転移無双・猫又と歩む冒険者生活

暇野無学

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049 殲滅

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 「丁度オーク三頭を襲っていたのを見付けました。その後ビッグボアを襲っていたので、隙をみてグルーサモンキー二体を倒し、見本として持ってきました。爪痕と喰いついた牙の傷跡を見て下さい」

 ギルマスは唸っているし、冒険者達は初めて見る者も多いらしく、ガヤガヤと品定めをしている。
 夕方強制依頼をしている者と伯爵様の自衛軍の者達を集めるので、皆に見てきた事を説明してくれと言われ了承。
 夕方まで会議室を借りて仮眠を取る。

 眠いのに起こされ、改めて解体場に行き見てきたグルーサモンキーの、特徴と攻撃方法を説明する。

 「すると対人戦の様な闘いは望めないんだな」

 「見た限りでは20メートル前後の高さから襲い掛かってきますが、一匹が目標に向かうと次々と同じ獲物を狙って降る様に襲って来ます。落下する速度と爪で相手を傷付けます。そして少しでも隙があれば喰いついてきます。」

 横たわるグルーサモンキーの爪を見せる、引き出せば太く10センチ近い爪がその鋭さを覗かせる。
 次に牙を見せる、これもウルフの様な牙が左右から覗きその凶悪さを見せる。

 「最初に気づいた時には三頭のオークを襲っていました。あっという間に三頭を倒しそのまま食い始め、5分も掛からず三頭のオークは骨だけになりました。首を斬っている方は始めに首を切り付けたのですが、毛のせいで殆ど斬れませんでした。その為一度突き刺しそのまま刃を滑らせて斬っています」

 〈こんなのが木の上から降ってきたら、防ぎようが無いぞ〉
 〈盾で防いでも、そのまま押し潰されて終わりだな〉
 〈兄さんはどうやって此奴等を倒したんだ〉

 「ビッグボアを喰う為、地面に降りている所を奇襲しました。それと小さい方が平均的なグルーサモンキーで、大きい方は群れの中でも目立つ大きさでした」

 皆がマジマジと大きさを比べ、どうやって倒すか相談している。

 「エディ殿なら、魔法を使わずにどうやって倒します」

 「先ず弓ですね、強弓を扱える者と石弓を使います。頭上に来られたら降ってくるのは確実でしょうから槍を立てて逃げます。槍の石突きを地面に突き刺して後は勝手に突き刺さるのを期待します。其れを逃れた奴に初めて剣や槍を使っての闘いになると思います」

 「つまり接近戦は最後と」

 「見てお分かりでしょうが大きさは大の男と変わりません、これが降ってきたら受け止めるのは無理です。兵の方には手槍を2,3本持たせた方が宜しいでしょう。剣ではまず斬れませんから」

 「つまり槍の2,3本は捨てる覚悟で、直接戦闘になれば突きで倒せと」

 「私ならそうします、剣は身を守る為のショートソード程度にして手槍を優先しますね。猿は剣や槍で闘いません、精々振り回す程度でしょう」

 「エディ、案内して貰えるな」

 「二日前の話ですよ、今から準備し現場に到着しても5日前の場所です。獲物が居る保証はないが、それで良ければ案内します」

 二頭のグルーサモンキーは伯爵が買い上げ、皆を集めて見物させ、兵士や冒険者の腕の立つ者に試し切りをさせた。
 吊り下げられた二頭に斬りかかるが剛毛に遮られ小傷程度しか斬れないのを皆になっとくさせ、その後槍を使っての攻撃で突き刺せる事を教えている。
 この伯爵は中々の知恵者の様だ、部下が指示に従えば多分勝てるだろう。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 兵士120名、冒険者45名の部隊は二日後にフルンの街を出発したが、森に不慣れな兵が多く到着まで難儀した。
 軽鎧に兜で2.5メートル程の短槍を手に警戒しながらの行軍は案内する方も疲れる。
 以前見かけた近くで野営の準備をし、俺は日暮れまで周辺の偵察に出かける。俺の前方にはクロウが木々の枝先を行き安全確認をしてくれている。

 《クロウ右からの風が臭いんだが見てきてくれるか》

 《任せろ》

 ・・・・・・

 《居るぞ、木の枝が密集した所を塒(ねぐら)にしているな。数は判らないが多分以前の奴等だと思うな》

 《歩けば二時間程度かな》

 《そんなもんだろう。帰ろうぜ》

 日の落ちる前に野営地に戻り、伯爵軍の隊長ヒルドに報告する。
 冒険者の代表と話し合ってるが、攻撃は俺の任務じゃない、片隅でクロウを抱いてお茶を飲む。
 時々質問された事に答えるだけなので眠い、明日に備えてさっさと寝ろと言いたいが我慢。

 早朝、薄暗い森を慎重に歩く、後ろに165名を引き連れ歩く場所を選びながらで面倒極まりない。
 予定地点に近づくとクロウが斥候に出てくれた。

 《居るぞ、お前の場所から右手300メートルくらいの場所だ》

 隊長のヒルドに少し待って貰って確認に行く、念話の届く近くまで戻っているクロウを目標に跳び、その後クロウに掴まりグルーサモンキーの巣を目指してジャンプ。

 《寛いでいるね》

 《朝ののんびりタイムだろう。本格的に動き出す前に攻撃出来れば良いんだが》

 《それは俺達の仕事じゃない、報告に戻ろうぜ》

 ・・・・・・

 「居ます。この先300メートル程の所です」

 そう告げるとヒルド隊長が部下に頷く。
 兵達が何か始めたが、良く判らない物をマジックポーチから取り出し皆に配っている。
 長さ4メートル近い先端を鋭く尖らせた太い棒で、先端から1メートル程の所で十字になる様1メートル程の棒が括り付けられている。
 その棒には2本の手槍が括り付けられている。

 「エディ殿、近くに奴等が襲い易い場所はあるかな、出来れば兵が動きやすい広さが有るところ」

 《クロウそんな場所有るかな》

 《そこから少し左に行った所に、灌木の少ない場所が有るぞ》

 その場所を教えると全員を静かに誘導して配置につかせる。
 平均して兵3人に冒険者1人の組み合わせで、等間隔に広がり手に持つ棒を水平に寝かせる。
 先端部より1メートル程下で横棒を括られた棒は落下してくるグルーサモンキーを迎え撃つ槍がわりの道具の様だ
 考えたね伯爵様、全員の準備が整ったのを確認すると笛を吹き始めた。

 一人が笛を吹き始めると其処此処で笛の音が鳴り響き、同時に寝かせた棒を何時でも立てられる様に構えている。
 長く吹き鳴らされていた笛の音が、短い断続音に変わる。
 笛の音に惹かれてグルーサモンキーの群れが近づいている合図だ。
 闘いが始まれば俺は用無し、頭上の木に跳び天辺近くに陣取って文字通り高見の見物。

 斥候役のグルーサモンキーが近づき兵達を見付けると〈グギギ、ギャー〉と吠えると後続の集団が声もなく木々を伝って接近し地上の兵を取り囲む。
 すかさず強弓を構えた兵が近くの猿に矢を打ち込むと、先制攻撃で射られた猿が落下する。
 続いて石弓からも矢が射ち込まれ、よろめくもの落下するものとパニック状態になる。
 2斉射もするとグルーサモンキーの群れの中から独特な鳴き声が響く。

 〈プギャーオォォォ〉

 その吠え声を合図にグルーサモンキーの突撃が始まった。

 「落ち着いて1番から順に受け止めろ。外したら冒険者に任せて2番手と変われ!」

 頭上からグルーサモンキーが飛び降りたのを見た兵が、寝かせていた棒を立て落下してくるグルーサモンキーに棒の先端を合わせる。

 〈ギャアアアァァァ〉
 〈プギャアァァァァ〉
 〈ギョェ〉
 〈ギャアッ〉

 其処此処でグルーサモンキーの悲鳴が聞こえるが、狙いを外した兵の悲鳴も所々から聞こえてくる。

 〈任せて上を見ていろ!〉
 〈こな糞!〉
 〈殺せー〉

 下で待ち受ける兵や冒険者からの反撃を見て、襲い掛かるのを躊躇っている猿には、俺が飛び降りる勇気を与えてやる。
 突如背中に火球が点り、その熱さに我を忘れて飛び降り、落下すると下では兵が先端の尖った棒を持って待ち構えている。

 《何故首から上を炎で包まないのだ》

 《此れは彼等の闘いだからね、多少のお手伝いはするがそれ以上は手を出さない。やれば次回から俺に丸投げされるのは目に見えているからな》

 それを聞いてクロウも親切心を発揮し、猿の鼻面にフレイムの火球を大量にプレゼントしている。
 突然鼻が燃えだしたら誰でもパニックになる、それは野獣でも同じだが木の上にいるグルーサモンキーは、不幸にも地上に落ちるおまけがついていた。
 その不幸の後押しを地上の兵が持つ棒が倍加し、群れ全体がパニックになっている。

 上を見上げグルーサモンキーの攻撃に備えていた、2番手3番手の棒を構える兵は驚いた。
 突然背中や鼻に火を点けたグルーサモンキーが、バラバラ落ちて来始めたのだから。

 「何を驚いている、彼の魔法の援護だ! しっかり狙って援護に応えろ!」

 仲間が燃え次々に落下するのを見たグルーサモンキーが、パニックを起こして逃げ始めると樹上からの攻撃は無くなり、闘いは地上だけとなった。
 然しパニック状態の野獣は遙かに手強い、冒険者や兵に多数の犠牲が出ているがそれも何とか収まった。

 逃げたグルーサモンキーを追ってみると、塒だった場所に戻り興奮状態で喚いている。

 《おい、毛の無い奴、強い・・・仲間死んだ、丸く熱い》

 そうだったクロウは話は出来ないが、鳥獣の言葉が理解出来るんだった。

 《ボスが怒ってる、俺が行く・・・着いてこいって言ってるな。2回戦が始まりそうだ》

 《ボスは何処にいるか判るか》

 一際でかい枝の根元に巣を作り仁王立ち・・・モンキー立ちのボスの首から上を火球で包み、周囲のグルーサモンキーも次々と首から上に火球を乗せて行く。

 《おい良いのかよ、さっきと話が違うぞ》

 《2回戦は厳しそうだし、誰も見ていないから潰しておこうと思ってね。此奴等が生き延びると、又討伐に引き出されるからな。勝てる時に闘うのが俺の主義だと知っているだろう。クロウも又面倒事に巻き込まれたいなら良いけど、嫌なら手伝えよ》

 それからはパニックになっている巣の周りで、残っている雄や雌に子供の殲滅が始まった。
 少数には逃げられたが、こんなもんだろうと納得して引き上げる。
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