ゴブリンキラー・魔物を喰らう者

暇野無学

文字の大きさ
上 下
7 / 75

007 ハイゴブリン

しおりを挟む
 木剣を戻して荷物を担ぎ、さっさとギルドから出て行こうとしたらギルマスに呼び止められた。
 冒険者カードを見せろと言われて渡すと、表裏をじっくり見てからブロンズに格上げだと言われた。

 「登録一年の間はアイアンランクじゃなかったのか。登録時の説明ではそう聞いたが」

 「再来月で一年だろう、ブロンズランク二人を手玉に取る腕なら昇級させても問題ない」

 そう言って受付に〈ブロンズに昇級だ〉と言って渡す。

 「ゴブリンを相当数狩って居る様だが、一人でか?」

 「此処の職員に紹介されたパーティーで、奴隷同然の扱いを受けたから一人でやる事にしたんだよ」

 皮肉を込めて答えると、少し考えていたが相談があると言い出した。

 「隣のエミナ村周辺でゴブリンが増えていて、討伐を依頼されている」

 「それは強制依頼なのか、ブロンズは受けなくても良いよな」

 「強制じゃない、シルバーランクを含むパーティーが受けているが、同行して欲しい」

 「悪いが俺は一人で遣りたいんで断るよ」

 「パーティーに加わってくれとは言ってないぞ、村に着いたら別行動で構わない。そのパーティーにはお前に指図をするなと言っておく、ハイゴブリンが居る様なので、ゴブリン討伐になれた奴が欲しいんだ」

 「ハイゴブリンって」

 「ゴブリンの上位種だ、体長160cm程度で力も強い」

 其れを聞いて俄然興味が湧いた。

 「そのパーティーが俺にとやかく言ったら、どうなっても責任持てないぞ。それで良ければ明日以降に、俺が勝手に行くって事で良いならいいな」

 「明後日の朝ギルドに来てくれ。紹介して、お前に何も言うなと言っておくから」

 了解して以前泊まった〔清風亭〕に向かい、部屋を確保すると市場に行き備蓄食料の確保だ。
 現在氷の風船で1.2メートル少々を収納する事が可能なので、そこそこの食料を持ち歩ける。

 約束の朝ギルドに向かい、受付でギルマスを呼んで貰おうとしたら声を掛けられた。

 「ハルトさんですよね」

 「そうだがあんたは」

 「〔ウルフの群れ〕ってパーティーのリーダーをしてますゲルトと言います。ギルマスは急用が出来ていませんが、お話しは伺ってます。エミナ村までは同行しますが現地では別行動になります」

 「宜しく頼む」

 握手してさっそくエミナ村に向かう事にする。
 ウルフの群れは6人組のパーティーで20才前後の若者達だけだったが、何かとリーダーに文句を言う奴がいて煩いが、道中だけだと無視する。

 エミナ村はほぼ一日の距離で夕方には到着したが、道中リーダーのゲルトや仲間達に何かと反論する、マウント男ムルサには辟易した。
 相手より上に立ちたい本能でも有るのか、猿山の猿の様な奴って何処にでもいるな。
 村に到着しゲルトが村長に挨拶して、今日から二週間の塒となる厩の一角を借り受ける。

 翌朝ゲルトと配置の話をしていてムルサが口を挟んできた。

 「なああんた、あんたは依頼じゃないんだろう。ゴブリンが頻繁に彷徨く村の周辺を一人でやるつもりか」

 「そうだが、それにギルマスにもそう言っているし」

 「それは聞いたよ、血風の奴等を手玉に取ったってな。だがゴブリンは一対一でやる模擬戦と違ってだな」

 「あー能書きは良いから。ギルマスから聞いてるのなら口出しをするな。口出しするなら覚悟して言えと、言われた筈だがそれは聞いて無いのか」

 俺の気配が変わったのを察したゲルトが、慌ててムルサを止める。
 年下の俺が勝手をすると不満げなムルサを放置してゲルトと話し合い、ウルフの群れはゴブリン目撃の多い西の草原地帯を、俺は東側で村と隣接した森の方面を受け持つ事になった。

 剣や槍だけのゲルト達と違って、背負子に荷物を括り付けた俺が一緒に厩を出ると、またもやムルサが何か言っていた。
 俺は約束の二週間目に戻って来るが、帰って来なければ待たずにヨールに戻ってくれと伝え、村の出入り口で東西に分かれる。

 森といっても木は疎らに生えていて見晴らしは良い。
 初めての森を無闇に彷徨けば迷子になって洒落にならないので、ベースとなる木を探す事から始める。
 森の中は村人が頻繁に薪を集めに来るのか、結構な獣道が出来ている。
 慎重に森を進み1時間程で手頃な木を見つけ、その日はベースキャンプ作りで終わった。

 初めての森でゴブリンが増えているなら、ゴブリンを餌にしている野獣や魔物も多いはずなので油断できず、疲れて早々に寝てしまった。
 深夜獣の気配で目が覚めた。
 慎重に周辺を観察すると月明かりの下を、9頭のウルフの群れが地面の匂いを嗅ぎながら、俺の寝ている木の下にやって来た。

 昼間ベース作りの為に周辺から茨の木を集める為に、ウロウロしたから其処ら中に俺の匂いが有るからな。
 悪いがお前達の餌になる気は無い、前足を一本凍らせると騒ぎ出したので氷塊を落としバレットで追い払う。
 片足が凍って壊死したら、今度は自分達が襲われて餌になるので村周辺には近づくまい。
 夜明け前にはツーホーンと呼ばれるホーンドッグの群れがやって来たが、これも片足を凍らせアイスバレットで追い払う。

 朝食を済ませゴブリンの心臓二切れを飲み込む。
 食後に口にする様な物じゃないが、自力の魔力量だけではあの世行きになりかねないので仕方がない。
 熱暴走をアイスランスを十数発撃ち出し魔力調整してからベースキャンプから降りる。

 村から東の位置に居るので、ベースを拠点に今日は東に向かって捜索範囲を広げ、周辺の地理を覚える事にした。
 確かにヨールの街周辺に比べ、ゴブリンとの遭遇率が多い。
 ゴブリンと出会ったら、先ず西側に回りこみアイスバレットで東に向かって追い払い、その後に頭部を凍らせて倒す。
 村の近くでゴブリンの死骸を放置すれば、村に野獣や魔物を呼び寄せる事になるので面倒だが仕方がない。
 それに俺の安全の為にもベースに近寄って欲しくない。

 陽が中天に掛かる頃には20頭のゴブリンの魔石が集まった。
 確かにゴブリンが多いが、目的のハイゴブリンの姿は確認出来ない。
 昼食後7頭のゴブリンを倒し、ベースキャンプに引き返すが、ちょっと迷って帰り着くのが遅くなってしまった。
 今日一日で27頭のゴブリンの魔石を手に入れたので、54,000ダーラの稼ぎって事になる。

 此れって、ヨールの街周辺で薬草採取とゴブリン討伐するより遙かに稼ぎが良いが、他の冒険者が来ないって事は何か問題が在るのかも。
 それとも最近ゴブリンが増えたと聞いたから、ゴブリン討伐など面倒だと皆が放置した結果かな。
 何れにせよ十分注意して行動する必要がある。

 翌日はベースの北方面に向かって捜索し25頭のゴブリンを倒したので、この方面が多そうだと思い翌日も北方面でゴブリンを探す。
 7頭から12,3頭の群れが多く、3日間通って84頭のゴブリンを倒したがハイゴブリンは居ない。
 然し多過ぎるだろう。
 村人も討伐している筈だが手に負えないなら、定期的に冒険者ギルドに依頼すべき案件だな。

 四日目に19頭と数が減ったが、四日間合計で103頭のゴブリンを討伐したのには我ながら呆れた。
 此処って冒険者の天国じゃねえの、稼ぎ放題だぜ。
 北側の数が減ったので翌日は南方面に向かったが、群れの数が多くてちょっと雰囲気が違う。

 7~8頭の群れも居るが、15~16頭の群れに一日二回も出くわした結果、一日で42頭も倒す事になった。
 倒したゴブリンは放置するので翌日からは野獣や魔物の遭遇率も上がるから気が抜けない。
 ラノベでは討伐した獣の死骸は埋め、他の野獣を呼び寄せない様にするのが冒険者の作法の様に書かれているが、現実には不可能だ。

 三日間で42頭,34頭,37頭と討伐を続け、四日目も順調に討伐していたが新たに8頭の群れを見つけたが、然しゴブリンにしては身体が大きい。
 此れがハイゴブリンかと思って観察していたら、見つかった様で一斉に向かって来る。
 ゴブリンもハイゴブリンでもやる事は同じ、追いつかれない程度の早さで逃げて手頃な木に飛びつき登る。

 一息つくと魔力残量を感覚で確かめてから、頭を凍らせるだけだ。
 頭と言っても省エネ攻撃に徹し、脳だけを凍らせるので見た目は何ともないのにパタパタと倒れていく。
 8頭全部倒したので、さっそくハイゴブリンの心臓を集めに行き、魔石を抜き取った後で8頭全部の心臓を一つ一つ布で包んで収納に仕舞う。
 念願のゴブリンより強力だが強力すぎない魔物の心臓が手に入り、ご機嫌で彷徨いていて叫び声を聞いた。

 人の声だ、現在地より少し村よりの方角から聞こえたので、村人が獣に襲われているのかも知れないと救助に向かった。
 なんと襲われているのはゲルト達だった。
 周辺にゴブリンの死骸が転がっているのだが、ゲルト達を襲っているのはハイゴブリンの群れで十数頭いる。
 2~3頭は倒しているが多勢に無勢、完全に囲まれていて励まし合いながら何とか攻勢に耐えているが、長く持ちそうもない。

 こっそり後ろから近づいて足の脹ら脛を凍る寸前まで冷やし、動きの鈍ったハイゴブリンの頸動脈を斬り付ける。
 2頭倒したら気づかれ俺にも向かって来るが、棍棒を受け流しながら次々と脹ら脛を急速冷蔵してやる。
 動きの鈍ったハイゴブリンは俺の相手ではないが、近接戦闘は趣味に合わない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
小説家になろうでジャンル別日間ランキング入り!  世界最強の剣聖――エルフォ・エルドエルは戦場で死に、なんと赤子に転生してしまう。  美少女のように見える少年――アル・バーナモントに転生した彼の身体には、一切の魔力が宿っていなかった。  忌み子として家族からも見捨てられ、地元の有力貴族へ売られるアル。  そこでひどい仕打ちを受けることになる。  しかし自力で貴族の屋敷を脱出し、なんとか森へ逃れることに成功する。  魔力ゼロのアルであったが、剣聖として磨いた剣の腕だけは、転生しても健在であった。  彼はその剣の技術を駆使して、ゴブリンや盗賊を次々にやっつけ、とある村を救うことになる。  感謝されたアルは、ミュレットという少女とその母ミレーユと共に、新たな生活を手に入れる。  深く愛され、本当の家族を知ることになるのだ。  一方で、アルを追いだした実家の面々は、だんだんと歯車が狂い始める。  さらに、アルを捕えていた貴族、カイベルヘルト家も例外ではなかった。  彼らはどん底へと沈んでいく……。 フルタイトル《文字数の関係でアルファポリスでは略してます》 魔力ゼロの忌み子に転生してしまった最強の元剣聖は実家を追放されたのち、魔法の杖を「改造」して成り上がります~父が老弱して家が潰れそうなので戻ってこいと言われてももう遅い~新しい家族と幸せに暮らしてます こちらの作品は「小説家になろう」にて先行して公開された内容を転載したものです。 こちらの作品は「小説家になろう」さま「カクヨム」さま「アルファポリス」さまに同時掲載させていただいております。

モブっと異世界転生

月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。 ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。 目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。 サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。 死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?! しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ! *誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ
ファンタジー
だらだらと自堕落な生活から抜け出すきっかけをどこかで望んでいた。 ただ、それだけだったのに…… 自分の存在は何のため? 何のために生きているのか? 世界はどうしてこんなにも理不尽にあふれているのか? 苦悩する子どもと親の物語です。 非日常を体験した、命のやり取りをした、乗り越える困難の中で築かれてゆくのは友情と絆。 まだ見えない『何か』が大切なものだと気づけた。 ※更新は週一・日曜日公開を目標 何かございましたら、Twitterにて問い合わせください。 【1】のみ自費出版販売をしております。 追加で修正しているため、全く同じではありません。 できるだけ剣恵真さんの原文と世界観を崩さないように直しておりますが、もう少しうまいやり方があるようでしたら教えていただけるとありがたいです。(担当:猫宮りぃ)

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...