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108 花の茶会
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ブルーとシルバーの、訓練と言う名の躾を終えてシンヤが帰って行った。
しかし、その場に立ち会った人々で嬉しそうなのはミーナとフェリエンスだけで、お互いの猫を抱いてご満悦。
だが他の人々は呆気にとられる者や此れがそれ程重要なのかと戸惑う者と、一人唸って「信じられない」と呟く男。
伯爵家の従者のような身形だが、目はバルロット王子に向けられている。
「信じられないとは?」
「殿下、テイムした獣を言葉一つで従わせるなど不可能です。何度も同じ事をさせ時には叩いて従わせます。昨日テイムされた猫を言葉一つで自由に従わせ、それを他人に・・・失礼しました。お嬢様に預けて帰るなど無茶です。ブルーの時もそうだったと伺いましたが、テイマー神様の加護を授かっていても無理です」
「三種五頭の使役は、テイマー神の加護でも無理か?」
「私の知る限りですが、その様な者はおりません。最高のテイマーでも一種二頭を従える者です」
「お前は彼の身分証を見た筈だが、不審な点は無かったか?」
問われた執事は記載されていた事を思い出し「名前はシンヤ、人族にして年齢21才と加護の記載のみで御座いました」
父と宰相から聞かされた話では、アマデウス様とテイマー神にもう一つの加護を授かっていると聞かされた。
もう一つの加護が何かは判らないが魔法は授かっていない、創造神様とテイマー神の加護だけでも初めて聞く話だった。
三つ目の加護が何か探れと言われても、加護を授ける事が出来るのは神々だけだが、魔法を授けず加護だけを授けた神でもいるのか?
* * * * * * * *
歳が明けて二月、数十名の貴族が居並ぶ閲見の間にて。ミレーネ・モーランの子爵位授爵の儀が執り行われた。
父親が子爵待遇だったので、領地は無しの年金貴族である。
式典に呼ばれた貴族の中に、式終了後アルバート・ウィランドール公爵を筆頭に、多くの者が呼び出されて宰相から叱責を受けることとなった。
それは授爵式の祝いの席に招待された豪商達も例外では無く、ミレーネ・モーラン子爵に祝いの言葉を述べはしたが顔色は冴えなかった。
その中で唯一人、ダラス・コウエン子爵だけが呼び出しを受けずに難を逃れたが、高い授業料を払ったお陰だとは気づきもしなかった。
それとは対象的に、冷や汗を大量に流したのはウィランドール公爵であった。
「陛下、その様な戯れ言はおやめ下さい。確かに花蜜なる物やゴールドマッシュの事は存じております。しかし、一冒険者にその様な無体なことを要求する事は、断じてありません!」
「そうか、断じてないか」
正面から睨み付ける様に否定するウィランドール公爵だが、国王は問題の書状をひらひらと振って見せる。
「その方の署名はないが、執事の署名は有る」
「我が名を謀るならば、執事の名を入れるくらいの事はするでしょう」
「公爵家とは近しいし、文の遣り取りも多い。よく見る筆跡で書き癖も全く同じだ」
此処まで言われてぎくりとするウィランドール公爵、まさか国王自らに問われると思っていなかったので慌てたが、書状は国王の手の中だ。
冒険者に送った書状が、国王の手に渡るなどと思いもしなかったので、執事との遣り取りのままに答えたことを後悔した。
後悔して思い出した、問題の男は王妃の身分証を持っていることを。
冷や汗を流す公爵に、国王はウルファング王国の事を語り始めた。
「130年以上前のウルファング王国との戦、今も多くの者が生きて記憶に留めている。此度ウルファング国王の三女ルルーシュ・ウルファングの婚礼を知らせてきたが、たった三月前だぞ。今も我が国を陥れようと、何かと画策してくる油断のならない相手だ。気に入らない相手だが相応の礼儀は必要で、宝物庫の中から幾つか祝いの品を贈った。だが、あの男がミレーネ嬢に渡す花蜜は、高々蜜だが女性達に絶大な人気を誇る物だ。世に二つと無い物で我が国の女性達を虜にしている。ウルファング王国の女性達も同じだろう。それがどの様な効果を持つか判るか。ゴールドマッシュも同じだ、僅かしか採取出来ないはずのゴールドマッシュを、大量に採取し提供してくれる。あの二品を受け取ったときの、ウルファング国王の顔が見物だ。女性を虜にする蜜と美食の元を提供出来る我が国に、嫌がらせをすれば困った事になると理解出来るはずだ」
国王が何を言っているのか、理解しかねるといった顔のウィランドール公爵。
「それを臣下の分際で、献上品を陰で画策して手に入れようとするとは不届き千万だと思わぬか!」
同意を示す様に頭を下げるウィランドール公爵を見て、ニヤリと笑う国王。
血の繋がった身内とはいえ、増長されては困るが迂闊に釘は刺せない。
此度は自ら弱みを提供してくれたので、締め上げるだけで許す事にした。
* * * * * * * *
ウルファング王国の王城に、ウィランドール王国の使者がルルーシュ・ウルファング王女の婚礼祝いの品を持って現れた。
綺麗な飾り箱に収められた宝飾品とは別に、厳重に包まれ箱に入れられた瓶が10本。
祝いの品の受け渡しには、国王の名代としてアルフォード王子が立ち会ったが、包みから取り出された瓶を見て苦笑する。
「お使者殿、それは何か? ウィランドール王国は婚礼の祝いの品に粗末な瓶を贈る風習でもあるのか?」
「失礼ながら、ゴールドマッシュと花蜜をご存じない?」
「ゴールドマッシュだと! その五本がゴールドマッシュだと申すのか」
「鑑定使いをお呼びして、ご確認下さい」
「少し待て!」
慌てて傍らに控える従者に鑑定使いを呼びに行かせる。
「殿下、差し支えなければ、花蜜の使用法をお教えいたしますのでご婦人方をお呼び下さい」
使用法を教えると言われてむっとするが、無知を悟られぬ様に鷹揚に頷く。
ゴールドマッシュ、王家の食事にも滅多に使われず、祝いの席などで薬味用の小さな容器から慎重に振り掛けるだけの物。
それがなんの変哲も無い瓶に詰まって五本も有る。
呼ばれてやって来た鑑定使いも、ゴールドマッシュの詰まった瓶を鑑定して驚いていた。
しかし、花蜜を鑑定して首を捻る。
「どうした?」
「はっ、鑑定結果は蜜ですが、水のように薄い蜜とは・・・」
「殿下、宜しいでしょうか」
「なんだ」
「見本で御座いますので、ご婦人方にお茶の用意をお願い致します。お茶には蜂蜜が最適です」
小瓶を差し出されて首を捻るが、取り敢えず鑑定し従者に命じてお茶を入れさせる。
用意が出来て使者を見ると、にっこり笑い「お茶に花蜜を5、6滴程落として下さい」と言って頭を下げる。
益々訳が判らないが、無知を悟られたくないので言わるまま執事に促す。
全てのカップに花蜜を垂らすと「皆様、どうぞお召し上がり下さい」と勧めてくる。
夫人達はいきなり呼ばれやって来たが、お茶を勧められて戸惑うも殿下が飲めと言うように目で促すので、カップを手に取る。
各々がカップを手に不思議そうな顔になる。
「素敵な香りがしますね」
「花の香りに違いないのですが」
「お茶から花の香りがするなんて」
獣人族の多い国のこと、鼻の良い者が多くほんの僅かな香りに気付いて騒ぎ出した。
騒ぎはお茶を口に含んだ者が驚きの声を上げていっそ大きくなる。
「何と言う、口に含んだお茶から花の香りが立ち上るようですわ」
「殿下、此れは何で御座いますか?」
「此の様なものは初めてです!」
「素敵な香り、春の花咲く庭に居るようです」
騒ぐ女性陣に詰め寄られ「あ、あぁ。此れは花蜜と言ってウィランドール王国より、ルルーシュ姉様に贈られた物だ」と話した。
花蜜の贈り物の話はあっと言う間にウルファング王国の王城内を駆け巡り、王宮に招かれてお茶を振る舞われた婦人達が自慢して知れ渡る事となる。
祝いの品の受け渡しに立ち会った王子は疎か国王以下国の重鎮達は、多寡が花の香りの蜜と笑っていたが、妻や娘達にせがまれて探す事になったが誰も知らない。
冒険者ギルドに依頼しても、鼻で笑われて終わり。
花蜜なんぞは、子供が花を抜いて蜜を吸う遊びであって、お茶に入れて楽しむ為に集めるのは不可能と断言された。
花蜜は、ルルーシュ王女の婚礼祝いの品として隣国より贈られた物で、自国では手に入らない。
高貴な女性達の間では、芳しい香りに包まれて楽しむお茶会が自慢となっていた。
そうなると他の貴族や豪商達までもが、妻子にせがまれ花蜜を求めて奔走することになるが、国内には存在しない。
過去に刃を交えて争った国に頭を下げるのは癪だが、嘗ての敵国から手に入れるしかない。
ウィランドール王国に送り込まれた公使は言うに及ばず、はるばる交易の為に訪れている商人達が花蜜を求めて彷徨う事になった。
* * * * * * * *
ある日の午後、ウィランドール国王の下にブライトン宰相が笑顔で報告にやってきた。
「陛下、ウルファング王国の公使から交易商人共までが、花蜜を求めて王都内を彷徨いておりますぞ」
「やはり、あれは女心を動かすか」
「我が国でも、花蜜を使った茶会は花の茶会と呼ばれてご婦人方に大人気ですので、彼の国も同じかと」
「贈ったのは五本だったな」
「はい、ゴールドマッシュと花蜜を五本ずつです」
「婚礼の祝いの品だ、味見に一本二本は使えても直ぐに無くなるだろう。その結果花蜜を求めて我が国で徘徊するとはのう」
「嘗て攻め込んだ国に、花蜜が欲しいと泣きつけば笑い者ですので、公使もさぞやお困りかと思われます」
「我が国にとって、ミレーネ嬢とシンヤは益々重要人物という事になるな。良からぬ者が近づかぬようにしておけ」
しかし、その場に立ち会った人々で嬉しそうなのはミーナとフェリエンスだけで、お互いの猫を抱いてご満悦。
だが他の人々は呆気にとられる者や此れがそれ程重要なのかと戸惑う者と、一人唸って「信じられない」と呟く男。
伯爵家の従者のような身形だが、目はバルロット王子に向けられている。
「信じられないとは?」
「殿下、テイムした獣を言葉一つで従わせるなど不可能です。何度も同じ事をさせ時には叩いて従わせます。昨日テイムされた猫を言葉一つで自由に従わせ、それを他人に・・・失礼しました。お嬢様に預けて帰るなど無茶です。ブルーの時もそうだったと伺いましたが、テイマー神様の加護を授かっていても無理です」
「三種五頭の使役は、テイマー神の加護でも無理か?」
「私の知る限りですが、その様な者はおりません。最高のテイマーでも一種二頭を従える者です」
「お前は彼の身分証を見た筈だが、不審な点は無かったか?」
問われた執事は記載されていた事を思い出し「名前はシンヤ、人族にして年齢21才と加護の記載のみで御座いました」
父と宰相から聞かされた話では、アマデウス様とテイマー神にもう一つの加護を授かっていると聞かされた。
もう一つの加護が何かは判らないが魔法は授かっていない、創造神様とテイマー神の加護だけでも初めて聞く話だった。
三つ目の加護が何か探れと言われても、加護を授ける事が出来るのは神々だけだが、魔法を授けず加護だけを授けた神でもいるのか?
* * * * * * * *
歳が明けて二月、数十名の貴族が居並ぶ閲見の間にて。ミレーネ・モーランの子爵位授爵の儀が執り行われた。
父親が子爵待遇だったので、領地は無しの年金貴族である。
式典に呼ばれた貴族の中に、式終了後アルバート・ウィランドール公爵を筆頭に、多くの者が呼び出されて宰相から叱責を受けることとなった。
それは授爵式の祝いの席に招待された豪商達も例外では無く、ミレーネ・モーラン子爵に祝いの言葉を述べはしたが顔色は冴えなかった。
その中で唯一人、ダラス・コウエン子爵だけが呼び出しを受けずに難を逃れたが、高い授業料を払ったお陰だとは気づきもしなかった。
それとは対象的に、冷や汗を大量に流したのはウィランドール公爵であった。
「陛下、その様な戯れ言はおやめ下さい。確かに花蜜なる物やゴールドマッシュの事は存じております。しかし、一冒険者にその様な無体なことを要求する事は、断じてありません!」
「そうか、断じてないか」
正面から睨み付ける様に否定するウィランドール公爵だが、国王は問題の書状をひらひらと振って見せる。
「その方の署名はないが、執事の署名は有る」
「我が名を謀るならば、執事の名を入れるくらいの事はするでしょう」
「公爵家とは近しいし、文の遣り取りも多い。よく見る筆跡で書き癖も全く同じだ」
此処まで言われてぎくりとするウィランドール公爵、まさか国王自らに問われると思っていなかったので慌てたが、書状は国王の手の中だ。
冒険者に送った書状が、国王の手に渡るなどと思いもしなかったので、執事との遣り取りのままに答えたことを後悔した。
後悔して思い出した、問題の男は王妃の身分証を持っていることを。
冷や汗を流す公爵に、国王はウルファング王国の事を語り始めた。
「130年以上前のウルファング王国との戦、今も多くの者が生きて記憶に留めている。此度ウルファング国王の三女ルルーシュ・ウルファングの婚礼を知らせてきたが、たった三月前だぞ。今も我が国を陥れようと、何かと画策してくる油断のならない相手だ。気に入らない相手だが相応の礼儀は必要で、宝物庫の中から幾つか祝いの品を贈った。だが、あの男がミレーネ嬢に渡す花蜜は、高々蜜だが女性達に絶大な人気を誇る物だ。世に二つと無い物で我が国の女性達を虜にしている。ウルファング王国の女性達も同じだろう。それがどの様な効果を持つか判るか。ゴールドマッシュも同じだ、僅かしか採取出来ないはずのゴールドマッシュを、大量に採取し提供してくれる。あの二品を受け取ったときの、ウルファング国王の顔が見物だ。女性を虜にする蜜と美食の元を提供出来る我が国に、嫌がらせをすれば困った事になると理解出来るはずだ」
国王が何を言っているのか、理解しかねるといった顔のウィランドール公爵。
「それを臣下の分際で、献上品を陰で画策して手に入れようとするとは不届き千万だと思わぬか!」
同意を示す様に頭を下げるウィランドール公爵を見て、ニヤリと笑う国王。
血の繋がった身内とはいえ、増長されては困るが迂闊に釘は刺せない。
此度は自ら弱みを提供してくれたので、締め上げるだけで許す事にした。
* * * * * * * *
ウルファング王国の王城に、ウィランドール王国の使者がルルーシュ・ウルファング王女の婚礼祝いの品を持って現れた。
綺麗な飾り箱に収められた宝飾品とは別に、厳重に包まれ箱に入れられた瓶が10本。
祝いの品の受け渡しには、国王の名代としてアルフォード王子が立ち会ったが、包みから取り出された瓶を見て苦笑する。
「お使者殿、それは何か? ウィランドール王国は婚礼の祝いの品に粗末な瓶を贈る風習でもあるのか?」
「失礼ながら、ゴールドマッシュと花蜜をご存じない?」
「ゴールドマッシュだと! その五本がゴールドマッシュだと申すのか」
「鑑定使いをお呼びして、ご確認下さい」
「少し待て!」
慌てて傍らに控える従者に鑑定使いを呼びに行かせる。
「殿下、差し支えなければ、花蜜の使用法をお教えいたしますのでご婦人方をお呼び下さい」
使用法を教えると言われてむっとするが、無知を悟られぬ様に鷹揚に頷く。
ゴールドマッシュ、王家の食事にも滅多に使われず、祝いの席などで薬味用の小さな容器から慎重に振り掛けるだけの物。
それがなんの変哲も無い瓶に詰まって五本も有る。
呼ばれてやって来た鑑定使いも、ゴールドマッシュの詰まった瓶を鑑定して驚いていた。
しかし、花蜜を鑑定して首を捻る。
「どうした?」
「はっ、鑑定結果は蜜ですが、水のように薄い蜜とは・・・」
「殿下、宜しいでしょうか」
「なんだ」
「見本で御座いますので、ご婦人方にお茶の用意をお願い致します。お茶には蜂蜜が最適です」
小瓶を差し出されて首を捻るが、取り敢えず鑑定し従者に命じてお茶を入れさせる。
用意が出来て使者を見ると、にっこり笑い「お茶に花蜜を5、6滴程落として下さい」と言って頭を下げる。
益々訳が判らないが、無知を悟られたくないので言わるまま執事に促す。
全てのカップに花蜜を垂らすと「皆様、どうぞお召し上がり下さい」と勧めてくる。
夫人達はいきなり呼ばれやって来たが、お茶を勧められて戸惑うも殿下が飲めと言うように目で促すので、カップを手に取る。
各々がカップを手に不思議そうな顔になる。
「素敵な香りがしますね」
「花の香りに違いないのですが」
「お茶から花の香りがするなんて」
獣人族の多い国のこと、鼻の良い者が多くほんの僅かな香りに気付いて騒ぎ出した。
騒ぎはお茶を口に含んだ者が驚きの声を上げていっそ大きくなる。
「何と言う、口に含んだお茶から花の香りが立ち上るようですわ」
「殿下、此れは何で御座いますか?」
「此の様なものは初めてです!」
「素敵な香り、春の花咲く庭に居るようです」
騒ぐ女性陣に詰め寄られ「あ、あぁ。此れは花蜜と言ってウィランドール王国より、ルルーシュ姉様に贈られた物だ」と話した。
花蜜の贈り物の話はあっと言う間にウルファング王国の王城内を駆け巡り、王宮に招かれてお茶を振る舞われた婦人達が自慢して知れ渡る事となる。
祝いの品の受け渡しに立ち会った王子は疎か国王以下国の重鎮達は、多寡が花の香りの蜜と笑っていたが、妻や娘達にせがまれて探す事になったが誰も知らない。
冒険者ギルドに依頼しても、鼻で笑われて終わり。
花蜜なんぞは、子供が花を抜いて蜜を吸う遊びであって、お茶に入れて楽しむ為に集めるのは不可能と断言された。
花蜜は、ルルーシュ王女の婚礼祝いの品として隣国より贈られた物で、自国では手に入らない。
高貴な女性達の間では、芳しい香りに包まれて楽しむお茶会が自慢となっていた。
そうなると他の貴族や豪商達までもが、妻子にせがまれ花蜜を求めて奔走することになるが、国内には存在しない。
過去に刃を交えて争った国に頭を下げるのは癪だが、嘗ての敵国から手に入れるしかない。
ウィランドール王国に送り込まれた公使は言うに及ばず、はるばる交易の為に訪れている商人達が花蜜を求めて彷徨う事になった。
* * * * * * * *
ある日の午後、ウィランドール国王の下にブライトン宰相が笑顔で報告にやってきた。
「陛下、ウルファング王国の公使から交易商人共までが、花蜜を求めて王都内を彷徨いておりますぞ」
「やはり、あれは女心を動かすか」
「我が国でも、花蜜を使った茶会は花の茶会と呼ばれてご婦人方に大人気ですので、彼の国も同じかと」
「贈ったのは五本だったな」
「はい、ゴールドマッシュと花蜜を五本ずつです」
「婚礼の祝いの品だ、味見に一本二本は使えても直ぐに無くなるだろう。その結果花蜜を求めて我が国で徘徊するとはのう」
「嘗て攻め込んだ国に、花蜜が欲しいと泣きつけば笑い者ですので、公使もさぞやお困りかと思われます」
「我が国にとって、ミレーネ嬢とシンヤは益々重要人物という事になるな。良からぬ者が近づかぬようにしておけ」
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