上 下
56 / 161

056 力の誇示

しおりを挟む
 王都内の貴族や商人達には王家の通達が終わったと連絡を受け、ロスラント子爵の馬車でベルリオホテルに帰れたのは一週間後であった。
 その間にロスラント子爵に指摘され、上等な街着の胸に男爵としての紋章を刺繍して貰った。

 そのままでは気恥ずかしいのでハーフコート程度の、フード付きのケープを仕立てて紋章を隠す様にした。
 王城で俺に魔法を示した男の物に似た、少し長いローブかケープで下っ端魔法使いに見えるので丁度良い。

 支配人は俺の顔を見るなり飛んできて深々と一礼し「お帰りなさいませ。フェルナンド男爵様」と抜かしやがった。
 即行で公式以外では、これまで通りユーゴと呼ぶ様に言いおく。
 面倒事を避ける為に受けた男爵位だが、別な意味で面倒事が増えた気がする。
 但し、ここ2,3日は教会の神父達が姿を見せないと支配人から聞かされたので、御利益は有りそうだ。

 依頼の条件として王都内に住居を定める必要があるが、ホテルでは手狭と言うより貴族として扱われるのが煩わしい。
 困った時の商業ギルドへ行き、少し広めの部屋を借りる相談をする。
 内装や壁を自由に出来ることと、広めのワンルームかそれに準ずるものとお願いしておく。

 部屋が決まったら少し王都を離れようと思ったが、顔見せの為に新年の宴に出席する様に頼まれたので大人しくしている事にした。
 取り敢えず暇潰しも兼ねてミシェルの様子を見に、ケテイラス通りのブルメナウ商会を訪ねる。

 此処もコッコラ商会と同様堂々たる建物で、冒険者スタイルの俺が店に入ると荒くれ達に前を塞がれる。
 メダルが二つ、ブルメナウ会長に貰ったメダルを見せて取り次ぎをお願いする。

 「ユーゴ様、良くおいで下さいました。男爵位を授爵なされたとか」
 「ユーゴ様、ホテルの方へ伺おうかと思っていた所ですよ。男爵様になられて、お目出度う御座います」

 「ブルメナウ会長様、コッコラ会長様有り難う御座います。お忙しい様ですので、ミシェルさんの様子を確認したらお暇します」

 サロンに案内されたときに、ブルメナウ会長とコッコラ会長以外に三人の男が居た。
 何れも上等な衣服に身を包みソファーで談笑していたのだが、冒険者スタイルの俺を見る目は鋭い、と言うよりキツい。
 ブルメナウ、コッコラ両人から、男爵位授爵を祝われているのを聞き顔を見合わせている。

 年若い冒険者が、何の功績も無く男爵に叙せられるとは思わなくて当然だな。

「ユーゴ様、ご紹介致します。木材加工所を営むクアルトス殿、酒造業を営むアチェリラ殿、宝飾品全般を扱うカラナド殿です」

 三人とも立ち上がって名乗り会釈をするが、ブルメナウ会長に紹介されて礼を失しない様に振る舞っているだけだとよく判る。
 こういった場は苦手なので、ミシェルの確認に行きたいと告げ様として異変を感じる。

 何かが俺の中に侵入してくる感覚に戸惑うが、これに似た感覚は良く知っている。
 冒険者ギルドや街中で敵意を持って監視している奴らから感じるものだ。
 ブルメナウとコッコラからは悪意は感じられ無い、三人からは侮蔑の感情は持っているが敵意は無いし監視でもない。

 とすれば此は鑑定か? 鑑定されて俺の能力が知られるのは不味い。
 どうやって阻止すれば・・・ミシェルの・・・と言って黙り込んだ俺を不思議そうに見る二人と、興味深げな三人。
 ままよ! 感覚とイメージに全てを委ねて、侵入してくるものを引き千切る。

 〈ウワッ〉と言って頭を抱えて跪いたのは、宝飾品を扱うと紹介されたカラナド。
 俺を鑑定しようなんて良い根性をしているじゃないの、逆に俺が鑑定してやるよ。
 (鑑定!・魔法とスキル)〔生活魔法・水魔法・鑑定スキル・魔力87〕
 記憶する必要は無さそうなので全て一括で、(読み取り・読み取り)〔生活魔法・水魔法・鑑定スキル・削除,削除,削除〕
 (読み取り・・・)スキルはともかく、生活魔法が使えなくなるのは地味に堪えるだろうから、ざまぁみろだ!

 皆が心配そうに見ていたが、カラナドは頭を振りながら立ち上がったので、メイドにミシェルの所へ案内してもらった。

 * * * * * * * *

 年が明けて新年の宴の前日、王都に参集した貴族とその子弟や各国の公使達を招待して、魔法部隊による特別演習が行われた。
 春の魔法大会ならいざ知らず、一月の寒い中魔法大会の会場に使われる闘技場に集められた貴族達は、不平たらたらである。
 而し、王家の命を無視する事も出来ずに早く終われと祈っていた。

 何時もの魔法大会の様に、各攻撃魔法が披露された後は各部隊による一斉攻撃と続く。
 退屈な時間が流れる中、少数の者はいつもと違うことに気がついていた。

 標的が太く頑丈に見えるし、背後の防壁も遥かに分厚く高く作られている。
 そして各部隊による一斉攻撃が終わると、大きな張りぼての的が引き出されてきた。
 係の者が張りぼてを固定して離れると、一人の少年がやって来て直ぐにはなれる。

 〈何だあの的は?〉
 〈いやいや、唯の張りぼてだろう。運んできたところを見ただろう〉

 一際声を張り上げた説明係が、これより魔法部隊に連続した一斉攻撃を始めると伝えた。
 土魔法・氷結魔法・火魔法・雷撃魔法の順で二度全力攻撃をしたが、張りぼての的は傷一つ付かないどころか揺れもしなかった。
 事此処に至って、漸くこの特別演習が唯の魔法部隊の展示訓練でないと悟った。

 〈あれは、結界魔法か?〉
 〈そんな馬鹿な、あんな結界なんぞ見たことも聞いたことも無いぞ!〉
 〈それより見たか! 魔法攻撃が5メートル以上手前で阻止されていたぞ〉
 〈魔法攻撃防御を施しているのか?〉
 〈それならもっと近くで防ぐはずだろう〉

 攻撃を終えた魔法部隊の集団が一斉に的から離れていく。

 〈又何かやるのか?〉
 〈引き上げて来ないな〉
 〈何をするのだろう?〉

 魔法部隊が60メートル以上下がると又少年が現れたが、今度は標的から50メートルの線上を歩き出した。
 無造作に伸ばされた腕から打ち出されるストーンランス。

 〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉〈ドゴーン〉と轟音を立て連続して的を射ち抜き背後の防壁を大きく抉り取る。。

 〈何だあれは!〉
 〈誰だ! あんな魔法使いがいるなんて聞いた事が無いぞ!〉
 〈ストーンランスの連続攻撃だと〉
 〈短縮詠唱なのか?〉
 〈それにしても間隔が短すぎないか?〉

 貴族や各国の公使達が騒ぐ中、ストーンランスからアイスランスに変わりこれも連続五回的を射ち抜いた。

 〈そんな・・・馬鹿な!〉
 〈あの少年は何者だ?〉
 〈奴を必ず召し抱えて見せるぞ〉
 〈待て! 未だ何か遣る様だぞ〉

 その言葉が終わると同時に〈バリバリバリ、ドォーン〉〈バリバリバリ、ドォーン〉と雷撃音が連続して五回闘技場に響きわたる。

 〈雷撃魔法までも使えるのか!〉
 〈三属性の攻撃魔法・・・〉
 〈奴一人で王国の魔法部隊を凌ぐ攻撃力だぞ〉
 〈待て待て! 何を・・・〉
 〈嘘だろう!!!〉

 驚愕する人々の目の前で、少年の前方に巨大な火球が浮かび上がり射ち出される。
 〈ドオォォォン〉〈ドオォォォン〉と轟音を立てて爆散する火球。
 爆散した炎は上空へ吹き上げられて消えていく。
 不思議に思い防壁を見ると、火球の射ち込まれた場所は壁が斜めに削がれていて爆風を上に逃がす様に作られていた。

 〈四属性の攻撃魔法と無敵の結界・・・〉
 〈陛下はこれを見せる為に我等を集めたのか〉
 〈王国は巨大な戦力を手に入れた事になるぞ〉
 〈あの魔法使いが居れば安心だな〉

 貴族達は自国に強力な魔法使いが現れたことを喜んでいたが、コランドール国王の側近くに座る一部の高位貴族や、各国の公使達は顔色が冴えなかった。
 それを見て僅かに口角を上げると、魔法展示の終わったフェルナンドが下がるのに会わせる様に、国王も引き上げていった。

 * * * * * * * *

 「見たか、奴らの顔を」

 「中々面白い見物でした。陛下が彼を男爵にと言い出されました時は何をお考えかと・・・而し、魔法の試しを見た時に彼は王家の強力な武器になると思いましたが、今日彼等の顔を見て陛下の深いお考えに感銘致しました」

 「これでコソコソ動き回る奴らも少しは大人しくなるだろ。でなければ彼に依頼する事になるな」

 「依頼を受けて貰えるでしょうか?」

 「受けなくても良いのだ、彼が我が配下に居るという事が抑止となるし、予が彼に依頼すると思えばどうすると思う」

 「なるほど、彼を排除しなければ我が身が危ういとなれば」

 「そう言う事だ。而し、今日の公使達の表情を見れば男爵位は低すぎたかな」

 「何か理由を付けて子爵か伯爵に・・・」

 * * * * * * * *

 午後のお茶を楽しんでいる時に、ベルリオホテルの前に迎えの馬車がとまった。
 ロスラント子爵様の従者が綺麗な一礼とともに「お迎えに参りました」と丁寧な挨拶をする。
 どうもこの糞丁寧な対応には慣れないが、これも依頼の一環だと諦める。

 王家の通達が行き渡ってからは、教会を含めた多くの呼び出しや依頼がピタリと止んだ。
 代わりに丁寧な依頼書に変わったのには笑ってしまったが、無理強いをされないので良しとする。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し
ファンタジー
相方を補佐するためにソーサラーになったクアゼル。 冒険者なら誰にでも一つだけあるはずの強力な固有スキルが唯一《空欄》の男だった。 味方に裏切られて死ぬも復活し、最強の固有スキル【転生】を持っていたことを知る。 死ぬたびにダンジョンで亡くなった者として転生し、一つしか持てないはずの固有スキルをどんどん追加しながら、ソーサラーのクアゼルは最強になり、自分を裏切った者達に復讐していく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...