能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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115 公使邸の惨劇

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 邪魔な応援が来る前に片づけるかと一歩踏み出したとき〈曲者!〉と叫んで護衛の一人が斬りかかってきた。

 大声をあげて斬りかかってきた護衛を、短槍の一振りで弾き飛ばす。
 次々と護衛達が斬りかかって来るが、振り回す短槍に遮られて戸惑っている。
 隙を見てザリバンス公使に駆け寄り、短槍を脛に叩き付ける。
 何か悲鳴が聞こえた様だが、気にしたら負け!

 隙が出来たとばかりに殺到して来る護衛達を、薙ぎ払い蹴り付け投げ跳ばす。
 闘いはあっと言う間に終わったが、尋問の邪魔をされたくないので公使の座るソファーを引っぺがして扉に向かって投げつける。
 客人と思われる男達の座るソファーも、座ったまま持ち上げて人をふるい落として投げ、扉が開かない様にバリケードを築く。

 倒れている護衛が七人と、足があらぬ方向へ曲がって呻いているザリバンス公使。
 椅子から振り落とされて転がっている男達が四人・・・数が合わないぞ。

 《ミーちゃん、七人と六人って言ったよな》

 《はい》

 《数が合わないんだが、誰か逃げたか?》

 《マスターが一人投げ捨てました》

 《投げ捨てた?》

 《はい、窓の外へ投げました》

 飛び込んで来たところとは別の窓が壊れて穴が開いている。
 これじゃ、計算が合わないはずだ。

 転がって呆けている四人に、殺気、王の威圧を浴びせて壁際に寄れと命じる。
 震えながらもそもそと這いずって動く四人を横目に、扉の前のバリケードに机などを追加して頑丈にしておく。
 何やら多数の足音が近づいて来るが、暫くは中へは入れないだろう。

 「ザリバンス公使だな、数日前に襲われた者だと言えば判るよな」

 足の痛みを忘れたのかマジマジと俺の顔を見るが、素顔を晒す気はない。

 「あの三人が全て喋ったのでお礼に参上した。本国からどんな指示が出ているのか教えて貰おうか」

 驚きすぎたのか、口を半開きにしてあわあわ言っているだけで言葉にならない。

 〈公使様、ザリバンス様、何事ですか?〉
 〈扉を開けて下さい!〉
 〈大丈夫ですか? ザリバンス様!〉
 〈糞ッ、中から鍵を掛けられているぞ〉
 〈押せ! 非常時だ、扉を壊しても構わん!〉

 煩いのでザリバンスの襟首を掴んで持ち上げ、扉の前までつれて行き短槍で扉を突いて穴を開ける。

 「ザリバンス閣下、外の奴等に静かにする様此の穴から命じろ!」

 俺が開けた穴から中を覗く目が見えたので、穴に短槍を突き入れてやる。
 手応えがあったし外が静かになったので、公使の襟首を掴んで穴の前にぶら下げてやる。

 「静かにする様に言え! 扉の前からも離れるようにもな。うろちょろしていると其処の四人も死ぬことになるが、その時はお前も殺すから心して命じろ」

 呆けている公使を揺さぶり扉に叩き付けると、漸く正気に戻った様だ。

 「こっ、殺さないでくれ。なんでこんな事に」

 「愚痴は良いんだよ。外の奴等に命じろと言っているのが判らないのなら、お前から殺すぞ!」

 扉の穴に押しつけてぐりぐりすると「だ、だだ、誰も、近寄るな! 来たら殺されるから、たっ助けてー」

 助けてーは余計だが、主が生きているのが判ったのか扉の外で騒いでいた奴等が大人しくなった。
 用の済んだ公使を投げ捨て、穴に向かって「扉の前から離れて大人しくしていろ! うろちょろしていると公使の首を叩き斬ってやるからな!」と叫んでおいた。

 《ミーちゃん、此処に居て外の奴等が近づいて来たら教えてね》

 《はい、マスター、お任せ下さい》

 壁際に行かせた四人は座りこんで震えているが、一人執事らしき奴がいるので公使を引き摺り男の前へ行く。

 「お前は、この公使の執事だな」

 「はい、はい、執事で御座いますのでお助けを」

 「此奴が俺を襲わせたのは三人の証言から判っている。此の男の一存ならそれも良し、殺してくれと哀願するまで痛めつけてやるつもりだ。お前が知っている事を全て話せ! 先ず公使の配下以外に商人達の使用人が多数居たのだが」

 そう言ったとたんに、壁際に居る男達が唾を飲み込む音が聞こえた。
 判り易い奴等だが、一応確認しておく。

 「彼奴らの配下か?」

 チラリと三人に視線を走らせ、目を伏せて頷く。
 ゆっくりと三人の所へ行くと、震えながら後退るが後ろは壁だ。

 「お許し下さい! 命令には・・・」いきなり足に縋り付いて謝罪を始めた奴を、足を振り上げて天井まで放り上げ、落ちてきた所を蹴り飛ばす。
 公使の方へ匍って逃げる男の尻を蹴ると、公使を跳び越えて転がり執務机にキスをして動かなくなる。
 三人目は頭を抱えて蹲り、ブツブツと祈りの言葉を呟いているので、そのまま踏み潰す。

 全力でやったので、命が助かっても治療に多額の金が要るだろう。
 さて、次は公使様だと振り返ると、平伏して謝罪を始めた。

 「お許しを、お許し下さい、決して、決して私が決めたことでは御座いません! 私は嫌だったんです! 断ったんです! でも・・・でも命令書が届きまして・・・仕方なく」

 チョロいね。

 「嘘じゃ有るまいな」

 「本当です証拠も有ります! だから、許して下さい! お願いします!」

 「それじゃ、その証拠とやらを見せてもらおうか」

 「ヨセフ、持ってこい! 早く!」

 執事に鍵を投げつけて喚く公使。

 「ヨセフ♪ 俺に関する物を全て持って来い。通信記録が有るだろう」

 ヨセフがフリーズした・公使が呻いている、何てナレーションが入りそうなくらい動きが止まった。
 適当な物を見せられて納得すると思ったのかな。

 「鍵を開けろ」

 フリーズして動かない執事に声を掛けると、バネ仕掛けの人形の様に動き出して書庫の鍵を開けた。

 「俺に関する物は何れだ」

 震える手で積まれた書類の中から薄い束を取り出すと「此れが全てで御座います」と言って差し出した。
 一番上の書状には、花蜜とゴールドマッシュが手に入らないのなら、ウィランドール王国にも渡らぬ様に男を始末しろって、気楽に書いてくれている。
 その下の控えと書かれた書面には、俺に断られて身分証を取り上げられた経緯が記された送信記録の控えだ。

 そう言えば、宰相に二つの品を渡してから随分経つし、詐欺師の申し出を断ってから何ヶ月になるのかな。
 10数枚の束だが、相当早馬が走った様だ。

 《マスター、近づいて来ます》

 扉を尻尾で叩きながら、ミーちゃんが教えてくれる。

 《有り難う。もう帰るので窓の外でまってて》

 公使の襟首を掴んで持ち上げると「俺の警告に従う気はない様だな」と怒鳴り、公使を扉に向かって投げつけた。

 〈ひゃーぁ〉って悲鳴と〈ドカーン〉と音が響き、公使の首が扉に引っ掛ってさらし首状態でぶら下がっているが、首が変な方向に曲がっている。
 窓枠を蹴り飛ばして広くし、向かいの塀に向かってジャンプ、そのまま街路に着地して馬車の方へ向かう。

 * * * * * * * *

 「見たか! 何ともはや、無茶苦茶な男だな」

 「笑い事ではありません、殿下。あの塀の高さは大柄な男の三倍はあります。それを軽く駆け寄ると手も添えずに跳び乗ったのですぞ。しかも建物まで10m以上有りそうな空間を跳んで窓に飛び込むとは、並みの者の出来る事では御座いません!」

 「それより、今日のお供は猫だけの様だな」

 「猫? 猫なんて連れて居ませんでしたよ」

 「何を見ていた。彼が此方側から公邸を見ていたときに、公使の執務室の窓に猫がいたではないか。彼が飛び込んだ後で中に入って行ったぞ。しかし、フォレストウルフを従える以上の実力だと聞かされていたが、此れほど剛の者だとは思わなかったな」

 「それよりも、陛下へご報告に向かわねばなりませんぞ」

 「ああ、判っている。父上や宰相から聞かされていた以上だな。あの時の雰囲気にすっかり騙されていたよ」

 「確かに、小柄でほっそりしていては、とても話の様な猛者に見えませんので」

 * * * * * * * *

 「申し上げます! 男が公使公邸に跳び込みました! その後少しの間騒ぎが有りましたが静かになりました」

 伝令の言葉に首を捻るブライトン宰相。

 「跳び込んだとは、どう言う意味だ?」

 「はっ、公使公邸前に姿を現した男は、フードを被り身支度を終えると塀に向かって駆け出しました。そして塀に跳び乗り勢いのままに窓に向かって跳び、そのまま窓を突き破って中に入ったのです!」

 「ふむ、ゴールドランクの冒険者として、名を馳せているだけの事はあるな。それで、窓から飛び込んだ後騒ぎになり静かになったと言ったが、様子は分からぬか」

 「は、騒ぎの時に、護衛らしき男が一人窓から飛び出しただけです」

 静かになったのなら、彼が死んだか公使達が彼に制圧されたかだが、続報を待つしかないか。
 ジリジリしながら待つことになったが、大して時間は掛からなかった。

 「申し上げます、男は公使邸より退去致しましたが、邸内は大混乱に陥っている様です!」

 彼が無事に公使邸を後にしたのなら、犠牲者は公使達という事になるので大混乱にもなるだろう。彼から報告は望めそうもないので、耳からの報告を待たねば詳しい事は判らぬか。

 * * * * * * * *

 バルロット王子は、騒ぎが段々大きくなっていくウルファング王国公使公邸をチラリと見ると、首を振りながら王城へと戻っていった。
 シンヤがどうやって公使公邸に乗り込むのか想像し、わくわくしながら灯りの無い部屋でその時を待っていたのだが、直接公使の執務室に乗り込むとは予想外であった。
 あれでは待ち構えていたとしても防ぐのは無理だろうと思い、少しばかりザリバンス公使に同情した。
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