男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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087 ドラゴンみっーけ♪

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 「ちょっとぉ~、何か獣の気配が多くない」

 「ん~、一ヶ所に集まっているのでお食事中かな。丁度朝食の時間だし。ハティーには防御障壁を張っているので、噛みつかれても丸一日は大丈夫だよ」

 「あんた、私が噛みつかれるまで黙って見ている気なの」

 「ものの譬えだよ。もう一回魔力を込めたから二日は大丈夫だと思うけど」

 「振り回されたら目を回すって事ね」

 「よく御存知で」

 「魔法攻撃を受けて目を回したからね」

 お食事の邪魔をしない様に、遠くの木を目印にジャンプ。
 こんな目印も無いところでドラゴンを探せってのは無理がある。
 周囲よりも高い石柱を立て、20メートル程離れてもう一本立てる。
 此れで南北から見ると二本に見え、東西からだと一本に見える筈だ。
 間隔が狭い二本ならその中間の位置と思えば良い、適当だが無いよりはマシだろう。
 今後の事を相談する為に一度戻る事にした。

 再び空の旅となったが、二度目だとハティーは森の上空を飛ぶ爽快さを楽しんでいる。
 俺は三度上空へ上がり結界を三度張り前進する為にジャンプと落下防止の結界と、魔力をバンバン使うので常に鑑定で残魔力の確認で大変だ。

 壁の上に戻り見覚えのある地形の上空に来ると、下では皆ドームの外でのんびりしている。
 昨日も感じたが索敵には何も引っ掛からず、鳥類以外は見当たらない。
 餌になる草木が少なければ草食獣は生きられないし、捕食者もいないって事か。

 「おう、帰って来たか」
 「下はどうだった」
 「ドラゴンは居たか?」

 「無茶を言うなよ。こんなに広い場所で、下に降りたら即ドラゴンとこんにちはなんて、ある訳ないよ」

 グレンにドラゴンと遭遇した場所を尋ねると、岩の通路を通って更に五日ほど北に向かった所だと言ってくれる。
 それと貴重な情報として、倒木が多く日当たりの良い場所に居ると案内人が話していたと教えてくれた。

 柱状節理の辺りから北へ五日程度となれば、現在地からだと北北東か北東へ進み倒木の多い場所を探す事からだな。
 皆にそれを伝えて今日は壁の反対側の下に降りる事にした。

 壁から100メートル以上離れた場所に大きめの野営用ドームを作り、壁の上にも目印の柱を立てる。
 目印の柱とドームの側を往復して魔力を節約する短距離ジャンプ。

 「あんた手抜きしてない?」

 「ハティー、さっきの様な事をしていたら魔力切れで地面に落ちてあの世行きだよ」

 まったく空飛ぶ転移魔法を見せたのは失敗だったぜ。

 正確な日にちは判らないが12月も終わる頃だ、草は枯れ多くの木々の葉も落ちて見通しがよい。
 ここから先はコークスやハリスン達に薬草を探しながらの旅になると伝える。
 見本の赤斑蜘蛛、銀色飛び鼠、地鈴花球根、氷雪草を見せる。

 赤斑蜘蛛、一匹金貨10枚
 銀色飛び鼠、一匹金貨15枚
 地鈴花の球根、一個金貨13枚
 氷雪草、一本金貨10枚

 そう告げて、収穫物は大地の牙と王都の穀潰しで均等に分配すると告げる。
 皆俄然やる気を出したが、猛毒の蜘蛛がいるので全員に防御障壁を施しておく。

 猛毒の赤斑蜘蛛は低木の間、高さ1~3メートルの所に巣を張っているのでこの時期は見つけやすいと教えておく。
 猛毒の蜘蛛を捕る方法として薬草袋で作った網を渡す。

 而し、この派手な蜘蛛は灌木の密集地一つにつき一匹と言って良いほど巣を張っていて、皆大喜びで蜘蛛を捕っていたが定数の二倍40匹で中止を命じる。
 何でこんな所にと思っていると、巣の下に鳥の羽や小動物の骨が多数落ちていた。

 なる程ね数が多い訳だ。
 中大型獣が通らない灌木の間に巣を張り、鳥や小動物を餌にする。
 しかも猛毒持ちとなればほぼ天敵はいないに等しいって事になるのか。
 巣の糸も意外に丈夫で、蜘蛛を薬草袋で押さえると反対側から叩き落とすのだが、糸が切れる事はあまりなかった。

 赤斑蜘蛛と違って銀色飛び鼠はそれこそ飛んで逃げるので厄介だ。
 銀色飛び鼠はハリスン達に任せ、コークス達は全員鑑定を貼付していてそこそこ使えるので地鈴花の球根探しを担当する。

 球根の見本は在るが地上部がどの様な状態か誰も知らないので、枯れた茎や一定以上の枯れ草を全て鑑定していくので全然先に進めない。
 改めて薬草類が高額な事に納得する。
 蜘蛛の様に簡単に捕まえる事が出来ても、此の地に来るまでが大変でまず辿り着けない。

 グレン達の時には案内人がいたとは言え、よくぞ此処まで辿り着いたものだと思う。
 索敵で銀色飛び鼠の気配を探りハリスン達に指差して居場所を指示する。
 ちょこちょこ現れる野獣を感知すると、警報を出して避難所に籠もりながらの前進だ。

 近づいて来る奴にはアイスバレットを叩き込み、帰る時になったら相手をしてやるからとお帰りを願う。
 初めの頃皆は叩き返す野獣を見ながら勿体ない、あれ一頭で何れだけの稼ぎになるのかと不満顔だった。
 而し次々と大物が現れるので、此れを全て狩っていたらマジックバッグに収まりきらないと諦めた様だ。

 計算違いは銀色飛び鼠のすばしっこさ、と頭の良さか習性だ。
 気配を感知してハリスン達に教えると、小弓の矢をつがえたところで俺がアイスバレットを射ち込み追い出す。
 飛び出した銀色飛び鼠は一定方向には絶対に逃げないし、10メートル以上楽に飛ぶくせにその都度ジャンプする距離がバラバラだ。

 お陰で俺の魔力の減りが早いし、各自20本ほど持っている矢があっという間に無くなっていく。
 飛び出すタイミングに方向と距離がバラバラなのでお手上げ状態だ。
 仕方がないのでハリスン達には氷雪草を探して貰う事にした。

 氷雪草は草丈60~70センチで椿の葉に似たもので純白の斑が入っているので比較的見つけ易い。
 比較的ってだけで群生していないので、此れも探すのが大変そうだ。

 皆の安全を確保しながら、銀色飛び鼠の捕獲方法を考える。

 * * * * * * * *

 毎朝上空から倒木が多く比較的森が疎らな場所を探して進み、二週間目にそれらしき場所を見つけた。
 薬草採取をしながらなので、此れほど時間が掛かるとは予定外だった。

 「森が明るいってより、倒木の間に木が生えているって感じだな」
 「はぁ~疲れた。ユーゴちゃん、さっさとドラゴンを見つけて狩ってきてよ」

 「ハティー、ホーンラビットを捕るのとは違うと思うぞ」

 「またまたぁ~、ドラゴンなんて見た事が無いけど、あんたのストーンランスなら岩でも射ち抜きそうだもの」
 「依頼を受けた時も、恐いって言いながらヘラヘラしていたからな」
 「結界魔法に転移魔法、其処へストーンランスとくれば無敵だよな」
 「球根探しも飽きたから、早く帰りてぇよぅ~」

 「銀色飛び鼠が三匹しか獲れてないよ。後二匹は必要だから頑張れー」

 * * * * * * * *

 翌日からは俺一人で倒木地帯の偵察を始めた。
 上空から見る倒木地帯は太い木が殆ど無く、精々1メートル程度の木ばかりである。
 理由は簡単で大地の代わりに岩の欠片の隙間に植物が生えている状態なのだ。

 推定高度200メートルから巨大な結界で降下しながら周囲を観察する。
 場所を転々と変えながら見ていくとドラゴンと言うより蜥蜴って言った方がお似合いの奴がいる事に気づいた。
 岩の隙間や倒木の下に潜み時々顔を出しているではないか。
 ただ大きさが5~6メートルと可愛くてドラゴンとは呼びたくない。

 降下しながらだと見つけ難いので石柱を立て、その上から見張る事にした。
 見つけましたよ。
 木が倒れるのを見て不思議に思い、ジャンプして見に行くと蜥蜴が木に身体を押し当てて身悶えしている。

 何をしているのかと思ったが背中が痒いので擦りつけている様だった。
 ドラコン用の孫の手は無いので、木に身体を擦りつけているのだろうが酷い。
 トゲトゲの堅い鱗の身体を擦りつけるものだから、樹皮は剥がれ木は傾くし自然の敵だ。

 小さな奴の二倍強程度の大きさで、グレン達が討伐した奴より明らかに小さい。
 メジャーを当てて大きさを測る訳にも行かず悩む。
 問題がもう一つ、どう見ても12/360のマジックバッグには収まらない。
 あれをどうやって持って帰ったのか、グレンに聞く為に皆の元に引き返した。

 * * * * * * * *

 おいおい、なんでこんな所にドラゴンがいて闘っているんだよ。
 小振りな夜営用のドームから、雷撃魔法にアイスランスとストーンランスが飛び、ドラゴンがドームに体当たりと尻尾の攻撃を繰り返している。

 雷撃はグレンでストーンランスはハティーかな、アイスランスはボルヘンに違いない。
 ホウルは・・・あの魔力じゃ数発で魔力切れかな。
 全員一つのドームに籠もっている様だし、十分ドラゴンの攻撃にも耐えているので暫く様子を見る。

 ドラゴンの攻撃は頭の角を利用した突撃に、前足の鋭い爪を使った攻撃と身体を捻って尻尾の鋭い一撃。
 尻尾の攻撃は全体重の乗ったもので、ドームに当たる度に〈ドオォォォーン〉といい音を立てている。

 魔法は十分な威力が有るのに、攻撃に一貫性がないのでダメージを余り与えられていない。
 ちょっとアドバイスをして戦いに終止符を打たせないと、俺のご飯が遅くなりそうだ。
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