能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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054 ギルドでの争い

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 ペラペラ喋る男の顔を黙って見ていると、突如喋るのを止めた。

 「どうした、俺達ミラージュの仲間になるのが嫌なのか?」

 「嫌も何も、勝手に来てペラペラとよく喋るなと思っただけだよ。それよりも、あんた達は何処から来たんだ?」

 「ん、どう言う意味だ?」

 「あんたの格好は、何処からどう見ても冒険者だが、女の方は足が丸見えで頭がいかれているのかな。それともそれが当たり前の所から来たのか?」

 「・・・まさか、お前も召喚者か?」

 「声が大きいぞ。俺は一人で呼ばれたのだが、あんたは?」

 「俺か、俺達は六人・・・いや、おまけが一人いて七人だったな」

 ビンゴ! 此の世界に来る原因になった屑野郎に間違いなし。

 「お前も同じなら、あのおっさんから何を貰った」

 「俺はテイマーのスキルだけだ」

 「な~んだ、テイマーかよ。俺は土魔法・氷結魔法と転移魔法に結界魔法だ。こっちに来てからは魔法を使って無敵だぜ。それでよぅ、伯爵の騎士を殺す度胸があるのなら俺の下につけ。あの三下共は使い物にならんからな」

 「何を夢見ているんだ、誰がお前の下につくって言った」

 「・・・何だと、てめえぇ。死にたいのか?」

 「おいおい、こんな所で魔法を使えばどうなるのか、馬鹿な頭でも判るよな」

 「テイマー風情が良い度胸だ。街の外へ出るときには気を付けろよ」

 「意気がっていても、警察・・・警備兵は恐いか。伯爵相手でもコソコソやっているもんな」

 《ビーちゃん達おいでよ。俺の前に座っている奴を刺しても良いよ~》

 《行きま~す♪》
 《俺が先だー》
 《マスター、呼んだ~♪》

 〈おい、蜂だ!〉
 〈逃げろ!〉
 〈またかよ~〉

 お~お、前回の事で懲りたのか、脱兎の如く食堂から逃げ出す冒険者多数。

 〈あ~ん、蜂が何だって〉〈痛ってッ〉

 先頭のビーちゃんが一刺して飛びすぎると、少し遅れて後続が奴に突撃するが寸前で弾かれ、次々と見えない壁に当たって下に落ちる。

 《皆攻撃中止、上で旋回していて》

 奴に向かっていたビーちゃん達が天井付近で旋回を始める。

 「くっそー、此れがお前の蜂か。俺を攻撃するとは良い度胸だな」

 「俺は攻撃命令なんて出来ないぞ。お前が俺に敵意を向けるから攻撃されるんだよ。伯爵の騎士達も俺を殴ったので死んだのさ」

 胸元に何かが触れ〈ゴトン〉と音を立てて足下に落ちた。
 何かと見れば、フランのストーンランスより大きな物が足下に落ちている。

 交戦法規クリア、反撃開始!
 結界内で額を押さえながら、俺が平気な顔で立っているのを見て驚いている。
 ムカついたので、殺気、王の威圧を浴びせる。

 食堂内は冒険者達が逃げ散り、残っているのは奴の女と仲間だけだが、俺の殺気で馬鹿話を止めて震えている。
 威圧を受けて震える奴を睨みながら、マジックポーチから特注の短槍を取り出し、オークの剛力全開で結界に叩き付ける。

 〈ドーン〉と豪快な音に、震えていた奴の顔色が変わる。
 奴の顔色から見て、結界を壊せそうなので再び振りかぶり、短槍を叩き付けるが寸前で奴の姿が消えた。
 同時に〈ドーン〉という轟音と〈バーン〉といった破裂音が響き結界が消滅した。

 〈逃げるぞ!〉

 声の方を見れば、奴が女の腕を掴んで立ち上がらせている。
 ビーちゃん達が殺到する前に「覚えていやがれよ、糞野郎!」の一声を残して二人の姿が消えた。

 残った五人がビーちゃん達に刺されてのたうっていたが、直ぐに動かなくなった。
 やれやれ俺と同じ様に、見た目や年齢も当時とは全然違うので確認するまで判らないし、転移魔法に結界魔法とは厄介だねぇ。
 短槍をしまって椅子に座り食事の続きを始めたが、冷たい視線を感じて振り向けば物陰からサブマスが覗いている。

 「何をしているんですか、サブマス」

 「それはこっちの台詞だ! 何が有った?」

 俺の頭上で旋回する蜂を、上目で見ながら小声で聞いてくる。

 「ミラージュの馬鹿が、俺に喧嘩を吹っ掛けてきたのでビーちゃん達が怒ったのさ」

 「またか! お前はこの街から出て行け!」

 サブマスが切れ気味に言うので、ビーちゃん達をサブマスの周辺を飛ぶ様に指示する。

 「サブマス、俺に悪意を向けるのは勝手ですが、注意して下さいね。何か有っても俺は止めませんよ」

 顔色が変わるサブマスに、俺の正当性を強調しておく。

 「サブマス、これを見て下さいよ」

 そう言って足下に転がるストーンランスを蹴る。

 「それは?」

 「ミラージュの馬鹿が、俺に向けて射ち出したストーンランスですよ。これに怒ったビーちゃん達が、奴と奴の仲間に襲いかかった結果がこの騒動です。俺はな~んにも悪くありません」

 魔鋼鉄製の特注短槍を振り回し、奴の結界を叩き壊したが誰も見ていないので惚けておく。

 「さっきの轟音は何だ?」

 「あれですか、そりゃー奴に聞いて下さいよ。俺は魔法使いじゃありませんので、あんな音は出せません」

 「なら・・・その足下に転がるストーンランスはどうしてそこにあるんだ?」

 「ん、此れですか、俺に射ち込まれたに決まってるじゃないですか」

 「だから! 何故それを射ち込まれたお前はピンピンしているんだと聞いている!」

 《ビーちゃん、其奴の顔の前を飛んでやって》

 《は~い》

 ビーちゃんが目の前を飛んだので首を竦めるサブマスに、人差し指を立てて「シーッ」と静かにするよう促す。

 「まさか・・・その服は魔法が付与された物か?」

 にっこり笑ってウインクをしたが、通じたかな。
 こうも大々的に暴れることになっては、温和しい振りも無理だしビーちゃんとミーちゃんだけでは不利だ。

 「サブマス、使役獣の複数登録は出来ますか?」

 「使役獣の複数登録? 今もキラービーと猫を連れているじゃないか」

 「いやいや、ビーちゃんはあくまでもテイマー神様がつけてくれた護衛で、俺の使役獣じゃありません。ウルフを登録しようと思いますので、連れてきても大丈夫ですか」

 「ウルフを連れてくるって事は、もうテイムしているのか!」

 学習しないおっさんだな。

 「サブマス、ビーちゃんを抑えるのも限度があります。そんなに刺されたいのですか」

 「いや、待て! 静かにするから止めろ!」

 「今も止めていますが、サブマスが大声を出すたびに興奮しているんですよ。さっき俺が襲われて興奮した後ですからねぇ」

 「判った、悪かった、静かにするから抑えておけよ」

 「で、ウルフを連れてきますが登録出来ますか?」

 「出来る、加護を持つ者が複数登録していた事もあるし、大丈夫だ。俺も受付に言っておく」

 図らずも伯爵の意向どおりに動くことになってしまったが、見逃す気はないので仕方がない。

 * * * * * * * *

 サブマスの言質を取ったので一度街を出てフーちゃん達を呼び寄せ、直ぐに引き返す。

 俺が街の出入り口を通る度にビクビクしている警備兵が、街を出て直ぐに引き返してきた俺を見てびっくりしている。
 まっ、その反応は織り込み済みなので素知らぬ顔で列の最後尾につくが、列に並んでいた者達が逃げ散ってしまった。
 新人なのだろう警備兵がビクビクしながら俺を見ているので、ギルドカードを示しながらにっこり笑い「俺の使役獣なので登録しに行くところです」と伝える。

 ベテランが逃げてしまい、逃げるに逃げられない警備兵が手を振って行けと示すので頭を下げて冒険者ギルドへ向かう。
 出入り口からそう遠くない冒険者ギルドまでの間、フォレストウルフを見た領民や冒険者達が慌てて逃げて行く。
 逃げるくせに、恐い物見たさからか後をついて来る奴が多くて煩い。

 冒険者ギルドに近づくと、逃げ散っていた奴等や稼ぎから帰って来た冒険者達が、フーちゃん達を見て驚いたり武器を手にしたりとますます騒ぎが大きくなっていく。
 説明して通して貰う親切心はないので、殺気を振りまきながら正面突破だ。

 《マスター、恐いので止めて下さい》
 《怖いです~、マスター》

 《ごめんよ。もう少しの辛抱だからね。人族には攻撃されない限り攻撃しちゃ駄目だよ》

 冒険者ギルドに入って又一騒動だが、素知らぬ顔で受付に行きテイム済みの使役獣だと告げて登録をお願いする。

 「あの、二頭ですか?」

 「はい、二頭ですよ。何か問題でも?」

 「いえ、あの、一頭と伺っていましたので・・・」
 「問題大ありだぞ。二種三頭の使役獣など初めて聞いたな」

 「でもサブマスは先程、登録出来るって言いましたよね」

 「あ~あ、判った判った、テイム済みの印を出してやれ」

 ミーちゃんのは金貨程のメダルだったが、フーちゃんのは倍の大きさのメダルでよく目立つ。
 ギルドカードにもフォレストウルフ二頭と記載されて目出度く登録完了。
 転移魔法使い相手なのでもっと数を増やしたいが、街中で戦いになれば制御出来るのか心配なのでこれで辛抱するしかない。

 奴はギルド内で魔法攻撃をしたのでギルド会員の登録抹消の筈だが、目撃者は俺一人なので弁明を聞いてから処分が決まるそうだ。
 それまでこの街の周辺に居てくれたら良いのだが、逃げられたら面倒だ。
 望みは奴が魔法自慢をしていたことで、あの手の奴は自分が勝てると思えば必ず仕返しを考えることだ。

 魔法使い相手なので昼は森で迎撃準備をし、夕暮れ時に草原に野営用結界を張る生活を続けた。
 周辺警戒の為にカリオンを11頭、ブラックウルフ8頭とグレイウルフ15頭にファングキャット二匹をテイムして迎撃準備完了。

 2、3日に一度獲物を持って冒険者ギルドに顔を出すが、奴はあれ以来姿を見せないときく。
 奴がこの街を捨てて遠くへ行ったのなら、別に追いかけてまで殺す必要もないが用心は怠らない。
 カリオンとウルフ達を、俺の野営用結界を中心に半径100m内に配置し、円内に侵入者がいたら俺に知らせる様に言い聞かせている。
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