能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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074 溢れ出る野獣

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 「シンヤは強制招集は初めてだろうし、複数パーティーでの討伐経験がないので、タンザの楯に従ってくれ」

 「頼むぞシンヤ」
 「やばいのは任せるわね♪」
 「バックアップは俺達に任せろ!」

 「それって、俺一人がしんどい思いをするって事ですか?」

 「強い子が先頭に立つ! 冒険者の常識よ」
 「だな、一人で索敵に出て、此れだけの獲物を狩ってくる奴なんてそうそういないぞ」
 「ゴールデンベアを一撃で倒すなんて芸当は、魔法使いでも中々出来ない芸当だからな」
 「どうやって頭に一撃を入れたのか、見てみたいものだぜ」
 「でサブマス、俺達の担当場所は何処なんですか」

 「起点より南で、クリュンザ寄りの左だな。クリュンザからの応援が来たら、俺達は少し奥へ向かう事になる」

 「何か貧乏くじを引かされている気分ですよ」

 「気分じゃなくて、貧乏くじよ。ほんと、規格外の猛者がいると大変よ」
 「お前のマジックバッグから、あれだけ大量に獲物が出て来るとはサブマスも思っていなかったからな」
 「ねぇ、サブマスの顔ったらなかったわ」
 「大儲け確実って顔でにやけまくっていたな」
 「街の危険性よりも、ギルドの稼ぎを優先しまくっているのが丸わかりだぞ」
 「でも覚えておけ、倒した獲物は何時もの2/3の値段だ。1/3は負傷者や死者の保証に回されるからな」

 「マジックバッグが軽くなったけど、遺体を持ち帰る羽目にはなりたくないですね」

 「あんたのマジックバッグって、容量どうなっているの」

 「こらこらアリエラ、人のマジックバッグの事を聞くもんじゃないぞ」

 * * * * * * * *

 「またかよ~、ちょっと多過ぎじゃねえか」
 「シンヤー、一番獲物の多い場所を選んでいるんじゃないよな?」

 「言われた場所から西に向かって半日の所ですよ」

 「だよなぁ~、幾らシンヤがほいほい狩ると言っても、一日に何度も野獣討伐は疲れるんだよ」
 「まっ、一番疲れるのはシンヤだけど、俺達も巻き込まれて疲れるからなぁ」

 「小物や草食系を見逃していて此れだから、森の奥はどうなってるんだろうな」
 「あまり知りたくないわね。行けと言われたら冒険者を廃業するわ」
 「シンヤに半分は後ろに流せって言った方が良いぞ」
 「だな、領主軍や応援の奴等に獲物を回さなかったら、後からネチネチ言われて鬱陶しいからな」

 * * * * * * * *

 「本当に休憩していて良いんですか」

 「良いのいいの、後ろに控える奴等に獲物をあてがってやってるだから」
 「この野営用結界も便利ねぇ」

 「その分金貨をがっぽり取られるけどね。アリエラの結界の方が無料で便利だろう」

 「それでも6~8枚の結界を立てて天幕を張るのは面倒なのよ」
 「今の時期は、隙間風が冷たいから辛いぞ」

 「それなんだけど、シェルター・・・ドーム状の結界を作れないの?」

 「それがよく判らないのよ。噂には聞くけど、どうやれば良いのかさっぱりだわ」

 「俺の友達が土魔法使いだけど、野営用にドームを作っているよ。その方法なら教えられるけど」

 「本当! どうやるの?」

 アリエラが喰いついてきたが、索敵に大物が引っ掛かった。

 「ちょっと待って、あれは見逃せないから行ってくる。フーちゃんとミーちゃんを宜しく」

 「あいよ、気をつけてな」
 「レッドベアかよ」
 「しかもでかいぞ!」
 「あんなのをホイホイ狩る奴が、やっとこさCランクとはな」
 「この強制招集が始まる前は、Dランクだったんだからなぁ」
 「プラチナランカーと言っても通用する腕だぞ」

 * * * * * * * *

 あまり手の内は見せたくないが、そうも言ってられないのでズルを交えた体力勝負で討伐する事にした。
 レッドベアの標準がどの程度なのか知らないが、フランが討伐したブラウンベアより大きいので見逃せない。
 グレン達の所からは丸見えだが、遠目なので支配を使って動きを止め、すかさず解放。

 解放の瞬間正面から突っ込み、飛び越しながら鼻面を殴って興奮させる。
 怒りの咆哮を上げて立ち上がった所を後ろから一刺しして離れる。
 後ろからの攻撃に振り向いた時が最後の時で、心臓を狙って短槍を投げつける。
 剛力どころか、ゴールデンベアから頂戴した怪力無双だ。
 背中に突き出る位にめり込んだ短槍を受け、よろめくレッドベアに飛びつき短槍を引き抜く。
 もう二十頭前後の熊ちゃんを討伐したので心臓の位置は把握済み、支配で一瞬だけ動きを止めれば楽勝の相手だ。

 しかし、アマデウスが召喚した筈の魔法使いらしき奴が見当たらない。
 居るかも知れないが、防衛線が広範囲なので判らないし、他のパーティーがどれ位狩っているのかすら聞こえてこない。
 別に会いたくはないが、凄腕の魔法使いがいればこんな体力勝負の様な討伐は任せるのに。

 レッドベアをマジックバッグに入れ、野営用結界に戻るとアリエラがワクテカ顔で待ち受けていた。

 「シンヤ、その土魔法使いのドームのことを教えてよ!」

 「彼も最初はアリエラと同じだったよ。ただ彼の場合は土魔法だから、野営用のお粗末な小屋だったけどね。俺の知り合いから聞いた話を教えて、強固なドームや防御用の楯、シールドと名付けた物を瞬時に作れる様になったよ」

 「どんな練習をすれば出来るの?」

 「練習より魔力の把握からだね。先ず自分の魔力量と魔力の動きを知ることからだよ」

 「私の魔力は64よ、だからホイホイ魔法を使えないの」

 「だからこそ、魔力量と魔力の流れが把握が出来てからだね」

 「魔力の流れって、魔法を使った時に魔力溜りから腕を通して抜けていく魔力の事よね」

 「そう、その流れを意識して制御する練習から始めたよ」

 「制御って? 魔法を使えば、必要な魔力が腕を通して抜けるって教わったけれど、違うの」

 「それは忘れて。俺も子供の頃に聞いた話だけれど、それを教えてそのとおりにしたら格段に上達したよ。今じゃ瞬時にシールドを立てたりドームを作れるし、ストーンランスでブラウンベアを討伐出来る腕になっているからね」

 「ねぇ~シンヤ、それを教えてくれたら、お姉さんも良いことを教えてあげるわぁ」

 「こらこらかあちゃん、鼻を鳴らすな!」

 「おっ、ドーランがアリエラに捨てられる日が近いぞ!」
 「亭主の目の前で男を誘惑するとは、アリエラも良い度胸をしているな」
 「アリエラ、そんな若造より男の魅力満載の俺にしろ」
 「いやいや、亭主を見限るのならリーダーになびけよ♪」

 「お前等、覚悟は出来ているんだろうな!」

 ドーランの一喝に爆笑で答える仲間達、完全に遊ばれている。

 「本気なら、今晩から寝る前に魔力切れ寸前まで魔法を使ってもらおうかな」

 「それって魔力を増やす方法でしょう。私は加護持ちじゃないので、意味がないわよ」

 「違うよ、魔力の流れの把握と、魔法を使える回数の確認だよ。それが判らなけりゃ、多少は上手くなってもそれ以上の上達は無理だよ」

 「アリエラ、焦るなよ。今の腕前になるにも何年も掛かったんだし、今でも十分助かっているぞ」

 * * * * * * * *

 夕食後アリエラの結界魔法を確かめる為に障壁を作って貰ったが、暇なので全員で見学というなの賑やかし。
 野営用結界の外で、何時も使っている板状の結界障壁作りを見せてもらう。
 近くで見ていると口内詠唱をしているのかブツブツと呟き、おもむろに気合いを発すると結界の障壁がゆるゆると現れる。
 フランが、最初の頃に見せてくれた土魔法の障壁に似ている。

 「自分の魔力量からどれ位使っているのか判る?」

 「量と言われても・・・此れくらいの物なら14,5枚は作れるわね」

 「魔力の流れは? 綺麗に流れている? それとも魔力を絞り出すとか」

 「魔力溜りから腕に導いたものを、掛け声と共に押し出す感じね」

 「その押し出す量は? 多くしたり少なくしたり出来る?」

 「ちょっと待って、そんな事が出来るの?」

 「出来るよ。と言うか、彼は出来る様になったし魔法が強力になりほぼ一瞬で使える様になったね。一つ試してみようか」

 短槍を取り出し、アリエラの結界に叩き付けた。

 〈バン〉と軽い音と共に結界が消滅した。
 剛力に怪力無双が加わったので、手加減を間違えたかな。

 「うっそー・・・此れって、ブラウンベア程度の攻撃には耐えられる物よ」

 「もう一度作ってもらえるかな」

 自慢の結界が軽く破壊されたので、真剣な顔で呪文を呟き結界を作る。

 出来上がった結界を前に「もう一度壊してみて!」と挑戦的。

 「それよりも、この結界にもう一度魔法を掛けてよ。但し、固く強固になれと願って魔力を流してみて」

 戸惑うアリエラに、ドーランが「試してみなよ。出来れば今以上に上達するぞ」と勧めている。

 「結界を作る時の要領で、この結界を固くなれと願って魔力を送り出すんだよ」

 真剣な顔で結界を睨み何かを考えているが、フランと同じ様に詠唱を考えているのだろう。
 何度か口内で呟き、一つ頷いて結界に手を当ててブツブツと呟き〈ハッ〉と気合いを込める。

 不安気ながらも、俺の顔を見て頷き横に下がる。
 んじゃー、一発試させて貰おう。
 軽く素振りをし、正面から短槍を叩き付けた。

 〈バシーン〉と音が響き、結界が震えて消滅した。

 「さっきのより数段固くなっているよ」

 「でも破られたわ」

 悔しそうに呟くと再び結界の障壁を立ち上げ、魔力を込め直す。
 なかなか負けず嫌いの様で、先が楽しみ。

 今度は挑む様に俺を見ると、横に移動し腕組みをして見守っている。
 さっきと同じ程度の力を込めて短槍を叩き付けると〈ガーン〉と硬質音を響かせて揺れもせずに立っている。

 〈オー、今度は耐えたぜ〉
 〈流石はかーちゃん、大したもんだ〉
 〈面白い方法だな〉
 〈でも、闘いの最中には使えないな〉

 「大丈夫だよ。今の事が出来るのなら、一発で固くも出来るから」
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