男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学

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017 オークの分け前

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 「ウオォォォ」
 「こな糞ッ」
 「死ねッ」

 〈ギャッー〉
 〈ゴワッ〉
 〈ギェエェェェ〉

 それぞれの掛け声と共に足を踏み出し、短槍をゴブリン目掛けて突き入れるとゴブリンの悲鳴が上がる。

 「ホウル! 引き抜いて隣の奴を突け!」

 俺の怒声に慌てて短槍を引き寄せると、隣のゴブリンに向き直る。
 残心なんてやるなよと思うが、負ける気がしない闘いは初めてなので仕方がないか。
 一頭は逃げたが、六頭を倒したので皆顔がほころんでいる。
 それぞれ自分が倒したゴブリンの魔石を抜き取っているが、抜き取った魔石を嬉しそうに眺めている。

 「訓練はするもんですねぇ。緊張したけれど、負ける気はしませんでした」
 「以前に王都の剣と仲間達から教わっていた時には、無我夢中で剣を振り回していましたからね」
 「剣より短槍の方が安心感が全然違うよな」

 「そりゃー剣を振るよりも、短槍の方が遠くから攻撃出来るしゴブリンの攻撃が届かないからな。対人戦なら駆け引きも在るが、ゴブリン相手なら突き一本で勝負出来るから楽だよ」

 そんな話をしていると、気配察知に何かが引っ掛かった。
 皆を静かにさせて違和感の方を探ると、またもゴブリンの群れだが明らかに俺達の方に向かって来ている。
 さっきの騒ぎを聞きつけた様で、数は10頭前後で他に居る様子はなさそうなので、迎え撃つ事にした。

 「またゴブリンだが、今度は10頭前後だから俺も加わるよ。俺を中心に左右に斜めに位置を取れ。俺の横を抜けた奴を頼む」

 立木の間に位置取りし、三角形の頂点の場所に立つと向かって来るゴブリンを睨む。
 注文して作った短槍を初めて使うが、何百回も立木を相手に練習しているので不安はない。
 フンザでは逃げ出す前にコークス達を手伝い、ゴブリン討伐を何度も経験している。

 不細工な棍棒を振りかぶり、走り込んでくる先頭のゴブリンに一撃を入れると横に振る。
 胸に短槍が突き立ち、一瞬棒立ちになったゴブリンを横に振ると仲間と縺れて倒れ込む。
 素速く短槍を引くと次のゴブリンを横殴りに殴り飛ばして後ろから来た奴と共に転倒させる。

 「倒れている奴は任せたぞ!」

 そう怒鳴って任せると、次の奴を下から掬い上げる様に腹に短槍を突き立てる。
 立木相手と違い、ゴブリンには切れ味抜群の短槍では手応えが薄い。
 正面の敵が居なくなったので左右を見るとそれ、ぞれが目の前にきたゴブリンを突き倒して戦闘は直ぐに終わった。

 「こうしてみるとゴブリンも大した事がねえなぁ」
 「11頭か、以前苦戦したのが嘘みたいだ」
 「ユーゴって魔法以外も凄いな」
 「よーし、さっさと魔石を抜き取るぞ」

 * * * * * * * *

 7回り目の訓練が終わると王都に戻り、各自に銀貨3枚を配り約束のマジックポーチを買う為に冒険者御用達の店に向かう。

 「こんな所でマジックポーチを売っているの?」

 「ああ、お財布ポーチと呼ばれる1/5のやつなら、下手な武器より安いからな。これ以上性能の良い物は、最低でも金貨6,7枚は必要なので魔道具店でなきゃ買えないけどな」

 他にも冒険者がチラホラと居たが、武器や装備を物色しているので店主に小声でマジックポーチが欲しいと伝える。
 店主も心得たもので、周囲を見回し鍵の掛かったカウンター下の場所から取り出して見せる。

 ハリスンが銀貨を20枚カウンターに乗せると、使用者登録の方法を教えられて血を一滴垂らして口内で呪文を呟く。
 それを見ながら残りの四人がうずうずしている。

 「次ぎ! 次ぎ俺っ!」

 「焦るなよ、店は逃げないし数も有るから」

 店主に窘められて、ウルザクが顔を赤らめている。
 これ見よがしに腰のベルトに付けるので、他人に見られない様に付けろと注意する。
 マジックポーチが一気に五個も売れたので、ご機嫌の店主に見送られて市場に向かい食糧の調達だ。

 「なぁ、たまには少し息抜きで遊んで帰らないか」

 ウルザクの提案に、皆が一斉に俺を見るので肩を竦めて自由行動を許す。
 休みの日まで彼此言う気はないので、陽が傾く前に出入り口に集合と決める。
 時間が出来たので、商業ギルドに行き時計を買える店の場所を尋ねる。

 少々飾り彫りを施された銀製の懐中時計が金貨八枚なり、それ以上簡素な物は冒険者御用達の店に行ってくれと言われてしまった。
 俺からみれば、冒険者御用達の店に飾られている時計は子供の玩具にしか見えない。

 鑑定魔法の練習と魔力が増やせるか試したいが、魔力切れを繰り返せば魔力が増えるかどうか判らない。
 ラノベでは魔力切れは死に繋がるとかの記述も有るので、魔法使い達に聞いてからだ。

 たっぷりの食糧を仕入れて街の出入り口に向かうと、ハリスン、ホウル、ルッカスは居たがグロスタとウルザクが来ていない。
 陽も大分傾いた頃に、二人が走ってきたのでほっとしてキャンプ地に向かった。

 * * * * * * * *

 索敵訓練範囲を森の中に広げて二週間目に、オーク三頭を見つけたとホウルが緊張気味に手信号で示す。
 距離にして30メートル程度なので、気付いただけマシか。
 偉そうに考える俺は60~70メートル程度の距離から判っていたけれど、未だまだ索敵を磨く必要があると痛感している。

 全員を集めて作戦会議、俺が背後に回って二頭を始末するので一頭を五人で囲んでやれと指示する。

 「ゴブリンでも思ったけど、野獣の討伐はしなくて良いはずだろう」

 「『野獣討伐なんて事は余り言わない』とは言ったよ。でも訓練の成果を試したいと思わないのか? 三頭討伐とは言わない、二頭は俺が片付けるから。別に拒否しても構わない」

 「俺はやってみたいな。ゴブリンの時もだが、確実に訓練の成果が出ているのが判るから」

 「時間切れだ、見つかった様だから俺が片付けるよ」

 立ち上がり向かって来るオークに正対すると腕を伸ばし〈ダルマさんが転んだ〉と呟きながら、アイスランスを連続して射ちだして倒す。

 「凄ぇぇぇ!」
 「オークをゴブリン並みに倒したぞ」
 「これなら腕試しをしたかったなぁ」
 「こんなに近くでオークを見たのは初めてだよ」
 「ああ、迫力あるよな」

 マジックポーチからオーク革製のマジックバッグを取り出して放り込む。

 「それってマジックバッグ?」
 「ユーゴって・・・」

 フンザの解体主任が持っていたマジックバッグを読み取り、記憶していたのを貼付したのだが判るまい。
 耐衝撃,防刃,魔法防御も貼付して5/30で、これ以上だとホニングス侯爵のマジックバッグから読み取り記憶している、12/360だから使い辛い。
 そのうち5/90~120程度の物を読み取りたいがチャンスが無い。
 次の休みには冒険者ギルドに持っていき、早いとこ売り払っておく事にする。

 * * * * * * * *

 王都に戻ると冒険者ギルドに直行して、オークの査定を頼みたいと買い取りカウンターの親爺に伝える。
 俺達を見回すと低い声で睨み付けながら確認をしてくるので、肩から提げたマジックバッグをボンボンと叩きにっこり笑っておく。
 カウンター横の通路を示して解体主任に申告しろと言って顎をしゃくる。
 丸々と太っていて、顎など無いのに変なおっさんだよ。

 「何だぁ朝っぱらから、ホーンラビットの2,3匹なら後にしな」

 「オーク三頭だけど、何処に出せば良いのかな?」

 「それはマジックバッグか?」

 「そう、出す場所を指定してよ」

 疑わしげな解体主任が解体場の一角を指差すので、マジックバッグからオーク三体を取り出して並べる。
 胸に射ち込んだアイスランスは、魔力を抜いて無くなっているので血が溢れ出て周囲に流れ出る。

 「ほう、三頭とも胸に一発か。良い腕だ」

 俺の冒険者カードを渡して食堂にいると伝える。
 珍しげに周囲を見回していた五人を連れて食堂に行き、朝食持って空きテーブルに座る。

 「ユーゴも同じ様に登録して間もないのに、良く知っているね」

 「成人前から冒険者パーティーに付いて歩き、色々と教わったからな」

 「どうりで良く知っていると思ったよ」
 「だな、俺達と同じ様に冒険者登録したはずなのに、なんでも知っているので何でかなと思っていたんだ」
 「オーク三頭を一人で倒すし、俺達とは大違いだよ」

 食事中に解体主任が査定用紙を持って来た。

 「綺麗な奴だから高めに査定しておいたぞ。誰が倒したんだ?」

 皆が一斉に俺を見るので、解体主任が呆れている。

 「お前一人でか・・・まぁ傷は一つなので誰か一人だろうとは思ったが、アイアンの一級がオークを三頭持ってくるかねぇ」

 解体主任が査定用紙を差し出すので受け取り、買い取り価格を確認する。
 オーク一頭8万ダーラ×3=24万ダーラ、了解して冒険者カードを受け取る。

 「幾らになったの?」
 「オーク三体だから、相当な額になるよな」

 「一体8万ダーラだから24万ダーラだな」

 「凄えぇぇ」
 「良いなぁ~」
 「一人4万ダーラか」

 「・・・何を言っているの、ウルザク。俺達は討伐を拒否して見ていただけだぞ」
 「ああ、恐くてな。お前は一頭だけの討伐に文句を言っていたじゃないか」
 「俺達に口を出す権利は無いはずだぞ!」
 「俺達は雇われいてるだけだから、たとえ討伐に参加しても受け取る権利は無いぞ」

 「だけどゴブリンやホーンラビットの代金は、俺達で折半しているじゃないか!」

 「それはユーゴが譲ってくれているだけで、ユーゴは1ダーラも受け取っていないぞ」
 「自分は逃げておいて、金だけ出せってのはずるいぞ!」
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