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047 本命

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 勝負の結果に罵声が乱れ飛ぶ、中には〈ゴキブリキラー〉って酷い声まで飛ぶ始末で騒然としている。

 「腕は本物の様だな」

 「何の話です」

 「噂の乱闘騒ぎの事だよ。転移魔法が使えるんだってな」

 「まあ、多少ね」

 「本当にブロンズなのか」

 「間違いないですよ。俺は万年ブロンズで昇級せず、細く長く冒険者をするつもりですから」

 ギルマスと話していると、兄貴分と言われた奴等がやって来た。

 「仲間が世話になったな、俺達もドラゴンキラーの一員なので見逃す訳にはいかない勝負しろ」

 今度は6人だ、流石に兄貴分を気取るだけあって腕が立ちそうだ。

 「どうした、見習い相手に勝った気になって、それで終わると思っていたのか。本物のドラゴンキラーの実力を見せてやるよ」
 「武術大会は物足りなかったからな」
 「おう、実力を見せてやるぞ小僧が」

 〈おいおい、ありゃーマジもんのドラゴンキラーじゃねえか〉
 〈あー、今度は負けたね〉
 〈彼奴らゴールドとシルバーだけの集団だよな〉
 〈ゴールド二人とシルバー四人だよ。今度はドラゴンキラーに賭けた方が良さそうだな〉
 〈未だやるとは決まってないぞ〉
 〈逃がす訳ないだろう。あそこはしつこいので有名だぜ〉
 〈森で出会ったら避けて通れって言われてるからな〉

 「あらー、人気者ですね」

 「おう、お前も王都で冒険者を続けるなら断っても良いが碌な死に方はしないぞ」

 へらへら笑って人を見下してくるが、その一言が命取りと教えてやるよ。

 《エディ勝てそうか?》

 《クロウ忘れたの、俺って勝てそうな喧嘩しか買わない主義だよ》

 「良いよ、手合わせをしようか」

 「いい度胸だ、ドラゴンキラーの実力をたっぷり教えてやるよ」

 訓練場に6人が入ると、見物の冒険者から罵声が飛ぶ。

 〈ブロンズ相手にゴールドとシルバー総掛かりでないと勝てないのかよ。腰抜け!〉
 〈闇討ち専門らしいぜ〉
 〈流石ゴブリンキラー〉
 〈えっゴキブリキラーだろう〉
 〈本当にゴールドかよ〉
 〈ゴールドメッキの間違いだろう〉
 〈腰抜け、差しでやれ!〉

 「うわー、凄い言われ様ですねー」

 見物席を睨みながら一人を残し、渋々引き下がるゴキブリキラーの皆さん。

 「大丈夫ですか、森の中でないので闇討ちは出来ませんよ」

 「心配するな、此れでもゴールドランクだ。切り刻んでやるよ」

 「ほえー木剣で切り刻むって凄いですねー♪」

 「ギルマス始めようぜ」

 ギルマスの〈始め〉の声が掛かるとニヤリと笑って構える。
 阿呆だ、ゴールドだから勝てると思っている時点で馬鹿丸出し。
 中段の構えから鳩尾に軽く突きを入れると、簡単に弾きにきたところを狙って全力で木剣を弾き、腕が流れたところを胸に素早く突きを入れる。
 本当の実力を見せてやるよ、胸の一撃で動きが止まった瞬間膝関節を横から叩き折る。

 〈ウオー、一瞬だぜ〉
 〈ゴールドを瞬殺したぞ〉
 〈あの乱闘は伊達じゃなかったんだ〉

 「駄目だギルマス弱すぎる」

 ギルマスが苦笑いしている。
 残りの五人を見ると、唾を吐き捨て訓練場から出て行っている。

 〈おい逃げたぞ〉
 〈ゴブリンキラーも逃げ出す強さって何よ〉

 〈ウォーォォォ〉

 異様な掛け声と共に、片足で斬り付けてくる男の腕を叩き折り顔面を蹴りつける。

 「酷い奴だなー」

 「酷いのはギルマスでしょう。こうなるのを判っていて止めなかったんだから」

 「まぁな、此れから森に入る時は気を付けろよ。証拠が無いから放置しているが、悪い噂は彼奴らが言ってる通り、山程在るからな」

 見物の冒険者を顎で示しながら注意してくれる。

 「返り討ちにしても、証拠が無ければ良いんでしょう」

 俺の顔を見て吹きだし馬鹿笑いしながら手を振って戻っていく。

 《お待たせ、闇討ちに気を付けろってさ》

 《最近物騒だよな。大分挑発していたが勝つ自信は有ったのか》

 《冒険者は野獣相手が本業だ、対人戦の訓練もするが所詮余技だよ。強さならこの間襲って来た奴等や歓迎会を開いてくれた奴等の方が遙かに強いよ。魔法無しで6人相手は流石にきついがね》

 大の字になって転がっている男と、片隅に寄せられている8人を誰が片付けるのかね。
 風邪を引かない様に祈りつつギルドを後にし、アイリの元に向かう。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 闇討ちは恐いので翌日には王都を出たが、遠く離れてついてくる奴が居る。
 のんびり歩き追いついて来そうになったところで道を逸れ、草原の奥に入り街道から見えない事を確認。
 あらー♪ 何か数が多いよ、残り五人と思っていたら10人以上いるじゃない。

 《クロウ倍以上に増えてるよ。繁殖力が強いねー、流石はゴキブリキラーの皆さんだ》

 《勝てると思っているんだろうな、馬鹿な奴等》

 《普通なら数で勝負出来るけどね。まさか二人とも魔法が使えるとは思わないし》

 《来たぞ、殺る気満々だな》

 《気が早いよね、剣なんか使う余裕あるわけ無いのに。後ろからお願いね》

 《ほいよ。手数料はどうする》

 《面倒だから見付けた冒険者の稼ぎに進呈しましょう》

 《だな、別に聞きたい事も無いし》

 返事とともにバッグが軽くなる。

 「律儀ですねぇ皆さん」

 「口の割には朝早くから逃げ出す奴がいるからだよ。覚悟は出来ているんだろうな」

 「あっ、その前に後ろを見た方が良いよ。お連れの方々の姿が消えているのも気づかないって、間抜けだね」

 一斉に後ろを振り返り全員フリーズ。

 「手前ぇー何をした!」

 「こんな事」

 ボス格のゴールドランカーを真上に放り上げる。

 〈ヒェー〉初めての紐なしバンジーに悲鳴を上げて落ちてくる。
 皆の目の前に落ちて来た男を見て、再びフリーズしている。

 「馬鹿だね訓練場で勝負していれば、魔法が使えない分だけ俺が不利だったのに」

 地面に叩き付けられて呻く男の左右から斬り付けて来るが、目の前に火球が現れて踏みとどまった瞬間、上に放り上げる。

 〈ギャーァァァ〉
 〈ウオォォォ〉

 悲鳴を聞いて残りの二人が逃げ出したが、クロウが遙かな高みに放り上げてそれっきり。
 落ちた痛さで呻いている三人も、適当にジャンプさせて後始末終わり。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 フルンまでは街の通過に冒険者カードを示し、貴族の干渉を受けない様に注意して気楽な旅となったが、その分日数も掛かった。
 久々のフルン冒険者ギルド、中に入ると奥の食堂に懐かしい顔が見える。

 「エディさん」

 「ヘルド達久し振りだね元気?」

 「全然帰って来ないから、王都が住みよいのかと噂していたんですよ」

 「ちょっと旅をしたりしてたからな。此処から王都まで歩けば一月近く掛かるだろう、一年二年はあっという間だよ。数が増えてるし稼いでるかい」

 6人組になっているが俺の問いに顔が曇る。

 「最近えらいのが徘徊してまして、迂闊に森に近づけないんですよ」

 「なに、ドラゴンでも出たの」

 ドラゴンキラーを思い出して聞いたら、猿の群れが居着いて危険極まりないらしい。
 グルーサモンキー、数十頭の群れで森の木々を渡り歩く猿だそうで、凶暴なので何組も犠牲になっているらしい。
 音も無く木の上から襲って来て危険極まりないので、最近は草原の方で薬草採取しているが、森の薬草と比べて値段が安く稼ぎが少ないとぼやく。

 現在のランクを聞かれブロンズの一級だと伝えると、なら強制依頼には掛からないから大丈夫だと言い出した。
 グルーサモンキー討伐の為、領主様の軍と共同で討伐するそうだ。
 森の中は冒険者でないと迷うので、シルバーランク以上が強制依頼で、領主の軍と行動を共にする事になっているって。
 〔ヘッジホッグ〕の時のヘルド,イクル,ヘンクの三人はブロンズになっていたが、俺と同じ一級だから除外だとほっとした顔で話してくれた。
 聞けば今もパーティー名はヘッジホッグのままだそうだ。

 新しい三人は俺達の話がつまらない様で、横を向いてエールをチビチビ飲んでいる。
 お邪魔な様なので話を切り上げ、道中で採取した薬草を売る為に買い取りカウンターに向かう。

 紫汁草,円葉草,花蓮草,酔い覚ましと取り出して並べていると、ドカドカと階段を踏みならし数人が降りてくる。
 無意識に振り向くと先頭をギルマスが降りてきて、その後ろに如何にも貴族って服装の男と護衛達。
 慌てて目をそらすが、ギルマスとお目々がバッチリ合ってしまった。
 あちゃーまずったね何て間が悪いんでしょう、貴族に挨拶して振り向くと俺に近づいてくる。

 「おいエディ、何時帰って来たんだ」

 声がでかいってギルマス、出て行きかけた護衛の足が止まるのを見て嫌な予感がする。
 よし! 此処は惚けよう。

 《クロウ絶対に顔を出すなよ》

 《判ってるって》

 「ギルマス声がでかいですよ。俺の可愛いにゃんこがビックリするから、お静かに願います」

 「お前、今のランクは何だ?」

 「えーブロンズの一級ですから、参加は無理ですね」

 足音が近づいて来る・・・来るな帰れ!

 「失礼ギルマス、先程エディと聞こえたのだが、彼がエディ君ですか?」

 「ええそうです、ザクセン伯爵殿」

 頷くギルマスを見て、益々嫌な予感が的中した事に泣きそうになる。
 俺の平穏を乱す奴は殺す! とは言えないよな。

 「失礼、エディ殿少しお話が」

 「伯爵様、申し訳在りませんが私は一介の冒険者ですので、面倒事はお断りします」

 「貴様、伯爵様に対しその態度は何だ!」

 ギルドの中で思いっきり喚いてくれたので注目の的だよ。
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