能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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058 ファンナ

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 伯爵邸を出ると《ビーちゃん達、居るかな》と呼びかけて俺の頭上に集まる様にお願いする。
 返事をしたビーちゃん達が集まって来ると、頭上10数メートル程の所で集結して降りてこない様に頼む。
 最初は十数匹だったが続々と集まり、頭上に小さな霞の様になる。

 「旦那様、あの男の頭上に蜂が集まっているようです」

 「窓を閉めろ!」

 伯爵に怒鳴られて慌てて窓を閉めたが、通用門を出て正門前を通るシンヤの姿が見える。
 その頭上に少し曇った感じに見えるのがキラービーだと判るが、それが段々と薄れていき何も見えなくなった。

 「・・・蜂が消えた様です」

 執事の呟きに、伯爵も向かいに座る男もホッとした顔になる。
 腸が煮えくり返るが、神様の加護を受けているシンヤには手を出せない。
 シンヤの事を振り払う様に「治癒魔法使いと男の行方はどうなった!」と執事に怒鳴りつける。

 「冒険者ギルドでシンヤと争った様ですが、それ以来姿を見た者はいない様です」

 「死んだのか?」

 「いえ、仲間五人の死体を残して消えたそうです」

 「糞忌々しい冒険者共だ! 消えた二人の行方を捜しだし、女は連れて来い!」

 * * * * * * * *

 念願の時間遅延が360のマジックバッグが手に入ったし、ランク8なら獲物で溢れかえる事もないだろう。
 もう少し大容量の物を要求しても良かったが、俺には必要無さそうだし欲を出せば切りが無い。
 それでなくともマジックポーチは1-5と3-60の二つ、マジックバッグは5-90の物と8-360の二つで合計四つも持つ事になった。
 8-360の物は食料中心に保管し、金が出来たらランク3か5の物の時間遅延を増やして其方を食料保存用に使うつもり。

 取り敢えずヒロクンは現れそうもないし、春も近いので一度ザンドラに戻り蜜を集めてから出直しだ。
 ファングキャット二匹を解放し、周辺警戒と周辺警護用の使役獣全てを刺殺してマジックバッグに放り込む。
 解放しても良いのだが、カリオン11頭ブラックウルフ8頭とグレイウルフ15頭を解き放つのは、危険すぎるので仕方がない。

 ザンドラへ向かったがエムデンで寄り道をすることにし、フーちゃん達を草原に残して街に入る。
 夕暮れ時に街へ入りそのまま冒険者ギルドへ直行すると、食堂へ行きエールを片手に目的のパーティーを探す。
 大テーブルの側に居る女性が手を振ってくれたので、再会の挨拶をして座らせてもらう。

 「久し振りね、何処へ行ってたの?」

 「ホルムで遊んでいました。何かテイム出来ましたか」

 「あんたの言った通りにしてみた結果、ゴブリンをテイム出来たしそれ以外もね」

 「で、思い通りに使役出来ましたか」

 「ゴブリンは確認して直ぐに殺したわ」
 「あれが側に居ると臭くッてよ」
 「と不評なのよ。私もあんなのは要らないわ。スライムは無理だったわ」

 「他には?」

 「ホーンラビットにハウルドッグとゴートね。ある程度は使役出来るけど貴方ほどには出来ないわ。ねっ、ファングキャットの捕獲方法を教えてくれない」

 「それは構いませんけど、一日がかりになりますので稼ぎに影響しますよ」

 「それは構わないぞ。ミーちゃんの半分も働いてくれたら十分元が取れるし、ミーちゃんが欲しいと煩いんだ」

 オルクが即座に同意し、他のメンバーも頷いている。
 これで俺の仮説を確認することが出来るので、喜んで協力させてもらう。
 その夜は街のホテルに泊まる事にし、早朝街の出入り口で会うことを約束して別れた。

 * * * * * * * *

 早朝氷結の楯と合流して街の外に出ると、森に向かうがフーちゃんにゴブリンを探してもらい、二頭のゴブリンを生け捕りにする事から始めた。

 「なんでゴブリンを生け捕るの?」

 「リンナさんのテイムを見たいのと俺の能力を比べてからでないと、ファングキャットを探す予定がありますからね」

 リンナがゴブリンに向かい(テイム・テイム)と唱えると、僅かに光りの紐で繋がった様に見えた。
 次いで俺がゴブリンを殴って弱らせてテイムしてみせる。

 「ほう、お前とシンヤでは随分違うな」

 「そうね、テイム出来たときの光りが、私より強いわ」

 「それでゴブリンに名前を付けてみて」

 「名前?」

 「そう、俺は名前を付けることにより、より強く結びつきが出来ていると思っています」

 「ゴブリンに名前を付けて結びつきが強く・・・」

 嫌そうな顔でゴブリンを見ているリンナだが、実験の為にもやってもらわねばならない。

 「ゴブでも良いんですよ。試しが終わったら処分しますから」

 「名付けってどうやるの?」

 「俺の場合は、お前はゴブだって言ってますよ」

 嫌そうな顔で「お前はゴブよ」と言って不思議そうな顔をする。

 「今までのテイムと違い、何か結びつきが強くなった様に感じるわ」

 「それじゃ、俺がテイムしているゴブリンをテイムしてみて」

 「どういう事なの?」

 「いいから、そのままテイムと唱えてみて」

 不思議そうな顔で俺に言われたとおりに(テイム・テイム)と呟くが何の変化も起こらない。
 今度は俺がリンナのテイムしたゴブリンに(テイム・テイム)と念じると〔ゴブリン・2〕とテイム出来た。

 「うっそーぉぉ」
 「おい、なんで他人がテイムしているものをお前がテイム出来るんだ?」
 「初めて見たぞ、てか知ったな」

 「これも加護を授かっているから出来る事だと思うよ」

 ティナの加護と、スキルに付けられた加護が有ってこそ出来る事だと思うが、教える気はない。
 俺のテイムしたゴブリンを名前も付けずに解放して刺殺する。
 リンナも俺に習って開放しようとしたが、俺のテイムが上書きされているので解放できず、其方も俺が解放して刺殺する。

 これでファングキャットをテイムし、解放してからリンナにテイムさせる目処がたったので本格的に探し始める。
 だがミーちゃん頼みなので、ミーちゃんの尻尾を見失わない様に追いかける。
 一人ならジャンプや疾走を使えるのだが、そこまで俺の能力を見せる気はないしついて来れないだろう。

 匂いを嗅ぎ、草叢や灌木の下を徘徊疾走するミーちゃんを追うのは大変で、俺以外は直ぐにバテてしまった。
 これ幸いと彼等を休ませ、護衛にフーちゃん達を残して俺一人でミーちゃんの後を追う。

 フーちゃんとの念話が途絶える距離になってから、彼等から見えない事を確認して本領発揮。
 ミーちゃんを抱えて木から木へジャンプし、ミーちゃんが残り香を探しては次の木へジャンプ。
 お天道様が頭上に来る頃にミーちゃんが反応し、その方向に向かって(テイム・テイム)三度目の(テイム)で〔ファングキャット・2〕とテイム出来た。
 名付けもせずに薬草袋に入れると、リンナ達の待つ場所へと急ぐ。

 「お待たせ~」

 「何処まで行っていたんだよ」
 「それで、ファングキャットは居たの?」

 「ああ、捕まえてきたけどちょっと待って」

 薬草袋から出して手足を縛り、再度薬草袋を被せてから(テイム・解放)

 「リンナはテイマー能力36って言ったよね」

 「ええそうだけど」

 「俺のテイムは解放しているので、此の儘テイム出来ると思うのでやってみて」

 疑わしげな目で見てくるが、俺のテイムを外しているのでリンナがテイム出来るはずだ。

 亭主に促されて(テイム・テイム)薬草袋とリンナが繋がったのが見えたので袋を外してやる。

 「リンナ、名前を付けてやりなよ」

 「えっ、えと・・・考えてなかったわ。ファングキャットなのでファンナね」

 ゴロゴロ言っているファングキャットの戒めを解き、抱え上げたが重そうだ。

 「ちょっと待って、そのまま立たせていて」

 神様二柱の加護を使い、クリーンで綺麗にしてから最後の教え。

 「使役獣の背に手を乗せて小さくなれと願ってみて。ミーちゃんくらいの大きさが、小さくなってもそれなりに動ける限度だと思うよ」

 リンナがワクテカ顔でファンナと名付けたファングキャットの背に手を乗せて「小さくな~れ」と呟く。

 「何度見ても不思議なもんだな」
 「この小さくなるのが何とも」
 「これでシンヤの猫の様に自在に使役出来るのか?」

 「どうだろう。俺はテイマー神様の加護を授かっているので、授けの儀で授かるスキルとは違うと思うけどな」

 「狩りなどはどうやって教えるの?」

 「今どの程度動かせるのか判らないので、それを調べてからだね」

 見ている限り念話で話している様に思えないし、聞き方を間違えると俺の能力がバレる恐れが有る。
 リンナが歩くときに身体の何方側を歩かせるのか、左右に行かせる下がらせる等の意思の疎通がどの程度かを調べる事から始めた。
 結果、リンナは言葉で命令してある程度通じる様だが、細かい指示は無理だった。

 ファングキャットとして狩りは得意だが、売り物になる獲物を狩る事を教えなければならない。
 ファンナには小動物やバード類を狩って獲物をリンナに渡す事と、闘争の際にリンナ達を支援する方法を教えることにした。

 「狩りの方法と、氷結として闘うときの方法を教えるのは明日だな」

 「それじゃ、何処か野営に適当な所を探すか」

 「俺の野営用結界に泊まれば良いよ」

 「そんなに大きな物を持っているのか?」

 「まぁね。食料も大量に持っているので大丈夫だよ」

 「稼いでいるとは思っていたが、想像以上だな」

 「そりゃーミーちゃん一人でチキチキバード二羽も狩れば100,000ダーラ越えますからね。少し貯めれば買えますよ。バード類と野獣討伐の支援は、ミーちゃんのお仕事ですから」

 「ウルフでなくて?」

 「正面は俺でウルフは側面、ミーちゃんは後ろから足を狙って切り裂き動きを鈍らせます。大物は無理ですけど、オーク程度なら足の後ろを爪で切り裂きます」
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