男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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096 招待状

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 「何を持っているんだ?」と期待の籠もった声で聞いて来る。

 「王都じゃ滅多にお目にかかれないと、グレンが言っていたよ」

 「男爵殿、少しは教えろよ」

 「そうやって揶揄うから教えないんだよ。まっ、楽しみにしていな。それよりゴールデンゴートのトロフィーを作るのは何処に頼めば良いんだ?」

 「手数料さえ払えば、ギルドが全て手配してやる」

 「じゃー、ギルドに任せるので、完成したらコッコラ商会に届けてよ」

 解体主任の指示に従いゴールデンゴートを出したが、解体主任が唸り解体係の者が集まって来て彼此言っている。

 「此れはお前が?」

 グレンが討伐した物だが、氷結魔法は使えない事になっているので肩を竦めるだけにした。
 肉は翌日の昼に引き取りに来ると約束してギルドを後にする。

 「見事な角のゴールデンゴートですね。あれ程のトロフィーを持つ者は此の王国に居るかどうか」

 「明日肉を受け取ったらお届けに上がりますので、宜しくお願いします」

 「こりゃー忙しくなりそうですよ。王家に献上する分の残りを、どうやって分配するか大変だ」

 コッコラ会長は大変だと呑気に構えていたが、各地に支店の在る会長は相手の地位と肉の分量で相当頭を悩ませたらしく、後日げっそりした顔でぼやかれた。

 ゴールデンゴートの肉を引き取り会長に引き渡した翌日、再びグレンとともに冒険者ギルドに出向いた。
 解体主任がすっ飛んで来て、さあ出せ!と張り切っている。

 各種1~2頭ずつ討伐しているが、グレンと話し合った結果一気に出せば値崩れを起こすので、各種類を一頭ずつ4~5頭単位で出す事に決めている。

 ゴールデンベア・1頭
 ブラックベア・1頭
 キングシープ・1頭
 ビッグエルク・1頭

 「ちょっと待て! お前達、此れを何処で狩ってきた? まさかドラゴンの地じゃないよな」

 思わずグレンと顔を見合わせてしまった。

 「やはりそうか」

 「隠せそうもないな。もう暫くは黙っていてくれないかな。ぺらぺら喋る様であれば、王都のギルドに卸す訳にはいかなくなるぞ」

 「お前の魔法の腕とグレンだ。二人が此れほどの大物を持って来たとなれば、討伐場所は彼処しかないと誰でも気付くぞ。それにゴールデンゴートだ・・・それで、肝心なものは持っているのか?」

 「それについてギルマスに相談が有るのだが」

 「判った。ギルマスの所へ行こう。その前に持っている奴を全部出せ!」

 「今日は此れだけにするよ。一気に出すと値崩れする様だから」

 「・・・判った、付いてこい!」

 解体主任が歯軋りしながら答えると背を向けて歩き出したが、手近にいた者を呼び寄せると「誰も解体場に入れるな!」と怒鳴っている。

 二階のギルマスの執務室をノックする解体主任の顔が、興奮で赤くなっている。
 ギルマスの部屋に入るなり「ギルマス! ドラゴンです」て叫びやがったので、思わず尻を蹴り上げてしまった。

 「何の為にこっそりしていると思っているんだ!」

 低い声で叱責すると、自分の失態に気付いて顔が青くなる。

 「すっ・・・済まん、勘弁してくれ。つい興奮してしまって」

 「騒ぎになったら、王都のギルドとは縁を切るからな!」

 「お前、ザンドスの言った事は本当か?」

 「持っているが今は出せない」

 肩から提げたマジックバッグをポンポンと叩き、ニヤリと笑う。
 解体主任がザンドスって名前だと初めて知ったぜ。

 「但し少し小さくてドラゴンと言うより蜥蜴だな」

 「大きさは?」

 「此奴はランク12だ、此に収まる程度の大きさって事だな」

 今度はギルマスが唸り出したが、ギルマスの名前も聞いた覚えが無いな。
 役職名で呼ぶから必要無いってのもあるが、通用するから逸れで良いか。

 「ギルマス、さっき解体場で出して貰ったのが、ゴールデンベア,ブラックベア,キングシープ,ビッグエルクの各1頭だが大きさがまるで違うんだ。このままでは噂が広がる恐れが・・・」

 ギルマスが確認の為に解体場へ行くのに、俺に「付いてこい!」と命令する。
 ちょっと獲物を売るのに大袈裟なことになってきたぞ、とグレンと顔を見合わせる。
 解体場では係の者が集まってひそひそ話し合っていたが、ギルマスの顔を見るとパッと散って行く。

 置かれた獲物を見たギルマスが全員を呼び寄せ「当分の間此の事を口外するな。少しでも漏れたらお前達全員首だ」と厳重な口止めをしている。

 「一月か二月の間だけ辛抱してね」

 「おい! それってまさか・・・」

 「今は何も言えないな。さっきも言ったが、噂になったら王都のギルドとは縁を切るからな」

 「判っている。それよりも此れを仕舞ってくれ。公開しても良くなってからだ」

 「それじゃーゴールデンゴートを出したのも不味かったかな」

 「あれは係の者以外見ていないので惚けておいてやるよ。但し何時までもとはいかないぞ」

 確かに、コッコラ会長がお肉を配れば噂になるのを忘れていた。

 「お前、確かシルバーだったな」

 「お断り! シルバーの二級だけど、このままで良いよ」

 「ドラゴンを討伐する様な奴を、シルバーのままにしていたら俺の首が飛ぶわ。だが今はいい、物を出してからだな」

 そう言って解体場から放り出された。
 なんて扱いだよ、冒険者をもっと大事にしろ!

 * * * * * * * *

 俺とグレンは正式な招待状を渡され、主賓として王家の晩餐会に招待された。
 ちょっとごねたが、年一回の正規の場に出る約束なので諦めた。
 冒険者ギルドで蜥蜴を売る時には、コークスやハリスン達に迷惑が掛からない様に俺の名で売るのだが、討伐者をはっきりさせておく必要が有るので仕方がない。

 俺なら貴族や豪商達の無理難題を撥ね除けて無視できる、多分だけど。
 前回同様護衛騎士を従えた馬車に乗り、高位貴族用の馬車止まりに横付けされた。
 出迎えてくれた侍従が恭しく控えの間へと案内してくれるが、室内には陛下の従者と思しき男にメイドまで居る。
 思わず此処は何処だ? と言いかけた。

 「男爵の控えの間とは大違いだね」

 「ああ、彼処の奴等は俺達の事を鼻で笑って『規則ですので』と抜かすのが口癖だからな」

 「あの宴以来行ってないの?」

 「ああ、お前に会う為に辛抱して行っただけだ。必要もないのに行く場所じゃない」

 「今は多少待遇が変わっているかもね」

 「その口振りだと、何かやったな」

 「朝から陽が暮れるまで待たされたので、ヘルシンド宰相を呼び出す為に雷撃と火魔法を少し使ってみたら慌てていたよ」

 あの時かとグレンが頷き、控えているメイド達は微妙な顔になっている。

 迎えの侍従に案内された場所は、大広間が見える場所だが石畳の通路である。
 通路の左右にはハルバートを直立させた騎士達が並んでいて、ヘルシンド宰相が迎えてくれた。

 「フェルナンド男爵殿、此処へドラゴンを置いて貰えるかな」

 「正式な招待は、此れを披露する為ですか」

 「そうだな。もうすぐ宴が始まるので、侍従の案内に従ってくれ」

 宰相はニヤリと笑い、護衛の騎士を従えて大広間に入っていく。
 指定された場所にドラゴンを置き、グレンと共に侍従の案内で別な所から建物に入り大広間に向かった。

 おいおい、どう見ても高位貴族用の出入り口だぞと思っていると、侍従が入り口で高らかに告げる。

 「賢者 ユーゴ・フェルナンド男爵様。並びにグレン・オンデウス男爵様」
 
 侍従が告げた声に、俺とグレンは思わず顔を見合わせた。
 賢者って、何だよ!

 立ち止まった俺達は侍従に促されて大広間に入ると、陛下が満面の笑みで迎えてくれる。
 国王が正式の場で男爵を迎える意味が判っているのか! と言うか背後に控えるヘルシンド宰相もにこやかに頷いている。

 まったく、狐と狸のコンビに嵌められた様だが、逃げ出す訳にはいかないのが辛い。
 一礼して陛下の示す位置に立つが、ほぼ真横じゃないの。
 王妃様を何処へやったのさ、後ろに並ぶ王族の視線が痛いぞ。
 居並ぶ貴族の列と大使達からは、賢者と紹介された俺を品定めする目付きと騒めきが収まらない。

 宰相が騒ぎを静め俺の紹介を始めた。

 「此処に立つユーゴ・フェルナンド男爵殿を賢者と紹介したのは、火・土・氷結・雷撃・結界・治癒・転移・空間の八つの魔法を使い熟す、優れた魔法の使い手であるからだ」

 そう告げると、居並ぶ貴族達を見回してから言葉を続ける。

 「智の賢者と呼ばれる者は数多居るが、我が国に魔法の賢者が現れたのは初めてである。その賢者殿にドラゴン討伐を願い、成し遂げて貰った」

 今度こそ驚愕の声を上げる者達によって大広間は喧噪に包まれ、収まりが付かなくなってしまった。
 ドラゴン討伐って聞いた貴族達や、壁際に控える護衛達までもが興奮している。
 何時までも騒ぎが収まらずヘルシンド宰相も困っている時に、大使達の中から歩み出た者が陛下に大仰な一礼をする。

 「賢きネイバル・コランドール国王陛下に対し、サンモルサン王国の大使としてお伺いいたします」

 「ふむ、何が聞きたい」

 「先程、ドラゴン討伐と聞こえましたが」

 大使の問いかけを聞き、騒いでいた者達が静かになっていく。

 「去年、新年の宴前日にフェルナンド男爵の魔法を見たと思うが、ドラゴン討伐は不可能と思うか?」

 キザったらしい仕草で、鷹揚に頷くサンモルサン王国大使。

 「ドラゴン討伐と申されましたが、御当家に飾られている傷だらけのドラゴン以外に見た覚えが御座いませんので・・・俄には信じ難く」
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