男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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147 私闘

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 手にした短槍を水平にしながら「俺達に何か用かな」と、尋ねて見る。

 「用も何も、奴の知り合いなら餌に良さそうだと思ってな」
 「ギルドでは後れを取ったが、野外に出れば俺達の力を発揮できる」
 「威圧は確かに凄かったが、実戦の近接戦闘ではどうかな」
 「所詮魔法使いだからな。のんびり詠唱などさせないさ」

 「のんびり詠唱ね。ユーゴも軽く見られたもんだな」
 「いやいや、知らないって恐いよなぁ」
 「魔法使いがいないので知らないんじゃないの」

 「御託は良いんだよ。餌は一人二人居ればいいので・・・」

 「あらら、抜いたよ」

 「ボルヘンは避難所に」

 「えっ、俺達は?」
 「まさか・・・ゴールドランクとやりあおうっての?」

 「ホリエントさんやグレンさん達より弱そうだし、ちょっと腕試しかな」

 「うちのリーダーも、大分ユーゴに毒されているよな」
 「ちょっと迷惑だけど、死ぬ事はないっしょ」
 「多分な。散々殴られた恨みを晴らす時かな」
 「ちょっ、相手が違うんじゃないの」

 「ほう、俺達とやりあおうってか」
 「後ろは任せたぞ」
 「少しは使えるのかな」

 「試してみな! ゴールドだシルバーだと言っても、所詮獣相手のランクだからな。俺達は本格的な対人戦の訓練を積んでいるんだ」
 「ユーゴとは一年以上殴り合った中だし」
 「時々はユーゴに勝てる腕だぞ」
 「グロスタ、それ、自慢になってないぞ」
 「ユーゴの対人戦を見た事がない奴は、どうしても甘く見るんだよなぁ」

 中央の奴に短槍を突き入れ、弾かれた力を利用して横に振る。
 右隣の男が避けたが、姿勢が崩れたところをホウルが跳び込み様に木剣を叩き付ける。
 油断していた男は、それを避けきれずに肩で受けて呻き声を上げて倒れ込んだ。

 「しゃらくさい! 斬り捨てろ!」

 背後を守っていた二人が振り向くが、リーダーのバトラに怒鳴られて後ろの警戒に戻る。

 仲間を怒鳴るバトラに、グロスタが突きを入れると軽くステップして躱す。

 「おっ、流石はゴールドランク! 俺にはちょっと荷が重いから変わって」
 「何を余裕で人に替われって言ってるの。俺は正面の奴で忙しいんだ!」
 「ゴールドランクと手合わせって、羨ましいなぁー、頑張れー♪」

 「この野郎共、俺達を舐めくさってるな」

 「大分剣筋が甘いねぇ、此れでユーゴに勝つつもりなら頭が沸いてるぞ」

 木剣に真剣で斬りかかれば、受けた木剣に刃が食い込むのは当然で、慌てる男に跳び込みざま胸に肘打ちを叩き込む。

 「何をやっている!」

 バトラが怒鳴りながら、縺れて倒れた俺に後ろから斬りつけたが、何かに驚いた様に跳び下がる。
 すかさずグロスタが短槍を突き入れると、腹に槍先が突き立ち〈ウッ〉と声を上げる。
 それを見た残る一人が背を向けたが、後ろでも闘いが始まっていた。。

 「おっ、ゴールドランクに勝っちゃったよ」

 その先では、デリスとルッカスが背後を守っていた男達と打ち合っている。
 背を向けた男に、ホウルが小弓を取り出し連続して矢を打ち込む。

 残る二人は、デリスとルッカスが一対一で打ち合っていたが、デリスは余裕で打ち負かし叩き伏せる。

 「ルッカス、頑張れ~」

 「ちょっ、お前等見物かよ」

 「其奴って、もう一人のゴールドランクだった筈だぞ」
 「マジかよぅ~。デリス、替わってよぉ~」

 「ルッカスさん、落ち着いてやれば大丈夫ですよ」

 「さんは要らないから! 俺もシルバー相手の方が、わったたたた・・・危ないよ」

 「余裕だねルッカス」
 「デリス、手間取ると面倒だから変わってあげて」

 デリスがルッカスの前に出ると「はぁ~、俺には荷が重いよ」等と言いながら見物に回る。

 「つくづく舐められたものだな」

 「そうでもないですよ。俺って八歳の時から対人戦の訓練をやらされていたし、ユーゴさん達に徹底的に扱かれたからね」

 「おっ、やっぱり正統派は違うね」
 「此れから模擬戦はデリスにお任せだな」

 そう言った瞬間、デリスの木剣が相手の手首に吸い込まれて鈍い音を立て、呻く男の頭に追撃が入る。

 「よーし、終わったな」

 「此奴等をどうする?」
 「俺達を餌にするって言ってたから、餌にすれば良いんじゃね」
 「だな、ユーゴに教えても埋めるだろうし」
 「襲われたら殺す。冒険者の鉄則だし、犯罪奴隷にするには連れて帰らなきゃならんからな」

 「身ぐるみ剥いで武器や服は穴の中へ放り込め」

 「お前・・・そっ、その服・・・は?」バトラが腹から血を流し無念そうな呻き声で聞いてくる。

 「お察しのとおりさ、実は俺達もユーゴと共にドラゴン討伐に行ってたのさ」
 「小さいながらドラゴンを討伐しているんだよ」
 「その報酬で買ったのが此の服なんだが、良い服だよ」
 「安心安全快適な優れ物!」

 「勘弁してくれ。俺はリーダーに逆らえなかったんだ」
 「頼む、ポーションを飲ませてくれ」

 「お前も冒険者だろう模擬戦ならともかく、森で待ち伏せして負けたからと命乞いなんてするな」
 「心配するな。今晩には野獣の腹の中だから」

 剥ぎ取った下着を口に突っ込んで猿轡をし、手足の腱を切って放置する。

 * * * * * * * *

 「ユーゴちゃん」って声に振り向けば、ハティーが手を振っている。
 コークスがにやにやと笑い、ボルトとキルザも苦笑いをしている。

 エールのジョッキを持って同じテーブルに座ると、キルザがハリスン達に会ったかと聞いて来た。

 「いや、最近会っていないけど何か」

 「お前がデリスって奴を、ハリスン達に預けただろう。その後で噂の奴等と会ったらしいぞ」

 周囲に聞こえない様に小声で教えてくれる。

 「会ったって、何処で?」

 「森でだよ。待ち伏せしていたらしいが、ハリスン達が先に気付いたそうだ」
 「ハリスン達が言うには、彼等を囮にお前を呼び出すつもりだったらしいぞ」
 「それが返り討ちに遭って・・・お可哀想に」
 「野獣の腹の中だそうだ」
 「若いとみて侮ったのだろうな。お前と張り合って殴り合う連中だ、並みの奴等じゃ勝ち目がないよな」
 「いやいや、ユーゴと殴り合う仲だ。ゴールドランクでも勝てなかったって事だな」

 あらら、バトラちゃん死んじゃったのかよ、計画がおじゃんだぜ。

 コークス達と別れてホテルに戻り、上等な街着に着替えて紋章もばっちり見える様にし、辻馬車を呼ばせる。
 御者に命じ、旧ロスラント子爵邸へお出掛けだ。

 流石は王国に仕える者が代官をし、配下も王国から派遣された者達なので身分証を見せるとすんなり通してくれる。

 「此れはこれは、フェルナンド男爵様。何か御用でしょうか」

 「代官殿に少し頼みがあってお邪魔しました。教会に紹介状を書いて貰えないだろうか」

 「教会に、ですか?」

 「ああ、教会がシエナラの街でどの様な役割を果たし活動をしているのか、興味が湧いたので聞いてみたくなってね。俺が直接行くと警戒されかねないので、代官殿に紹介して貰おうと思ったのさ。名前はルッカス・オンデウス、オンデウス男爵の縁の者で、冒険者をしていると書いてくれると有り難い」

 「オンデウス男爵の名前を使っても宜しいのですか?」

 「大丈夫だよ。彼とはドラゴン討伐を共にした仲だし、今シエナラに居るはずだが、別行動なので会えなくてね」

 代官は他人の名を騙る事に渋ったが、身分証の力で押し切り紹介状を書かせた。

 * * * * * * * *

 上等な街着に頭と顔をスカーフで覆い、長めのケープを羽織りフードを被って外見を隠す。
 教会では神父様にご挨拶をし、金貨五枚のお布施を弾んでから代官に書かせた紹介状を差し出す。

 「此れはご丁寧な。アッシーラ様のご加護が貴男をお守り致します様に」と、上等な衣服に金貨の威力は十分に現れる。

 「実は神父様にお尋ねしたい事が少々御座いまして」

 「如何様な事でしょうかな」

 少し警戒気味な返答に、さも何でもないと言わんばかりに軽く問いかけてみる。

 「いえ、遠縁の者が授けの儀に臨みましたのですが、なんと、神様の悪戯だと言われまして酷く落胆しております。それで神様の悪戯とは何の事かお聞きしに参った次第です」

 「おお、その様な事ですか。授けの儀に際し、極偶に現れる現象でしてね。私共では、アッシーラ様が魔法を授けた相手を間違えてしまった時に、それを取り消す為ではないかと伝えられています」

 「アッシーラ様がお間違えに?」

 「ほれ、授けの日には多数の者が集います。それぞれの者に魔法を振り分けますが、余りに数が多いので時に取り違えられるのでしょう。その魔法名を消す為に、縦横の線で読めなくするのでしょう。私共もアッシーラ様の間違いとは申せませんので、悪戯と・・・」

 「なる程。それで魔法は授からなかったが、魔力だけは残っているのですね」

 「極々希に見られる現象ですからね。・・・そう言えば数年前にフェルカナでそんな事が噂になりましたが、その方の事ですかな」

 「まぁ・・・一族の、何と申しましょうか」

 「貴族の一員ともなればねぇ、お察しいたします」

 「此の事は、ご内聞に願えれば・・・」そう言って新たに金貨五枚の包みをそっと手渡しておく。

 鷹揚に頷かれた神父様は、受け取った包みの重さを確かめると素速く懐にしまった。

 此れで顔を隠してフードを被っていたのも当然と受け取って貰えるだろう。
 思わぬ収穫もあったので満足してホテルに帰る。

 さて、フェルカナならコッコラ商会の支店が在るので、そこから探りを入れるかな。
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