ゴブリンキラー・魔物を喰らう者

暇野無学

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006 ウザ絡み

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 心臓を食べる量を増やした成果は、毎日魔力切れをする事で確実に上がり秋にはほぼ倍近くになった。

 ウォーターはカップ14~5杯以上出せて8杯は凍らせる事ができた。
 フレイムはソフトボールより大きく火力も抜群で煮炊きはフレイムで出来るし、魔力の込めかた次第では火力を上げずに燃焼時間を延ばせる。
 ライトも車のヘッドライトの様に眩しく強烈だ、その為各種生活魔法を絞って使う練習が必要になったので笑ってしまった。
 授けの儀の時、魔力10と言われたあの諦めはもう無かった。

 攻撃魔法のアイスアローも100本近く飛ばせるので、今はアイスランスの練習中だがアイスアローの半分程度は使える。
 それに伴い魔力溜りの存在を感知でき、ラノベの知識を生かして魔力を練るとか魔力を纏う練習をしたが、話半分とは良く言ったものだ。

 然し問題が一つ、これらはゴブリンの心臓を二切れ食べた時の能力で、魔力切れから回復した時の、俺本来の魔力は遙かに少なくせいぜい1/5か1/6程度だった。

 それでも一度魔力溜りを感知出来てからは、素の魔力を感知出来、魔力を体内全体に巡らせる事が出来る様になった。
 ただ魔力を纏うってのはからっきし駄目だった。
 纏うって何よ、もしかして魔力をコーティングするのかと思ったが、体外に出た魔力は拡散して消えていくのを感じ無理だと諦めた。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 冒険者ギルドの買い取りカウンターで、薬草とは別に前回は埋めていた魔石しか売らなかったので、今回分と合わせた半分を売りに出す。
 名前を呼ばれ査定用紙を受け取る。
 薬草代金が152,700ダーラ、ゴブリンの魔石が137個で274,000ダーラ。
 採取場所を移動した効果が出ている。
 ゴブリンの魔石代は何時も通りギルドの口座に預け、薬草代金の152,700ダーラを受け取り食堂に行ってエールを頼む。

 此の世界に来て初めてのエールだ、日本のビールは少し飲んだ事があるがどんな味なんだろう。
 暑い最中氷を作れるから未だマシだったが、水しか飲み物がないのが辛い。
 街に帰ったらエールで喉をきゅっと締めたいと、キャンプ中ずっと思っていたんだ。

 陶製のジョッキに串焼き肉二本で1,200ダーラ、エールが600ダーラに串焼き肉一本300ダーラ、割と良心的なお値段だ・・・多分。
 空きテーブルに座っておもむろにジョッキを傾けるが、常温のエールに冷たいビールを一気飲みした爽快感がない。
 串焼き肉を齧っていると、俺の後からエールを注文した三人組がジョッキ片手に俺のテーブルに座る。

 他に空きテーブルもあるのに挨拶もなく座り、ジロジロと俺の顔を見ながらジョッキを傾ける。
 〈ドン〉と乱暴にジョッキをテーブルに叩き付け、臭い吐息を俺の顔に吹きかける。
 此れってラノベ定番のお約束って奴かな。
 他のテーブルの奴等も話を止め、俺のテーブルに視線が集中している。

 「兄さんいい稼ぎをしているな」

 無視して串焼き肉の脂を洗い流す為、エールのジョッキを傾ける。

 「無視するとは良い度胸だな」

 人の串焼き肉を皿から取り、勝手に食っている。

 「俺はお前に食って良いとは言ってないが、そんなに腹が減っているのか」

 「ほう、一応喋れるんだな」

 「新人相手と見て喧嘩を売っているのか」

 「それも在るが剣風の舞の連中はどうした。お前は奴等のパーティーに所属していた筈だぞ」

 「あんたは、あの屑の腰抜け連中とお友達か」

 「いーや、お前が彼奴らにこき使われていたのは知っている。ある日姿を見せなくなり、皆死んだんだろうと思っていたらお前だけ帰ってきた。然も大量の薬草とゴブリンの魔石を持ってな」

 「夜営中オークにいきなり襲われてな、奴等は即座に逃げたぞ。剣を取る事もせず一目散にな。日頃威張り散らしていたのが嘘の様な、見事な逃げっぷりだったね。それ以後見てないな」

 「まあいい、何処でそれ程の薬草とゴブリンの魔石を集めているんだ」

 「三月も草原や森を彷徨えばそれ位集まるさ」

 「お前一人でか?」

 「ん・・・俺に仲間がいる様に見えるか」

 「そうか、では俺達〔血風〕にお前を入れてやるよ」

 「はあーぁ、礼儀知らずの屑は剣風の舞で懲りたんでな、お断りするよ。あっ、串焼き肉の代金300ダーラ払えよ」

 〈優しく言ってるんだが、聞き分けがなさそうだな〉
 〈先輩には大人しく従うもんだぜ、なんなら模擬戦でお仕置きしてから仲間に加えてやるよ〉

 「見たところ全員ブロンズクラスの様だが、新人を無理矢理パーティーに引きずり込まないと稼げない、甲斐性無しの群れかい」

 「まあ、大口はいいからやろうぜ」

 「お断り、模擬戦は双方納得の上でだろう。模擬戦がやりたければ三人で勝手にやってろ!」

 「よしっ、受けたな」
 〈お前に俺達の実力を見せてやるよ〉
 〈受けると言ったんだ、今更逃げるなよ〉
 〈嫌なら俺達のパーティーに入るんだな〉
 〈おい、模擬戦やるからギルマスを呼んで来てくれ〉

 口々に喚きだした、こうやって騒いで無理矢理模擬戦に引きずり込み、甚振るのか。嫌なら仲間になれとか。
 俺がブロンズと言って否定しなかったって事は、全員ブロンズランクなんだろうな。

 初めて薬草や魔石を売りに来た時に会った、筋骨隆々のおっさんと雰囲気が違いすぎる。
 あのおっさんが喧嘩を吹っ掛けてきたら、即座に魔法で脳味噌を凍らせて模擬戦を回避するだろうが、此奴等じゃ恐くもなんともない。

 模擬戦を受けて、勝てそうもなければ御免なさいしてパーティーに入ってやるか。
 どうせ街を出たら何時でも殺せるのだから。

 「模擬戦で負けたらパーティーに入ってやるよ」

 俺の腹は決まったので挑発気味に返事をする。

 「おーし訓練場へ行こうぜ」

 〈おー模擬戦だ〉
 〈新人が模擬戦を遣るつもりだぞ〉
 〈おい俺は新人に賭けるぞ〉
 〈ばーか相手は血風だぞ。そんなだから何時も賭け事で負けるんだよ〉
 〈あの新人は、ゴブリンの魔石を大量に持ち込んだんだぞ。有る程度の腕は有る筈だ〉
 〈やっちまえ!〉
 〈簡単に負けるなよ〉

 声援か興味本位か罵声か、様々な声が掛かる。

 逃げられない様に、前後を挟む様にして訓練場に連れて行かれた。
 奴等が模擬戦用の訓練用木剣を選んでいるので、片隅に荷物を置いて俺も木剣を選ぶ。
 俺が訓練用に使う木剣より軽く華奢な物しか無いので、短槍類を置いている中から1.5メートル程の棒を取り出す。
 軽く振って重さとバランスを確かめて之に決めた。

 〈おいおい、長けりゃ優位って訳じゃねえぞ〉
 〈ド素人だな、甚振りがいがあるな〉
 〈おい、使い物にならない様にはするなよ。気を付けてやれ〉

 審判を務めるギルマスが面倒そうな顔でやって来て俺達を呼び寄せる。

 「お前は模擬戦初めてか?」

 「ええそうです」

 「止めと言ったら即座に止めろ。さまもなくば俺がお前を攻撃するからな」

 「1対3で遣るのかな、万が一相手が死んだらどうなるんだ」

 「1対1の勝負だ、一応首から上は攻撃禁止だから覚えておけ」

 「それだけ?」

 ギルマスは黙って頷き俺達に離れろと命令する。
 最初の相手は俺の串焼き肉を勝手に食ったやつだ、始めの合図でニヤニヤ笑いで俺に近づいて来る。
 正眼に構えると、アニメの長剣使いになった気分だ。
 俺の構えを見て笑っている。
 此の世界では諸刃の片手剣が主流で両手持ちの長剣も有るが、振り回す為の物だ。

 盾を前面に押し出し片手殴りに打ち込んで来るところを、剣先を上げ一歩引いて流し、相手の木剣を持つ手首を軽く上から叩く。
 結構重い剣先が手首を叩いた為に、手首が変な方向に曲がり木剣を落とす。 すかさず身体を一回転させ、遠心力を利用して奴を盾ごと吹き飛ばす。

 ギルマスの止めの合図で相手を見ると、盾を持つ手が折れたのか不自然に曲がり大の字に伸びている。

 〈おいおい、やっちまったぜ〉
 〈てか血風ってもの凄く弱いんじゃねえの〉
 〈おーし俺の目に狂いはなかった!〉

 「おい! 次の奴さっさと出て来い!」

 二番手が躊躇っている。

 〈こらー、血風お前等が絡んで引き摺り出しただろうが、何をビビってるんだ〉
 〈さっさと遣れー、お前等に賭けてんだ無様な負け方したら覚悟しておけ〉 〈新人次ぎも頼むぞー〉

 ギルマスの声と外野の野次に押されて二番手が出てきたが、若干顔色が悪く為った様だ。
 大剣使いの様だが頭上で木剣をグルグル回している。
 始めの合図で近寄ってきて遠心力を利用して木剣を叩き付けてくるのに合わせ、袈裟斬りに落ちてくる木剣を横から弾くと身体ごと右に流れる。
 やっぱり此奴等は対人戦の訓練をした事が無い様だ。野獣や魔物相手なら通用するが対人戦闘では丸っきりの素人剣法だ。
 弾かれ身体ごと流れた体制を慌てて立て直すところを狙い、無防備に晒された太股に上段から一撃を入れる。
 〈バシッ〉って音と共に太股がくの字になり、立て直した身体を支えきれずに崩れ落ちる。
 無防備な上半身の顔面を狙って振りかぶった所で〈止め!〉の声が掛かる。 糞ッ運の良い奴だ、男前に整形してやろうと思ったのにと考えた所で、首から上は攻撃禁止だったと思い出した。。

 〈オイオイ何だよあの新人は〉
 〈血風が、ド素人に見えるぜ〉
 〈あーあ、三人目の腰が引けてるよ〉
 〈こらー、逃げたら承知しねえぞ!〉
 〈腰抜けー、賭け金帰せ!〉
 〈死に晒せ!〉

 三人目がギルマスに必死に何か言っている。

 「あーと、名前は何だ」

 「ハルトだが」

 「奴が謝罪して、この勝負から降りたいって言ってるので終わりだ」

 別に殺したい訳でも無いので受け入れる。
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