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062 救出依頼

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 執事の供述から、当日ユーゴの暗殺を命じていた二人が戻って来て、実行犯が待ち伏せを受け失敗した事を報告した。
 その失敗報告が始まると同時に二人がアイスランスを背に受けて倒れ、驚愕している公爵や嫡男と伯爵も直ぐにアイスランスを胸に受けて倒れた。
 護衛の騎士達が抜刀したが襲撃者の姿が見えず、以後応援を呼んで室内をくまなく捜索したが犯人は発見できなかった。

 また二人の騎士団長は解任して館より放り出していたが、新年の宴の時に二人を呼び出して話を聞くと陛下が言いだした為に、呼び戻して地下牢に閉じ込めていると白状した。

 取調官からの報告を受け、二人の騎士団長救出を口実に兵を出す事も考えたが、もう三月が目の前である。
 生きているとも思えないし、王国騎士団を公然と公爵邸に向かわせると騒ぎが大きくなりすぎる。

 「如何致しましょうか」

 「公爵夫人は公爵家の控えの間に閉じ込めておけ。ベクシオン伯爵の葬儀は中止させて嫡男を呼び出し、虚偽報告の釈明をさせろ。ユーゴ・・・フェルナンド男爵にエレバリン邸内の捜索依頼を出せ」

 「捜索依頼ですか?」

 「そうだ、面識の有る騎士団長二人が幽閉されている恐れがあると言って、捜索と救出依頼だ。その際王家は表立って動けないので、エレバリン公爵邸内で何が起ころうと感知しないと言っておけ。依頼料は口止め分を含めてたっぷり支払えばよい」

 笑いながら命じる国王を見て、エレバリン公爵家が消滅しても構わないと思っていると判断し、フェルナンド男爵への依頼の為に一礼して下がる。

 * * * * * * * *

 のんびりとした午後の一時は、ノッカーの鈍い音の連打で破られた。
 扉の外には三人の気配が有るが敵意は無し、隠された覗き穴から見ると王城で見るお仕着せを着た男と護衛の様だ。
 男爵にはなったが、気易く来られては迷惑なんだと思いながら扉を開ける。

 「フェルナンド男爵様、ヘルシンド宰相閣下より急ぎの依頼書で御座います」

 恭しく差し出された書簡を受け取り開封する。
 エレバリン公爵邸ね、救出依頼となれば新年の宴で国王が言った一言が響いているのかな。
 だが公爵と嫡男が死ねば王家に判らない筈はないだろうに、救出依頼ってのが気になる。
 詳しくは王城にて説明すると書かれているので出掛けることにした。

 * * * * * * * *

 「何故王家が動かないのですか、俺が断ればどうされます?」

 「暗殺者を送り込んで返り討ちに遭う。自分の恥を知る者を監禁してしまう等と、こんな醜聞を公に出来ない事は君にも判るだろう」

 成る程ね、何もかも知っていて王家が動けば騒ぎが大きくなる。
 俺が行けば人知れず救出出来るし、王家が本気になれば公爵家などどうとでも出来ると知らしめ、公爵の腰巾着や王家を軽んじる者に対する威嚇か。

 「俺が行っても生きている保証はありませんよ」

 「生死は問わない。彼等が不当に捕らわれていた事が確認出来れば良い」

 国王も宰相も心の中にぽんぽこ狸か狐でも飼っているのかしら、腹黒いたらありゃしない。

 「エレバリン公爵邸内で起きることに関して、他からの干渉は防ぐし王家は如何なる責任も問わないのでお願いしたい」

 「良いでしょう。だが俺は冒険者であって王家の小間使いじゃない、依頼なら報酬を提示してくれ」

 ヘルシンド宰相の依頼内容は、俺の暗殺に関わった者と騎士団長を不当に扱った者達の捕獲で、報酬は金貨500枚。
 金貨500枚ねぇ~、奮発してくれるのは口止め料も含んでいるんだろうな。

 「エレバリン公爵夫人の調べが終わったので帰すが、その馬車で公爵邸へ行き内部の事は執事を使って宜しく頼む」って、丸投げね。

 公爵家を嬲る気満々な事を隠そうともしていない。
 話が決まると公爵夫人が連れて来られ、宰相から蟄居を申し渡されている。
 もう一人、執事の男は服はボロボロ髪はぼさぼさで窶れきっている。
 過酷な取り調べで治癒魔法使いから治療は受けたのだろうが、憔悴した精神は治癒魔法でも治らない様だ。

 王家の馬車に公爵夫人と執事と共に乗り込み公爵邸に向かうが、馬車に乗り込んだ瞬間から鬼の形相の夫人が呪詛の声を撒き散らす。

 「小母さん煩いよ。もうあんたには何の権力も無いんだよ。騒げばあんたの子供や孫達も同じ目に合うことを忘れるな」

 「煩い! 薄汚い野良猫の分際で妾に声を掛けるな! 何の権限が有って妾の馬車に乗って・・・」〈ギャー〉

 煩いのでどちらが支配者か教えて差し上げたが、歯を撒き散らして震えているが未だ口を開こうとする。

 「好き勝手に振る舞う事を許されない立場になったのを自覚しなよ。大人しく出来ないのなら、亭主の後を追わせてやるよ」

 漆黒の刃を突きつけ、最後の警告をする。
 ナイフを鼻先に突きつけたのだが、ちょいと鼻の頭に当たって血が滴ると硬直して静かになった。
 嫡男だった男とよく似た性格の様だ。

 馬車が公爵邸に滑り込むと出迎えのメイドや従者達がズラリと並ぶが、降りてきた公爵夫人を見て戸惑っている。
 鼻の頭と口から血を流した女主人と、ヨレヨレの服に血の跡が付きげっそりと窶れた執事、其れに続いて冒険者姿の俺。

 その場に居た者達に執事が王家からの通達が有ると告げる。
 執事の前に立つ公爵夫人の背後に使用人達が続くと、執事に書簡を渡して読めと命じる。
 国王陛下からの告知書と聞き、公爵夫人が俺に向かって跪くと使用人達も一斉に跪いた。
 俺から告知書を受け取った執事が戸惑っているが、構わず読ませる。

 国王陛下の代理人面して告知書を読み聞かせる趣味は無いし、そんな事は依頼には無い。

 「告、ネイバル・コランドール国王の名に於いて、エレバリン公爵夫人に対し蟄居を命じる。尚エレバリン公爵家に仕える者達は別途使者が訪れるまで外出を禁じる。其れ迄の間、ユーゴ・フェルナンド男爵を王家代理人とする」

 公爵夫人が深々と頭を下げるのを見て、執事が専属メイドに命じて夫人を自室に連れて行かせた。
 執事に騎士団長と各部隊の指揮官及び警備兵の責任者を、公爵の執務室に集めさせる。

 不安顔で集まった男達は、俺を見て不審顔に代わるが問答無用で国王からの告知書を執事に読み上げさせた。
 執事の前に跪いたが、読み上げられる内容に驚愕の表情になる。
 読み上げた書面を俺に返して、跪く者達と並ぶ執事。

 「お前はユーゴと名乗る冒険者であろう! 何故男爵などと法螺を吹き・・・」

 煩いので、顔面にアイスバレットを叩き込み黙らせる。

 「公爵夫人と執事がヘルシンド宰相より命を受け、俺と共に王家の馬車で当家にやって来た。それを法螺などと喚くのなら命は無いものと思え! 従う意思が無いのなら、腰の剣に手を掛ければ良い」

 誰も動こうとせず、倒れた男を見ている。

 「誰も異存は無いのなら、その男を拘束しろ!」

 アイスバレットを顔面に受け朦朧としている男を縛れと命じる。
 黙って頭を下げていれば思い出すこともなかったのに、余計な事を口走るから思い出しちゃったよ。

 「相変わらず礼儀知らずだねぇ~、棍棒を振り回すのが礼儀じゃない事くらい覚えろよ。股間を蹴り潰されても判らなかった様だな」

 「糞野郎が、多少魔法が使えるからと・・・」〈ウゲッ〉

 飛び込み様に股間を蹴り上げたら、一言呻いて白目になっちゃった。
 俺は此奴の股間を蹴る趣味はないが、此奴は蹴られて喜ぶタイプかな。

 「騎士団長は誰だ?」

 「はっ、私ですが・・・」

 「前任者とホリエントの所へ案内しろ」

 「それが・・・前任者は既に亡くなっておりまして・・・」

 「ホリエントは?」

 「たぶん生きていると思います・・・死んだとの知らせは受けていませんので」

 「案内しろ!」

 騎士団長や指揮官達が向かったのは例の拷問部屋で、部屋の隅の目立たぬ扉を開けて地下室へと降りて行く。

 「おい! 犯罪者には見えない者が多くないか?」

 「主人の命により閉じ込めている魔法使い達です。その~う、召し抱えたものの魔法が上達しなかったり碌に練習をしない者を見せしめにと」

 「全員執務室の隣の部屋へ連れて行け。ホリエントは何処だ?」

 地下牢の奥から更に下へ続く階段お降りると、異臭が漂う小部屋が数室有り鎖に繋がれた男が横たわっていた。
 ライトの明かりに浮かんだ姿は傷だらけで、身体は変色して膿が垂れている。 手早く鑑定をすると〔打撲骨折多数・衰弱・瀕死〕と出たので即座に(ヒール!)
 鑑定で瀕死が消えたので彼を執務室に連れて来いと命じる。
 気に染まない依頼だが受けて正解だった。

 執務室のソファーに横たえられたホリエントの衣服を全て剥ぎ取り観察して治療の方法を考える。
 打撲骨折多数だが、右目の傷は眼球を傷付けて膿んでいるし左足首は変形して黒ずみ使い物にならないと一目で判る。
 こんな状態の足を治せと言われても無理だろう。
 他の部位を一気に治せば魔力切れで倒れそうだし、考えていた仮説を試してみる価値はあると思う。

 執事に命じてシーツを持って来いと命じ、その間に左足を持ち上げて固定すると、ショートソードで一気に斬り落とす。
 噴き出す血は(ヒール!)の一言で止まり傷口も塞がったが。その他の場所が治った様子はない。
 やっぱりね、一点集中治療は魔法が発動する最低限の魔力で十分治療出来る。

 ホリエントをシーツで包むと、俺が許可するまで執務室に誰も入れるなと命じる。
 ソファーを中心に結界で囲み、誰も踏み込めない様にしてから治療を始める。 全身の骨折と変色している身体の治療からだが、魔法20回分の魔力を使って(ヒール!)(鑑定!・状態)〔健康〕
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