能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

文字の大きさ
上 下
80 / 170

080 エルドラ

しおりを挟む
 「ゴブラン、何故冒険者が居て、こんな事になっているのか話せ!」

 ふむ、伯爵の息子らしいが冷静沈着で人の話も聞ける様だな。
 ビーちゃん達を呼ぶのを中止し、様子をみることにする。
 しかし、執事のゴブリンがしどろもどろで説明にならないので、俺が最初から現在の状況に至るまでの説明をしてやる。

 「それを信じろと?」

 「信じる信じないは其方の勝手だが、執事は生きているし此の部屋の護衛達も話を聞いている。デオルス伯爵の死亡報告をしなければならないだろう。だから伯爵の死亡を王都に報告しろと命じていたところだ」

 「お前が、リリアンジュ王妃様の身分証を持っていると言うのは、間違い有るまいな?」

 「そこのゴブリンに渡して伯爵に見せろと言ったので、その辺に転がっている筈だ」

 「ゴブラン、彼の身分証は何処だ?」

 問われてゴブリンがテーブルの有ったあたりをあたふたと探し、伯爵の足下から拾い上げて男に手渡す。
 受け取った身分証をマジマジと見つめ、掌に載せると指を置き何事か呟く。
 あ~ら不思議、王家の紋章が浮かび上がった。
 流石は魔法の世界、偽造防止なのだろうがハイテクだねぇ。
 浮かび上がった紋章を見て男の態度が改まり、俺に向かって一礼する。

 「シンヤ殿、父の失礼をお詫びいたします」

 「少しは話が判る様だな」

 「お話しのとおりなら父の不手際であり、お詫びの申しようも御座いません」

 そう言うと、頭を下げ俺の身分証を両手で持って差し出した。

 「不手際では済まない話だが、王国とギルドの取り決めを無視してまで、何故俺達を配下に加えようとしたのか聞きたい」

 「多分この領地を与えられたからでしょう。以前の領地は王都より東へ十日、そこから北へ四日ほど行ったヘイランズ領コルタナの街で、本街道からも外れた寂れた領地でした。此のフローランス領タンザの街への領地替えを命じられたときに、ドラゴンを王家に献上する夢を語っていました」

 おいおい、何か嫌なワードが出てきたぞ。

 「つまり、冒険者達を集めてドラゴン討伐でもさせる気だったのか?」

 「このタンザへの領地替えを命じられてからは、王家に献上すれば覚え目出度く陞爵や裕福な領地を夢見て何かと話していましたので」

 「何か他人事に聞こえるんだが」

 「私は当家の次男でして、兄の補佐を命じられています」

 「此の家の責任者ではないと?」

 「兄は街の視察に出掛けておりまして・・・」

 この非常時に街の視察と言い淀むってのは・・・そう言う事ね。

 「フラン、疲れるだろう。立ちなよ」

 「・・・殺しちゃったんですか。今度こそ犯罪奴隷確実じゃないですか」

 「それはどうかな。お前・・・」

 「ヘインズ・デオルス伯爵が次男、エルドラ・デオルスと申します」

 「視察中の兄とは嫡男か?」

 「はい、シェルカ・デオルスと申しますが・・・」

 「お遊びが好きで、あまり屋敷には帰ってこない・・・か。」

 フランを無理矢理立たせると、伯爵の死体を放り出してソファーに座らせ、キャビネットからグラスと酒瓶を持って来る。

 「こんな時に飲むのですか」

 「あのなぁフラン、こんな馬鹿らしい事は素面じゃやってられないだろう」

 フランのグラスになみなみと注ぎ、俺もグラスに半分程注いで一気にあおる。
 胃から吹き上がる熱い息を吐き、キングタイガーの眼光をもってエルドラを見据える。

 「デオルス伯爵が賜ったこの領地と王都の屋敷は、ヘイルウッド伯爵の物だった。何故降格と領地替えになったのか知っているか」

 「噂では」

 「聞こう」

 「毒蜂に襲われて当主や護衛達多数が死亡し、王家への届けに虚偽が有ったとか」

 注がれた酒をチビチビと飲み、顔色が少し良くなっていたフランの顔が一気に青くなる。

 「その事に関し、俺も少し関わっている。その関わった事とは、此の地の冒険者を貴族の力を使って無理矢理奉公させていたことだ。王都と領都、場所と当主は変われど又同じ事が起きようとした。此れが何を意味するか判るな」

 「当家は、降格されるのですか」

 「俺には何の権限も無いが見逃す気もない。しかし、お前がその気になれば、何も無かったことにして終わらせる事も出来るぞ」

 「よしておきます」

 「何故? 貴族の一員なら取るべき道じゃないのか」

 「この場に居る者で、貴男様に勝てそうな者がいません。もう一つ、王家の紋章入りの身分証を持つ御方が、一人で此の地に来たとは思えません」

 深読みしすぎだが馬鹿じゃないし胆力もある

 「嫡男はシェルカと言ったな。この非常時に、のんびり街の視察に出歩く様な奴は、伯爵家の当主として相応しいとは思えん。其奴を押し込めてお前が家を継ぐのなら、当主は心労のあまり急死とでも報告すればよい」

 「宜しいのですか」

 「馬鹿が当主になれば、領民も配下の者も難儀するだろうし、俺達冒険者にとっても迷惑だ」

 「家族をこの場に呼びますので、その事を伝えてもらえませんか」

 「執事、異論はないよな」

 最敬礼をしているよ。職が無くなる恐れがなくなったんだから当然か。
 壁際や扉の外にいる騎士達を呼び、エルドラを次期当主と認め忠誠を誓うのならば、何も無かったことにすると告げると一斉に跪いた。

 「無茶苦茶だ」フランが青い顔色のままぼそりと呟くが、聞こえなかった振りをして無視する。
 何も無かった事にした方が後腐れがなく、あんたも気楽な冒険者稼業を続けられるんだぜ、とは言わないでおく。

 執事のゴブリンの知らせで現れたのは、伯爵夫人から妙齢の女性に子供達まで六名。
 室内の異変に気づき顔色が変わるが、エルドラや騎士達の緊迫した雰囲気と表情に言葉を飲み込む。

 「此処におられるシンヤ殿は、王妃様の御用係を務められる御方です。父上は、あろう事かその御方に対して、警備兵を使って連行し配下になれと強要したのです。見ての通りシンヤ殿と配下の方は冒険者でもあり、父上の成された事は王家と冒険者ギルドの取り決めを無視する行いです。その為に反撃を受けて亡くなられた」

 「その方が、王妃様の御用係に間違いはないのですか」

 「不審なら、此れを良く見ろ」

 傍らに立つ執事に身分証を手渡し、不信感を顕わにする伯爵夫人に見せる様促す。
 身分証を受け取り、エルドラと同じ様に指を置いて何事かを呟き、浮かび上がった紋章をマジマジと見つめている。

 返された身分証を弄びながら「領都に野獣が押し寄せて来ているときに、街で遊びほうける嫡男は伯爵の器とは認められん、エルドラを次期当主とし・・・」

 「お待ち下さい! 如何な王妃様より身分証を預かる御方といえど、伯爵家の後継者を定める権限は御座いません! 次期当主はシェルカに、シェルカ・デオルスに継がせます!」

 エルドラの野郎、長男教の母親が反対するのを見越して俺に会わせたな。
 まっ、俺の生活の安寧の為にも、期待にそってやるよ。

 「そうか、なら俺も王家と冒険者ギルドの取り決めを無視し、冒険者と俺を強引に配下に加えようとしたと報告する事になる。このフローランスの前領主も、同じ事をして降格と領地替えになった。お前達も此の地を拝領したが、続けて同じ事をしたとなれば、降格や領地替えでは終わるまい」

 「そんな馬鹿な! 許さぬ! 冒険者如きが我が伯爵家の事に口出しなどさせぬ!」

 《ビーちゃん達、来てくれるかな》

 《待ってました! 行きます!》
 《俺も行くぞ》
 《あーん何処から入るの?》

 《マスターみっけ》

 《お返事した仔だけ入って来ても良いよ》

 《おっ、たくさん居るぞ》
 《刺し放題だ♪》

 《あー、刺すのは俺の前に居る・・・おばさんって、頭の上で回ってみて》

 《ん・・・此れかな?》

 《惜しい、その隣りだよ》

 《此奴ね! 毛が一杯だよ》

 《其奴は好きなだけ刺しても良いよ。他は駄目だよ》

 居並ぶ者達が、キラービーの羽音にギョッとした顔になっていたが、頭上を飛び始めたので危険を察知して伏せる。
 しかし、俺が指名した伯爵夫人は悲鳴を上げる事になった。

 〈イヤー〉とか〈痛い〉や〈助けて〉と騒いだが直ぐに静かなった。

 《あーん、もう動かないよ》
 《もっと刺したいよー》
 《マスター、もうないの?》

 《御免ねー、また今度お願いするからね》

 「まさか・・・加護持ちのテイマーと噂の」

 「それ以上は口にしない様に。俺に敵意を持たなければ大丈夫だよ」

 * * * * * * * *

 嫡男シェルカ・デオルスは父の突然死を目の当たりにして心を病み、引き籠もってしまって回復の目処が立たない事。
 伯爵夫人は立て続けに起きた不幸を嘆き、夫の喪に服して誰にも会いたくないと自室に籠もって出て来ない事に決定。

 話が出来上がると、娼館に逗留するシェルカ・デオルスに迎えが出された。
 伯爵の死を耳打ちされ、秘密裏に屋敷にお戻りくださいと言われて迎えの馬車に飛び乗った。
 シェルカを迎えに来たのが伯爵の護衛達だったので、何の疑いも持たなかった。
 しかし、馬車が通用門を通ったところで異変に気づいたが、遊び人が鍛えた騎士達に敵うはずも無く、屋敷裏の離れに押し込められてしまった。
 その際マジックポーチは疎か、伯爵家の身分を示す物や武器など全てを剥ぎ取られて監禁された。
 粗末なベッドとテーブルに椅子、窓は分厚い板で塞がれておりドアは外から閂が掛けられた。
 シェルカは流石に何か不味い事が起きたと悟ったが、全てを剥ぎ取られて閉じ込められてしまっては、どうすることも出来なかった。

 ヘインズ・デオルス伯爵は溢れ出る野獣討伐の陣頭指揮の最中、突然胸を押さえて苦しみだして死亡したとの報告が王城へ届けられた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...