男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

文字の大きさ
上 下
131 / 161

131 転移魔法旅

しおりを挟む
 ホリエントに「暫く留守にする」と告げて上空へジャンプし、朝日を背に受けて西へ跳ぶ。
 馬車旅にしろちんたら歩くにしろ、転移魔法で一気に移動できると判っているのに付き合うのは面倒だ。
 ドラゴン討伐の時には、此れほど転移魔法が使えるものだと思っていなかったが転移魔法様々だ。

 有り難うアッシーラ様、お布施をはずもうと思いながらも、教会に近づきたくないので振り込んでいませんが感謝はしています。
 空の旅を楽しみながら、らちもない事を彼此と考える。

 アランドの手前で地上に降り、結界の中でお茶を飲みながら魔力の回復を待つ。
 以前魔力切れから回復迄の時間が6時間程だったが、魔力半減からなので2時間ちょいで全面回復した。
 今回は使える回数の約半分を使用して残魔力が41なので、また少し使える魔力が増えている計算になる。
 シエナラに到着したら魔力測定をして、正確な魔力の使用回数を確認しておく事にする。

 11時前にはアランドを飛び越え、次の大きな街ハブァスに向かい遠くにハブァスらしき街が見えたところで降下。
 残魔力が42、転移で移動するって事はほぼ全ての時間を魔力回復に当てる事になると理解した。

 11時前に出発して今は11時前、ジャンプしていた時間は極僅かで魔力の回復に2時間少々掛かる。
 連続のお茶タイムは退屈なので、魔力の完全回復まで歩く事にする。
 街道を一人で歩けば厄介事に出会す確率が高いので、街道沿いの草原をのんびり歩く。
 旅をしているというよりお散歩だが、王都周辺と違い獲物とこんにちは率が高い。

 ゴブリンが索敵に引っ掛かると進路変更し、目視と同時にアイスランスの連射で仕留めて放置。
 ホーンラビットやヘッジホッグ等は、アイアンやブロンズランクの為に無視し、キラードッグの群れをほぼ殲滅してから出発する。

 ハブァスを飛び越えて次の目標はシュルカ・・・の手前。シュルカまで跳べば馬車で12日の距離を一日で跳ぶことになる。
 のんびり跳んでもシエナラまで2日で跳べることになるが、今回は寄り道の予定なのでシュルカの手前で野営をする。

 翌日はフェルカナの冒険者ギルドに寄り、獲物を売りに買い取りカウンターへ行く。
 此処は初めてなのでギルドに入った時から注目の的だ。

 「あ~ん、解体場だと?」

 マジックバッグをポンポンして少し多いと告げると、頭の天辺から爪先まで二度見されてから、奥へ行けと顎で示された。
 態度が悪いね、フェルカナ周辺の森は案外獲物が少ないので持ち込まれる物も少ないのかな。

 解体係の指示に従って獲物を並べるのだが、多いと言っても鼻で笑って此処へ出せと怒鳴られた。
 ゴールドカードを鼻先に叩きつけてやろうかと思ったが、素直な性格の俺は指示された場所にマジックバッグから取り出して積み上げる。

 エルク 1頭
 キラードッグ 16頭
 ハウルドッグ 13頭
 オーク 7頭
 ホーンボア 4頭
 ラッシュウルフ 11頭

 〈馬鹿! 止めろ!〉とか〈綺麗に並べろ!〉とか騒ぎ出したが素知らぬ顔で積み上げてやる。

 「てめえぇぇぇ、綺麗に並べて出せ!」

 「あぁ~ん、マジックバッグを示して大量に持っていると言ったぞ。其処の糞馬鹿が、鼻で笑って此処へ出せと怒鳴ってきたから出したまでだ。文句が有るのなら、其の糞馬鹿に言え!」

 「己は俺達を揶揄っているのか!」

 汚いつばを飛ばして睨み付けてくるので、ならばとブラウンベア並みの威圧で返してやる。

 「ギルドの職員だからと冒険者を馬鹿にしすぎじゃないのか。気に入らないようなので売るのは止めるよ」

 俺の威圧を受け、脂汗を流す解体職員に告げて獲物は全てマジックバッグに戻す。

 「邪魔したな、糞馬鹿野郎!」

 こんな所はエールを呑んだらおさらばだ。
 食堂に行き、エールを頼みつまみはと見ると不味そうな肉が並んでいる。
 マスターと交渉して、カラーバードを提供するのでステーキを焼いてくれと頼む。

 ステーキに使った残りの肉を貰えると知り、愛想良く注文に応じてくれる現金な奴。
 マジックバッグから取り出したカラーバードは無傷で死後硬直が始まったばかり。
 マジックバッグとカラーバードを交互に見てから、でかい鳥を抱えて奥の台に乗せ羽根をむしり始めた。

 お肉が焼けるまでエールをチビチビ飲んでいると、何か注目の的だ。
 足音荒くやって来るのは解体用エプロン姿のおっさん。

 「お前か、さっき獲物を持って来ていた奴は?」

 「そうだが、あんまり巫山戯たことを言うので売るのは止めたよ」

 「其奴等が何を言ったのか知らないが、一度査定依頼に出した物を引っ込めるとは冒険者にあるまじき行為だぞ。獲物を出せ! 出さないのなら、ギルドカードを取り上げるぞ!」

 飲みかけのエールを男の顔に浴びせ、ドラゴンメンチで威圧を叩き付けて立ち上がる。

 〈なっ〉と言ったきり、俺の威圧を受けて凍り付き真っ青になって黙る。
 俺達の遣り取りを見ていた冒険者達も、エールを浴びせたので驚愕の声を上げたが、俺の威圧の余波で一瞬で静かになる。

 「面白い事を言うなぁ。俺達冒険者は、何処のギルドに獲物を売るのか自由なはずだ。お前の言葉だと其の権利は無く、断ればギルド追放って事になる。お前にその資格や権利があるのか? どうなんだ!」

 威圧をドラゴン(大、対峙した事は無いが)に切り替え広げていく。
 静まりかえるギルドの中、彼方此方から悲鳴と何かが倒れる音が聞こえる。
 文句を言ってきた男は泡を吹いて卒倒し、股間に水溜まりが出来ている。
 情けない奴、威圧を消しエールのお代わりを貰いに行くとステーキ肉から煙が上がっている。

 「マスター、お肉が焦げてるよ。それとエールのお代わりを頼む」

 「いっ・・・今のは何だったんだ?」

 「さぁ~、解体場の職員が泡を吹いているけど、何か有ったのかな。そんな事よりエールのお代わりとステーキを早く頼むよ♪」

 お漏らしした男の傍でエールを飲みたくないので、少し離れたテーブルに座る。
 一口飲んでいる間に、周囲の者がガタガタと音を立てて立ち上がり食堂から出て行くし、受付カウンターの方から血相を変えたギルド職員が足音荒く押し寄せて来た。

 「何だ! 何が有った!」

 泡を吹いて倒れている男を見て周囲の者に聞いているが、素知らぬ顔の俺を恐れて何も言わない。
 職員を掻き分けて出てきたのは見覚えの有る顔で、確かギルマスだったはず。
 周囲の雰囲気と素知らぬ顔でエールを飲む俺を見てずかずかとやって来る。

 「確か・・・ユーゴだったな。この騒ぎはお前か?」

 「俺は何もしていないぞ。獲物を売りに来たのに馬鹿にされたので、売るのを止めただけさ。そしたら、其処で寝ている奴が獲物を出せと騒ぎ出しただけだ。興奮しすぎたのか泡を吹いて倒れたけど、介抱してやる義理はないので放置しているけど何か?」

 「では、先程の殺気はお前か?」

 「其奴が煩いから静かにさせようと軽くな。ギルドの職員って、偉そうに人を怒鳴りつけるわりに気が弱いな」

 「さっきのあれが軽くか、流石はドラゴンスレイヤーだな。前回は貴族同士の争いと見逃したが、ギルド内で騒ぎを起こすなよ」

 「だから言っているだろう。騒いだのは其奴一人で、俺はエールを飲んで・・・」

 脂のはぜる音がして、上手そうなステーキの皿が置かれた。
 このマスターもいい性格をしてそう。

 「もう良いだろう。飯を食ったら出て行くよ」

 「大人しく頼むぞ、男爵殿」

 「さぁ、そうしたいのはやまやまだけど」

 「うん・・・」

 「此処へ来た時から鬱陶しい奴等が大勢いてな、手出しをしなけりゃ何も起こらない。としか言えないな」

 「ああ、ザワルト伯爵の元配下が大勢いるからな。あれ程の殺気を浴びれば、馬鹿な事はしないだろ・・・それであの殺気か」

 冷めないうちにステーキを食ったら、さっさとおさらばするさ。
 ギルマスが首を振り振り引き上げて行き、寝ている男は職員が足を持って引き摺っていく。
 やっぱりギルドの連中は乱暴だ。

 * * * * * * * *

 ファルカナのギルドを出ると即座にジャンプ、進路を北に取りひたすら森の上を跳ぶ。
 魔力回復休憩の場所に石柱を立てて目印を作り、三度目の目印は壁が見える場所となった。
 道無きところを歩く森の中が、如何に歩き辛いのか良く判る。

 今回は壁を越える気はないので、三本目の石柱からは下に降りて歩く。
 方角は適当、この森がどんな所か興味があったので来ただけ。
 コークスやハリスン達に言えば呆れられると思ったので黙っていた。
 ぼちぼち秋になるので、美味しい茸や果実を採取出来れば御の字だし楽しみが増える。

 鑑定に期待した茸は無毒と結果が出た物を、煮たり焼いたりと調理してみたがゲロマズだったり、匂いが酷くて逃げ出す羽目になった。
 特に匂いの酷い物は野営用のドームを放棄し、服も水魔法でジャバジャバお洗濯。
 茸を焼くのは止め、というか予備知識なしの茸採取は諦めた。

 地面は諦めて果実を探したが、俺って薬草採取が下手だったのを忘れていた。
 特定の場所に有ると判っているのなら良いが、森の中から探せと言われたらお手上げだ。

 手ぶらで帰るのも癪なので、南に向かって歩きながら出会った野獣をお土産に狩る事にした。
 ゴールデンゴートのお肉が美味しいと聞いたが、山羊さんが都合良くいてくれたら良いのだけど。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...