能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学

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015 報酬

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 出発準備は二日後に整ったが、立派な身形の護衛騎士14名と伯爵家の騎士が20名に冒険者が20名もいる。
 奥様の説明では、万が一冒険者ギルドやエムデンとザンドラの領主が嘴を挟んできた時の為の、用心だそうだ。
 その為に、エルザート領ホルムの領主ハインツ・リンガン伯爵に頼み、騎士達が同行するそうだ。

 俺達には使用人用馬車が用意され、これに乗ったがメイドも二人付いてくる。
 同時にランク2、2-50のマジックポーチを渡され、食料とお菓子がたっぷりと入っていると教えられた。
 なのでビーちゃん達用に生肉の塊を二つほど追加して貰う。
 
 俺達とミーナとハンナ用の物だから遠慮せずに食べなさいとの有り難いお言葉に、フランと二人最敬礼して出発する。

 お大尽家のお食事は美味しくて、それがもう暫く食べられるのだから頭も下がろうってもんだ。
 フランなんてこんなに美味しい物は初めてですと、食べる度に頬を緩めていたものだ。

 馬車はすっ飛ばす訳ではないがそれでも急いで走っているようで、メイドがこんなに早く走られては溜まらないと嘆いていた。
 俺も馬車は初めてなので、こんなに硬い座席と揺れる乗り物に閉口していたが、荷馬車より乗り心地が良いとフランは喜んでいた。

 ホルムとエムデン間を通常馬車で4日のところを3日で走り、ザンドラに向かって一日少々走った所で馬車を止めて貰った。

 「シンヤ、此処で間違いないか?」

 「大体この辺りですが、森に入らねば正確な場所は判りません」

 「大丈夫だろうな。もしもお嬢様を救出出来なければ、ただでは済まないぞ」

 「またそれですか。俺はあんたの配下じゃないって何度言えば判ります? ただの道案内に何を期待しているのですか。それに、その格好で森に入るつもりですか?」

 「当たり前だ! お嬢様をお迎えするのに、お前達冒険者の様な身形は出来ん!」

 「メイドさん達は護衛の方達と、少し戻った村で待っていて下さい」

 それだけ告げて護衛騎士10名と冒険者20名で森に入るが、1時間もしないうちに騎士達の足取りが遅くなる。
 お陰で、一日で到着できると思っていたのに二日も掛かり、またもや護衛隊長から文句が出る。

 「未だか! お前は一日で付くと言ったでは無いか!」

 「それはあんた達の足が遅いからです。そのせいで冒険者の方達はイライラしてますよ」

 「シンヤ、こっちだ。目印の木が見えているよ」

 《1号、二人が無事か見てきてよ》

 《任せて!》
 《俺達も行っていい?》

 《回りに獣が居なけりゃ行っても良いよ》

 《わーい、行くぞー》
 《俺が先だー》

 俺達の足に合わせてついて来ていたので、退屈していたビーちゃん達が一斉に飛び立っていく。

 〈相変わらず不思議な光景だな〉
 〈蜂を使役するテイマーなんて初めて見たぞ〉
 〈動物しかテイム出来ないんじゃなかったのか〉
 〈ああ、しかも能力1だってんだからな〉
 〈加護持ちは特別だと聞いているが、能力1のテイマーでこれかよ〉

 《マスター、皆生きてるよ》
 《マスター、大きいのが近づいてくるよ》
 《本当だ! 三つも居る》

 《それじゃー、目と鼻と耳を狙って攻撃開始!》

 《うおぉー、行くぞー》
 《まてまて、俺が先だー》
 《刺しまくるぞー》

 「婆や、蜂がたくさん来たよ」

 「多分、シンヤ達が迎えに来たのでしょう」

 * * * * * * * *

 シェルターの周囲を回り、異常が無いことを確認して合図のノック三三七拍子をすると、内部から三二三の返答が聞こえた。
 フランに場所を譲り、隠した出入り口を開放して貰う。

 「婆さん、遅くなったけど元気かい」

 「待ちくたびれたけど無事に到着した様だね。ご苦労さん」

 「ハンナ殿、ミーナお嬢様は無事なのですね」

 「はい、此処から出られずに退屈していましたが、お元気ですよ」

 〈おい、向こうでオークが暴れているぞ〉
 〈何頭だ?〉
 〈多分・・・三頭だな〉
 〈少し様子がおかしいぞ〉

 〈お前、様子を探ってこい。他の者は戦闘準備だ〉
 〈リーダー、多分シンヤの蜂が襲ってるんじゃないですか〉
 〈あー、かもな。テイマーの能力が低いって言う割に役に立つ奴だよな〉
 〈加護が有るだけで最低の能力でもこれほど使えるんだ。人並みの能力が有れば一流のテイマーになれるのに、勿体ない〉

 殴られた仕返しにおっさん達を襲わせてから、蜂の事が知られてしまった。
 しかし、あくまでも加護で通し、俺が指示を出しているとは認めない。
 冒険者達の常識も、昆虫をテイム出来ると思っていないので、加護だと押し通してもそれ以上追求されていない。
 まあ、後は野となれ山となれだ!

 「お嬢様、私がおぶって行きますので背中に乗って下さい」

 「嫌、フランの椅子に座る!」

 「フランの椅子?」

 「隊長さん、これですよ」

 フランがマジックポーチから取り出した背負子を見せる。
 移動する時にフランと交代で背負っていたが、背負子に後ろ向きに座る為に見晴らしが良い。
 落ちない様に腰と腹を布で巻いているので、何の心配も無い。
 なのですっかりお気に入りになっていた。

 ミーナが座った背負子をフランに担がせてやると、元来た道を引き返すことになるが、護衛の騎士達がバテバテだ。
 それを見たハンナ婆さんが隊長に喝を入れているのには笑ってしまった。
 誰にも見られない様にクーちゃんを回収しバッグの中に忍ばせ、ビーちゃん達に周囲の警戒を頼んで元来た方へ歩き出す。

 * * * * * * * *

 待ち合わせの村に到着するとミーナと共に馬車に乗り、彼女の護衛に早変わり。
 お屋敷で奥様以外を蜂に襲わせたのを見て、盗賊相手なら護衛の騎士や冒険者より役に立つと、奥様からミーナの護衛を依頼されたからな。
 父親より強い奥様には逆らえず、それに無事に救出したらご褒美をたっぷり貰えるのだから、二つ返事で引き受けた。

 帰りはミーナも居るので来た時ほどの速度は出さず、六日目にホルムの街に到着しモーラン商会へ直行。
 帰る道中スキルを確認すると、クーちゃんとビーちゃんの数字が消えた。
 0になるのではなく、1の翌日には数字が消えてしまった。
 但し、木登り、毒無効、キラービーの支配はそのままで、寿命でもテイム出来る期間でもなさそうだ。

 セバンスから報酬を貰っておさらばしようとしたら、旦那様がお呼びですと連行される。
 また跪かされるのかとウンザリしたが、報酬を貰わずには逃げ出せない。
 以前の部屋へ案内されて渋々入ると、奥様に抱かれたミーナをおっさんが満面の笑みで眺めているではないか。

 フランと共におっさんの前に進み跪くと「此の度は大儀であった」の一言。
 思わずビーちゃんにおっさんを襲わせてやろうかと睨みそうになったが、褒美を遣わすの一言にぐっと堪える。
 セバンスが革袋の乗ったワゴンを俺達の所へ押してくると、フランと俺に一袋ずつ差し出す。

 「此の度は娘を救ってくれて有り難う。父からの謝礼として金貨200枚をお渡しします。それと今日は此処へ泊まってもらい、明日、当地の領主であるハインツ・リンガン伯爵様に会ってもらいます」

 「奥様、私達は冒険者でして、報酬さえ貰えれば此のまま帰らせてもらたいのですが」

 「貴方が跪くのを嫌っているのは判りますが、貴方の話を聞いてそのままには出来ません。ザンドラ冒険者ギルドのギルドマスターを野放しには出来ませんし、違法奴隷の事もあります。リンガン伯爵様と当地の冒険者ギルドのギルドマスターに、貴方の知ることを全て話してもらいたいのです」

 言葉通りに、被害者を救出して帰って来たのだから、まあ、そうなるわな。
 不承不承承知すると、奥様がにっこり笑い「娘を救って貰った、私からのお礼です」と言ってセバンスに頷く。
 トレーに乗せられた物を持ってきたが、どう見てもマジックポーチだ。

 「お二人は冒険者なので、マジックバッグが必要かと思い用意しました。ランク5で時間遅延が90日の物です」

 「宜しいのですか、マジックバッグってお高いのでしょう」

 「この子の身代金に金貨5,000枚を要求されていました。それなのに、父は貴方達に対するお礼を、金貨200枚で済まそうとしたのです」
 父親を睨みながらそう言う奥様は迫力があり、おっさんはきょろきょろしながら咳払いをしている。

 俺達に対しても、最初の時の威張りようが陰を潜めている。
 奥様と俺達以外、全員がキラービーに刺されているので、迂闊な事をすれば蜂に襲われると思っている様だ。

 マジックバッグを受け取り使用者登録をすると「登録者制限が掛かっていますので他の方は登録や使用はできませんよ」と教えてくれた。
 登録者制限を先にすることも出来るのかと感心した。
 ランク5、5-90、これが有れば食料や薬草を大量保管出来るし、急いでギルドに持ち込む必要も無い。

 与えられた部屋でフランと二人「人助けはしておくもんだね」と喜び合った。
 しかし、モーラン商会の会長、ウォルド・モーランが子爵待遇とはねぇ。
 どうりで護衛を従え、俺達に跪けなんて偉そうに言うはずだよ。

 * * * * * * * *

 一夜明け、ハインツ・リンガン伯爵邸にお出掛けだが奥様の馬車に同乗することになった。
 奥様に依れば、ミーナの誘拐は計画的な要素もあるが一つ間違えばミーナが殺される恐れも有った。
 現に、ミーナとハンナ以外の使用人や護衛達は皆殺しになっている。
 ザンドラ冒険者ギルドのギルドマスターが首謀者ならば、捨て置く訳にはいかないと語気を強める。

 ハインツ・リンガン伯爵邸の正門から馬車は入り、正面玄関に回り込むのを見て憂鬱になった。
 フランは顔が蒼白に近くなり、緊張でガチガチだ。
 頼むから土下座だけは止めてくれよ。
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