能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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083 大山鳴動

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 「一気に襲い掛かったために、俺は止める様にお願いしたが、興奮した蜂たちは逃げようとした騎士も襲ってしまった」

 「そんな馬鹿な、当主はその様な事を命じてはいません! ましてやシンディーラ妃が当主の許しも得ずにその様な事は出来ませんし、ヘイルウッド家に至っては騎士達とは何の関わりもありません」

 「現に此奴等の目の前で俺は勝負を持ちかけられ『此れは、グランデス侯爵やシンディーラ妃の差し金か? それともヘイルウッド伯爵・・・子爵家が絡んでいるのか?』の問いかけに『余計な事を囀る奴だな。気にせずに死ねっ』と抜き打ちで答えた。街の破落戸や冒険者が相手なら、俺を攻撃した報いだの一言で済ませるが、侯爵家の騎士に斬りかかられたとなるとそうはいかない。上を見ろ、俺が攻撃されて興奮しているところへ、今度はファイヤーボールの攻撃を受けて仲間が多数死んでは、俺も攻撃を止める様にお願いしたが無駄だった」

 「貴方が蜂を使って攻撃したのではないと?」

 「蜂、キラービーをテイム出来ると思うか。俺はテイマーとしては最低能力の1だ。哀れに思ったテイマー神様より加護として授かったのが、キラービーの護衛だ。その護衛が荒れ狂っていて何とか宥めているが、先程の返答次第ではそれも無駄になる」

 「ではどうすれば?」

 「蜂たちを攻撃しない様に頼むしかない。それとテイマー神様が護衛につけてくれたが、俺に敵意を向ける程度なら止めてとお願いして止められるが、攻撃してくる者に対して攻撃するなとお願いしても止められない。俺は助けてとか止めてとか、お願いをしているだけだからな」

 「では、貴男様に対する責任は問いませんし、攻撃は禁止いたしますので此の儘引き下がってもらえませんか」

 「お前、何を聞いていたんだ、俺は誰一人殺していないぞ。抜き討ってきた奴も、平手打ちで許している。許さなかったのは、護衛の蜂たちだ。此処へ来る途中で騎馬の騎士達と出会ったが蜂に驚いて落馬したし、そこに転がっている奴等は蜂たちを攻撃して反撃されただけだ。それより俺の質問に答えろ!」

 「断じて、貴男様を害する様に命じた事はありません!」

 「執事のお前が言うのを信じろと。街の入り口で侯爵家の騎士団から難癖を付けて斬りつけられて、侯爵家は関係ありませんでとおる話じゃない。俺が使役しているウルフがお前を噛み殺せば、ウルフが勝手にやった事だと言っても俺は罪に問われるぞ。貴族なら知らぬ存ぜぬで済ませられるのか」

 「では、どの様にすれば納得頂けますか」

 「当主からこの諍いには一切関わっていないが、部下のした事を謝罪する一筆をもらおうか。それと、この事件に関し俺は誰一人殺しておらず、余計な手出しをした騎士達が自滅した事を認める書面だな」

 「当主、ブレンド・グランデス侯爵様は唯今王都屋敷にて、此の地は現在御嫡男ウエルバ・グランデス様が預かっておられます」

 「では、そのウエルバとやらの謝罪文と証明書だな」

 「ウエルバ様に申し出て、その様に取り計らいますので暫しお待ち願えますか」

 「そのウエルバとやらに、俺の目の前で書いてもらおう。後々惚けられても困るし、そうなれば侯爵家を相手取り、全力で闘う事になるからな」

 此れだけ大事になっているのだ、街の噂は王都にも届くだろう。
 その時に代筆された物を渡して、知らぬ存ぜぬと惚けられると思うなよ。
 執事の案内で、腰の抜けた騎士達を追い立てて侯爵邸へ向かう。

 * * * * * * * *

 フォレストウルフ二頭とミーちゃんを肩に乗せた俺を見て、呆れている男が嫡男のウエルバ・グランデスらしい。

 「誰だ其奴は!」

 「冒険者のシンヤと申します。この街の入り口でいきなり・・・」

 「無礼者! 何方の御前と心得る。ブレンド・グランデス侯爵様の御嫡男様であられ・・・」

 怒声を上げる男を無視して、殺気、王の威圧を浴びせとる同時に眼光でその男を睨み付ける。

 流石に侯爵の護衛騎士達で、威圧を撥ねのけて剣を抜くが、フーちゃん達が嫡男の左右に陣取り牙を剥くと動きを止めた。

 「此れから話すことは、今、偉そうに喚いたブレンド・グランデス侯爵家の浮沈に関わる事だ。邪魔をするのならそれなりの覚悟を持ってしろよ」

 執事を見れば必死で頷いているが、威圧を受けて身体が震えている。
 威圧と眼光、睨まれた奴限定の筈が、周囲にも影響が出ているのは修行が足りないからかな。

 「この街の入り口で、御当家の騎士達から声を掛けられ、隊長なる男からいきなり斬りかかられたのが騒ぎの発端ですが、詳しくは執事から聞かれよ」

 威圧を解除して、執事にお坊ちゃまに説明しろと促す。
 執事が急いでお坊ちゃまの側に寄り、護衛達に聞こえぬ様に小声で説明を始めた。
 その説明を聞きながら俺を睨んでいたが、段々と顔色が悪くなっていき、途中で厳しく執事に問いかけている。
 そして、その目付きが段々と険しくなっていく。

 やる気なら何時でも受けて立つよ。
 そのために屋敷に踏み込んだときから、フードを被り手袋を嵌めているのだ。
 室内なら魔法攻撃や弓は使えない、そうなると接近戦では俊敏と剛力にジャンプを使えば、簡単に負けはしないだろう。

 執事が必死に何か言っているが、ご不満の様なのでビーちゃん達を呼び寄せてやる。
 重低音の羽音が聞こえ始めると、執事が真っ青になり窓に駆け寄る。
 それを見てお坊ちゃまも窓に近寄るが、ガラス越しにキラービーとご対面。
 それも続々と窓の外に集まりだし、あっと言う間に窓の外にはキラービーのカーテンができて薄暗くなり、室内は重低音の羽音で話し声も聞き取りづらくなる。

 冬で良かったな、少しでも窓を開けていれば今頃は室内をキラービーが乱舞していただろう。
 お坊ちゃまはビーちゃん達と俺と執事を交互に見て、泡を吹きそうな顔になっている。
 護衛の騎士達は完全に腰が引け、ショックを与えれば即座に逃げ出しそうな気配だ。

 此の儘では埒があかないので執事を手招きする。

 「お坊ちゃまは俺の条件が不服か? 嫌なら此のまま帰るが、王妃様の身分証を見せた以上は何も無かったことには出来ないぞ」

 「必ず説得いたしますので、今暫くお待ち下さい」

 必死な顔の執事に免じてもう少しだけ猶予を与える。
 窓の外に群がるビーちゃんの大群を見て心が折れたのか、執事の説得に案外あっさりと頷き執務机に向かった。
 ビーちゃん達には再度上空待機をお願いして、執務机の前に立つ。

 「面倒事は嫌いなので先に言っておくぞ。筆跡を変えたり署名に細工をするな。その辺に転がっている書類と見比べて、違えばそれまでだからな」

 「承知致しております!」

 執事が最敬礼で返答し、お坊ちゃまも反抗せずに頷いている。
 執事と彼此相談しながら記入していくのを待つ間、勝手にキャビネットから酒とグラスを持ち出して立ち飲み。
 貴族の屋敷に乗り込む度にただ酒を飲んでいて、どうも酒癖が悪くなりそうだ。
 しかし流石は侯爵様、伯爵家で味見した酒より良い酒なので酒蔵を探検したくなってきた。

 執事が恭しく差し出す二通の書類を確認し、執務机の上の書類と見比べる。
 筆跡も署名も問題なしだが気に入らない。

 「これは子供の落書きか?」

 「何が不服だ。要望通りに書き、その方の責任を問うつもりはないぞ」

 「これを公式文書と言うつもりか? なぜ侯爵家の紋章入り公印が押されてないのだ。代わりにお前の血判でも押すか」

 「済まない! 直ぐに押させてもらう」

 慌てて返事をするが、あまり舐めた真似をすると死ぬぞ。
 紋章入り公印の押された書類二枚を丸めてマジックポーチに放り込み、南門まで馬車で送ってとおねだりすると、即座に了承してくれる親切さ。
 最初からそうしろよと思うが、斬り殺す気だった奴と同一人物ではないので文句は控える。

 * * * * * * * *

 執事が同乗して南門まで送ってくれ、最敬礼でお見送りまでしてくれたので礼を言ってダルセンの街を後にする。
 尾行がいないのを確かめてから暫く歩くと、街道脇に石柱が一本立っている。
 草原を見回すと遠くに小さな石柱がもう一本立っているので其方に足を踏み入れ、木々や岩の上にお肉を置いてビーちゃん達に振る舞いお礼を言っておく。

 ドームの中で、のんびりと寛いでいるドラド達オシウスの牙とフラン。

 「結構時間が掛かりましたね」

 「まあね。貴族やお抱え連中って、頭の固い連中が多くて疲れるよ」

 「でも、少し酒臭いから、又飲んできたのですか」

 「フランも、嫌な性格になってきたねぇ」

 「そりゃー、師匠の性格が影響しますから」

 「何なに、貴族の屋敷に乗り込んで酒を飲ませてもらっていたのか」
 「羨ましい奴だな」
 「そんな事なら俺達も付いて行ったのに」

 「止めといた方が良いですよ。シンヤさんと一緒だと、ゴールデンベアの口に頭を突っ込んだ気分になるので、気付けの酒を飲むことになります」

 「良く知るフランがそう言うのなら、シンヤには狩りの時以外は近寄らない方がいいな」
 「そうそう、俺達はお貴族様とは縁のない冒険者だからな」

 * * * * * * * *

 執事のオルウエズが屋敷に戻ると、北門からシンヤと共に帰ってきた騎士八名の取り調べが行われていた。
 判った事は、隊長が十日程前から突然野外訓練だと言いだし、毎日北門の外へ出ていた事。
 北門からブリュンゲ街道に出るが遠くへは行かなかったことと、今日、突然訓練を中止して街に戻り、北門でシンヤに手合わせを挑んだ事だけだった。。

 騎士達の証言から、シンヤを狙っていた節があるが、当人が死亡していてそれ以上の事は判らなかった。
 此れ等のことを含めた事件の全てを記した書面を、王都屋敷のブレンド・グランデス侯爵の元へ急ぎ送られた。
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