男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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052 直談判

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 「俺の本気を見たいのなら王城を破壊することになるけど、どうする?」

 「待て! 止めろ!」

 「待てと言うのなら、王家の威光を笠に俺に干渉しないと思って良いのか」

 「干渉しない! 呼び付けたことも謝罪する!」

 「その言葉何処まで信用出来るのかな? 其処で伸びている魔法師団長は、俺を無理矢理王城に連行したんだぞ。それが姿が見えなく為ると賊呼ばわりをして、城内に手配をしているのだが」

 「即刻取り消させよう」

 その言葉を聞いて火球の魔力を抜き消滅させる。

 「魔法訓練場の標的前に、見えない結界を張っている。俺を襲うならその結界を破壊してからにしな。その結界が壊せない様なら、王家の魔法使いが束になっても俺を殺せないぞ」

 「判った・・・そうさせて貰おう」

 「因みに、2,3週間は存在しているはずなので。納得がいくまで攻撃してみれば良い」

 「まさか・・・そんな事が」

 「ところでホテルから無理矢理連れて来られたんだ、ちゃんと送り返してくれるんだろうな」

 宰相閣下の顎が、ガクンと落ちてしまった。

 * * * * * * * *

 ホテルの支配人は、王城から帰ってきた俺を複雑な顔で迎えてくれた。
 疫病神が戻って来たと思ったのか、預かっている前金が懐に入らなかったのを嘆いたのかは知らない。

 宰相閣下には、街の警備隊を含め騎士団や魔法部隊の一員であろうと、俺に対して無体な要求をしたり、攻撃すれば皆殺しにすると警告している。
 これ以上は譲歩する気も無いし、煩かったら王城をぶち壊して他国へ移動するだけだ。

 * * * * * * * *

 「宰相閣下、此処に半球状の結界が張られていますが、極めて強固です」

 そう聞いても何も見えず地面に薪を並べた丸い輪が見えるだけだ。
 その先には魔法の標的が並んでいるが、四つばかり壊れていて背後の防壁には穴が開いている。

 「あの標的を射ち抜き、背後の防壁すら射ち抜いたと申すのだな」

 「はい、それも口内での短縮詠唱でしょう、何やら言葉を呟くと無造作に射った後に連続三発を射った結果があれです」

 手枷をスカーフで巻いて隠し、説明をする魔法師団長はちょっとがに股気味である。

 30メートル程の距離を置いて並ぶ魔法部隊を見て攻撃を命じる。
 師団長の命令に従ってストーンランスの斉射五回、ストーンジャベリンの斉射五回。
 続いてファイヤーバレットの五斉射を加えたが何も起こらない。
 合図を受けて兵の一人が結界に駆け寄り、ハルバートで思いっきり叩くと〈キン〉と音がして弾き返され結界の存在が判る。

 「全戦力での一斉攻撃でも壊せないのか?」

 「多分駄目でしょう。まさか、此ほどの魔法使いが存在するとは思いませんでした」

 「あの男はホテルに泊まっているのだ、魔法部隊の一斉攻撃でホテル事吹き飛ばせば・・・」

 「この結界を見ても判りませんか。ホテルは吹き飛ばせるでしょうが、彼自身は結界に守られている筈です。それに王都内でそんな騒ぎは起こせません」

 魔法攻撃が無効なので戦斧やハルバートの一斉打撃を試みたが、全然歯が立たなかった。
 最後には城門を破る破城槌まで持ち出したが無駄であった。
 事此処に至って漸く、ヘルシンド宰相は自分の手に負えないと国王陛下に報告することにした。

 * * * * * * * *

 「ヘルシンド、何やら騒がしいのう」

 国王陛下に問われて、ユーゴに関する事と前日の一部始終を報告した。

 「中々に興味深い男の様だな。明日その結界の試しをもう一度させろ! 予が直々に検分してやろう」

 翌日国王陛下立ち会いの下、前回同様に魔法攻撃から始まったが結果は全く同じであった。

 「此ほどの結界魔法使いは聞いたことが無いぞ、それと身体の周囲にも張り巡らせているそうだな」

 「はい、私の執務室で護衛の騎士達四人が斬りかかりましたが無抵抗で見ていましたし、最後にはアイスアローの連続射撃で、あっさりと倒されました」

 「火魔法も、お前が止めなければ控えの間が消滅していただろうな」

 「あれはそんな生やさしい物ではありませんでした。止めなけれどどれ程の被害が出たかしれません」

 「そんな男を、ぞんざいに扱い怒らせたか」

 「申し訳在りません!!」宰相と魔法師団長の謝罪の声が重なる。

 「ヘルシンド、冒険者から臣下に取り立てた者達の気性をその方も良く知っているはずだが、間抜けな事をしたのう」

 「臣下に取り立てるおつもりで」

 「治癒魔法に土魔法,氷結魔法,火魔法,結界魔法、十大魔法の半数を使える者が此の国に居るのか? それも魔法師団の者より遥かに強力な使い手だ」

 「而し、王家の威光など気にも掛けない男で御座います」

 「此の国も平和が長く続いたので、宰相も腑抜けている様だな。その男は敵対してきたのか?」

 「いえ・・・而し『冒険者である俺が、何故王家の命に従わなければならないのか』と申す様な男ですぞ」

 「敵対するとは言っていないし冒険者だと言ったのなら、未だ希望は在るな。ヘルシンド、逆らう者は敵ではないぞ。干渉するなとは、無理を押しつけなければ敵対しない、敵対しない者は味方だ。此の男が他国や教会と手を組めばどうなるのか考えよ。ホテルでのんびりしているのなら、未だ教会の手は伸びていない。教会の手の者をその男に近寄らせるな」

 「はっ、早急に手配致します」

 「魔法師団長、その男は『俺は冒険者だ、ただ働きは御免だ』と言い『治療しろと言うのなら金を払え』と言ったのだな」

 「はっ、まったく不遜な男で御座います」

 「良いよい、今後その男・・・名はなんと申した?」

 「ユーゴで御座います」

 「今後そのユーゴには丁寧に接しろ。決して頭ごなしに命令をするなよ」

 「はぁ~」

 言われた言葉が理解出来ずに、国王陛下の御前で間抜け面を晒す魔法師団長。

 * * * * * * * *

 「ユーゴ様ですか?」

 「そうだ、是非会ってお伝えしたい事が在る」

 「それがですねぇ~、暫く留守にすると言われて帰って来ていないんですよ。ユーゴ様にご用命の際には、依頼用紙を書いて頂くことになりますが宜しいでしょうか」

 「依頼用紙とは?」

 「ご身分とご尊名に依頼内容で御座います。依頼書は50枚を超えていますので直ぐに受けて貰えるとも思えません。私共は依頼書を預かり、ユーゴ様がお戻りになられましたらお渡しするだけですので、ご承知おき下さい」

 ホテルの支配人も、最近は無理を言い出す依頼者の扱いに慣れてきたのか、前もって断りを言っている。

 * * * * * * * *

 王家と揉めたのでこのままで済むはずもない思い、今後の事を考えて本格的に転移魔法の練習に励む。
 逃げるには目潰しをしてからと即座に脱出する必要が在る時だが、建物内なら屋根の上か隣室が手っ取り早い。

 屋根に跳ぶには頭上に部屋があったりして、跳ぶ距離が判らないのと建物を利用しての練習が必要なのでパス。
 隣室に跳ぶのは、壁抜けなどで経験済みとなれば距離関係となる。
 約50メートル程度の見通し距離でのジャンプは経験済みなので、1/100の魔力で何処まで跳べのるかから調べる事にした。

 ここで面白い事を発見した。
 目視距離なら1/100の魔力で距離関係になく飛べる事と、其処に見えていなかった障害物が有った場合には、障害物の手前に出現するということだ。
 そして安全の為に張っている結界は、飛んだ先が窪地などになっていて落下しても怪我をしないってこと。

 打撃や斬撃を受けても飛ばされるだけで怪我をしないのは判っていたが、落ちてみて改めて結界の優秀さを実感した。
 此なら上空へ避難しても落下の心配、落下はするが怪我の心配をしなくて済む。

 長距離ジャンプの練習から、上空への避難ジャンプの練習に切り替える。
 疎らに生える灌木の倍程度の高さへ跳び、落下する。
 段々と高度を上げていくが、落下速度が速く恐怖の為に股間が縮み上がる。
 落下速度軽減の為には空気抵抗を増やせば良いのだが、良い案が思い浮かばない。

 野営中に簡易ベッドに寝転んで星空を眺めていて閃いた!
 これこれ、股間の安全と空気抵抗を増減出来て我が身も守る、無敵の結界魔法。
 野営用に地面に半球状に張る結界も、空中なら球形に張れることは間違いなかろう。
 隠形で姿を隠して空中へジャンプし、見えない球形の結界を張れば落下速度も軽減できて安心安全が確保される。
 そして誰にも見られないので知られる事もない。

 夜明けと共に実験開始、少し大きな木の上空にジャンプして即座に球形の結界を張る。
 半径5メートル程をイメージして張った結界は予想通り落下速度を大幅に落としてくれた。
 何度もジャンプして球形を大きくして落下速度を落とすが、誤算が一つ。

 空気抵抗を増して落下速度を落とすということは、風の影響も同じ様に受けるって事だった。
 その為に上空では小さな球体で風の影響を少なくし、地面が近くなったら球体を大きくして落下にブレーキを掛ける。
 大きくした球体の下部が地面に着いたら球体を小さくして地上に降りる。
 結構な手間は掛かるが、作った球体に使用する魔力は一回限りなのでまぁ良いかと納得する。

 何度目かの空中浮遊の最中に、王都に向かう馬車を見掛けたが気になるものも見えた。
 地上に降りると(鑑定!・魔力残)〔魔力、47〕
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