せば他のドラゴンも近寄れない〕の一文に興味深げだ。

 此奴の恐ろしさは小さい身体を侮って近寄るものを、前足を軸に身体を捻って尻尾を振り回すことだ。
 細くしなやかな尻尾は、振り回されて先端が音速を超え破裂音を立てて当たった物を粉砕する。
 俺も初見ではそんな事が判らず、前足を軸に身体を浮かせたときに危険を察知し、上空にジャンプして事なきを得た。

 二階にはテラノドラゴンとアーマードラゴンが向かい合って並び、その奥にグリーンスネークが鎌首を持ち上げて睨んでいる。
 ドラゴンの威圧感に何とか耐えてきた者達も、文字通り蛇の一睨みに腰を抜かす者が出る始末で大騒ぎになる。
 何とか耐えた者は壁際に設えられたカウンター席で、気付けの一杯や冷たいエールで心を落ち着かせ、壁に飾られたドラゴンの絵姿に値札が有るのを見て土産に買っていく。

 入場料銅貨二枚、エール一杯銅貨一枚と気付けの酒は銅貨五枚、ちょっといい酒かと思い思わず一杯買ってしまった。
 何とも商売熱心な王国に呆れてしまった。
 グラスに入った氷を見て、何時の間にか氷で冷やして飲むことが流行っていると気付いたが、冷たく冷えた酒は旨いので深く考えないことにした。

 「あっ、あんた一人飲んじゃって」
 「私も冷たいエールをお願い」

 リンナの声に、皆がカウンターに殺到して大賑わい。
 王家にドラゴンハウスのアイデア料を寄越せと言いたくなった。

 * * * * * * * *

 ドラゴン見物の翌日ミレーネ様を訪ね、ニーナに3/60のマジックポーチと賊28名と父親の賞金、金貨58枚を渡しておく。

 「ルシアンを魔法大会に出場させる様に、宰相閣下から要請があったのだけれど、ニーナも出場させて良いかしら」

 「ニーナの腕を知って、争奪戦になりませんか」

 「後見人が貴方だと判れば、世情に疎い者以外は迂闊な事はしないと思いますよ。それと、貴方に関わる者には王家も気を使っていますからね」

 「エムデンから、知り合いのパーティーが二組来ているんですよ。魔法大会を見たいと言っているのですが、今からでも見学できるでしょうか」

 「魔法使い達なの?」

 「氷結魔法使いを含むパーティーと、火魔法使いのパーティーです。出場はしませんが、他の優秀な魔法使いを是非見てみたいと言っていまして」

 「宰相様におねだりしないの」

 「彼処はあまり行きたい場所じゃ有りませんので」

 「それじゃ、私からお願いしておくわ。人数は?」

 「12名でお願いします」

 「貴方は?」

 「俺はテイマーですからね」

 ミレーネ様がクスクス笑って、許可が出たら知らせると請け合ってくれたので一安心。

 * * * * * * * *

 連絡待ちの間、王都の外へ行こうとエイナとコランを誘うと、二人とも魔法の事だと察して即座にOKする。

 マークスに聞いた獲物が少ない場所へ向かい、土魔法でドームを作る。
 それを見てエイナもコランも呆気にとられているので、そう言えば二人には話してなかったと思い出した。

 「あんた! 魔法が使えたの?」

 「使える様になった、ってのが正しいよ。今日来て貰ったのはドラゴン討伐の練習の為さ」

 「あんな物を討伐なんて無理!」
 「俺も自信がないです」
 「と言うか、討伐の練習ってあんた・・・ドラゴンを討伐した事が有る様な口振りね」

 「流石はエイナ、鋭いね。ドラゴンハウスに置いてあるドラゴンと蛇は、俺が討伐して王家に渡した物だよ」

 二人とも、それはそれは疑わしげな目で俺を見る。

 「シンヤさんの魔法の知識と土魔法が使えるのは判りましたが」
 「ちょっと法螺を吹きすぎよ」

 まっ、信じないのは想定済みなので、黙って地面からアイスランスを突き上げて見せる。
 エイナがお目々まん丸で口をパクパクさせているのを横目に、テニスボール大の火球を浮かべて見せ、近くの岩に向かって撃ち出す。

 〈ドーン〉と轟音が響き渡り、コランが不味いポーションを飲まされた様な顔になる。
 転移魔法で岩の前にジャンプし、半球状の結界を作ると元の場所にジャンプして戻る。

 「後は治癒魔法と空間収納が使えるよ。そうじゃなきゃ、あんな大きなドラゴンを丸のまま持って帰れないからね」

 二人とも魂が抜けた様な顔になっているので、加護が10個と魔力が710って事は黙っておく。
 やっぱり気付けの酒が必要だと思い、氷を入れたマグカップにエールを入れて握らせてやる。
 二人とも無意識にぐいっと飲み干したが、今回は噎せていない。

 「あんたって出会った時から変わっていたけど、とんでもないわね」
 「火魔法の事を良く知っている筈ですよね」

 「コランの手ほどきをした時は、魔法なんて使えなかったよ。ドラゴンハウスに展示されているドラゴンは、タンザの西、森の奥深くへ行った所で討伐したものだ。以前起きたタンザの強制招集は、ドラゴンや他の野獣が東に移動した為に、押し出された野獣が人里に出てきた結果だと思う。それより規模の大きな移動が起きそうって事で、王家も備えを始めたのが魔法大会だ」

 「話が大きすぎて信じられないわ」

 「俺だって、魔法を授けられるまでは信じられなかったさ。だけど森の奥深くへ行くと、ドラゴンなんてゴロゴロ居るので信じざるを得ないのさ。何時何処で野獣が押し出されて来るのか判らないけれど、万が一の時の為に討伐方法を覚えておいて貰うよ」

 エイナには地面から突き上がるランスと、ドラゴンの足と地面を凍らせる方法を教える。
 それとアイスバレットを口に放り込み、もう一度魔力をバレットに送り込んで大きくさせる方法を教えた。
 注意すべき事として、ウィップドラゴンとグリーンスネークには頭の両横に氷柱を立てて繋ぎ、動きを抑える方法も伝授しておく。

 「氷の檻が作れそうね」

 「そうやって、教えたこと以外の方法も考えておけば大物退治も楽になるよ。どちらにせよ、動きを止めるか口の中に一発放り込んで窒息させればイチコロだよ」

 「エイナさんは良いねぇ~。俺なんて、ボンボン爆発させるだけだから」

 「何を言ってるの、足の裏や腹の下で爆発させればひっくり返せるし、口の中に放り込めば一発即死だぞ。鼻面に一発かまして、怯んだ隙に口に放り込めば簡単楽勝な討伐じゃないの」

 「そっ、そうかなぁ」

 「但し、防御力皆無だからそれを忘れるなよ」

 「ちょっ、持ち上げて落とすなよ」

 「でも火魔法の特性を忘れず、鼻面を攻撃すれば勝ち目は十分有るからな」

 「どっちだよ!」

 * * * * * * * *

 魔法の練習を終えて家に帰ると、ミレーネ様から魔法大会の入場許可書が届けられていた。
 係の者に俺の身分証を示して許可書を見せれば、俺を含めて15名の席が確保されているとの事。

 マークス達が羨ましそうにしているが、魔法使いの居ない煉獄の牙はお預けだ。
 此れからも魔法大会は続くのでそのうち見に行けるさ。

 魔法大会の三日前には、フランとオシウスの牙の面々が到着。

 「これって、家じゃなくお屋敷ですよ!」
 「何でメイドや執事まで居るんだ?」
 「お前ってとんでもない奴だな」

 「ミレーネ様が手配をして、彼等の給金まで払ってくれているんだ。家をくれるって言うのでお礼を言った手前、大きいから要らないとも言えなくて」

 「ミレーネ様って、相変わらず太っ腹ですね」

 「今じゃ伯爵様だし、領地まで貰っているぞ。三日後に闘技場で魔法大会が行われるんだけど、フランも見ておくかい」

 フランは魔法大会に興味が無く、ドラゴン見物と王都でのお買い物を頼まれていると苦笑いをしている。
 攻防一体のフランにすれば、他の魔法は余り参考にはならないだろうし、ドラゴン討伐法は教えているので、他人の魔法を見る必要が無いのだろう。

 * * * * * * * *

 早朝の王都の空にファイヤーボールの破裂音が〈パンパン〉と響き渡る。
 エイナとコランはそわそわと落ち着きがなく、窓の外を見ては俺達を見て何か言いたそうにしている。
 それを横目に見て悠然と朝食を食べる仲間達、顔がにやけているのは二人を見て楽しんでいるらしい。

 「エイナ、俺達がどんなに急いでも、マークスに案内してもらわなけりゃ闘技場には行けないぞ」
 「そうそう、コランの様に落ち着けよ」

 フェルザンの合いの手に、どっと笑いが巻き起こり、名指しされたコランが真っ赤な顔になる。
 ふむ、自分も興奮しているのは自覚している様だ。
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