能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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124 殴り込み

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 一日借り切った辻馬車の御者に、王都は初めてなので広い道で王都を一巡りしてくれと頼む。
 御者はお上りさんとみて気を利かせてくれたが、創造神アマデウスを称える大聖堂とアマデウス大神像。
 俺が見たアマデウスと似ても似つかぬ神々しい姿に、笑いそうになってしまった。

 闘技場に貴族学院、後は何やら記念堂とか劇場に商業ギルドと冒険者ギルド。
 観光都市ではないので見て回る所が少なすぎ、この先がウルファング王国の王城だと教えられたところは巨大な石の門が建つ大通り。
 お城も見てみたいと言ったが、衛兵が煩いので止した方がいいと言われてしまった。
 王城の場所さえ判れば、無理して見る必要もないので素直に諦め、美味いエールの醸造所へ案内させる。

 二日で六カ所の醸造所を巡り、仕入れたエールの樽の数は19樽、暫くは街に戻らなくてもエールに不自由はしないはずだ。
 それから美味しいお茶の店を巡ったり茶葉や茶菓子をたっぷりと買い込んだ。

 のんびり王都見物と市場での食料仕入れで10日程過ごしてから、冒険者の姿にもどるとホテルを引き払い、王都デュランディスを後にした。
 ペイデン街道を小一時間ほど歩いてから草原に分け入り、街道から見えない場所に野営用結界を展開して陽が落ちるのを待つ。

 * * * * * * * *

 「ルシアン、見つけたわよ!」

 「お目出度う御座います。どんな感じですか?」

 「何かもやっとした感じね。身体の中にこんなものが有ったなんて驚きだわ」

 「それを何時でも何処出ても直ぐに感知出来ますか?」

 ルシアンに尋ねられて朝食の手を止めて魔力を探る

 「今日の朝初めて感じたのよ、直ぐには無理ね」

 「何時でも魔力を感じられるようになったら、次は魔力を捏ねたり引っ張ったりする練習です」

 「あれを? あんな物どうやって触るの?」

 「心の中で魔力を捏ねたり引っ張って遊ぶんです。あっ、子供の時の泥遊びみたいな感じでです」

 「困ったわねぇ~、私は泥遊びって知らないのよ」

 「えっ・・・そうでした。私は子供の時を思い出してそうしたんですが、ミレーネ様は泥遊びなんて出来なかったんですね。じゃあ、ブルーを撫でたり尻尾で遊ぶように魔力を触ってみればどうですか」

 「そうね、試してみるわ」

 * * * * * * * *

 街道に人影はなし、入場門も固く閉じられていて衛兵の気配が僅かに感じられる。
 入場門から横に移動し、ミーちゃんを塀の上に放り上げる。
 塀の上で周囲を観察したミーちゃんが《マスター誰も居ません》と教えてくれたので、軽く膝を曲げてジャンプ。
 俺の身長の4、5倍程度の塀なので楽勝、そのまま王都の暗がりに飛び降り灯りの消えた街の中を王城目指して突っ走る。

 見覚えの有る巨大な石の門を避け、闇を拾って進むと城門が見え衛兵の姿も見える。
 城門の左右には広い掘りが水をたたえて静まりかえっていて、俺のジャンプ力では飛び越せそうもない。
 忍者装束は用意したが、みずぐもの用意は無いので正面突破に決めた。

 ミーちゃんに元の大きさにもどって貰い、衛兵の足を引っ掻いておいでと送り出す。
 暗がりを選んで衛兵に近づき、全力疾走で足下に近寄るミーちゃん〈ギャー〉と悲鳴が上がると〈ウワーァァ〉と再び悲鳴が上がる。
 すかさず城門に走り寄ると、小さくなったミーちゃんを抱いてジャンプ。
 城門の上に立ち、周囲を観察して人影のない城内に飛び降りると、建物の暗がりを目指して走る。

 後ろでは衛兵の悲鳴が聞こえたのか、灯りが灯り騒ぎになっている。
 中程度の建物を幾つか過ぎると、巨大な建物が正面にデンと横たわっていたので駆け寄りジャンプ。
 しかし、高々四階の屋根に手が届かない。
 スーちゃんのジャンプ力を貰った俺は、身長の10倍は跳べる筈なのに届かないって何だよ!

 よく見たら此処はお城で、各部屋の天井が矢鱈と高い作りだったのを忘れていた。
 特に、一階なんて馬鹿じゃねぇかと思うほど天井が高い。
 俺の身長が約170cm、10倍なら17mなのに届かないなんて無駄な作りをしやがって。

 仕方がないので三階の張り出しに手を掛けてぶら下がり、クーちゃん譲りの木登りの技を使い、柱を掴んで登り屋根の庇も難なくクリア。
 建物がでかけりゃ屋根もでかく、屋根裏部屋も多そう。
 明かり取りの窓から内部の気配を探り、人気のないのを確認して窓をこじ開けて侵入すると、ミーちゃんを偵察に出して俺は夜明けまで一休み。

 * * * * * * * *

 《・・・スター》《・・・てください。マスター》《マスター、明るくなりましたよ。起きてください》

 《ああ、ミーちゃんお早う》

 《大きい部屋と森の近くの家を見つけました》

 《大きい部屋は何処にある?》

 《マスターの寝ている下の近くです》

 《有り難う。大きな部屋の外で待っててね。俺が行ったら、植え込みの陰にでも隠れていなよ》

 さて、一暴れしてやるか。
 覆面を被り手袋をはき、確り身支度を済ませて忍び込んだ窓から外へ出る。
 戸締まりはきっちりして、俺が居た痕跡は少なくしておく。
 屋根の上からミーちゃんを探すと、尻尾を振りながら上を見上げている。

 《もういいよ、離れて》

 ミーちゃんが建物から離れて植え込みの中に潜り込むのを確認し、ミーちゃんの居た場所へ飛び降りる。
 ジャンプ能力を超える高さから飛び降りると、流石に着地のショックは大きいが怪我をする程ではない。

 遠くで建物の周囲を警戒していた兵士達が騒いでいるが、無視して窓から中へ飛び込む。
 うん、中々広い空間であるが、玉座は無い。
 どうせ似たような部屋が近くにあるはずなので、大きな扉を引き開けて通路に出る。

 ワゴンを押したメイドさんとごっつんことはならなかったが、俺を見てびっくりしているので「お早う、ご苦労様」と挨拶をしてすれ違い隣の部屋へ向かう。

 扉と扉の間隔が広い所が大広間の筈なので、それを目印に部屋を確認して行く。
 三つ目の部屋を確認していると、大勢の足音が聞こえて来た。

 〈貴様! 何者だ!〉
 〈屋根から飛び降りたと聞いたが、何処に居た!〉

 「客人だ! 呼ばれてないけどな。ウルファング国王は居るか?」

 〈なっ、痴れ者め!〉
 〈取り押さえろ!〉
 〈何処から侵入してきたのか聞き出すので、殺すなよ!〉

 殺すなよって言いながら、腰の剣を抜いているじゃねぇか。
 俺は短槍訓練用木槍を取り出し、相手をする事に。

 「贈答品が欲しいのなら、頭を下げてお願いしろと国王に伝えろ!」

 〈叩き潰せ!〉

 吠え声と共に殺到して来る警備兵や騎士達だが、彼等の頭上を飛び越えて背後に回り最後尾の兵を捕まえて投げ捨てる。
 突然頭上を飛び越され、戸惑う兵や騎士達の背後から仲間が飛んで来てドミノ倒しに状態になる。
 ふん、と思ったが未だまだ湧いてくるので、倒れている奴を掴んでは応援の集団に向けて投げつける。

 〈な、なな、何だ此奴は?〉
 〈化け物か!〉
 〈一斉に行け!〉

 手槍を水平に並べて突っ込んで来るが、怪力無双で木槍を振り回して手槍を弾き飛ばす。
 遠慮のない力で振り回したので、手槍が手から離れたときには衝撃で手首を骨折したようだ。
 前列が手を押さえて膝から崩れ落ちて邪魔になり、後ろの兵や騎士達が怒声をあげる。

 〈何をやっとる〉
 〈さっさと叩き伏せろ!〉
 〈邪魔だ! 退け!〉

 お望みなら相手をしてやるよ。
 叫んでいる奴を目掛けて跳び、顔を蹴り付けて次の男の頭を踏みつける。
 広い通路が兵や騎士達で埋め尽くされているが、たった一人を相手にどうなってんの。
 通路の壁を使った連続三角跳びを披露し、大きな扉の前に着地すると扉を全力で蹴り開ける。

 部屋の中に入ると通路の騎士達が殺到してきたので、開いた扉を全力で蹴り付けた。
 ギャグアニメみたいに、重い扉に跳ね返されて吹っ飛び、二人ほど扉に挟まれている。

 さっきの部屋と比べ豪華だが、玉座らしき物は見当たらないので次をと思ったが、扉を押し開けて広間に雪崩れ込んで来る兵や騎士達。
 面倒になって来たので、開いた扉を力任せに引っ張り引き剥がす。
 室内に雪崩れ込んで来た騎士達が背後から攻撃してくるのだが、魔法付与の服は良い働きをする。

 〈攻撃が通用しないぞ!〉
 〈何故だ!〉
 〈魔法付与の服だ! 宰相閣下に連絡しろ!〉
 〈目を狙え!〉

 引っぺがした扉は少々持ちにくいが、振り回して周囲の者達をなぎ倒す。
 こりゃー使い勝手がいいなと思い、暇な時に長くて太い棒をマジックバッグに保存しておく事に決めた。

 「宰相閣下、一大事です! 曲者が舞踊の間に乱入し、現在大暴れをしております」
 「申し上げます。賊が訳の判らぬ事を叫び、国王陛下に伝えろと叫んでいます!」

 「王城の、しかも、大広間に曲者が乱入したと言っているのか?」

 「はっ、最初の報告では屋根の上から飛び降りたそうです」

 ディオルス宰相は、報告される内容がさっぱり理解出来なかった。

 「申し上げます! 賊は広間の扉を引き剥がし、振り回して抵抗する為に負傷者多数。魔法部隊の応援をお願い致します!」

 「お前達は、何を言っている! 大広間の扉を振り回すだと、それに王城内で魔法攻撃をするつもりなのか?」

 「閣下、宰相閣下、現場は大混乱です!」
 「あれは化け物です!」
 「建物内で暴れられては包囲攻撃すら出来ません」

 「なら、建物から追い出せ!」

 「それが、陛下を呼べとか何とか喚いていたのですが、この混乱で聞き取れません」

 「お前が行って、確認してこい」

 傍らの補佐官に命じる宰相は、訳の判らぬ状況に苛立っていた。
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