能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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076 アリエラの結界

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 〈ドカーン〉と轟音が周囲に響き渡ったがシェルターは耐えていた。

 「なかなか腕を上げたな」

 「毎日毎日柵作りをやっていましたからね。魔力を絞る事と固くする事しかやることがなかったんですよ。もっと固くすれば、ストーンランスの威力も上がると思いましたし、射てる数も増えますから。でも、ヒビ割れていますからもっと練習します」

 「おいおい、朝早くから何をやってるんだ? ていうか、なんでぇこりゃー?」

 「緊急用のシェルターだよ。フラン達は此れを使えるので、奥地へ行ったり大物討伐も安全に出来るんだ」

 「おお、フランがシェルターとドームを作れるので、野獣の奇襲を受けない限り安心だからな」
 「それに、ウルフやドッグ系は、この中から攻撃出来るので楽だぞ」

 「此れの中から?」

 「大物相手でも、シールドを挟んで攻撃出来るのは大きいからな」

 「アリエラは、仲間と一緒にフランの周りに集まってよ。フランはシールドで包んで、内部から攻撃する方法を見せてやって」

 俺に言われてアリエラがフランの側に立ち、亭主のドーランを手招きしている。
 グレン達もそれに続いてフランの周りに立つと〈シールド〉の声と共に一瞬にして彼等がシェルターに包まれた。

 「ウオーォォ!」
 「凄っえぇぇぇ」
 「本当に一瞬だな!」

 「上を見てください、土魔法ですから、完全に塞ぐと息が出来なくなって死にますので、空気穴を残しています。今から攻撃用の穴を開けます」

 驚く彼等に説明してから、周囲が見える様に穴を開けてみせる。

 「こんな小さな穴から攻撃するのか?」目の前の穴を覗きながらグレンが疑問を口にする。

 「取り敢えず外が見える様に開けただけです。攻撃用の穴はもっと大きいです」

 そう言って、グレンの覗く穴を大きく縦長にしてみせる。

 「このシールドももっと大きく作りますので、弓だけでなく手槍も振るえます。但し、あまり大きくすると穴の外から反撃を受けるので、注意が必要です」

 「あなた、詠唱はどうしているの? 短縮詠唱にしても短すぎるわ」

 「シールドとかシェルター程度の短縮詠唱です」

 「そんな事で魔法が発動するの?」

 「現にシェルターが出来ています。俺も初めは半信半疑だったんですけど、シンヤさんの言葉通りにしたら出来る様になりました」

 シェルターの外に出て周囲からじっくりと観察していたが、フランがシェルターの魔力を抜くと崩れ落ちた。
 またまたアリエラがビックリしているので、見ていて面白い。

 その後はゆっくりとシェルターの作り方を見せて作り方のイメージを固めさせると同時に、短縮詠唱を使ってのシェルター作りの練習だ。
 「シールドは?」の問いかけには、シールドよりシェルターの方が使用用途が広いので、先に覚えてもらうと言って放置。
 三日程デエルゴ村の手前で練習をしてから、交代の為に受け持ちの場所へ向かった。

 * * * * * * * *

 交代の場所に到着したときには、ブラウンベア二頭との戦闘中で大騒ぎ、と言うか少し弱気な声が聞こえてくる。

 〈こな糞! もっと腰を入れてやれ!〉
 〈駄目だ、防ぎきれないぞ〉
 〈この場所は無茶苦茶だ!〉
 〈後ろに流そうぜ〉

 「フラン、頼むよ」

 「はいな、お断りの声を掛けてよ」

 「フーちゃん達を後ろに回すから、気を付けてね」

 怪我人もいる様で、交代前よりも人数が減っている気がする。

 「お疲れー、手を貸そうか?」

 「遅いぞ! さっさと替わってくれ!」
 「こんな無茶苦茶な場所は初めてだ!」

 彼等とブラウンベアの間にシールドが出現し、闘いが一瞬途切れた。
 フーちゃん達がブラウンベアの足を攻撃している間に、フランが前に出てシールドの魔力を抜くと同時にストーンランスを射ち込む。
 一頭の動きが止まると、シールドと喧嘩しているもう一頭の横からストーンランスを射ち込む。
 致命傷ではないが動きが鈍り怒りの声を上げるが、フランが気にした様子も見せずに止めの一撃を射ち込み戦闘終了。

 「はぁ~、助かったぜ」
 「何て簡単に倒すんだ!」
 「此処へ回されたって事は、あんた達も名の売れたパーティーだな」

 「俺達はザンドラの田舎者だよ」

 「それにしては見事な腕だな。猫の仔を連れたテイマーといい、この場所は無名の凄腕が送り込まれる場所かよ」
 「一度きりで良いから交代に行ってくれと頼まれたが、後悔したな」
 「この場所は二度と御免だぜ」

 「ポーションが必要なら持っているよ」

 「頼む。手持ちのポーションなんか、あっと言う間に使い切ったからな」

 中級の下を五本差し出すとビックリしているが、金は要らないと言って怪我人に飲ませる様にと渡す。
 魔法の練習をしていて遅くなったのだ、ポーション代を貰う気はない。

 彼等をフランの作ったドームの中で休ませると、次の野獣が現れるのを待つ体勢になりながら、アリエラにシールド作りの練習をさせる。
 その間は、フーちゃん達が前に出て警戒態勢になる。
 グレン達もフランがブラウンベアを倒すところを見て、安心してアリエラの練習を見物している。

 アリエラの魔力が少なくなると、フランの戦闘を眺めながらお喋りタイム。

 「シンヤさん、魔力が半減したので交代してください」

 「フランは、魔法の回数がどれ位増えたの」

 「50回位は使えると思います。今日32回使ったので魔力の回復迄お願いします」

 「ふむ、魔力の温存を守っている様だね」

 「はい、死にたくないので教えは守っています。何時もなら34、5回程度で休憩するのですが、シンヤさんの討伐を見てみたいので」

 「でも、オークなんて小物まで狩る事はないよ。7、8頭以上の群れなら別だけど」

 「いやいや、此処のオークって村のより一回り大きいですよ」

 「後ろに流しても大丈夫だよ。ハイオークでも2,3頭なら流しちゃえ。俺達の後ろが本来の防衛線で、シルバー以上のパーティーがいるのだから問題ないよ」

 「それにしても、獲物の殆どをシンヤが狩ったって言ってたよな」
 「テイマーのお前がどうやってあれ程の獲物を討伐したのか見たいな」

 ドラドさん達に言われてフランと持ち場を交代するが、もう夕暮れも近い。
 すかさずグレン達タンザの楯メンバーがバックアップに付くが、アリエラは魔力回復していないのでお休みさせて、フランにバックアップを頼む。

 草食獣は見逃して後ろに流しホーンボアや少数のオーク等もパス。
 但し、フーちゃんから連絡の来る様な大物のホーンボアだと、フーちゃんが足止めをしている間に駆けつけて、一瞬の支配と解放。
 動きを止めて解放から目覚める前に突撃して短槍を胸に突き入れる。

 フラン達が疾走と俊敏を交えた動きと、剛力を使った突きで軽々と討伐するのを目を丸くして見ている。
 ハイオークの群れも、疾走と俊敏に加えスーちゃんのジャンプも交え、正面から突っ込み支配と解放の隙に三角飛びで背後に回り、ゴールデンベアの怪力無双を使って短槍を振り回す。
 魔鋼鉄の短槍の重さと切れ味で、ハイオークの首を皮一枚残して斬り飛ばして即死させる。

 尤も、疾走と俊敏にジャンプを使うと、支配と解放は必要無いのだが安全第一を貫く
 これに魔法が施された服を着ていることを知れば、どんな顔をされることやら。
 日が暮れるまでにあまり大物は現れず、その日はフランのバックアップの必要もなく一日が終わる。

 「いやいや、シンヤも無茶苦茶強くなっているじゃないか」
 「お前って、あれ程力が強かったのか」
 「魔鋼鉄製の短槍を振り回しているが、狼人族や熊人族か黒龍族並みの力だぞ」
 「それに、フォレストウルフが良い働きをする」
 
 * * * * * * * *

 フラン達オシウスの牙と配置に着いてから、西に向かう野獣の数が減った気がした。
 一週間もすると最初の頃より大物が減り、討伐せずにお見送りする回数がぐっと増えた。
 その分、暇なのでアリエラの魔法の練習に付き合わされる事になる。

 「フランの魔法をじっくり見ただろう。あの固いシェルターを頭に描けば良いんだよ」

 「それは判っているわよ。でも貴方がフランに魔法の手ほどきをしたんでしょ。魔力の使い方を一から教わったって聞いたわ」

 「シンヤさん、結界魔法って攻撃が無いので教え辛いんですよ。それに、魔力の制御方法なら師匠に敵う人はいませんよ」

 「土魔法のシェルターも、結界のシェルターも同じだと思うけどなぁ」

 「で、魔力を少なく使う方法は? フランの言う事も判るけど、腕から放り出す魔力が減らないのよね」

 アリエラに、腕に送った魔力を何処に留めているのか尋ねて見る。
 肘の少し先から手首の少し手前までの間に魔力を用意して、短縮詠唱のシールドの声と同時に送り出しているが、途中で絞るなんて出来ないとむくれる。

 小さな矢作りで魔力操作を覚えたフランと違い、いきなりシェルターでは違うのかな。
 フランは村で柵作りの時に、俺に言われた魔力を減らす練習から会得して、魔法を使いながら放出する魔力を自在に絞れる様になっていた。
 この方法を聞いても難しいだろうと思ったので、魔法の詠唱前に魔力を用意する方法を教える。

 「アリエラは、魔法を使う前に魔力を溜める事は出来るが絞れないんだよな」

 「そうよ、魔力を送り出す時に減らすって無理よ」

 「だから方法を変えよう」

 アリエラの腕に消し炭で印を付けて魔力の溜まり場を視覚化する。
 手首側はそのままに、肘の方を指二本ほど手首よりに印を付け、その印の間にだけ魔力を溜める練習からだ。
 半信半疑のアリエラだが、魔力溜りから腕の印の間に魔力を集める練習を続けさせる。
 慣れれば魔力を溜めなくても、必要量だけを瞬時に使える様になるはずだ。
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