男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

文字の大きさ
上 下
78 / 161

078 呼出状か依頼書か

しおりを挟む
 剣を抜き向かって来たと言った時に、伯爵の顔色が蒼白に変わった。

 「伯爵殿の配下とは言え、貴族に対する暴言の数々に加え殺意を持って剣を抜いたのですよ。剣を抜いた輩にはアイスアローを一発射ち込み、反抗心を削ぎ放置しています」

 「まさか・・・配下の者がその様な狼藉を」

 「お前は馬鹿か!!! 日頃下位の貴族に対する言動が、部下の態度に出ただけだろうが! 王都のホテルで俺を呼びに来たお前の配下も、子爵家の騎士達に対する態度が此奴とそっくりだったぞ。その時の礼と今回の無礼に対し、お前に決闘を申し込みに来たんだ。配下の者がやった事などとは言わせないぞ。幸いお前の使いが残した呼出状も手元に有る。俺が男爵になっても取り下げていないという事は、お前が下位の貴族に対して配下や領民以下の扱いをしていた証拠でもあるしな。言っておくが、俺に対して出された依頼書や呼出状は、全てヘルシンド宰相が目を通している!」

 フィラント伯爵は元より、執事も呼び出された騎士達も俺の言葉に理解が追いついていない様だ。
 最後の一言は嘘だけど、其処迄理解出来ないだろう。

 「どうした伯爵殿、下位の者を馬鹿にはするが決闘は受けられないのか。俺は男爵である前に冒険者だ、舐められたままで引き下がるつもりはない。ヒュイマン・フィラント伯爵殿に決闘を申し込む為に、友人であるグレン・オンデウス男爵殿に同行して貰ったのだ。返事を!」

 「まっ、ままま待ってくれ。突然その様な事を・・・」

 「誇り高きフィラント伯爵殿とも思えぬ言葉、何の覚悟もなく他者を侮蔑していたのか。領地でなら歯向かう者を討ち取り素知らぬ顔も出来るが、王城内で決闘を申し込まれたら逃げようがないぞ。そんな事も判らずに、伯爵などと反っくり返っていたのか」

 「誠に申し訳御座いませんでした。私の不徳によるご不快には深くお詫び致しますので、何卒お許し下さい。王都で差し出した依頼書は取り下げさせて頂きます」

 変わり身が早いが、そうは烏賊の金キラキンのタマだ。

 「伯爵が男爵風情に謝る事はない、決闘が恐いのなら手勢を集めて襲って来れば良い、卑怯などとは言わないので安心しろ!」

 「ユーゴ、その辺で勘弁してやれ。伯爵殿が手勢を集めても、お前に勝てない事を理解しているのだから」

 「折角オンデウスに立ち会って貰い、魔法の全力攻撃を見せたかったのに残念だよ。まぁ良いや、而し依頼書と言ったよな伯爵殿」

 「はっ、はい。使いの者に申し込ませた依頼書は取り下げさせて頂きます」

 マジックポーチから取り出した依頼書や、依頼にかこつけた呼び出し状の束からフィラント伯爵の物を抜き出す。

 「此れって、どう読んでも呼出状に見えるんだけどなぁ~。即刻出頭せよとか、腕が良ければ金貨七枚で召し抱えてつかわすって書いてあるけど、依頼書に間違いないのだな!」

 「はい・・・間違い御座いません。その~ぅ、使いの者が少々言葉遣いを間違えた様で・・・」

 「そうなの? 何せ新米男爵なもので、貴族の言い回しって奴に疎くてねぇ~。あっ隊長さん、ちょっとこっちへ来てくれるかな」

 自分のヘマで大事になっているので冷や汗たらたらの隊長さん、いきなり呼ばれてビックリしている。
 手招きされて恐る恐る俺の前に立ったので(ヒール!)と判る様に呟き、腹の傷を治してやる。

 「はい、依頼完了ね! 依頼書はお返しするけど、治療費は金貨300枚だよ」

 「ヘッ・・・あの」

 「依頼書なんだろう? 見事傷を治せれば金貨七枚で召し抱えるって、貴族の言い回しでは治療依頼の事なんだろう。違うの?」

 「えっ・・・あの・・・はい、確かに治療依頼で御座います」

 「でしょう~♪ 俺の場合、治療費は金貨300枚が相場なの。この間治療したミシェルちゃんの時もそれだけ貰ったからね。別にオンデウス男爵を連れて来たからって、ごねて金を出せなんて言わないよ。正当な治療費を請求しているだけ!」

 「暗にもっと寄越せって聞こえるのは」

 「幻聴だよ、げ・ん・ち・ょ・う。耄碌するには未だ早いよ」

 * * * * * * * *

 フィラント伯爵様自らお見送り頂き、恐縮しながら伯爵邸を後にした。

 「呆れたもんだねぇ。ちゃっかり金貨をせしめてしまったよ」

 「正当な依頼と、治療に対する報酬ですよ♪ 迷惑料を貰ったんだから、文句は無いでしょう」

 「伯爵ともなると太っ腹だな」
 「親父達は中で何をやっていたんだ? 伯爵邸に着いてからは扱いが丁寧になって気持ち悪かったぞ」
 「ユーゴの腹黒さを、たーっぷりと見せられたのさ」

 「見物料にご不満でも」

 「いやいや、冷や汗を掻いたがそれに見合うだけの物は貰ったよ」

 「金貨100枚って事は、口止め料も入っていると思うよ」

 「そりゃーそうだろう。伯爵様の醜態をペラペラ喋られたら、今まで侮蔑していた下位貴族達から手痛い反撃を受けるだろうからな。王城内で次々と決闘を申し込まれてみろ、伯爵殿も身が持たないだろうからな」

 フィラント伯爵家騎士の先導でダンテベルの街を抜け、キエテフ迄後四日の予定。
 野営地で御者のアガニスには、肝を冷やしただろうからと特別にボーナスとして金貨10枚を渡しておく。
 グレンとオールズには、エレバリン公爵邸の地下室から掻っ払った酒を振る舞い、お疲れ様と労っておく。

 * * * * * * * *

 キエテフのブルメナウ商会に寄り、アガニスと馬車を置いて街を出た。
 馬車なら半日の距離を歩きながら森へ向かい、グレンの雷撃魔法を見せて貰う。
 以前と比べて短縮詠唱の後に射つ雷撃魔法はスムーズで、2/92の魔力を使っているので威力も十分だ。
 それ故に野獣相手では過剰戦力と言うか過剰な魔法になっていて、仕留めた野獣は毛皮がボロボロでお肉も生焼け状態になっている。

 鑑定で確かめながら、腕から流す魔力の量を半分にする様に指導していく。
 魔力の使い方を習得したために雷撃魔法がスムーズに射て、慣れ親しんだ魔力量を減らすのに精神的な不安がある様だ。
 それなら別の魔法で魔力の使用量を減らす練習をした方が、魔力の操作が簡単だろうと思い内緒で氷結魔法を貼付する。

 「グレン、氷結魔法が使えると言った事を覚えているかい」

 「覚えているがそんな冗談より、もっと威力を落とす方法を教えてくれよ」

 「だからその為に、氷結魔法が使えるのでそれを教えると言っているんだよ。こんなにバリバリドンドンやっていたら、小さい獲物は逃げるし森の奥なら大物を引き寄せてしまうだろう。それに煩いしさ」

 「確かに以前より落雷音も大きくなったので、王都周辺では練習し辛いんだ」

 「だからさ、俺が魔法の事で嘘を教えた事はないだろう。この糞暑い最中に、自由に氷を作れるのって便利だし気持ちいいぞ~」

 「確かに、お前の作ってくれる氷柱は冷たくて気持ち良いからな」
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

処理中です...