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098 後悔
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夕食後のまったりタイムに、又々ミーちゃんが来客だと教えてくれた。
今回はミーちゃんに教えられるまで気付かないほど、お淑やかなノックの音。
どうせ昨日追い返した騎士達の主だろうと思い、渋々立ち上がる。
「ん、どうした?」
「えっ、何が?」
「RとLも起き上がったから、何か有るのかなと」
「来客の様だよ」
「おっ、昨日の続きか?」
「そいつは聞き捨てならんな」
「俺達が背後に控えて、お前を守ってやらねば」
「そうねぇ~、王妃様の身分証を持つ御方が、護衛を連れていないと貫禄負けをするわね」
ニヤニヤ笑いで立ち上がり、買い換えたばかりの服の皺を伸ばし腰に剣をつる。
此奴等、俺の面倒事を娯楽の種にしていやがる。
だいたい冒険者の一人暮らしの家に、護衛がいるとでも思っているのかね。
閂を外しドアを開けると、フロックコートに似た服を着た男が立っていて背後に昨日の騎士が二人居る。
俺の左右に控えるRとLに目を走らせると、深々と頭を下げる。
「シンヤ殿とお見受けします。主、ダラス・コウエン子爵の名代として、先日のお詫びに参りました」
「ああ、昨日の無礼極まる呼び出しですか。俺は冒険者ですので、あの程度の事には慣れていますのでお気になさる事はありませんよ。態々ご苦労様です」
そう言って一礼しドアを閉める。
俺の後ろで爆笑する奴等を睨んで居間に戻ろうとしたが、今度は慌てた様にノッカーが打ち鳴らされる。
舌打ちする俺の後ろで「ささ、第二幕の幕開けだぞ、出たでた」と俺の背中を押す野次馬達。
無視すると長引きそうなので嫌々ドアを開けると、焦った顔の男が慌てて口を開く。
「シンヤ殿、未だ話は終わっておりませんぞ」
「えっ、お詫びに来たのでしょう。私は気にしていませんのでお気になさらずに、で、終わりでしょう。未だ何か?」
最後は不機嫌丸出しの声音に変えて仏頂面を装う。
後ろで吹き出した奴は、俺の酒を飲ませてやらないからな。
「いえ、あの・・・昨日訪れました騎士達の無礼のお詫びと、以前投函いたしました書状について」
「ああ、王妃様に献上した品々を持って来い、ってやつね。それがどうかしましたか?」
「あれは主からの話を聞き、私が認めたものでして・・・」
「まぁ、そうでしょうねぇ~。私は王妃様の御用係を務めさせていただいております。それでも直接王妃様にお渡しするのは恐れ多く、王妃様とご昵懇な方を通じて王妃様にのみ献上、というかたちをとっております」
そう言って執事の眼前に身分証を突きつけ、じっくり観察出来る様にしてやる。
その身分証を見た執事の額から汗が噴き出してきたので、汚れたらばっちいのでマジックポーチに戻す。
「あの・・・その書状を、お返しいただく訳にはまいりませんか? 謝礼は如何様にでも」
「謝礼ですか? 今のところ何も困ってないし欲しい物も無いので、しいて言えば、放っておいて欲しい、かな。ご主人には、余計な事をせずに王家に忠誠を尽くす様にお伝えください」
「あの、それは、勿論で御座いますが・・・他に何か」
「そうだねぇ~、最近の楽しみは此れかな?」
マジックポーチから、泡銭で買った酒の瓶を二本取り出して見せる。
「お酒で御座いますか」
「中々美味しいものが見つからなくて、酒屋へ行ってもこの程度の物しか買えないんだな」
黙って頭を下げるので通じたかな。
「あっ、舌が痺れるので、毒入りは止めてね」
口に毒を放り込まれた様な顔をして棒立ちになった執事を、無視してドアを閉じた。
「ちゃっかり酒を要求してやんの」
「それでいながら、相手の望みは無視している鬼畜だ」
「子爵様も相手が悪かったな」
「こんな巫山戯た冒険者は、普通いないからな」
「普通じゃない、絶対にいないと思うわ」
「毒入りは舌が痺れるって言ったわね。あんたは毒入りで舌が痺れるだけなの?」
「おっ、鋭いねぇリンナ」
「茶化さないの」
「死にたくないので、予防線を張っておいたんだよ」
ビーちゃんから貰った毒無効の事は話せないので、冗談だと言っておく。
本当に毒を盛られても、俺には効かないので美味しく飲めるはずだ。
* * * * * * * *
「旦那様、書状を手放す気がなく力尽くも無理です」
「騎士達を連れていったのだろう、何故だ!」
「巨大なフォレストウルフ二頭に、屈強な冒険者五名と魔法使いらしき女が二人居てはどうにもなりません。欲しい物は無いかと尋ねましても色よい返事は貰えませんでした」
「それでは、儂はどうなるのだ。何か良い手立てはないのか!」
「望みが有るとすればただ一つと申しまして、マジックポーチから酒瓶を二本取りだして酒が欲しいと言いました」
「買ってこい! 其奴の欲しがる酒をたっぷり贈っておけ!」
「それが、中々の高級酒でして、これ以上の物が欲しいと出された物は、旦那様が特別なときにお召しになる1本1,300,000ダーラ程する物ですぞ」
「隣国から取り寄せている、〔ファラナイト家の逸品〕か?」
「左様で御座います。もう一本もそれに劣らぬ高級酒の様でした」
「むうううう、構わん。何時もの商人を呼べ! 幾つか見繕って贈っておけ!」
* * * * * * * *
主に命じられて出入りの商人を呼び、酒の銘柄を伝えた執事はまたもや驚くことになった。
「ファラナイト家の逸品で御座いますか」
「ああ、それと同程度の物を見せられたのだが、相手はもう少しマシな物が欲しいとの事でな」
「それで御座いましたら〔100年の眠り〕と〔酒神の雫〕など如何でしょうか。それぞれ1,700,000ダーラと2,200,000ダーラ致しますが」
「ではそれを二本ずつ贈ることにするか。まったく、若造のくせに、本当に酒の味が判るのかのう」
「お若い方でも好みが御座いますからねぇ。以前当家を訪れた冒険者の方は、10本を味見してお気に召された3本を10本ずつお買い上げになられましたよ。そうそう、その中の一本がファラナイト家の逸品でしたね」
その言葉を聞いた執事は、恐るおそるその時の事を尋ねた。
若い男は上等な服を着ていたが、フォレストウルフを二頭従えた噂の冒険者だと教えてくれた。
それを聞いた執事は出入り業者を待たせ、急ぎ主の下へ話を伝えに行く。
幾つか見繕って贈っておけと主は言ったが、そんな事をすれば笑い者だ。
「旦那様! 呼び寄せた業者が、とんでもない事を教えてくれました」
「何だ、騒々しいぞ」
「あの男、シンヤなる男はとんでもない奴でした。呼び寄せた業者曰く、以前シンヤが店を訪れ、見せられた物を含む酒三種を各10本ずつ買って帰ったそうです。しかも試飲を含め46,000,000ダーラ近い大金を支払って帰ったそうで御座います」
「そんな馬鹿な!」
「適当な物を数本など贈ったら何を言われるか。かと言って、あれより上物を30本も送れば・・・」
子爵家の金庫に大打撃だと愚痴が出そうだ
自分の腹は痛まないが、節約を口にする事で当分嫌味を言われそうで憂鬱になっていた。
散々悩んだ子爵は断腸の思いで決断し〔100年の眠り〕〔酒神の雫〕〔眠れる樽の祝福〕を、それぞれ10本を贈ることに決めた。
〔100年の眠り〕1,700,000ダーラ×10本=17,000,000ダーラ
〔酒神の雫〕2,200,000ダーラ×10本=22,000,000ダーラ
〔眠れる樽の祝福〕2,800,000ダーラ×10本=28,000,000ダーラ
合計 67,000,000ダーラの請求書を見て、泣きそうになるコウエン子爵であった。
俺はとんでもない男に手を出してしまったと後悔したが、本当に後悔するのはもう少し後の事だった。
* * * * * * * *
あれから毎日毎晩お客様がお見えになるが、横柄な奴等ばかりなので眼光で黙らせて決まり切った言葉を吐く。
三日目には喋るのに飽きて、ドアの裏側に執事に話したことと同様な文言を書いた紙を貼り付けた。
それを見たオルク達は呆れて、俺の後ろで茶番劇の見物を止めてしまった。
ホーキンやフェルザン達は訓練の合間に食料調達の為に戻ってくるが、彼等には絶対に話すなと口止めをしている。
* * * * * * * *
五日目にコウエン子爵の名代と名乗った男が再び現れた。
背後に何時ぞやの酒屋の男が立っていて、微妙な顔で俺を見ている。
「シンヤ様、ご要望の物を持参いたしましたので御検分願います」
ほっほうー、あれより良い酒を見繕ってきたとね♪。
居間で寛ぐ皆を寝室に押し込もうとしたが、俺達はお前の護衛なのでと壁際に並んで興味津々で見物している。
食事用のテーブルに並べられる多数の酒瓶。
壁際の幾人かが喉を鳴らす音が聞こえたが、此れは俺の秘蔵酒の予定だ。
三種類を各10本ずつ並べられたのを見て、笑いが出そうになったが何とか耐えて味見の準備をする。
それぞれ一本ずつ封を切り、グラスに軽く注いで香りと味を確かめていく。
確かに以前見せた物よりも上物の様で、味も香りも俺好みで思わず笑みが出る。
「ご満足いただけましたでしょうか?」
「ああ、あれよりは良い物だな。コウエン子爵様には、良き物を頂き感謝すると伝えてくれ」
「はい、有り難う御座います・・・それで、書状の方は」
連れて来た男を気にしながら、小声で尋ねてくる。
「ああ、これ以後何も起きなければ、俺の懐の中で朽ち果てるさ。その辺は子爵様も理解しているだろう」
まさか返して貰えないと思っていなかったのか泣きそうな顔になるので、一つだけ教えてやる。
「良いことを教えてやろう。コウエン子爵様の様な御方が、後28名もおられる」
そう言ってウインクをすると、これ以上は無駄だと悟り肩を落として帰って行った。
今回はミーちゃんに教えられるまで気付かないほど、お淑やかなノックの音。
どうせ昨日追い返した騎士達の主だろうと思い、渋々立ち上がる。
「ん、どうした?」
「えっ、何が?」
「RとLも起き上がったから、何か有るのかなと」
「来客の様だよ」
「おっ、昨日の続きか?」
「そいつは聞き捨てならんな」
「俺達が背後に控えて、お前を守ってやらねば」
「そうねぇ~、王妃様の身分証を持つ御方が、護衛を連れていないと貫禄負けをするわね」
ニヤニヤ笑いで立ち上がり、買い換えたばかりの服の皺を伸ばし腰に剣をつる。
此奴等、俺の面倒事を娯楽の種にしていやがる。
だいたい冒険者の一人暮らしの家に、護衛がいるとでも思っているのかね。
閂を外しドアを開けると、フロックコートに似た服を着た男が立っていて背後に昨日の騎士が二人居る。
俺の左右に控えるRとLに目を走らせると、深々と頭を下げる。
「シンヤ殿とお見受けします。主、ダラス・コウエン子爵の名代として、先日のお詫びに参りました」
「ああ、昨日の無礼極まる呼び出しですか。俺は冒険者ですので、あの程度の事には慣れていますのでお気になさる事はありませんよ。態々ご苦労様です」
そう言って一礼しドアを閉める。
俺の後ろで爆笑する奴等を睨んで居間に戻ろうとしたが、今度は慌てた様にノッカーが打ち鳴らされる。
舌打ちする俺の後ろで「ささ、第二幕の幕開けだぞ、出たでた」と俺の背中を押す野次馬達。
無視すると長引きそうなので嫌々ドアを開けると、焦った顔の男が慌てて口を開く。
「シンヤ殿、未だ話は終わっておりませんぞ」
「えっ、お詫びに来たのでしょう。私は気にしていませんのでお気になさらずに、で、終わりでしょう。未だ何か?」
最後は不機嫌丸出しの声音に変えて仏頂面を装う。
後ろで吹き出した奴は、俺の酒を飲ませてやらないからな。
「いえ、あの・・・昨日訪れました騎士達の無礼のお詫びと、以前投函いたしました書状について」
「ああ、王妃様に献上した品々を持って来い、ってやつね。それがどうかしましたか?」
「あれは主からの話を聞き、私が認めたものでして・・・」
「まぁ、そうでしょうねぇ~。私は王妃様の御用係を務めさせていただいております。それでも直接王妃様にお渡しするのは恐れ多く、王妃様とご昵懇な方を通じて王妃様にのみ献上、というかたちをとっております」
そう言って執事の眼前に身分証を突きつけ、じっくり観察出来る様にしてやる。
その身分証を見た執事の額から汗が噴き出してきたので、汚れたらばっちいのでマジックポーチに戻す。
「あの・・・その書状を、お返しいただく訳にはまいりませんか? 謝礼は如何様にでも」
「謝礼ですか? 今のところ何も困ってないし欲しい物も無いので、しいて言えば、放っておいて欲しい、かな。ご主人には、余計な事をせずに王家に忠誠を尽くす様にお伝えください」
「あの、それは、勿論で御座いますが・・・他に何か」
「そうだねぇ~、最近の楽しみは此れかな?」
マジックポーチから、泡銭で買った酒の瓶を二本取り出して見せる。
「お酒で御座いますか」
「中々美味しいものが見つからなくて、酒屋へ行ってもこの程度の物しか買えないんだな」
黙って頭を下げるので通じたかな。
「あっ、舌が痺れるので、毒入りは止めてね」
口に毒を放り込まれた様な顔をして棒立ちになった執事を、無視してドアを閉じた。
「ちゃっかり酒を要求してやんの」
「それでいながら、相手の望みは無視している鬼畜だ」
「子爵様も相手が悪かったな」
「こんな巫山戯た冒険者は、普通いないからな」
「普通じゃない、絶対にいないと思うわ」
「毒入りは舌が痺れるって言ったわね。あんたは毒入りで舌が痺れるだけなの?」
「おっ、鋭いねぇリンナ」
「茶化さないの」
「死にたくないので、予防線を張っておいたんだよ」
ビーちゃんから貰った毒無効の事は話せないので、冗談だと言っておく。
本当に毒を盛られても、俺には効かないので美味しく飲めるはずだ。
* * * * * * * *
「旦那様、書状を手放す気がなく力尽くも無理です」
「騎士達を連れていったのだろう、何故だ!」
「巨大なフォレストウルフ二頭に、屈強な冒険者五名と魔法使いらしき女が二人居てはどうにもなりません。欲しい物は無いかと尋ねましても色よい返事は貰えませんでした」
「それでは、儂はどうなるのだ。何か良い手立てはないのか!」
「望みが有るとすればただ一つと申しまして、マジックポーチから酒瓶を二本取りだして酒が欲しいと言いました」
「買ってこい! 其奴の欲しがる酒をたっぷり贈っておけ!」
「それが、中々の高級酒でして、これ以上の物が欲しいと出された物は、旦那様が特別なときにお召しになる1本1,300,000ダーラ程する物ですぞ」
「隣国から取り寄せている、〔ファラナイト家の逸品〕か?」
「左様で御座います。もう一本もそれに劣らぬ高級酒の様でした」
「むうううう、構わん。何時もの商人を呼べ! 幾つか見繕って贈っておけ!」
* * * * * * * *
主に命じられて出入りの商人を呼び、酒の銘柄を伝えた執事はまたもや驚くことになった。
「ファラナイト家の逸品で御座いますか」
「ああ、それと同程度の物を見せられたのだが、相手はもう少しマシな物が欲しいとの事でな」
「それで御座いましたら〔100年の眠り〕と〔酒神の雫〕など如何でしょうか。それぞれ1,700,000ダーラと2,200,000ダーラ致しますが」
「ではそれを二本ずつ贈ることにするか。まったく、若造のくせに、本当に酒の味が判るのかのう」
「お若い方でも好みが御座いますからねぇ。以前当家を訪れた冒険者の方は、10本を味見してお気に召された3本を10本ずつお買い上げになられましたよ。そうそう、その中の一本がファラナイト家の逸品でしたね」
その言葉を聞いた執事は、恐るおそるその時の事を尋ねた。
若い男は上等な服を着ていたが、フォレストウルフを二頭従えた噂の冒険者だと教えてくれた。
それを聞いた執事は出入り業者を待たせ、急ぎ主の下へ話を伝えに行く。
幾つか見繕って贈っておけと主は言ったが、そんな事をすれば笑い者だ。
「旦那様! 呼び寄せた業者が、とんでもない事を教えてくれました」
「何だ、騒々しいぞ」
「あの男、シンヤなる男はとんでもない奴でした。呼び寄せた業者曰く、以前シンヤが店を訪れ、見せられた物を含む酒三種を各10本ずつ買って帰ったそうです。しかも試飲を含め46,000,000ダーラ近い大金を支払って帰ったそうで御座います」
「そんな馬鹿な!」
「適当な物を数本など贈ったら何を言われるか。かと言って、あれより上物を30本も送れば・・・」
子爵家の金庫に大打撃だと愚痴が出そうだ
自分の腹は痛まないが、節約を口にする事で当分嫌味を言われそうで憂鬱になっていた。
散々悩んだ子爵は断腸の思いで決断し〔100年の眠り〕〔酒神の雫〕〔眠れる樽の祝福〕を、それぞれ10本を贈ることに決めた。
〔100年の眠り〕1,700,000ダーラ×10本=17,000,000ダーラ
〔酒神の雫〕2,200,000ダーラ×10本=22,000,000ダーラ
〔眠れる樽の祝福〕2,800,000ダーラ×10本=28,000,000ダーラ
合計 67,000,000ダーラの請求書を見て、泣きそうになるコウエン子爵であった。
俺はとんでもない男に手を出してしまったと後悔したが、本当に後悔するのはもう少し後の事だった。
* * * * * * * *
あれから毎日毎晩お客様がお見えになるが、横柄な奴等ばかりなので眼光で黙らせて決まり切った言葉を吐く。
三日目には喋るのに飽きて、ドアの裏側に執事に話したことと同様な文言を書いた紙を貼り付けた。
それを見たオルク達は呆れて、俺の後ろで茶番劇の見物を止めてしまった。
ホーキンやフェルザン達は訓練の合間に食料調達の為に戻ってくるが、彼等には絶対に話すなと口止めをしている。
* * * * * * * *
五日目にコウエン子爵の名代と名乗った男が再び現れた。
背後に何時ぞやの酒屋の男が立っていて、微妙な顔で俺を見ている。
「シンヤ様、ご要望の物を持参いたしましたので御検分願います」
ほっほうー、あれより良い酒を見繕ってきたとね♪。
居間で寛ぐ皆を寝室に押し込もうとしたが、俺達はお前の護衛なのでと壁際に並んで興味津々で見物している。
食事用のテーブルに並べられる多数の酒瓶。
壁際の幾人かが喉を鳴らす音が聞こえたが、此れは俺の秘蔵酒の予定だ。
三種類を各10本ずつ並べられたのを見て、笑いが出そうになったが何とか耐えて味見の準備をする。
それぞれ一本ずつ封を切り、グラスに軽く注いで香りと味を確かめていく。
確かに以前見せた物よりも上物の様で、味も香りも俺好みで思わず笑みが出る。
「ご満足いただけましたでしょうか?」
「ああ、あれよりは良い物だな。コウエン子爵様には、良き物を頂き感謝すると伝えてくれ」
「はい、有り難う御座います・・・それで、書状の方は」
連れて来た男を気にしながら、小声で尋ねてくる。
「ああ、これ以後何も起きなければ、俺の懐の中で朽ち果てるさ。その辺は子爵様も理解しているだろう」
まさか返して貰えないと思っていなかったのか泣きそうな顔になるので、一つだけ教えてやる。
「良いことを教えてやろう。コウエン子爵様の様な御方が、後28名もおられる」
そう言ってウインクをすると、これ以上は無駄だと悟り肩を落として帰って行った。
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