能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

文字の大きさ
上 下
88 / 170

088 王都の酔いどれ達

しおりを挟む
 ミレーネ様の許しを得てシーちゃんをミーナに預け、新たな名前を決める。 新たな名前は瞳の青から〔ブルー〕に決まり、用意の爪とぎ板を渡して、ネギ類等を与えない様に注意しておく。
 服やカーテンに爪を立てないとか、ミーナの遊び相手だが万が一の時には守れと言い聞かせているが、それは黙っておく。

 後は肩を叩いたら肩に乗るとか、ブルーが前足で三回叩いたら水を、三回を二度なら食事と教えると、ミレーネ様が感心していた。

 「テイムが解けても危険はないと言いましたが、どれ位は大丈夫なの?」

 「ミーちゃんをテイムして三年以上になりますが、テイムは解けていません」

 ザンドラに放置しているスライムも、スキルから消えてないので預けっぱなしでも大丈夫だろう。
 ブルーに夢中なミーナに、拙い知識だが猫の扱い方を教えてお暇するが、時々ミーナとブルーの様子を見に来て欲しいと頼まれたので、王都にいればと返事をしておく。

 * * * * * * * *

 恒例、春の花蜜集めをどうしようかと悩む、ザンドラは論外でタンザ方面も近寄りたくない。
 花は何処にでも咲くさと、王都周辺の草原を散策して花の多い場所を探す。
 花が多けりゃハニービーもやって来るので、一匹を支配で呼び寄せると巣に案内してもらうが、思ったよりも遠かった。

 ハニービーの飛ぶ速度には敵わないので、ゆっくり飛んでもらいついていくこと2時間。
 今度の巣は大木の中間より少し高い場所にあり、木を抱き込んだ巨大なカマキリの巣を思い出される。
 蜂蜜は未だまだ在庫が有るので急ぐことはないし、花の盛りまでもう暫く待ってから花蜜を集めようと引き返す。

 ハニービーを追ってフーちゃん共々駆けてきたので、歩くとなると3,4倍の時間が掛かる。
 そして、ハニービーを追うことに集中して駆けていたときには気付かなかった事に気付いた。
 6,7人のパーティーの様だが、自分達の進む先にいる野獣の存在に気付いていない。
 ニアミスコースなので迂闊に声も掛けられないし、走って行けば野獣にも気付かれる。
 隠形で気配を隠して急ぐが、冒険者達と野獣双方が同時に相手の存在に気付き、そのまま睨み合いになった気配だ。

 《フーちゃん達は左右に回れ、ミーちゃんは何時も通り後ろからな》

 駆けだしながら指示をし、マジックポーチから短槍を抜いて冒険者達の横に回る。
 ハイオーク五頭、王都の近くに居る様な数じゃないぞ。

 〈ハイオーク五頭なんて無理だ!〉
 〈今、背を向けたら殺れるぞ!〉
 〈ヘイズを守れ!〉
 〈早くファイヤーボールを射ち込めよ!〉
 〈陣形を崩すな!〉
 〈おいおい、ウルフまで居るぞ〉
 〈駄目だ! ファイヤーボールを射ったら逃げるぞ〉

 「ウルフは俺の使役獣だ、攻撃するなよ」

 「誰か知らねえが、手を貸してくれ!」

 「判った、俺は右の奴からやるので左を頼む」

 《1、足を攻撃して引き付けろ》

 〈ゴワァァァ〉

 フーちゃんが足に噛みつき、ハイオークが怒りの声を上げて其方に意識が集中した瞬間、跳び込みざまに首を切り裂き背後に着地。
 回れ右すると、血飛沫を上げて倒れる隣の奴に突撃し、背中から心臓を狙って突きを入れる。

 二頭目を攻撃して後ろに飛び退くと、弓弦の音が鳴り反対側の一頭が膝をつく。
 群れの中央にいた奴が悲鳴を上げ足を抱えて蹲るので、延髄切りをお見舞いすると無傷の一頭が逃げ出した。
 即座に後を追うフーちゃん達を追い、背後から短槍を投げつけて終わり。

 短槍を引き抜いて振り返れば、足に矢を受けた一頭が多数の矢を受け槍で突かれて倒れる所だった。
 魔法使いが、攻撃目標が無くなって狼狽えている。

 〈遅いぞ!〉

 「あんた、凄いなぁ~。魔法を射つ前に倒してしまうとは思わなかったよ」
 「助かったよ、フォレストウルフ二頭を連れている凄腕がいると聞いていたが、流石だな」
 「済まねぇ、助かったぜ。俺達は〔王都の酔いどれ達〕ってパーティーだ。噂通りの腕だな」
 「ハイオークが五頭か、久々に女の所へ行けるぜ」

 「おいおい、クルゾン何を言っている。俺達が倒したのは一頭だけだぞ」
 「でもよ、討伐現場にいて一緒に討伐したんだ。均等に分けるのが当然だろう」

 「俺は構わない、と言うか分け前は放棄するので、ギルドへの報告はそっちで頼むよ」

 「まてよ! 助けたのなら最後まで面倒みろよ。俺達貧乏パーティーが、ハイオークを五頭も収めるマジックポーチを持っている筈がないだろう」

 「クルゾン、好い加減にしろ!」
 「相変わらず目先の欲に汚い奴だな」
 「文句を言う前に、助けて貰った礼を言えよ!」
 「お前にはうんざりだ!」

 「済まない、俺は王都の酔いどれのリーダーをしているゲラントだ。この屑の寝言は無視してくれ」
 「おいおい、仲間を屑呼ばわりするのか」
 「屑以外の何ものでもないだろうが」
 「お前がパーティーに居ると、何時も俺達が恥を掻き謝る羽目になる」

 あらら、仲間割れしちゃってるが、目先の利に汚い奴は嫌われるよな。

 「判ったよ、俺が預かってやるから王都へ戻ろうか。ただし、この辺りの地理に疎いので、報告はそっちでやってくれ」

 「良いのか、俺達は命が助かったうえに一頭あれば十分な稼ぎなんだけど」

 「いいさ、周辺の地理を覚える為に彷徨いていただけだから」

 「本当に一人なんですね」
 「フォレストウルフが良い働きをするんだなぁ」
 「行きましょうか、急がないと日暮れになっちまうから」

 仲間からボロクソに言われてふて腐れたクルゾンって奴がちんたら歩くが、他の者は何も言わずにさっさと歩き、待つ素振りすら見せない。
 不味いと思ったのか、しきりに仲間のご機嫌をとろうとへらへらと話しかけて煩い。

 * * * * * * * *

 陽が落ちるには少し早い時間に王都に到着して、入場待ちの行列に並ぶ。
 俺はフーちゃん達を連れているので、御用係の身分証を遣って中へ入った。
 皆に驚きの目を向けられて自分の間抜けさに呪いの言葉を吐きそうだった。
 目先の利に汚いと評されるクルゾンが擦り寄ってくるので、慎重にクルゾンの目だけを覗き込む様にして眼光を使う。
 ゲラント達がビクッとするが、威圧を使ったときより反応が軽い。
 一人クルゾンだけが顔を引き攣らせ、冷や汗を流して震えている。

 「俺に興味を持つのなら、命を捨てる覚悟で来いよ」

 それだけ言い捨てて冒険者ギルドに向かう。

 「馬鹿が、お前の魂胆は丸見えなんだよ」
 「一睨みで震える情けない奴」
 「リーダー、此奴はパーティーから放り出そうぜ。駄目なら俺が抜けるわ」
 「俺も、もううんざりだよ」

 パーティー分裂の危機ってより、追放話になっちゃってるぞ。
 買い取りカウンターに数組のパーティーが並んでいたが、ハイオークを数頭持っていると告げて解体場へ入らせて貰う。

 「久し振りだな。今日も多いのか?」

 「ハイオークが五頭だよ。王都の酔いどれ達の獲物だから、査定用紙は奴等に渡してくれ」

 そう言ってハイオーク五頭を並べると、ゲラントに手を振って解体場を後に食堂へ向かう。
 のんびりしている食堂のマスターに、チキチキバードのステーキが食べたいと頼み、残りは自由にしてくれと一羽を渡す。
 エールのジョッキを抱えて空きテーブルに座るが、タンザの食堂とは雰囲気がまるで違う。

 エールをチビチビと飲みのんびりしていると、査定用紙を持ったゲラント達が会計係のところへ行ったが、雰囲気が悪い。
 暫くして食堂へ来たときには一人減っていたので、本当に追放した様だ。
 ラノベなら、追放された奴が元のパーティー仲間にざまあをする展開だが、奴では自滅するパターンだな。

 ステーキが焼けたと呼ばれたのでエールのお代わりを貰い、熱々のステーキをつまみにエールでグビリ。

 「シンヤさん、ありがとう御座います」
 「助けて貰って獲物まで」

 「気にしないで良いよ。ハイオークのことは伝えてくれたかな」

 「はい、サブマスに出会った場所を伝えておきました」
 「と言うか、解体係が伝えたのか、サブマスが解体場まで状況を聞きに来ました」
 「王都近辺まで出て来るのは非常に珍しいって、サブマスも驚いていましたよ」

 ミーちゃんに小分けしたステーキを与えながら、王都周辺の状況を尋ねてみる。

 「たまに2,3頭のオークや、ドッグ系やウルフが少数の群れで出て来る程度なんですがねぇ」

 そう言いながら、それぞれがエールやつまみを持ってテーブルにつく。

 「それって、この食堂のメニューに無いやつですよね」
 「美味そうだけど、俺達の手が出る値段じゃなさそうだな」

 稼ぎから帰って来る者が増えだしたので、そろそろ腰を上げようと思っていると、肩で風を切って入って来た奴等がいる。
 そして食堂へ向かってきた奴等の中に、クルゾンが混じっていてまっすぐ俺達のテーブルに向かって来る。
 いやーな予感がする。

 追放された奴の逆恨みから・・・全員冒険者の様なので模擬戦コースかな。

 「おう、お前らさっきは好き勝手を言って放り出してくれたな。お前等に好き勝手を言われて黙っているのは気分が悪い! 俺と模擬戦で勝負しろ!」

 あらら、よっぽど自信があるのか、それとも総勢11人で絶対に勝てると思っているのかな。
 連れて来た奴等は冒険者と破落戸の二足の草鞋といった感じの奴等で、ゲラント達を見回してニヤニヤしている。

 「11人対5人とは卑怯だろう」

 「お前は関係ない! 俺は王都の酔いどれ達に言っているんだ!」

 「それはお前もだろう。なにやら引き連れて来たからって偉く態度がでかいじゃないか。俺が関係ないのなら、お前の後ろも関係ない。勝負は王都の酔いどれ達と、差しでやれば良いだけじゃないのかな」
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...