能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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121 アーマーバッファロー

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 仕方がない、此の儘放置すれば結界を壊されそうなので追い払うか。

 《RとLは元の大きさに戻れ。ミーちゃんは此処で待機していろ》

 《判りました。マスター》
 《どうするんですか?》
 《あれは、固すぎて歯がたちません》

 《なに、小さい奴を揶揄って、この場所から追っ払う手伝いをしろ》

 《はい、お任せ下さい!》
 《やります!》

 「エッ、フォレストウルフ・・・」
 「嘘だろぅ」
 「ちっこいワンコだと思っていたら・・・なんてこった」

 「ちょっと追っ払ってくるから待ってな」

 「ラングス、無茶だぞ」

 〈ドーン〉〈ドーン〉と音が続くので、ギランの声を無視して外に出る。
 野営用結界に頭突きをしている仔牛の横に出ると、軽く勢いをつけて腹を蹴りつける。
 〈ブヒッ〉て可愛い声を出してよろめき、尻餅をつくと不満そうに俺を睨む。
 その声に親も俺に気づき鼻息荒く近寄ってくるので、短槍を取り出して仔牛の尻を殴りつける。

 峰打ちとはいえ、重い短槍を尻尾の付け根に叩き付けたのだから相当痛かったのだろう〈ブォーン〉と吠えて逃げ出した。
 即座にRとLが唸りながら後を追い、俺も少し遅れて後を追う。
 俺の所業を見ていた親たちが〈ブシャー〉と怒りの声を出し足音荒く俺を追いかけてくる。
 足音と鼻息がやけに連続すると思い振りむけば、五頭もいるじゃないの。

 歯が立たないと言いながらも、RとLが猛烈に唸りながら仔牛を脅しているので、仔牛がビビって座り込んだ。
 仔牛を跳び越えると、迫り来るアーマーバッファローに向き直りちょっくら観察する。

 (テイム、アーマーバッファロー・157)

 嘘だろう! ゴールデンベアの最大の奴でも130ちょいだったぞ。

 アーマーバッファロー、アルマジロの様な固そうなヨロイに包まれた巨体。
 黒光りする固そうな額は盛り上がり、左右に広がるぶっとい角。
 軍馬や荷馬車をぶっ飛ばす威力は間違い無さそうだが、此奴をどうしてくれようか。

 お肉が美味いと聞いたので見逃す手は無いが、仔牛も含めて六頭はいらない。
 しかしテイムするのには、残りの五頭が邪魔になる。

 考えている間に周囲を囲まれてしまったが、突撃すれば仔牛に被害が出るので躊躇っている。
 美味しいお肉は仔牛だろうけど、仔牛でもホルスタインを越える巨体。
 此処で仔牛を殺せば親は逆上して手が付けられなくなるのは必至、テイムは諦め一番大きい奴を倒して追い払う事にする。

 《RとLは離れていろ》

 二頭に伝えると同時に一番大きい奴の正面から踏み込み、頭を思いっきり踏み付けて飛び越え背後に回る。
 振り返れば何事も無かった様に俺を追って振り向き、前足で地面を掻いている。
 闘牛で見た突撃準備なら、俺も受けて立とう。
 魔鋼鉄製短槍の石突き近くを両手で持ち、振り回す準備OK
 〈ブシャー〉と鼻息一発突撃が始まったが、15m程の間合いなので直ぐに眼前に迫るが俊敏を利用して巨体を躱し、短槍を前足の膝下を狙って射ち込む。

 〈バキン〉といい音がして短槍が弾き飛ばされ手が痺れたが、アーマーバッファローが前のめりに崩れ落ちるのが見えた。
 二番手三番手が突っ込んで来るのでジャンプして躱し、手の痺れが回復するのを待つ。

 俺が逃げずにジャンプして突撃を躱すので苛立っているが、前足を負傷した奴が必死に立とうと藻掻いている。
 人間の向こう脛と同じ場所を痛打したのだ痛かろうが、今は俺のチャンスなので短槍を拾い上げ前足の脇下部分を狙って突き入れる。
 皮膚がどんなに硬かろうと腹や脇など柔らかい部分はある、怪力無双で突き入れた短槍は深々と刺さり、アーマーバッファローが〈ブフォォォ〉と吠える。

 此処で弱らせればテイム出来るのだがと色気が出るが、支配しても追い払うのが精々で、何頭もギルドに持ち込めば目立つだろうからやっぱり要らない。
 倒れている一頭のみを討伐し、時期を見て王都の冒険者ギルドにでも持ち込もう。
 後は追い払うだけで良しとする事に。

 倒れている奴から離れて元気な奴を誘き寄せる。
 逃げもせずに立っている俺を標的に、頭を下げて突進してくるアーマーバッファロー。
 衝突寸前に横に移動し、すれ違いざまに前足の膝裏を殴りつけると、膝カックンの状態になり頭から地面に突っ込む。

 アーマーバッファローは何が起きたのか理解出来ず、必死で起き上がるとキョロキョロとし、俺を見つけて再び突撃してくる。
 二度三度同じ事をしても興奮していて諦めないので、今度はすれ違ってから後を追い、後ろ足の内股を短槍でプスリと刺してやる。
 此れは効いたのか、一発で逃げ出した。
 次の奴も内股攻撃を受けて不利を悟り、俺に背を向けて離れて行くと残りの二頭と仔牛も逃げ出した。

 面倒な討伐になったが、美味しいと言われるお肉が手に入ったのを良しとして、止めを刺してマジックバッグに入れる。
 此れで俺の野営用結界は守られたので急いで帰ることにする。

 * * * * * * * *

 「無事だったんですね」
 「良かったぁ~」
 「アーマーバッファローを追い払う為とはいえ、一人で出て行くなんて無茶ですよ」
 「それで、アーマーバッファローはどうしたんですか?」

 「ああ逃げて行ったよ」

 「逃げた、流石にそれはないわ」
 「ラングスさんが強いのは知っているけど」
 「待てまてお前等、猫のとフォレストウルフを連れたテイマーの噂、お前達も聞いているはずだぞ」
 「猫の仔とワンコ二頭もテイムしているので、テイマーとしては良い腕だと思っていたけど」

 「あ~・・・2,3ヶ月の間だけで良いので、約束通り黙っていてくれよ」

 「マジで訳有りですか?」

 「個人的な用でな。その間だけは俺がヴェルナス街道に居たと知られたくないのさ」

 * * * * * * * *

 怪我で体力の落ちた男が何とか歩けるまでに五日ほど掛かり、その間ハンザに魔力操作の基本を教えて過ごした。

 「ラングスの言うとおりにしたら、魔法が安定して撃てるし数も増えたぜ。魔力切れまで五回分残したとしても、30発は撃てる様になったからな」
 「俺達からみても、ファイヤーボールが安定して威力も上がったのを感じるな」
 「短縮詠唱で撃てる者って、早々いないからな。此の儘上達したら、無詠唱も夢じゃないぞ」

 「詠唱の長さが半分になったので、後は命中率が問題だな」

 「どうすれば良い?」

 「それこそ練習しろとしか言いようがないな、剣や弓だって練習して上達したんだろう」

 「違いない。もっと練習して、一発で吹き飛ばせる様になってやる」
 「アーマーバッファローは止めてくれよ。今度出会ったら即座に逃げるからな」
 「あんな奴を相手にしようってのは、ラングス位だぞ」

 「なんか馬鹿にされている気分だな。あのままだと、下手すりゃこの野営用結界が壊れたかもしれなかったんだぞ」

 「嫌だなあ~、ラングスの度胸に感心しているんだぜ」

 火炎のメンバーをコルサスの近くまで送ってお別れする事に。

 * * * * * * * *

 ウルファング王国の王都デュランディス、王城に急報が届いたのが異変の始まりであった。
 急報はホールヘン・ディオルス宰相の下へ届けられたが、一読するや即座に国王の下へと急いだ。

 「陛下! 一大事で御座います!」

 「煩いぞ、何を慌てている」

 「これを! ウィランドール王国の王都ラングスに在る、我がウルファング王国の公邸が襲撃を受けたのですぞ!」

 急報の用紙を振り回しながら叫ぶディオルス宰相。

 「しかも、公使の執務室に乱入し公使を含む12人が殺されたそうです。賊は二階の執務室に直接侵入した為に、警備の者達が駆けつけた時は、扉が封鎖されていてどうにもならなかったそうです」

 「寄越せ!」

 ディオルス宰相が振り回す用紙をひったくり読むが、それ以上の情報が無い。

 「ウィランドール王国の仕業ではあるまいな?」

 「続報を待たねば判りませぬが、我が国の公邸が襲われたのですぞ、これを機に彼の国に攻め入ることも出来ます!」

 「ふん、奴等がやったのなら兵を我が国に向けているはずだが、其の知らせは来たか?」

 「そのような知らせは受けておりませんが、彼の国の責任を追及せねば我が国の面子が潰れます!」

 「耳からの最近の報告はどうなっている」

 「例の品を巡って、冒険者から警告を受けたと報告が届いた程度で。後は通常報告のみです」

 「我が王都にいるウィランドール王国の公使は何をしている?」

 「変わった事は無い様で、通常の報告のみです」

 「では、此れは何だ? 話しがおかしいではないか。派遣公使が襲われて12名が死んだ・・・此れだけの報告で狼狽えるな! 続報が届いたら持ってこい!」

 そう言って宰相を放り出したウルファング国王だったが、続報は数時間をおいて届いた。
 再び現れたディオルス宰相は、先程とは真逆で顔が引き攣っていた。

 「陛下、例の品を手に入れるか、無理な場合は採取している冒険者を始末しろと命じた書類が、持ち去られました。しかも公使邸を襲ったのはその男一人だそうです」

 宰相の差し出す報告書を受け取り読み出したが、此れは本当の事なのかと信じられなかった。
 執務室に居た13名で生き残った者は二名、一人は窓から放り出された護衛騎士で、もう一人は公使の執事だった男。
 その執事の供述によれば、突如窓から一人の男が飛び込んで来たのが事の始まりだった。

  男はザリバンス公使の顔を知っていた様で、公使を見ると近づいたが護衛の騎士が賊に斬り掛かった。
 しかし、六名の騎士は悉く斬り捨てられたり叩き伏せられてしまった。
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