能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

文字の大きさ
上 下
137 / 170

137 雪の障壁

しおりを挟む
 玄関ホールで暫し待たされた後、デオルス伯爵の執務室へ案内された。
 ガチガチに緊張してついてくる六人に、跪く必要はないと伝えて執務室へ入る。

 「よくおいで下さいましたシンヤ殿。何か御用がおありだとか?」

 「はい、御当地を引き継がれたのなら、此の地の過去の記録も受け継いでいると思いお願いに参りました。冒険者ギルドだけでは手に負えず、領主軍も野獣討伐に関わった記録を調べていただけませんか」

 「それは容易い事ですが、それがなにか?」

 「背後の彼等には、街に残る古い噂などを調べてもらう為に協力して貰うのですが、御当家の使用人の方々と行き違いがあると不味いのです。私は半年の予定で此の地を離れますので、申し訳ありませんが一年ほどの間、伯爵様の身分証を彼等に預けてはもらえないでしょうか。勿論その間の彼等の行動については、私が全責任を負います」

 快く了解して貰い、その場で六人に身分証が渡されて登録を済ませ、謝礼としてゴールドマッシュの中瓶二本を進呈する。

 「此れは?」

 「ゴールドマッシュの粉末です。お食事等に、僅かばかり振り掛けてお召し上がり下さい」

 御当地で採れた逸品ですぜ、とは言わずにおく。
 自分が帰らずとも、一年後には必ず返すと約束して伯爵邸を後にした。

 * * * * * * * *

 「伯爵様の身分証を寄越せって、シンヤの権力は相当なものだな」
 「言葉使いは聞いた事も無いほど丁寧なものだったが、身分証を寄越せって言っているのには変わりないからな」
 「此れがあれば、貴族用の通路も通れるの?」

 「通れるけど、他に貴族がいたら引き下がってね」

 「当然だろう。俺達はお前ほど向こう見ずじゃないぞ」
 「本当に森の奥へ向かうのね」
 「帰って来たら話しを聞かせろよ」
 「無事に帰って来いよ」

 * * * * * * * *

 強制招集の時に、タンザの真西から東に向かって押し出されていると聞いたので、拠点になってたデエルゴ村へ向かった。
 タンザ→デエルゴ村→真っ直ぐ西に向かえば、雪を頂く山々が見える筈だとの安易な考えしか思い浮かばなかったのでそれに従う。

 デエルゴ村を過ぎてから三日、快晴無風なので上空へ三度ジャンプして西方を睨むが雪を被った山は見えない。
 人一人立っての見通し距離はどれ位だったのか知らないが、推定250~300mの高さから見えないのなら相当距離があると思う。

 グレン達が二週間程度森の奥へ行って『かなりおっかない場所』と言っていたのでRとLをどうしようか悩む。
 結局二頭は待っていると言うので、目印の巨木近くに岩に見えるドームを作り、二頭の住処とした。
 出入り口は小さくなった彼等がなんとか通れる大きさで、大物の野獣と闘わなくて済む様にしておいた。

 ミーちゃんを肩にジャンプして森を進み、見通しの良い場所は転移魔法を使ってのジャンプ。
 二つのジャンプを利用して西へ向かい、十日目に再び上空へジャンプした。
 四度上空へジャンプしたとき、西の地平、森の上に白いものが見えた。

 スライムのジャンプと転移魔法のジャンプを繰り返して進んでいるので、相当奥地へ来ているはずだが、雪を頂く山々が遠いのを実感した。
 但し、野獣の数が矢鱈と多くて『かなりおっかない場所』って言葉が理解できる。

 何せ、熊ちゃんや虎ちゃんに加えて巨大な蛇がいて、クーちゃんよりも大きな蜘蛛やアリンコがぞろぞろ居る。
 昆虫が鳩くらいの大きさって悪夢だ。

 そしてドラゴン・・・全身鱗に覆われ、頭頂部から背中にかけて鋭い棘を背負った足の長い蜥蜴。
 テイムで確認すると(テイム・アーマードラゴン・439)と出てげんなりしたが、此れは序の口だった。
 体長より遥かに長い尻尾と二足歩行の〔ウィップドラゴン・384〕や恐竜を思わせる〔テラノドラゴン・467〕。
 思わず舐めとんのか! とアマデウスに毒づいてしまった。

 巨大なリクガメに出会って(テイム・タートルドラゴン・521)と出た時は脱力して以後名前や数値を確認するのを止めた。
 まっ、亀ちゃんの重い図体で岩だらけの所や沼の様な軟弱地盤を通り抜けるのは無理だろうし、多くのドラゴンもそれで行く手を阻まれている様だった。

 西に向かうほど軟弱地盤や湿地に棘の様な岩が林立していたり、突如地面が陥没したりと危険がいっぱいで、大型獣も生きるのが大変そうと同情してしまった。
 V字に屹立した谷を跳び越えたり衝立の様な岩山を越えて進み、見上げる山々が雪を被る地に到着した時はほっとした。
 タンザを出発してから正の字で日数を確認していたが、RとLと別れてから26日経っていた。

 スーちゃんのジャンプと転移魔法がなければ辿り着くのも無理な場所だ。
 迂回路なんて探していたらどれ程の日数がかかった事か、そして見上げる山々は富士の裾野の様ななだらかな斜面は無し。
 見上げれば頂上の1/4は雪って、人跡未踏というか積雪部分に辿り着けても、滑落して一巻の終わりは確実。
 確かに障壁だわ。

 即行で山越えを放棄し、山麓沿いを探ってみる。
 一週間程北に向かって歩いたが、鼻の長い熊とか六本足のエルクに体高と同じ長さの一本角を持つドンキー等、ポンコツ神の駄作ばかりで長生きは出来そうもない。
 それなのに繁殖力は強いのか数は多く、野獣の食い残しにもそれ等が多い。
 見ていると頭がおかしくなりそうなので帰る事にした。

 * * * * * * * *

 帰る道すがら、人里に溢れ出ると危険な野獣を見定める事にして、大きな個体を一頭ずつ見本に持ち帰る事にした。
 最初に討伐しておこうと思ったのが熊ちゃんで、(テイム・ファングベア・179)と出た。
 ゴールデンベアより一回り大きく、大きな牙が特徴的な茶色い熊なので一撃必殺とばかりに、アイスランスを胸に撃ち込んでマジックバッグにポイ。

 テイムして支配を手に入れるのは、小さい奴が楽なので小熊を探す事にした。
 呼んでない野獣は直ぐに出て来るが、小熊を探して三日も経ってしまった。

 その間に出会ったのが、見た目は太った蛇だが鱗の全てに三角の突起があり短い足が八本も付いていて、全長20mオーバー(テイム・ロングドラゴン・482)。
 くねって進むと言うよりも、足で身体を押し出しながら軽くくねって前進し速度も速い。
 一瞬ムカデの親戚かと思ったぜ、と突っ込みを入れる所だった。

 此奴は見逃す訳にはいかないと思ったが、1m近い太さの胴体に頑丈な突起付きの鱗で見た目20m以上あるでかさ。
 スーちゃんのジャンプと転移魔法がなかったら、即行で逃げるところだ。
 一匹は討伐して弱点を知っておく必要があるので逃げる訳にはいかない。

 攻撃方法を考えていると、何か目的を持って進んでいる様なので後をついていくと、熊を狙っている様だった。
 体長2m程の熊で動きがたどたどしいのでテイムしてみると〔ファングベア・66〕と出た。
 おあつらえ向きの小熊なので、此奴を餌として差し出す訳にはいかない。
 ドラゴンのご飯を掻っ攫う事にして、進路上に高さ3m幅8mの障害物を作ったが軽く乗り越えられた。
 仕方がないので、ドラゴンの下を狙ってファイヤーボールを撃ち込み、お食事の邪魔をする。
 しかし、並みのファイヤーボールでは僅かに身体が浮いただけなので、魔力三倍増しのファイヤーボールを腹の下に撃ち込む。

 流石に今度は衝撃を受けて動きが鈍ったので、仔熊の鼻面にも通常のファイヤーボールを撃ち込み動きを止める。
 よろめく仔熊の側にジャンプし背中の毛を掴み、少し離れた場所へ再びジャンプして土魔法のドームで包み、外から見えなくする。

 一息つくと、魔鋼鉄製の短槍を取りだして鼻面に叩き付ける。
 流石に痛かったのか、仰け反る様に転倒してしまったので、素速く(テイム・ファングベア・18)
 すかさずもう一発鼻面を殴り(テイム・ファングベア・8・7・6・5・4)
 お~っと(テイム・テイム)〔ファングベア・1〕
 何とか間に合い、無事テイムが完了して支配を獲得した。
 《お前の名前はファングベアだぞ》

 《はい、ファングベアですね、マスター》〔ファングベア・怪力無双、切り裂き〕

 怪力無双は既に持っているし、切り裂きって牙の特徴かな。

 ほっとしていると〈ドーン〉とドーム内に轟音が響き渡った。
 覗き穴から確認すると、ドラゴンがドームに突撃してきた様だ。
 小熊を掻っ攫ってドームに籠もったのを見られていた様で、食い物の恨みとばかりに体当たりをした様だが、再度突撃を開始したのでドームを強化しておく。

 アーマーバッファローの突撃に耐えられる様に作ったのだが、規格外の奴にはもっと強固なドームにしておかないと危ない危ない。
 今度は〈ゴン〉と短く固い感じの音がしたが、外を見るとドラゴンが不満げにドームを尻尾で叩く。

 逃げる気がない様なので、初のドラゴン討伐を始める事にする。
 覗き穴からじっくり観察したが鱗が全身を包み、その鱗一枚一枚に鋭い三角の突起が突き出していて無敵の戦車の様だ。
 腹側は流石に三角の突起はないが、爆発で身体が浮いてもダメージを受けた様に見えない。

 残るは目か口内への攻撃しか思いつかないが、動きを止めないと攻撃し辛いので、頭の下から最後尾の後ろ足の下へファイヤーボールの五連発を撃ち込む。
 腹下に五連続の爆発を喰らって身体が浮き上がり、流石のドラゴンも動きが鈍った。
 すかさずドラゴンの前方へと駆け抜けながら観察、目はうつろ・・・に見えるし、お口半開きであわあわしている。

 ちょつと思いつき、ビーチボール大のアイスバレットを口内に放り込み、(大きくなれっ)と魔力を送り込んでみた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...