能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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045 奥様がお呼び

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 たっぷり食べて一休みした後は、石臼をひたすら回しゴールドマッシュの粉末作りに励んだ。
 薬草袋に溜め込んだゴールドマッシュを全て粉にし、広口瓶3個と中瓶1本と少々になった。

 翌日の朝食は、具材を挟んだパンとスープですませ、のんびり朝のお茶を楽しむ。
 此れからどうしようかと考えるが、商業ギルドに7,500,000ダーラと懐に9,000,000ダーラ少々有る。
 20,000,000ダーラ貯まったら魔法付与の服を買って安全性の向上が当面の目標。
 後は生活に困らない程度に金を貯めて、諸国漫遊でもするかな。

 * * * * * * * *

 怠惰な生活を3日も送ると飽きてきたので、周辺の散策と洒落込む。
 ちょっと思いついてフーちゃんとの通信距離を測ってみたが、概ね100m程度と思われる。
 声に出して呼ぶ3~4倍程度が思念での会話可能距離の様で、確認の為にミーちゃんでも測ったが同程度だった。

 半径100mならビーちゃんの一匹や二匹は居ると思うので、試しに呼ぶと即座に返事が帰って来た。
 返事から僅かな時間で羽音が聞こえ始めると、ミーちゃんが俺の胸にしがみ付くので、小さくして懐にいれる。
 そのうちミーちゃん用のキャリーバッグでも作って背負子に括り付け様かな。

 フーちゃん達を前後に配し、ぷらぷらお散歩しながら地形を覚える。
 出会ったゴブリンには噛みつかない様にお願いしている。
 代わりに殺気、王の威圧を叩き付けてフリーズさせてから刺殺し放置。

 《マスター、人族の様です》

 前衛のフー1が接近を知らせてきたので、ミーちゃんに確認に行ってもらう。

 《マスターとお話ししていた人族です》

 《お話ししていた?》

 《獲物を渡した所です。雄と雌が混ざってます》

 《ありがとう。ミーちゃんもフーちゃんも戻ってお出で》
 《ビーちゃん達は呼ぶまで上で待っててね》

 《は~い》
 《何時でも呼んでね~》

 呼びかけに応じたのが5匹も居たが、どの程度まで俺の声が届いていたのか何れ通信可能距離を測っておくか。
 フーちゃん達を俺の後ろに下がらせ、ミーちゃんを元に戻して草叢に潜ませる。
 慎重に近寄ってくるのが判ったが、敵意は無さそうだ。

 草叢から姿を現すと、オルクと名乗った男が姿を現し隣には弓に矢をつがえた男も居たが、直ぐに矢を外した。

 「猫だけかと思ったら、フォレストウルフも従えていたのか」

 「何かと物騒ですからね」

 「2種3頭も従えるなんて、此れが加護のお陰なの?」
 「ねぇ、ミーちゃんは?」

 「その辺にいますよ。この2頭は護衛ですけど、ミーちゃんには狩りを任せていますから」

 「ウルフを使わずに、猫に狩りを?」

 「チキチキバードやレッドチキンなんかをね。木の上はミーちゃんに任せておけば、結構稼いでくれますから。ところでこの辺に獲物はいるのですか?」

 「ホーンボアやオレンジシープがいるのだが、フォレストウルフを見たって聞いたので、用心していたんだ」
 「群れじゃなかったって聞いたけど、あんたの使役獣とはね」
 「登録はしてないの?」

 「加護を授かって何かと目立っていますし、それにテイマーがテイム出来るのは1頭だと聞いていましたので」

 「確かに目立つわね。ねぇ、一つ聞いて良い」

 「答えられる事なら」

 「私もテイマースキルを授かっているのだけど、どうやってテイムしたの」

 「どうやってと言っても、相手を自分より弱くすればテイム出来るとしか」

 「貴方は能力1って言ってたわよね。それも加護でテイム出来たの?」

 「俺と同じ能力って言うか、弱らせてからテイムしましたよ。貴方の能力は幾つですか?」

 「能力36よ。此れが良くわからないし、テイマーって冒険者に少ないのでね。それに、聞いても答えてくれそうな相手も居ないのよ」

 能力36ってならゴブリン程度はそのままでもテイム出来そうだけど、ゴブリンは嫌だろうな。
 ファングキャットの数値ってどうだったのかな、忘れたが36より多いってことは無いと思う。
 となれば、一発殴って自分の方が上だと思わせればテイム出来るんじゃないかな。

 「一度、ゴブリンで試してみてはどうですか。ゴブリン討伐の時に、一番弱そうなのをぶん殴って逃げられなくしてテイムしてみては」

 「ゴブリンかぁ~、あんなのをテイムするのは嫌よ。ファングキャットがいいなぁ」

 「ではホーンラビットかスライム辺りで試すとか」

 「スライムなんてテイム出来るの?」

 「俺は出来ましたよ」

 「でも連れていないじゃない」

 「ひょっとして、テイムの方法を知らないとか」

 「そうよ、聞く相手がいなかったもの。テイマーは牛馬やエルク等をテイムして。荷運びや馬車の御者をしている人が多いって聞いたけど、いきなり行って教えてと言ってもね」

 「例えばゴブリンをテイムするときには、相手を痛めつけて自分より弱らせます。次ぎに相手に対しテイムを二回呟くのです。テイム出来たら判ると思います。それとテイムした獣を放棄するには、テイムと解放を続けて告げれば放棄できます。それをせずに殺した方が安全ですけどね」

 「それだけなの」

 「俺の場合はね。何しろ聞いて練習した結果ですし、何処まで加護のお陰なのか判らないので」

 「ありがとう。取り敢えず何かで練習してみるわ」

 興味深げに聞いていた仲間とともに、狩りを続けると言うのでお別れしたが、次に出会ったら結果を教えてもらおう。
 普通のテイマーがどの程度使役獣を扱えるのか、意思疎通は何処まで可能なのかさっぱり判らないからな。

 * * * * * * * *

 狩りはミーちゃんに任せ、20日程のんびり過ごしてからエムデンに戻りギルドへ直行する。
 買い取りのおっちゃんに頼まれ物を持ってきたと告げ、解体場へ通してもらう。

 「チキチキバードは捕れたか?」

 「ミーちゃんに聞いてよ。何処へ出せば良い」

 指定された場所に、解体主任ご要望の物から並べる。

 チキチキバード 12羽
 レッドチキン 9羽
 スプリントバード 9羽
 ヘッジホッグ 7匹
 オレンジシープ 1頭
 ファングドッグ 8頭
 カリオン 4頭

 「お前の猫は働き者だな」

 「ねずみ取りに励めと言われているけどね」

 直ぐに査定をして記入した用紙を渡されたので、礼を言って解体場を後にする。

 チキチキバード 12羽、60,000ダーラ×12=720,000ダーラ
 レッドチキン 9羽、20,000ダーラ×9=180,000ダーラ
 スプリントバード 9羽、35,000ダーラ×9=315,000ダーラ
 ヘッジホッグ 7匹、24,000ダーラ×7=168,000ダーラ
 オレンジシープ 1頭、65,000ダーラ
 ファングドッグ 8頭、22,000ダーラ×8=176,000ダーラ
 カリオン 4頭、60,000ダーラ×4=240,000ダーラ
 合計 1,864,000ダーラ

 大きな獲物より鳥の方が稼ぎが良いので、森の奥へ行く必要はないな。
 商業ギルドに預けている金と合わせればもう少しで20,000,000ダーラになる。
 服を作って一文無しにならない様に、もう少しこの街で稼いでおく為に市場へ食料買い出しに行く。

 たっぷりと食料を仕入れて街の出入り口に並んでいると、貴族専用通路に馬車が入って来た。
 冒険者10名に護衛騎士6名と豪華な馬車、その後を従者の乗る簡素な馬車に護衛騎士6名と冒険者が10名続く。
 貴族ってより豪商って感じかなとぼんやり見ていると、通り過ぎた馬車が止まった。

 列が進むので馬車から目を離し前に進んでいると〈おい、お前!〉と怒鳴る声が聞こえてくる。
 こういう時はその場から離れるのが最良の選択だと思うので、足早に進むが前がつかえている。

 「おい、呼んでいるんだ! お前はシンヤだな」

 「えっ、私ですか? 貴族様に呼び止められる覚えはありませんけど、何の御用でしょうか」

 「奥様がお呼びだ!」

 「奥様? 失礼ですが、貴族の奥様に知り合いは居ませんよ。人間違いでしょう」

 「おのれぇぇ、温和しくと言われているので優しくすれば舐めおって。貴様!」
 「止めろ! シンヤ、モーラン商会のミレーネ奥様が会いたいそうなので来てくれないか」

 「ミレーネ様が?」

 「急ぎ頼みたい事が有るそうなので、来て貰えないか」

 ちらっと上を見ると降下してくるビーちゃんが3匹、慌ててストップをかける。
 後から来た男が、俺の視線を追って頭上を見て冷や汗を流しながら、俺を怒鳴ろうとした男を叱責する。

 「この馬鹿が! 丁寧にと言われているのを忘れたのか。上を見ろ! 刺されて死にたくなかったら奴には絡むな!」

 ビーちゃん達を気にしながら、小声で叱っている。

 あれあれ、あいつは俺の事を知っている様だな。
 ならば、あれはモーラン商会の馬車に間違いなさそうだ。
 列の前後にいた者達が好奇心丸出しで俺達の遣り取りを見ているので、この場から逃げ出す為にも奥様に会ってみる事にする。

 「良いですよ。ご用件だけは聞きましょう」

 「おぅ、済まない」

 男の先導で馬車の所へ行くと御者が扉を開けてくれる。
 戸惑う俺に馬車の中から「シンヤ、此処では話せませんのでお乗りなさい」と奥様から声が掛かる。
 この場を逃げ出すには乗るしかないので、渋々馬車に乗ると、中には奥様とミーナに糞親父も乗っていた。

 「どうも、跪く場所がありませんのでご勘弁を」と嫌みったらしく断っておく。

 さて、何処に座れば良いんだ? 糞親父はど真ん中に足を開いて座っているし、向かいには奥様と彼女に凭れて眠るミーナがいる。

 「お父様、少し横に寄られては如何ですか」

 「あっ・・・あぁ」

 冷たい声に、一瞬考え込み嫌々ながらも座らせてやるぞって態度満々の糞親父。
 娘に頭の上がらない所は変わらずか。
 俺が座ると馬車が動き始めた。
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