男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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095 ドラゴン検分

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 ノックの音と共に侍従が入って来ると「国王陛下です」と告げる。
 グレンが撥ねる様に立ち上がると直ぐに跪くが、俺は立ったまま出迎えて一礼する。

 陛下の背後に控える近衛騎士達の視線が痛い。

 「討伐大儀であったな」

 「依頼ですので当然な事です。依頼の内、冬場に採取すべき物は全て採取しました。暑い季節に残りの物を採取に向かいます」

 「うむ、見せて貰えるかな」

 「薬師の方と空間収納持ちを呼んで貰えますか」

 宰相の合図で直ぐにワゴンを押した男が三人現れた。
 用意のワゴンにマジックポーチからそれぞれの薬草を取り出して乗せて行く。

 銀色飛び鼠、5匹×2
 赤斑蜘蛛、20匹×2
 地鈴花の球根、5株×2
 氷雪草、20本×2

 ワゴンに乗せられた物を一つ一つ鑑定して頷いている。

 「予定数より多いが?」

 「収納持ちが居るでしょう。度々頼まれるのは面倒なので、必要数の倍採取してきました。火炎華,風精草,精霊草は暑くなったら採取に行って来ます」

 「ドラゴン討伐は成すだろうと思っていたが、薬草も必要数以上をよく集められたな」

 「薬草採取に慣れた者を連れて行きましたからね。薬草採取が得意な者に任せれば簡単ですよ」

 「では、ドラゴンを見せて貰おうか」

 「陛下、その前に一つお願いが御座いますが」

 「何かな?」

 「背後の方々が私をお気に召さない様で、視線と威圧が鬱陶しいのですよ。愛想を振りまけとは言いませんが、私の事は無視する様に命じて貰えませんか。オンデウス男爵は陛下に忠誠を誓っている様ですが、私は依頼を受けているだけですので・・・公式の場でなら、面倒ですが跪きますがそれ以外ではお断りです」

 陛下と宰相が近衛騎士達を見回して苦笑している。

 「判った、お前達余計な事はするな。フェルナンド、近衛騎士団長に命じておく」

 黙って一礼しておく。
 ドラゴンの検分は、近衛騎士団の室内訓練場で出す事になった。

 訓練場では非番の者達が訓練をしていたが、宰相の先導で国王が現れると静まりかえる。
 室内訓練場とは言え土間なので、断って土魔法でコーティングしてからドラゴンを取り出す。
 ちょっと茶目っ気を出し、ドラゴンの顔が陛下の目の前に来る様にポイ。

 〈ウオォォォォ・・・ふぁ、フェ・・・フェルナンド! 驚かせるでない!〉

 〈ウオーォォォ〉
 〈化け物!〉
 〈ドッ、ドド、ドラゴンだと!〉
 〈逃げ・・・〉

 あ~あ、大騒ぎになってますがな。
 ん、と思ってヘルシンド宰相を見れば、腰を抜かして呆けている。
 あ~あ、お漏らしはしていない様なので、見なかったことにしてあげよう。

 後ろで変な気配がするので振り向けば、グレンが真っ赤な顔で腹を抱えて震えている。
 笑いを我慢するあまり、涙目で痙攣しそうになっていたので背中をひっぱたいて正気に戻してやる。

 「いやー、死ぬかと思ったぞ」

 「遠慮せずに笑えば良いのに」

 「いやいや、驚く陛下を見て大笑をいしてみろよ、背後にいる奴等が抜き討って来そうで恐いからな」

 「オンデウス・・・その方も中々の男よのう」

 「陛下、生半な神経ではユーゴ・・・フェルナンド男爵と共にドラゴン討伐になど行けませんので」

 そう言いながら、未だ肩が震えている。

 「ところでフェルナンド、何処からドラゴンを出したのだ? もしや空間収納魔法も使えるのか」

 「まぁ~、大きすぎて切り離すのが大変そうだったので仕方なく使って見ました」

 「ひょっとして、お前は全ての魔法が使えるのか?」

 「風魔法と水魔法は使ったことが有りませんが、多分使えるでしょう。そんな事より、このドラゴンを引き取って下さい」

 「済まんが、討伐祝いの時まで預かっておいてくれ」

 「それって、俺も出席することになるじゃないですか」

 「うむ、年に一度の出席の約束は守るので頼む。オンデウス男爵、その方もな」

 「陛下、私は唯の道案内なのですが」

 「何を申す。二度までもドラゴンの地を踏んだ者は、その方以外に此の国には居るまい」

 案内人が居るじゃない、と思ったがお口にチャック。

 「なるべく早くして下さいね。残りの薬草採取に出る用意も有りますので」

 ヘルシンド宰相に、ドラゴン討伐と薬草採取の為に雇った11名4ヶ月分の費用、2,640万ダーラの請求書を渡す。
 薬草代金と合わせて商業ギルドの俺の口座に振り込みをお願いしておく。
 一人一日銀貨二枚、四ヶ月分で240万ダーラ金貨24枚。
 合計 金貨24枚×11人=264枚、2,640万ダーラ

 銀色飛び鼠・10匹、金貨15枚×10=150枚
 赤斑蜘蛛・40匹、金貨10枚×40=400枚
 地鈴花の球根・10株、金貨13枚×10=130枚
 氷雪草・40本、金貨10枚×40=400枚
 合計 金貨1,080枚+264枚=1,344枚
 一人平均金貨122枚とちょい。

 これにドラゴン一匹と野獣が追加されるので相当な額になる筈だ。

 * * * * * * * *

 「まったく、笑うに笑えない苦しさをたっぷり味わったぞ」

 「でも面白かったでしょう」

 「ああ、まさか陛下の目の前にドラゴンを置くとは思わなかったからな。宰相閣下は腰を抜かしていたし、気取った近衛騎士達が狼狽えていたからな」

 帰りの馬車の中でオンデウスが疲れた顔でぼやく。

 「王家が発表するまで蜥蜴を売りに出せないから、野獣を少しずつ売りに行くかな」

 「ゴールデンゴートはどうする?」

 「明日にでもコッコラ商会に行こうよ」

 「俺もか?」

 「ドラゴン討伐の足を提供してくれたんだし、一応男爵が二人だしね。顔つなぎをしておくのも悪くはないと思うよ」

 「お前さんがそんな事を言い出すと後が恐いからなぁ」

 家に帰ると興味津々で結果を尋ねられたので、ドラゴンを陛下の目の前に出した事を話すと爆笑されてしまった。
 爆笑ついでに、グレンが笑うに笑えず苦しんでいたと伝えると、コークスがニンマリしている。
 絶対に揶揄いの種にする気だろう。

 ハリスン達からはコークス達をマリンダ皮革店へ案内して、服に見合うブーツを注文してきたと教えられた。

 而し、一人では広すぎるワンルームと思ったが10人では流石に狭い。
 野営中なら気にならないのは、寝る時以外は野外だし広さも状況に応じて変えているからだろう。
 暫くは俺の家が拠点になるのに狭いのは困る、困った時の商業ギルドに出掛けた。

 * * * * * * * *

 部屋を斡旋してくれた係の者に事情を説明すると、何と言う事でしょう。
 留守中に(殆ど家にいないけど)お向かいさんがお引っ越ししていなくなっていた。
 それに屋根裏部屋が三つ空いているって、即行で借り上げました。
 お向かいさんは金貨六枚、屋根裏部屋は金貨一枚と銀貨二枚。

 割と裕福な者が住まう地域で市場にも近くて便利、その為に家賃が高いので人の出入りが激しいと教えてくれた。
 そりゃそうだろう、同程度で安いところが有れば引っ越していくさ。
 家主からは早く借り手を見つけろと煩く言われて大変ですと愚痴る。

 パッと頭の中にライトが灯ったね。
 ドラゴン討伐が告知されると騒ぎになるが、同時に討伐者である俺の周辺も騒がしくなる・・・筈だ。
 多分俺の所へは直接来ないだろうが、コークス達やハリスン達が出歩けば接触してきて頼み事をするだろう。
 そして俺の向かいとか屋根裏部屋に住んで居ると判れば、押し掛けて来る様になると思う。

 何れ商業ギルドか家主から文句が出るのは必死、先手を打っておこう。
 お世話係ににっこりと笑って提案をする。
 現在俺の部屋に10人が仮住まいをしている為に部屋を借りたが、割高だし不便なので一軒家を借りたいと告げる。

 世話係の小母ちゃんが頭を抱えたよ。
 部屋を借りたその後で、出て行く話になるのだから無理もない。
 だが流石は商業ギルドにお勤めで、逆提案をしてきた。

 いっそ今住んで居る建物を買いませんかと言いだしたのだ。
 明日のことが判らない冒険者なので即座に却下したが、金貨数千枚を出して家を買うなんて無理。
 取り敢えず4~5部屋を纏めて借りることが出来る物件が有れば知らせてくれと頼んでおく。

 お向かいの部屋と屋根裏部屋の鍵を受け取り、誰がどの部屋を使うのかは皆で話し合って決めて貰うことにする。

 * * * * * * * *

 「ゴールデンゴートを私にですか」

 「ええ、長らく馬車をお借りしてご迷惑を掛けたお詫びです」

 「宜しいのですか? ゴールデンゴートは滅多に獲れない物で、角も肉もオークションに出る物ですよ」

 「大丈夫ですよ。実はドラゴンを売りに出す予定ですので、その前にお渡ししておきたいのですよ」

 「なんと・・・ドラゴン討伐に行かれておられましたか。ではファーガネス領の森に入られたと」

 「はい、オンデウス男爵の案内で仲間達と行ってきました。その事で又ご迷惑をお掛けするかも知れませんが、例の様に紹介は受け付けないと言われていると断って下さい」

 二日後、コッコラ会長の馬車で冒険者ギルドに出向いた。
 グレンと俺がコッコラ会長を挟んでギルドに入り、受付で解体場へ行くと告げて奥へ進む。
 解体主任が俺を見ると期待の籠もった顔でやって来る。

 「今日は何を・・・って誰だ?」

 「穀物商コッコラ商会の会長だよ。子爵待遇だそうだ。今日は売り物じゃないんだ、ゴールデンゴートのトロフィーを作りたいので、その解体と肉の引き取りだな。解体料は俺の口座から引き落としてくれ」

 「おいおい、ゴールデンゴートなんぞ何年ぶりだか。肉は一欠片も残さないのか?」

 「言っただろう。穀物商で子爵待遇だ、王家や支店の在る領地の貴族との付き合いに使うのだから、足りないくらいなのさ。此の取引が終わったら、ギルドに相応の獲物を卸すよ」

 解体主任の目が光るが、これ以上は何も言わないぞ。
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