男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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048 悩む宰相閣下

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 解体主任が査定用紙を持って来たのだが「シルバータイガはオークションだ」と言われたので、俺のギルドカードを渡して口座に入れてくれる様に頼む
 テーブルに置かれた査定用紙を全員で確認する。

 シルバータイガ、オークション(後払い)
 オークキング、2頭、220,000+250,000=470,000ダーラ
 オーク9頭、70,000×3=210,000ダーラ
 75,000×2=150,000ダーラ
 80,000×4=320,000ダーラ
 ブラックベア1頭、230,000ダーラ
 フォレストウルフ23頭、60,000×12=720,000ダーラ
 合計2,100,000ダーラ

 〈おお~ぉぉぉ〉と歓声が上がる。
 一人頭150,000ダーラになると判り皆ほくほく顔になる。

 ちょっと背筋が寒くなり嫌な予感がすると思ったら、案の定現れたよ。

 「お前達がシルバータイガを討伐したのか」

 ギルマスの銅鑼声に食堂に居た奴等が騒めく。
 それで無くても、分け前が多くて大喜びしているので注目の的なのに止めて欲しい。
 皆が一斉に俺の顔を見るので、当然ギルマスも俺の顔を見る。

 「どれも此も一撃で倒しているが、全てお前か?」

 「あ~・・・ギルマス、ランクアップならお断りします」

 「今のランクは何だ?」

 「シルバーの一級」

 「えっ、え~ぇぇぇ」
 「ユーゴってシルバーランクだったのかよ」
 「腕が良いからブロンズの二級だと思っていたが」
 「冒険者になって2年少々って言ってたよな」
 「まぁ、あの魔法の腕でシルバーの一級とは、安く見られたな」

 声が大きいって、周囲で聞き耳を立てている奴等が騒いでいるじゃないか。

 〈おい、解体場へ行くぞ!〉
 〈そんなに腕が良いのか?〉
 〈シルバータイガって言ってるじゃねえか。後学の為にも見ておくか〉
 〈俺、そんな大物見たことが無いや〉

 見ろ! 皆食堂から出て行く時にジロジロと俺を見て〈あんなチビ猫がかよ〉とか〈へぇ~、猫でも魔法が使えるのかよ〉なんてほざきやがる。
 俺の前に来て言ったら、叩きのめしてやるからな!

 「あれをお前一人でやったのなら、ランクアップをしなければ俺の首が飛ぶので見逃せんな。お前等は見ていたんだろう」

 「いや見ていたのはシルバータイガだけですよ、ギルマス」
 「そうそう、シルバータイガを猫の子・・・お子ちゃま扱いであっさりと」
 「それ以外は夜のうちに一人で狩ったってよぅ」
 「俺達の常識が通用せんな」

 「それじゃー取り敢えずシルバーの二級にしておくぞ」

 あっちゃー、ギルドカードは解体主任に渡しているんだったよ。
 ギルマスがニヤリと笑って、俺のギルドカードを振って見せやがる。

 「18でシルバーの二級か、大したものだな」
 「俺達とはレベルが違いすぎだぜ」
 「土魔法使いの優秀な奴はいねえかな」
 「ああ、土建屋なんて思っていたが冒険者向きの魔法だよな」

 「一丁募集を掛けるか」
 「腕の良い奴をな」

 * * * * * * * *

 「如何でしたか、森は」

 「結構獲物の多い森ですね」

 「お帰りなさい、ユーゴ様」

 「ミシェルは随分元気になった様だな」

 「はい。もう朝の散歩も遠くまで行ける様になりました」

 「最近元気になりすぎたと言うか、付き人が困っていますよ」

 「じゃあー、元気になったお祝いを上げよう」

 マジックポーチから茶筒を逆にした形の容器を取り出してミシェルの前に置く。
 小首を傾げるミシェルの前で封印を外して筒を持ち上げる。
 封印していた為に香りが籠もっていたのか、甘く優しい香りが部屋中に広がる。

 「素晴らしい香りね」
 「綺麗なお花」
 「なんとまぁ~」
 「珍しい花ですな」

 母親とミシェル、会長と父親それぞれの感想は男と女の違いを見る様で可笑しくなる。

 「此を私に?」

 「二本採取してきたので、ミシェルと奥様にどうぞ」

 「良く見つけられましたねぇ~」

 「御存知なのですか」

 「記憶に間違いが無ければ、クリスタルフラワーと呼ばれている花です」
 「クリスタルフラワーって・・・まさか」
 「間違いないと思う。薄緑色の半透明な花に、甘く優しい香りは噂通りです。私は花に興味がありませんが、極たまにオークションに掛けられることがあるそうです」

 「これもオークションですか」

 やれやれ、意図せずに貴重な物が二つも手に入るとはねえ。

 「そんなに貴重な物を頂けませんわ」

 「大丈夫ですよ。森に行った序でに、ミシェルのお土産に丁度良いと思って採取してきた物です。何時まで咲いているかも判りませんので、今のうちに楽しんで下さい」

 「いま、これもオークションと言われましたか?」

 「はい、シルバータイガって言う珍しいタイガーに出会しましてね」

 「それを討伐なされたと?」

 肩を竦めて肯定しておく。

 「それを冒険者ギルドに提供したと?」

 もう一度肩を竦めるとブルメナウ会長が慌てだした。
 王都に行ってオークションに参加すると言いだしたのだ。
 シルバータイガの銀色の毛皮を持つ事は、一種のステータスになる様だった。
 その際に聞かされた話では、ブルメナウ会長もコッコラ会長も王家より子爵待遇を受けているそうで、高額納税者に対する優遇策かな。

 話の流れから、ミシェル達の土産に採ってきたクリスタルフラワーを一鉢貰えないかと頼まれた。
 ミシェルと彼女の母親に贈ったものなので、彼女らにお願いしてくれと返事を二人に投げる。

 ブルメナウ会長の話では、王家に献上したいそうだ。
 高価な物は手に入るので送ってもあまり喜ばれないが、珍しいもので而も一刻の命の花は王妃様達に喜ばれるそうだ。
 ミシェル達二人に返事を投げた為に、慌てて花の提供者の名を極力伏せる様にお願いする羽目になってしまった。

 * * * * * * * *

 王都に向かう馬車の中、もうキエテフに用はないので王都に帰るのならと、献上品を運ぶブルメナウ会長の馬車に同乗する事になった。
 何故かミシェルと彼女の母親も同乗している。
 ミシェルが元気になったので、来年王都の学院に通わせる為に住まいを移すそうだ。

 今年は王都になれる為だと聞いたが、パパは仕事が有る為にキエテフ住まいって、可哀想に。
 単身赴任ならぬ単身在留、番頭に仕事の引き継ぎをしたら王都にやって来ると聞いて心の痛みがやわらいだよ。

 * * * * * * * *

 王都に到着してベルリオホテルで下ろして貰う際に、コッコラ会長に貰ったのと同じ様なメダルを貰った。
 但し、コッコラ会長ほど支店は多くないと笑っていたが、困った事があれば何時でも訪ねて来て欲しいと言われる。
 ミシェルにウルウルされ、母親にも一度はミシェルの状態の確認に来て欲しいと頼まれてしまった。

 久方ぶりのベルリオホテルだが、早速渡されたのが依頼書の束である。
 33枚有った依頼書が一枚減って13枚増えるって、永遠に依頼を消化出来ないな。
 尤も、パラパラとみて殆どは却下と決定したが、重複依頼を防ぐ為に捨てずに保管する。

 翌日は商業ギルドに出向き、ミシェル治療の謝礼に貰った金貨300枚を預けた後は、市場に寄って食糧の調達を始める。
 食糧調達の後、草原で魔力切れを続けた結果を調べたいと思っている。
 長らく続けている魔力切れの自己鑑定では、魔力73と変化はないが魔法を使うと強力になっている気がするのだ。

 シュラクとシルバータイガの間に張った結界は板状のものだったのだが、シルバータイガが激突しても揺れた様子が無かった。
 薄いカーテン状の結界だ、揺れるなり撓るなりして当然なのに壁に当たった様なシルバータイガの動きだった。
 そしてその周囲を囲った時、上から逃げられない様にと電柱並みの高さで囲ってから上部を絞り込んだ。

 此まで直径5,6メートルのドームは何度も作ったが、あれ程大きな結界を一気に作ったことは無かったし、1/73の魔力を使って出来る大きさではない。
 鑑定で魔力が増えていないのであれば、1/73の魔力の威力が上がったのか魔法になれて同量の魔力で出来る事が増えたのかだ。

 もともと1/73の魔力で何れだけのことが出来るのかなど、考えた事も無かったので基準が判らない。
 而も分割使用していた魔力の一気投入は、治癒魔法以外ではした事がないので現在の1/73を基準に考えなければならない。

 * * * * * * * *

 俺が魔力について頭を悩ませている頃、ブルメナウ会長は王家に献上するクリスタルフラワーの状態を確認した後、ワレイズ・ヘルシンド宰相に宛てて献上の報告をしていた。

 ヘルシンド宰相は、ブルメナウ会長からの書簡を見ながら考える。
 クリスタルフラワーも貴重だが、彼はユーゴと名乗る冒険者に孫娘の治療を依頼して、病は完治し孫娘は元気に生活していると報告を受けている。

 彼が治療したと言われる三名の内で骨折した少年は除外しても、二人の少女は多数の治癒魔法使いがどうにもならなかったものだ。
 彼はひょっとして王家に仕える治癒魔法使いと同等か、それ以上の腕の持ち主かもしれない。

 而もキエテフで木材伐採人や護衛の冒険者達と共森に入り、シルバータイガやオークキング,ブラックベア等多数を一人で討伐したと、献上品目録とは別な報告書に書かれていた。
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