能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

文字の大きさ
上 下
84 / 170

084 王都冒険者ギルド

しおりを挟む
 王都貴族街の奥深くに建つグランデス侯爵邸に、領地からの通常連絡を装った早馬が駆け込んだ。
 王都屋敷の執事が連絡を受けたが、嫡男ウエルバ・グランデスから当主グランデス侯爵様への重大報告だと告げられて、執務室へ急ぐ。

 「ランガス、何を慌てている」

 「領地ダルセンよりの至急報で御座います」

 封を切り書状を差し出しながら、執事が伝える。
 受け取った書状を読みながらグランデス侯爵の顔色が変わる。
 読み終わった書状を執事に読めと渡し、書状の内容を考える。
 最初に5人、その後108人が死んでいては、何れ王城まで噂が届く。

 「これは・・・如何致しましょうか?」

 「どうにもならん。問題の男の遺骸は冒険者のマジックバッグの中だ。騒ぎ立てればウエルバが渡した書面と、平手打ちの痕と蜂に刺された証拠の男が出されるだけだ。それよりも誰がその男に命じたのかだ、この醜聞がグランデス家の威信を落とすだけなのを判らない馬鹿がいる」

 「ですが、問題の男が死亡していては・・・」

 「判っている。ヘイルウッド家とシンディーラには、あの男に手を出すなとキツく言っておくし、ウエルバには何もなかった様に過ごせと言いつける。それと、あの男の住まいは判るか?」

 「連れているフォレストウルフがホテルに泊まる事を拒否されたので、何処かに家を借りた様でご座います」

 「住まいが判ったら詫びに行け。今回の事に関し当家は一切関係ないが、配下の無礼を詫び、周囲の者達に如何なる関与も禁じたと伝えろ。何れ王家からも何か言ってくるだろうが、腕自慢の騎士が引き起こした騒ぎだと皆に言い聞かせておけ」

 * * * * * * * *

 ダルセンから次の街はドリンバン、此処は公爵の領地と聞いたがフーちゃん達を連れていても何も言われずに無事通過。
 三日後には久し振りに王都に足を踏み入れた。

 「やっと王都か。しっかり稼いだし、シンヤの家に泊まって王都でお買い物だな」
 「ザンドラじゃ手に入らない物を買って帰れば、女房達も喜ぶってものだ」
 「稼ぎ頭のシンヤの家は何処だ?」

 「急かせるねぇ、王都は逃げないよ」

 市場に寄ってから、久々に懐かしの我が家に到着。
 ミーちゃんが猫用通路から中に入り、閂を外すのを見て皆に呆れられた。
 此の世界の鍵なんて全然信用してないので、ミーちゃんに閂をロックしてもらう方が安全なんだよ。

 居間と寝室に簡単な料理が出来る設備を見て感心していたが、お家賃一月金貨六枚と聞いて渋い顔で首を振っていた。
 フーちゃん達を連れてのホテル住まいが出来ない以上、やむを得ないんだよ。
 お家賃は商業ギルドからの引き落としだし、此処だと自由に出来るからな。

 買い物前に冒険者ギルドに預けてある獲物代、俺は強制招集の最初から全て預けているし、フランやオシウスの牙の預け入れも相当な額になる筈だ。
 フランは商業ギルドに口座があるので、冒険者ギルドから振り込めると聞いてそうしますと言ったが、金貨100枚に付き金貨一枚1%の手数料と知り酸っぱい物を含んだ様な顔になる。

 * * * * * * * *

 全員で王都冒険者ギルドへお出掛け、見知らぬ顔ぶれに値踏みの視線が飛んで来るが、フラン達はタンザで散々見られて慣れたのか素知らぬ顔。
 精算カウンターに直行して残高確認をお願いするが、ゴールドカードに驚いている。

 俺って未だ二十歳なんだよな。
 タンザに行ってなかったらDランクのままなので、つくづく失敗したと思ったが、ザンドラにまで強制招集を掛けていたのだから同じ事か。
 タンザの牙達といっしょにやれて良かったのかも。

 ジロジロとカードと俺を見比べるが、冒険者ギルド発行のカードを偽造して残高確認にくるかよ。
 不承不承と言った感じで残高を調べて再び驚いている。

 「お前、此れは間違いないだろうな!」

 「お前こそ冒険者ギルドの職員か? ギルドカードは本物だし、Bランクにしたのはタンザのギルマスだ。タンザで何が起きていたのか知っているよな」

 低音の魅力を発揮して言ったが、効き目がないので眼光を遣おうかな。

 「荒稼ぎして全額ギルドに預けているんだよ。さっさと残高を教えろ!」

 「おいおい、一月近く前に強制招集は解除され、王都からも稼ぎに行った奴等が金を引き出しに来ただろうが」
 「王都には強制招集された奴はいなかったのか?」
 「俺達の稼ぎを支払わないつもりかよぅ」

 ドラド達が凄みだしたので、慌てて俺の残高を用紙に記入して差し出す。
 72,059,000ダーラ、以前から獲物の代金をギルドに預けていたので、タンザの分が幾らか判らないが、1/3は天引きされているので益々判らない。
 横から覗き込んだフランが「シンヤさん、そんなに稼いだんですか?」と声を上げるので、皆に覗き込まれて大騒ぎ。
 金額こそ口にしなかったが、俺は強制招集以前からタンザにいたからだと告げる。

 俺の稼ぎを知ったドラド達が競ってギルドカードを差し出して残高確認を要求する。
 残高を記入した用紙を受け取ったドラドが、あからさまにガッカリした顔になる。
 俺もお返しに覗き込んだが29,748,000ダーラ、参加が遅かったからこんなもんだろう。
 死傷者の保証分1/3を引かれているとドラドに告げると、少し計算してから納得していた。
 ドラドの用紙を覗き込んだ皆がそれを聞き納得して、精算係に一括支払いを要求して一騒動。

 一人当たり29,748,000ダーラで、フランを含めて六人、178,488,000ダーラ。
 王都のギルドと謂えども、彼にそれだけの金を動かす権限は無い。
 俺の72,059,000ダーラを加えたら、250,547,000ダーラだ、騒ぎを聞きつけサブマスが奥から出て来る。
 係員がサブマスに事の経緯を説明しているが、サブマスも渋い顔になる。

 「あー、小分けにして引き出す事は出来ないか」

 「サブマス、俺は一度商業ギルドへ送金したのだが、1%の手数料を取られたぞ。此れを送金したら、いったい幾らの手数料を取るつもりだ」

 俺の残高確認用紙を突きつける。72,059,000ダーラ、並みの冒険者が何れだけ掛かって稼ぐ額だと思っている。現金引き出しを拒否する規定でもあるのか?
 突きつけられた残高を記入した用紙を見て「何でこんな額になるんだ?」と呟く。

 「タンザでの強制招集を知らない訳じゃ無いよな。俺は初っぱなから最後まで居たし、それ以前のも含めて全てギルドに預けていたからな。他の皆も途中からとは言え参加し、一番獲物の多い場所に配置されて闘って来たんだ」

 そう言うと、ドラド達も後ろで賛同の声を上げる。

 「ちょっとギルドカードを見せろ」

 差し出された手にギルドカードを乗せると「お前がシンヤか」とぼそりと呟き、ドラド達のカードも要求する。
 フランのカードを見て一つ頷き、パーティー名を確認。

 「フランとオシウスの牙か、中々の使い手だと噂になっているぞ」

 〈フランとオシウスの牙だってよ(笑)〉
 〈なんだ、そりゃー〉
 〈知らねえのかよ、タンザから帰ってきたシルバー以上のパーティーが噂していたぞ〉
 〈おお、シンヤって馬鹿強のテイマーと同格で、大物狩りを競っていると聞いたな〉
 〈今回の強制招集は、何十年振りかの規模だって言ってたぞ〉
 〈俺はGランクで良かったよ〉
 〈安心しろ、お前はEランクで人生を終えるから〉

 サブマスまで出てきて揉めていたので、野次馬が後ろで騒ぎ出した。
 ギルマスと相談してくるので会議室で待てと言われて二階へと上がる。
 ギルマスに今お前達に支払うとギルドの金庫が空になるので、ドラドさんやフランには一人748,000ダーラを現金で支払う。
 残金29,000,000ダーラは証書で渡すので、商業ギルドに提出して受け取ってくれと頼まれた。

 フランがすかさず「手数料は?」と聞き、手数料なしの言質を取る。
 俺は22,059,000ダーラを現金で、50,000,000ダーラを証書と言われて???

 「お前達がタンザで荒稼ぎしたのは有名だ。一人くらい金貨の袋で受け取り、見ている奴等も頑張れば稼げる様になると示してくれ」と言われてしまった。

 早い話、王都で燻っている奴等の、尻を叩く道具にされているだけらしい。

 「それなら強制招集が解除になり危険な大物が少なくなった今、タンザは稼げる場所として人が集まっていますよ。俺が金貨の袋を受け取って出て行った後で、涎を垂らしている奴等に言えば良いじゃないですか」

 「勿論そうさせて貰うさ」

 流石は冒険者ギルドのギルマス、抜け目がないねぇ。

 俺達が降りて行き、ドラドさんから現金と証書を受け取る。
 最後に俺が金貨の袋二つの中を確認し証書を受け取ってマジックポーチへ放り込み、端数の金貨20枚と銀貨や銅貨を受け取る。

 カウンター周辺に屯していた冒険者達から溜め息が漏れ、胡散臭い視線が絡みついてくる。

 「よう兄さん。それだけ稼いだのなら、エールの一杯も奢っちゃくれねえか」

 声の方を見ると、くたびれた格好の万年Fランクらしい男が舌舐めずりをしている。

 「こんな所でエールを集るより、タンザへ行け。未だ大物も居るが、狩りやすい草食獣も沢山押し出されて来てタンザは大賑わいだぞ」

 ギルマスの煽りより、俺の言葉の方が効き目が有るだろうから、大盤振る舞いをしておいてやるよ。

 「食堂に金貨十枚を預けるから、好きなだけ飲み食いしろ。鋭気を養ったら性根を入れて稼げ!」

 〈うおーぉぉぉ、太っ腹だね〉
 〈すまねぇ兄さん。ごちになるぜ!〉
 〈親父! 飯と酒だ!〉
 〈押すなよ馬鹿! エールを寄越せ!〉

 食堂の親父に金貨10枚と端数の銀貨と銅貨を渡し、無くなるまで飲み食いさせてやれと言っておく。
 冒険者達の目が食堂の酒に向いている間に、ギルドを出て商業ギルドに向かう。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...