能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

文字の大きさ
上 下
44 / 170

044 悪戯

しおりを挟む
 「おい、どうしたゴンザス!」

 ご、ゴンザス。
 股間を濡らす男の仲間だろうが、その男はゴンザスってより権兵衛だろう。
 お仲間が来た様だが、素知らぬ顔でエールとつまみを受け取り、すいているテーブルに座らせてもらう。

 「ファングキャット連れとは珍しいな」

 「結構有能ですよ」

 好奇心丸出しだが、悪意はみられないし左右にいる男女も好奇心だけの様だ。

 「さっきのはどうやったんだ?」

 「エールを飲みたかったのに絡んできたので、殺気をぶつけてやっただけですよ」

 「ほう、殺気一発であれか」

 「此処は稼げますか」

 「大物狙いなら、周辺の村に行った方が良いな」

 「薬草採取やバード系を主に狩っているので、大物は遠慮したいですね」

 団体さんの足音が近づいて来るのと、目の前の男が俺の後ろを見ているので権兵衛さんの仲間かな。

 「おい、お前! 俺達の仲間に何をした!」

 「仲間って、あの小便垂れのことか?」

 〈ブーッ〉て目の前の男が吹き出しているし、左右に座る男達も苦笑いになっている。
 一人女性だけが額に手を当てて、あちゃーって表情になる。

 「洒落た事を抜かすじゃねぇか。仲間に手を出されちゃ黙って見逃す訳にはいかねぇ」

 「仲間思いなのは良いけど、手を出されたのは俺の方だぞ。俺はそれに抗議していただけだ。奴の周りに居た者に聞いてみろよ」

 「そんな寝言はどうでも良いんだよ! 仲間の仇、お前に模擬戦を申し込む。嫌なら頭を下げて詫び、この街から出て行け!」

 此奴にも殺気を浴びせてやろうと思ったが、王の威圧の威力では回りに迷惑だし、ゴブリン相手と違うのを忘れていた。

 「随分好き勝手を言うな。他人の使役獣に手を出し、俺をチンピラテイマーと罵った結果だぞ。どうしても模擬戦をやりたいのなら受けてやるが、エールを飲み終わるまで待ってろ」

 此処でビーちゃん達を呼び寄せると、説明するのが面倒だし近くにいるかどうか。

 「俺達〔血風〕を舐めきってるな。おいギルマスを呼んでこい!」

 しかし、同じ大テーブルに座る四人には目もくれようとしない。
 俺の後ろで喚く男の周囲に仲間がいるのに、近づこうともしないのは恐れているからかな。

 のんびりエールを飲んでいると、がっしりとした体躯の男がやってきたが俺の向かいの男を見ている。

 「ほう、〔氷結の楯〕と遣り合おうとは、血風も腕を上げたのか」

 「ギルマス、この小僧だ! 俺達は氷結に喧嘩を売った訳じゃねえ」

 あららら、向かいの男を見ると苦笑いしている。
 エールの残りを飲み干し、ジョッキと皿をカウンターに持って行く。

 「こらっ、小僧! 逃げる気か!」

 「おかたづけをしているだけさ。俺には態度がでかいねぇ~」

 「あん、お前一人か?」

 「そうですね。弱そうだと思って気持ち良く喧嘩を売ってきたので、後悔させてやろうと思い買ってみました」

 「ランクは?」

 「Eになったばかりです。模擬戦の経験も有ります」

 「判った、訓練場へ行け」

 〈おいおい、9対1の模擬戦だぞ〉
 〈何方に賭ける?〉
 〈そりゃー血風と言いたいが〉
 〈さっきの威圧は凄かったからな〉
 〈殺気なんてものじゃなかったからな〉
 〈初めて見る顔だが、ショートソード1本でソロだぞ〉
 〈でもなぁ~、テイマーだろうけど連れているのは猫だぞ〉

 血風って9人も居るのかよ、群れると強くなる典型的なタイプだな。

 ミーちゃんをギルマスの横に座らせ、マジックポーチから模擬戦用に作った木刀を取り出す。
 素振り用の太い木刀は笑われたので、実戦向きな頑丈な木を削ったお気に入りだ。
 お漏らし権兵衛は控えに混じり、俺に模擬戦を吹っ掛けてきた奴が先陣を切る様だ。

 「判っているだろうが、止めと言ったら即座に止めろ」

 ギルマスが不機嫌そうな声で言い、手を振って別れろと示す。
 向かい合った距離は10m、軽く素振りして合図を待つ。

 「始め」の声とともに殺気、王の威圧を浴びせてやると震えて動けない様なので、のんびり男の横へ行き軽く尻バットを一発。

 〈バシーン〉と良い音を響かせて、のけぞり気味に座り込んでしまった。
 剛力のフルスイングなら死んでしまうので手加減したが、痛そう。

 「ギルマス、次の奴お願い」

 「おっ・・・おう」

 〈おい、見たかよ〉
 〈猫を抱えているけど、ソロな訳だよ〉
 〈未だまだ、後8人も残っているんだ〉
 〈おいおい、もう泣きが入ってるぞ〉
 〈こらー、俺は血風に賭けたんだぞ! まだ8人も居て逃げる気か!〉
 〈腰抜け! お前等こそ街から消えろ!〉

 「ギルマス、なんなら8人と纏めてやっても良いですよ」

 「そうもいかん様だぞ」

 ギルマスに縋り付き、何かを必死に訴えている8人。
 誰も出て来ようとしないのでギルマスの所へ行くと、全員がギルマスの後ろに隠れて俺と目を合わせようとしない。

 「全員街を出るので、勘弁してくれと言ってるぞ」

 「何それ。猫を相手に嫌がらせは出来るけど、模擬戦を吹っ掛けておいて逃げるの?」

 「此奴等も、お前の殺気を浴びて強いと判った様だぞ」

 肩を竦めて模擬戦終了を了承する。
 王の威圧でどの程度押さえられるのか知りたかったのに残念。

 ミーちゃんを連れて食堂に戻ると、模擬戦見物から帰ってないのでガラガラ。
 買い取りの方も誰もいないので、即行獲物を売りに行く。

 「解体場、獲物は?」

 「ハウルドッグとホーンラビットかな」

 「かな、まあいい、行きな」

 解体場の通路を指差すので、頭を下げて通る。
 中には騒ぎを知らなかった三組ほどが、獲物を見ながら話し合っている。

 「初めて見る顔だな。獲物は?」

 「ハウルドッグとホーンドッグを十数頭持ってます」

 指定された場所にマジックバッグから取り出し並べていく。

 ハウルドッグ 11頭
 ホーンドッグ 9頭
 エルク 1頭
 ヘッジホッグ 6匹
 スプリントバード 3羽
 チキチキバード 4羽

 「ほう、良い腕の様だな。チキチキバードもか」

 「ええ、此奴のお仕事ですから」

 肩に乗るミーちゃんを撫でてやる。
 先客がいて時間が掛かると言うので、ギルドカードを渡して食堂で待つと伝える。
 解体場を出ると食堂は混んでいたが、何とかエールと串焼き肉を手にテーブルへ・・・大盛況じゃないの。
 中央の大テーブルに空きがあったので座ると、隣のテーブルに先程の氷壁の楯と呼ばれたパーティーがいた。

 「兄さん、なかなかの威圧だな」
 「あの馬鹿は、一歩も動けずに震えていたな」
 「あんた何処から来たの?」

 「ザンドラです。何かと煩いので逃げ出したってところです」

 「ザンドラに加護持ちのテイマーが居るって噂だけど」

 よく御存知でというか、こんな所にまで伝わっているのか。
 黙って肩を竦めておく。

 「キラービーの護衛を連れているって噂は本当か?」

 「まぁ俺が危ない目にあったり困っていたら助けてくれますね」

 「加護を授かっているのに、使役獣が猫なの?」

 「俺は能力が1なんですよ。テイマー神様が可哀想に思って、加護を授けてくれたんでしょう」

 「いいなぁ~。私も猫をテイムしたいわ」ミーちゃんの尻尾を羨ましそうに見ながら呟いている。

 「テイマーで猫連れにしちゃ、あの獲物の数は半端ないわね」

 そう声を掛けて来た女性は、解体場に居た三人組の一人。

 「ほう、そんなに数が多かったのか?」
 「ハウルドッグとホーンドッグで20頭よ。それも殆ど一刺しで仕留めているの」
 「ああ、解体場の奴等も驚いていたぞ」
 「エムデンに居るのなら、一度お手並み拝見したいものだな」

 「俺は近場でしか狩りをしないんです」

 「あっ、俺達もかあちゃんが居るので、無理をしなくて良い近場だけだよ。俺は氷結の楯のリーダー・オルクだ宜しくな」

 「シンヤです。此奴は相棒のミーちゃん」

 〈ブハッ〉って吹き出した奴がいるが、睨むのは止めておいた。

 解体係が査定用紙を持って来てくれたので確認、了承して受け取り精算カウンターへ向かう。

 ハウルドッグ 11頭、14,500ダーラ×11=159,500ダーラ
 ホーンドッグ 9頭、20,000ダーラ×9=180,000ダーラ
 エルク 1頭、130,000ダーラ
 ヘッジホッグ 6匹、24,000ダーラ×6=144,000ダーラ
 スプリントバード 3羽、35,000ダーラ×3=105,000ダーラ
 チキチキバード 4羽、65,000ダーラ×4=260,000ダーラ
 合計 978,500ダーラ

 陽が暮れかかっているので急いで街の外に出ると、フーちゃん達と合流して街から離れた所に野営用結界を張る。
 一息ついたら待望のお食事タイム、その為につまみだけで辛抱していたのだから。
 寸胴を取り出しスープから味わってみることにし、カップに軽く注いだらふりかける容器にゴールドマッシュの粉が入ってない。
 入れてないので当然だが、食い気に負けて焦りすぎだと深呼吸。

 人差し指でトントンと叩き、軽くスープにふりかけてよくかき混ぜて一口。
 美味くなるのは判っているが、たまんねぇ~すっ。
 次いで煮込み料理をカップに盛り、トントンとふりかけて零さない様にかき混ぜて口へ。
 う~・・・子供の様に足をジタバタさせたい気分。

 ミーちゃんが変な顔をして見ているので、俺の幸せのお裾分けをしてあげる。
 餌皿を取り出し、ヘッジホッグの内臓にふりかけて出してやる。
 俺の仕草を見ていたので、慎重に匂いを嗅いでから徐に口にしたが吐き出してしまった。

 《マスター、臭いです。もとの肉が良いです》

 人と獣では嗅覚味覚が違うのを忘れていた。
しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...