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018 ブロンズランク

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 「皆落ち着け。ウルザク、欲しければ遣るよ」

 「そんな馬鹿な」
 「それは全てユーゴの金だよ。ウルザクに1ダーラも渡す必要は無いよ」

 ウルザクの前に銀貨四枚を置き、別れを告げる。

 「最初の約束通り、ウルザクは今日でお別れだな」

 「何でだよ。冒険者なら当然の要求だろう」

 「忘れたのか、俺はお前を雇っている。お前達でバーティーを組んで貰うとは言ったが俺も仲間になるとは言っていない。もう一つ『訓練を真面目にやらなかったり、気に入らないと即座に放り出す』って最初に言ってあるぞ。お前は腰の物を手に入れてから訓練は手を抜くし、集合には遅れてきてぶつくさ文句を垂れる。仲間達から何度も注意を受けているが、直そうともしない」

 街に入る時には預かっている、短槍をマジックポーチから取り出して投げてやる。
 序でに貼付したスキル二つ(索敵スキル・短槍スキル・削除,削除,削除)と唱えて消しさり、(読み取り・・・)
 貼付したスキル二つが消えたのを、きっちり確認しておく。
 貼付していた間に上達したスキルが、削除すればどうなるのか知りたいが何れ判るだろう。

 「ゴブリン程度になら、楽に勝てる様になったんだから頑張れよ」

 「判ったよ。お前等は何時まで此奴の言いなりになっている気だ?」

 「お前の悪い癖だよ。少し楽になると怠けだすし強欲なところは、俺はユーゴに従うよ」
 「俺は放り出されるまでに、少しでも腕を磨いておくつもりだ」
 「ユーゴの親切が判らない奴とはやっていけないな」
 「そうだな。同じパーティー仲間になっても、お前が居れば揉めるのは間違いない。今のうちに別れようぜ」

 歯を噛みしめて睨んでくるが、オーク如きに腰が引ける奴に睨まれても何にも感じないよ。

 「勝手にしろ!」

 気まずそうなハリスン達を気にするなと慰めていると、俺達の会話を興味深そう聞いていた一団が立ち上がる。
 ウルザクの馬鹿のせいで、厄介事が増えそうだ。

 「兄さん達、オーク三頭だって。随分景気の良い話じゃねえか」
 「俺達もあやかりたいから、討伐場所を教えてくれよ」
 「全員冒険者登録したてのアイアンランクだろうけど、オーク三頭とは吹くねえ」

 「おっさん達、喧嘩を売っているのか? それとも集りに来ているのか何方だ」

 「アイアンランクは恐い物知らずだねぇ。森で会ったらお手並み拝見させて貰おうか」
 「お前はマジックポーチ持ちの様だが、此処は金持ちのボンボンの遊び場じゃないぞ」

 「皆さん腕自慢の様だけど、血の血便ってパーティーより強いの?」

 〈ブーッ〉
 〈けっ血便〉
 〈エールが臭くなる様な事を言うなよ〉

 〈おい! 猫ちゃんに喧嘩を売っている奴がいるぞ〉
 〈おっ、賭けるか?〉
 〈俺は猫ちゃんな〉
 〈むう~、良く知らない顔だから悩むなぁ~〉

 「さっきオークを持ち込んだのは、お前達か?」

 「誰でぇ、俺達が話しているんだ! 後にしな!」

 〈ウゲッ〉

 見事なボディーブローを食らって座り込んでしまった。

 〈おのれぇ~、いい度胸をしているじゃねえか〉

 あ~あ、別口で揉め始めたよ。
 腰の剣に手を掛けて取り囲んだが、悠然と構えているおっさん。

 〈おいおい〉
 〈知らないとは言え、良くやるよ〉
 〈相手を見て絡めよ〉
 〈猫ちゃん相手に絡んだら・・・〉

 「ギルマス、叩きのめして良いですか」

 声の方を見たら、どう見てもギルドの職員が三名、おっさん達を睨んでいる。
 なんとギルマスかよ。

 「いえっ・・・あのですね」
 「俺達はなにも、オークを討伐した場所を聞いていただけで」

 「王都の冒険者ギルドには相応しくないな。消えな」

 静かなギルマスの声に、青い顔で座り込んだ奴を引き摺って、食堂から出て行った。

 「オークを倒したのは誰だ?」

 ニヒルだねぇ~。
 ハリスン達四人が一斉に俺を指差す。
 止めろよ、人を指差しちゃいけませんって教わらなかったのかよ。

 「ふむ、一人で殺ったのか?」

 四人がコクコクと頷いているが、聞かれたのは俺なんだよ。

 「アイアンランクと聞いたが、登録は何時だ?」

 「二月少々前かな」

 「ギルドカードを出せ! オーク三頭を一撃で仕留める腕なら、俺の権限でブロンズに格上げだ」

 「登録一年はアイアンじゃなかったの。ギルマスってそんな勝手が出来るのかな」

 ギルドカードを渡しながら疑問を口にする。

 「腕の良い奴をアイアンなんかにしておけるか。ところで何処でオークと出会ったのだ?」

 疑問符の多いおっさんだね。
 ハリスン達を見て説明しろと目で訴える。
 しどろもどろに、討伐した場所をギルド職員に教えているのを見ながら、一人食事をパクつく。
 食える時に食っておけは世界共通だと思うので、その教えには素直に従う。

 〈話が大きいなと思ったが、マジでオーク三頭か〉
 〈それも一人でだとよ〉
 〈血の血便を馬鹿にしていたが、彼奴らでは歯が立たないだろうな〉
 〈而し、ギルマス権限で昇級なんて初めて見たな〉

 * * * * * * * *

 野営地に戻ると中の物を全てマジックポーチに仕舞わせ、少し森の中へ移動して新しいキャンプ地を作る事にした。
 ウルザクの性格なら、何れキャンプ地を自分の都合の良い様に利用しようとするだろう。
 それと自由に出入り出来る状態で放置すれば、ゴブリンや他の野獣の住処になっても困るので魔力を抜き壊しておく。

 ハリスン達にはパーティーを結成して貰うので名前を考えておけと言っておく。
 それと共に次回街に行ったら弓を買い練習してもらうと告げ、俺の小弓を見せて速射を披露する。
 ハティーよりだいぶ落ちるが、それでも小弓スキルを貼付して多少練習しているので、ハリスン達の目からは上級者に見える様だ。

 「弓って小弓の事ですか、威力はどれ位あります?」

 「20~30メートルだな。基本小動物相手と接近戦用だが、オークやホーンボア程度なら問題ない。普通の弓は強力だが、大物狩りをしたいか?」

 四人一斉に首を振るのが可笑しい。

 「オークやウルフが狩れる様になれば満足です」
 「俺達じゃ大物を狙ったら死にそうですから」
 「だな、一人前の万年ブロンズが良いです」

 「自分の力量を正確に知っておくのは大事だな。訓練を続ければもっと伸びると思うし、パーティーとして行動すればオーク以上の物も狩れる様になる。それに勝てないと判断出来れば、早めに逃げ出して生き延びる可能性も高くなるからな」

 俺の言葉に真剣に頷いている。
 俺は土魔法が使える様になった時点で、逃げる必要が無くなったので偉そうには言えないけどな。
 翌日からは短槍の突きだけでなく、突き払い振り回してぶん殴る練習も始める。
 全てコークスの短槍スキルを読み取り自分に貼付して、扱い方も習った方法を伝授していく。
 慣れたら乱戦時や対人戦で役立つだろう。

 索敵の練習中、俺は最後尾で色々な草や花と実を鑑定スキルを使って練習をする。
 (鑑定!)〔草〕
 (鑑定!)〔花〕
 (鑑定!)〔木の葉〕
 (鑑定!)〔毒草〕

 捗々しい結果は中々出ないが、練習しないと上達しないので練習あるのみ。
 治癒魔法も転移魔法も練習したいが、治癒魔法の練習相手がいないし転移魔法はドームの出入りでしか練習の機会が無い。
 焦りは禁物と自分に言い聞かせて、一つずつ習得に励む。

 * * * * * * * *

 早朝屋台で朝食を済ませて冒険者ギルドに向かい、溜まったゴブリンの魔石を売った後は冒険者御用達の店に直行して小弓を四張りと矢を40本に練習用の矢を80本買い込む。
 俺達が連れ立って行くのも三度目となると、纏め買いで大金を落とすので店主の愛想も良い。

 今回も小弓一張り8万ダーラ×4=32万ダーラ
 矢一本4千ダーラ×40本=16万ダーラ
 練習用矢3千ダーラ×80本=24万ダーラ
 矢筒と弦三本はサービスしますとご機嫌な店主。
 合計72万ダーラ、金貨7枚と銀貨2枚を支払って店を出る。

 「ユーゴ、そんなに俺達に金を掛けて大丈夫なのか?」
 「気にしなくても良いよ。俺の趣味に付き合って貰っているのだから、それに対する投資だよ」

 お前達を実験体にしているとは言えないので、趣味って事にしておく。
 お次は魔道具店で、マジックポーチを一つ買う予定。

 此処でも出入り口で前を塞がれたが、マジックポーチから金貨を掴みだして、マジックポーチを買いに来たと告げると中へ入れてくれた。
 カウンターで店員にランク2の最低の物と、時間遅延が30程度の物を見せて貰う。

 2/10のマジックポーチが110万ダーラで、2/30の物が130万ダーラなので2/30の物を買い、展示されている3/60と並べられた2/10の物を(読み取り・記憶)〔マジックポーチ、耐衝撃,防刃,魔法防御・2/10×5〕〔マジックポーチ、耐衝撃,防刃,魔法防御・3/60×10〕とそれぞれ記憶を増やしておく。

 ちょっと本屋で読みたい小説をコピーしている様な罪悪感はあるが、商売にしないから勘弁して貰おう。
 流石に魔道具店のマジックポーチだけ有って、高い分耐衝撃,防刃,魔法防御が付与されていた。
 店を出ると即行で2/30のマジックポーチも(読み取り・記憶)〔マジックポーチ,耐衝撃,防刃,魔法防御・2/30×10〕

 市場に寄り食糧や各自の嗜好品を買い込み。2/30のマジックポーチに入れて街を出る。
 草原に入ると各自に短槍を持たせ、買ったマジックポーチはハリスンに渡す。
 食糧は30日は持つし短槍も入れておけるので、此からは四人の物や獲物をそれに入れろと言っておく。
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