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081 グランデス騎士団
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デオルスが伯爵の死亡報告をする急使の早馬を見送ると最後の仕事だ。
「さてと、最後に次期伯爵様にやって貰いたい事がある」
「何をでしょうか」
「強制招集解除の時に、冒険者ギルドの会議室にギルマス以外に三人の貴族と護衛達が居た。そして俺達が獲物を解体場で並べているときには、護衛の騎士達がそれを見ていたんだ」
「それはベルサム領のエンデュラ・レムリード子爵殿と、アッシード領のマルコム・ファラネス伯爵殿でしょう」
「デオルス伯爵と思いは同じ様だったので、王家と冒険者ギルドの取り決めを思い出し、余計な事はするなと釘を刺しておいて貰いたい」
エルドラが必ず伝えますと確約してくれたので、伯爵邸をお暇することにする。
エルドラが用意してくれた馬車で街の出入り口まで送ってくれたが、馬車に乗ってからは、フランの愚痴と嫌味をたっぷりと聞かされて閉口した。
まぁ予備知識なしであれは少々キツかったかなと思ったが、出たとこ任せなので諦めて貰うしかない。
お詫びとして、ゴールドマッシュの粉末を入れた中瓶を一本進呈しておく。
* * * * * * * *
グレン達タンザの楯と別れ、フランやオシウスの牙達と王都を目指して歩く。
一人旅でさっさと草原を走りたかったが、フラン達が王都の家を見ておきたいと言うので断れなかった。
アッシード領クリュンザの街は、マルコム・ファラネス伯爵の領都なので、余計な事を言われないかとヒヤヒヤであったが、強制招集が解除になり多くの冒険者達が自分の街へ帰る為に通るので、すんなりと通れてホッとする。
フランも同じ思いなのだろう、心なしか緊張した面持ちでギルドカードを警備兵に見せていた。
やれやれと思いのんびりと王都を目指したが「この街には野獣は入れられん」とフーちゃん達を拒否されたのが、ブランドル領ダルセンの街。
タンザへ向かう時は迂回していたので、テイムされた野獣の入場を拒否されるとは知らなかったが迂闊だった。
この街はシンディーラ妃の出生地だ、王妃様の身分証を出さずに温和しく引き下がろう。
ドラドさん達に南門の外で待っていてくれと頼み、警備兵に頭を下げて引き返す事にした。
街を突っ切るか迂回するかの違いだが、ちょいと走れば俺の方が早く着く。
な~んて思っていると、別方向から声が掛かる。
「フォレストウルフ二頭を従えた男が居ると聞いたが、お前の名前は?」
貴族用の通路に騎馬の騎士達十数名、先頭の男が値踏みをする様な目付きで俺を見ながら聞いてくる。
フランがさり気なく俺から離れたのは、タンザでの思い出からか危険察知能力に依るものか。
それを見とがめて「お前達も此の男の連れではないのか」
「連れと言いますか、タンザの強制招集が解除になり、ザンドラへ帰る道中王都迄の同行者ですが」
ドラドがしれっと同行者だが仲間ではないと惚ける。
フランと二人ヘイルウッド伯爵邸に呼びつけられた経験から、旅の途中で何か揉め事が起きたときの取り決め通り、そう返答する。
ただし、ドラドやフラン以外は、俺と騎士との遣り取りを野次馬根性丸出しで見ている。
それを見て仲間ではないと判断したのだろう「行って良いぞ」とドラドに告げて俺に向き直る。
「フォレストウルフ二頭と猫の仔を連れた男。シンヤだな」
「知っているのなら、何故聞いてくるのですか」
「なに、確認の為だ。ちょっと我々についてきてもらおう」
「知っているのなら、俺が冒険者なのも御存知ですよね」
「中々の腕前の様で、騎士の一人としてお前に勝負を申し込む」
「俺の事を知っているのなら、そんな事は言わないはずですよ」
「蜂を自在に操っているとかの噂だが、如何な凄腕のテイマーと言えども虫を使役出来るなど法螺にも程があるわ」
此奴の単独行動か、グランデス侯爵かヘイルウッド伯爵・・・子爵の繋がりか。
《ビーちゃん達、聞こえたら皆集まれー》
《あっ、マスターだ》
《マスターが呼んでいるぞ!》
「御託は良いんだよ。俺は冒険者なので、騎士様に喧嘩を売る訳にはいかない。やりたければ此処で剣を抜けよ。後ろの奴共々相手をしてやるから」ビーちゃんがな、との心の声は口にしない。
「此処では狭いし邪魔になる。門の外まで出てもらおうか」
《ビーちゃん達は、呼ぶまで降りて来ちゃ駄目だよ。高い所に居てね》
《はーい、何時でもお呼びください♪》
《針はピカピカだぜー》
《皆集まって来てるよー♪》
《ミーちゃんとフーちゃん達は、少し離れて隠れてなよ》
上空の羽音を気にしていたミーちゃんとフーちゃん達が、そそくさと俺から離れていく。
「負けると判っているのか、お前の使役獣が逃げて行くぞ」
「巻き込まれたくないだけですよ。一つ聞いても良いかな」
「なんだ、命乞いなら後にしろ」
「此れは、グランデス侯爵やシンディーラ妃の差し金か? それともヘイルウッド伯爵・・・子爵家が絡んでいるのか?」
「余計な事を囀る奴だな。気にせずに死ねっ」
抜き討って来たのを一歩下がって躱し、飛び込み様に平手打ち。
指を開いての平手打ちで〈ビシッ〉て音がして顔に四本の指跡が綺麗につく。
「おもし、ろい、男、だ・・・な」
衝撃で脳震盪を起こしたのか身体を揺らしながら強がり言う。
「もう必要無いだろうけど、鏡を見たらビックリするぞ」
《ビーちゃん、俺の前の奴を刺しても良いよ》
《他の子達は俺の前の奴等を取り囲んで逃がさないでね》
《やったー♪》
《俺が行くー》
《いっちばんーん》
《アーン、出遅れたー》
《次の奴を刺す用意をするぞ》
《マスターを守れ!》
《マスター、次はどれですかー》
一気に上空から降ってくるキラービーの羽音に、驚き見上げた男をビーちゃん達が包み込む。
重低音に包まれて藻掻く姿、悲鳴らしき声も漏れてくるが直ぐに倒れて動かなくなる。
《あー逃げてるよ》
《逃がすなー》
《刺しちゃえ!》
《みんな、刺すのは止めて上で待ってて》
《マスターのお願いだぞ》
《上に戻るよー》
《マスター、何時でも刺してやります!》
あ~あ、目の前に一人と、少し離れて四人が倒れて呻いている。
震えながら立ち尽くす男達の所へ行き、所属を確認するが誰も返事をしない。
言いたくなきゃ言わなくても良い。
抜き討って来た男と転がっている剣をマジックバッグに放り込み、倒れて唸っている奴は放置。
顔色を変えて震えている八人の所へ行きご挨拶。
「見ていた通りだ。俺は抜き討って来た奴に平手打ちをしただけ、奴はキラービーに刺されて死んだ」
「おお、おまっ、お前が操っているのか! 隊長を殺した罪は重いぞ!」
「お前、目が悪いのか? 目の前で、キラービー塗れになって倒れたのが見えなかったのか。そこに倒れている四人も、蜂が興奮しているときに動くから刺されるんだ。嘘だと思うのなら俺に斬りかかってみろよ」
「逃げるな! グランデス騎士団の隊長を殺したお前を逃がす訳にはいかない。おとなしくしろ!」
「グランデス騎士団って、馬鹿の集まりなの。聞いても名乗らないけど、自分から所属を喚き散らすとはね。グランデス騎士団と名乗った以上、此の地の領主グランデス侯爵の配下で間違いないな。お前達の主に文句の一つも言わなきゃならなくなったので、侯爵邸まで案内しろ!」
喚いた騎士の腹を蹴り、残りの騎士達を王の威圧で牽制して侯爵邸への道案内を要求する。
ミーちゃんとフーちゃん達を呼び戻し、ビーちゃん達には上空待機をお願いして、喚いた騎士の尻を蹴り上げて貴族専用通路に踏み込む。
「言っておくが、俺はテイマー神様の加護を授かっていて俺を攻撃したり敵意を向けると、キラービーが飛んできて守ってくれるんだ。お前達が俺を憎んでいるので攻撃する気満々だが、俺が刺さないでくれとお願いしている。気に入らなきゃ言ってくれ、何時でもキラービーがお相手をしてくれるから」
そう告げると首をプルプル振っている。
ミーちゃんとフーちゃんが毛を逆立てているので、絶対に刺されないので大丈夫と宥めながら警備兵に身分証を突きつける。
街の出入り口に待機していた冒険者や街の人々は逃げ散り、警備兵も真っ青な顔の新人らしき男が一人しかいない。
「あっ、ああ、あの・・・」
「身分証の紋章が見えるな、此れは王都や如何なる領地でもテイムした獣を連れ込む事を許されている。お前が阻止するのなら、領主共々王家に対し釈明する事になる」
何も言わず、言えずに硬直している警備兵。
上役が職務を新人に押しつけて逃げたのだろうから、虐めるのは止めておく。
青い顔の騎士を蹴って侯爵邸へ行けと命じ、残りの七人には逃げたら腰抜けだと言いふらしてやると脅しておく。
街中に踏み込んだが、キラービーの大群と逃げ散った人々の騒ぎが知れ渡り、街角に人影は無し。
家の扉や窓は閉め切られているが、細めに開けて覗いているのが丸わかり。
途中駆けつけて来た警備兵も、数十メートル上空を群れ飛ぶキラービーを見て近寄って来ない。
勇敢なのは冒険者の方で、革製のズボンに毛皮を頭から被りもそもそ歩きで誰何してくる。
蜂に刺されない工夫には感心するが、ボロ切れで顔や首などを幾重にも巻いている姿は完全な不審者。
俺の方が何者だと誰何してやりたい気分。
「止まれ! お前は何をしている?」
「何をしているって? 騎士団の方に、グランデス侯爵閣下のお屋敷へ案内してもらっている所ですよ」
俺の言葉が意外だったのか〈へっ〉と間抜けな声が聞こえてそれっきり。
先頭の騎士を蹴り「さっさと行け!」と命令して後は無視する。
「さてと、最後に次期伯爵様にやって貰いたい事がある」
「何をでしょうか」
「強制招集解除の時に、冒険者ギルドの会議室にギルマス以外に三人の貴族と護衛達が居た。そして俺達が獲物を解体場で並べているときには、護衛の騎士達がそれを見ていたんだ」
「それはベルサム領のエンデュラ・レムリード子爵殿と、アッシード領のマルコム・ファラネス伯爵殿でしょう」
「デオルス伯爵と思いは同じ様だったので、王家と冒険者ギルドの取り決めを思い出し、余計な事はするなと釘を刺しておいて貰いたい」
エルドラが必ず伝えますと確約してくれたので、伯爵邸をお暇することにする。
エルドラが用意してくれた馬車で街の出入り口まで送ってくれたが、馬車に乗ってからは、フランの愚痴と嫌味をたっぷりと聞かされて閉口した。
まぁ予備知識なしであれは少々キツかったかなと思ったが、出たとこ任せなので諦めて貰うしかない。
お詫びとして、ゴールドマッシュの粉末を入れた中瓶を一本進呈しておく。
* * * * * * * *
グレン達タンザの楯と別れ、フランやオシウスの牙達と王都を目指して歩く。
一人旅でさっさと草原を走りたかったが、フラン達が王都の家を見ておきたいと言うので断れなかった。
アッシード領クリュンザの街は、マルコム・ファラネス伯爵の領都なので、余計な事を言われないかとヒヤヒヤであったが、強制招集が解除になり多くの冒険者達が自分の街へ帰る為に通るので、すんなりと通れてホッとする。
フランも同じ思いなのだろう、心なしか緊張した面持ちでギルドカードを警備兵に見せていた。
やれやれと思いのんびりと王都を目指したが「この街には野獣は入れられん」とフーちゃん達を拒否されたのが、ブランドル領ダルセンの街。
タンザへ向かう時は迂回していたので、テイムされた野獣の入場を拒否されるとは知らなかったが迂闊だった。
この街はシンディーラ妃の出生地だ、王妃様の身分証を出さずに温和しく引き下がろう。
ドラドさん達に南門の外で待っていてくれと頼み、警備兵に頭を下げて引き返す事にした。
街を突っ切るか迂回するかの違いだが、ちょいと走れば俺の方が早く着く。
な~んて思っていると、別方向から声が掛かる。
「フォレストウルフ二頭を従えた男が居ると聞いたが、お前の名前は?」
貴族用の通路に騎馬の騎士達十数名、先頭の男が値踏みをする様な目付きで俺を見ながら聞いてくる。
フランがさり気なく俺から離れたのは、タンザでの思い出からか危険察知能力に依るものか。
それを見とがめて「お前達も此の男の連れではないのか」
「連れと言いますか、タンザの強制招集が解除になり、ザンドラへ帰る道中王都迄の同行者ですが」
ドラドがしれっと同行者だが仲間ではないと惚ける。
フランと二人ヘイルウッド伯爵邸に呼びつけられた経験から、旅の途中で何か揉め事が起きたときの取り決め通り、そう返答する。
ただし、ドラドやフラン以外は、俺と騎士との遣り取りを野次馬根性丸出しで見ている。
それを見て仲間ではないと判断したのだろう「行って良いぞ」とドラドに告げて俺に向き直る。
「フォレストウルフ二頭と猫の仔を連れた男。シンヤだな」
「知っているのなら、何故聞いてくるのですか」
「なに、確認の為だ。ちょっと我々についてきてもらおう」
「知っているのなら、俺が冒険者なのも御存知ですよね」
「中々の腕前の様で、騎士の一人としてお前に勝負を申し込む」
「俺の事を知っているのなら、そんな事は言わないはずですよ」
「蜂を自在に操っているとかの噂だが、如何な凄腕のテイマーと言えども虫を使役出来るなど法螺にも程があるわ」
此奴の単独行動か、グランデス侯爵かヘイルウッド伯爵・・・子爵の繋がりか。
《ビーちゃん達、聞こえたら皆集まれー》
《あっ、マスターだ》
《マスターが呼んでいるぞ!》
「御託は良いんだよ。俺は冒険者なので、騎士様に喧嘩を売る訳にはいかない。やりたければ此処で剣を抜けよ。後ろの奴共々相手をしてやるから」ビーちゃんがな、との心の声は口にしない。
「此処では狭いし邪魔になる。門の外まで出てもらおうか」
《ビーちゃん達は、呼ぶまで降りて来ちゃ駄目だよ。高い所に居てね》
《はーい、何時でもお呼びください♪》
《針はピカピカだぜー》
《皆集まって来てるよー♪》
《ミーちゃんとフーちゃん達は、少し離れて隠れてなよ》
上空の羽音を気にしていたミーちゃんとフーちゃん達が、そそくさと俺から離れていく。
「負けると判っているのか、お前の使役獣が逃げて行くぞ」
「巻き込まれたくないだけですよ。一つ聞いても良いかな」
「なんだ、命乞いなら後にしろ」
「此れは、グランデス侯爵やシンディーラ妃の差し金か? それともヘイルウッド伯爵・・・子爵家が絡んでいるのか?」
「余計な事を囀る奴だな。気にせずに死ねっ」
抜き討って来たのを一歩下がって躱し、飛び込み様に平手打ち。
指を開いての平手打ちで〈ビシッ〉て音がして顔に四本の指跡が綺麗につく。
「おもし、ろい、男、だ・・・な」
衝撃で脳震盪を起こしたのか身体を揺らしながら強がり言う。
「もう必要無いだろうけど、鏡を見たらビックリするぞ」
《ビーちゃん、俺の前の奴を刺しても良いよ》
《他の子達は俺の前の奴等を取り囲んで逃がさないでね》
《やったー♪》
《俺が行くー》
《いっちばんーん》
《アーン、出遅れたー》
《次の奴を刺す用意をするぞ》
《マスターを守れ!》
《マスター、次はどれですかー》
一気に上空から降ってくるキラービーの羽音に、驚き見上げた男をビーちゃん達が包み込む。
重低音に包まれて藻掻く姿、悲鳴らしき声も漏れてくるが直ぐに倒れて動かなくなる。
《あー逃げてるよ》
《逃がすなー》
《刺しちゃえ!》
《みんな、刺すのは止めて上で待ってて》
《マスターのお願いだぞ》
《上に戻るよー》
《マスター、何時でも刺してやります!》
あ~あ、目の前に一人と、少し離れて四人が倒れて呻いている。
震えながら立ち尽くす男達の所へ行き、所属を確認するが誰も返事をしない。
言いたくなきゃ言わなくても良い。
抜き討って来た男と転がっている剣をマジックバッグに放り込み、倒れて唸っている奴は放置。
顔色を変えて震えている八人の所へ行きご挨拶。
「見ていた通りだ。俺は抜き討って来た奴に平手打ちをしただけ、奴はキラービーに刺されて死んだ」
「おお、おまっ、お前が操っているのか! 隊長を殺した罪は重いぞ!」
「お前、目が悪いのか? 目の前で、キラービー塗れになって倒れたのが見えなかったのか。そこに倒れている四人も、蜂が興奮しているときに動くから刺されるんだ。嘘だと思うのなら俺に斬りかかってみろよ」
「逃げるな! グランデス騎士団の隊長を殺したお前を逃がす訳にはいかない。おとなしくしろ!」
「グランデス騎士団って、馬鹿の集まりなの。聞いても名乗らないけど、自分から所属を喚き散らすとはね。グランデス騎士団と名乗った以上、此の地の領主グランデス侯爵の配下で間違いないな。お前達の主に文句の一つも言わなきゃならなくなったので、侯爵邸まで案内しろ!」
喚いた騎士の腹を蹴り、残りの騎士達を王の威圧で牽制して侯爵邸への道案内を要求する。
ミーちゃんとフーちゃん達を呼び戻し、ビーちゃん達には上空待機をお願いして、喚いた騎士の尻を蹴り上げて貴族専用通路に踏み込む。
「言っておくが、俺はテイマー神様の加護を授かっていて俺を攻撃したり敵意を向けると、キラービーが飛んできて守ってくれるんだ。お前達が俺を憎んでいるので攻撃する気満々だが、俺が刺さないでくれとお願いしている。気に入らなきゃ言ってくれ、何時でもキラービーがお相手をしてくれるから」
そう告げると首をプルプル振っている。
ミーちゃんとフーちゃんが毛を逆立てているので、絶対に刺されないので大丈夫と宥めながら警備兵に身分証を突きつける。
街の出入り口に待機していた冒険者や街の人々は逃げ散り、警備兵も真っ青な顔の新人らしき男が一人しかいない。
「あっ、ああ、あの・・・」
「身分証の紋章が見えるな、此れは王都や如何なる領地でもテイムした獣を連れ込む事を許されている。お前が阻止するのなら、領主共々王家に対し釈明する事になる」
何も言わず、言えずに硬直している警備兵。
上役が職務を新人に押しつけて逃げたのだろうから、虐めるのは止めておく。
青い顔の騎士を蹴って侯爵邸へ行けと命じ、残りの七人には逃げたら腰抜けだと言いふらしてやると脅しておく。
街中に踏み込んだが、キラービーの大群と逃げ散った人々の騒ぎが知れ渡り、街角に人影は無し。
家の扉や窓は閉め切られているが、細めに開けて覗いているのが丸わかり。
途中駆けつけて来た警備兵も、数十メートル上空を群れ飛ぶキラービーを見て近寄って来ない。
勇敢なのは冒険者の方で、革製のズボンに毛皮を頭から被りもそもそ歩きで誰何してくる。
蜂に刺されない工夫には感心するが、ボロ切れで顔や首などを幾重にも巻いている姿は完全な不審者。
俺の方が何者だと誰何してやりたい気分。
「止まれ! お前は何をしている?」
「何をしているって? 騎士団の方に、グランデス侯爵閣下のお屋敷へ案内してもらっている所ですよ」
俺の言葉が意外だったのか〈へっ〉と間抜けな声が聞こえてそれっきり。
先頭の騎士を蹴り「さっさと行け!」と命令して後は無視する。
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連載中 全21話
2021年2月17日 23:39 更新
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