ゴブリンキラー・魔物を喰らう者

暇野無学

文字の大きさ
上 下
3 / 75

003 考察

しおりを挟む
 腹の中が強烈に痛み、身体がビクンと跳ねる。
 胃が焼け付く様な痛みに襲われ、全身に激痛が走り痙攣と灼熱感に襲われる。
 身体の痛みに耐えながら、倒したゴブリンを見て凍れ! と願う。
 凍れ! 凍れ! 凍れ!
 三頭のゴブリンが凍り付くと、次は大地を凍らせる。
 今回は魔法を使えば、体内の魔力が減っていくのが判っているので、周囲を積極的に凍らせていく。

 激痛が少し治まり、身体は燃える様だが考え事が出来る様になったので生活魔法を試してみた。
 ウォーターではカップから水が溢れ出る、フレイムも拳大の炎が出来る。
 思っていたとおりだ、生活魔法も魔力が多ければ人並み以上のものになる。 俺の生活魔法がしょぼかったのは、元々の魔力量が少ないからだ。

 ゴブリンの心臓の残りを凍らせ、地面に穴を掘り心臓を放り込んで上を氷で覆う。
 後はひたすら地面を凍らせ、食べた心臓の魔力が尽きるのを待つ。

 ゴブリンの心臓を食べて、魔法が使える間だけでも攻撃魔法が欲しい。
 アニメやラノベを参考にすれば、俺の場合はアイスアローとかアイスランスだが、果たして何も無い空間に氷の矢や槍を作り出せるのだろうか。

 試してみた結果、現物を凍らせ無くても強く念じると空間に氷を作り出せる事が判った。
 文字通り氷の塊が出現し、出来たとたん地面にボトボト落ちて氷の山が出来る。
 目の前に氷の山が出来るのは邪魔なので、少し離れた場所に落ちる様にイメージし氷を作って見ると此れも出来た。
 木の上のベースでゴブリンの心臓を食べ、魔力を減らす為に氷塊を作って下に落とせば安全に魔力を増やす練習が出来る。

 10日も練習したら、安定してバレーボールほどの氷塊を作れる様になったので、飛ばせるかどうか試す。
 バレーボール程の氷塊が、投石くらいの速度で飛んで行ったのを見た時は感動した。
 ひたすら氷塊を作っていた時、ふと思って少し離れた場所を凍らせる事が出来るか思いつき近くの枝先を凍れ! と念じてみた。
 何故こんな事を思いついたかといえば、ゴブリンの心臓を口に捩じ込まれ、生きるか死ぬかの瀬戸際で苦しんでいた時の事を思い出したからだ。
 苦しむ俺を見て笑っていた糞野郎達を、凍れと念じて凍らせた時に俺は奴等に触れていない。
 あの時近くに居た奴でも3メートル程、遠い奴で4~5メートルは離れていたのに凍って死んだ。
 見つめた枝先を凍れと念じ、枝先が凍り陽の光にキラキラと煌めく様は綺麗だったが、氷結魔法の使い方を一つ掴んだと思った。
 見つめて凍れと念じて凍らせれば、直接戦闘しなくても殺せる事になる。
 後はどの程度離れた距離まで凍らせる事が出来るかだが、概ね25メートル程度なら可能と判った。
 ゴブリンの心臓を食べれば魔法が使える程度の魔力を得るが、魔力が増えればもっと遠くまで凍らせる事が出来る筈だ。
 此れを覚えてからは、ゴブリンやホーンラビットなどを簡単に狩れる様になった。
 俺のベースキャンプに近づく野獣や魔物も、尻尾や片足とかを凍らせた後氷塊を上から落として脅し、追い払うに役立った。
 最初は頭を凍らせて倒したのだが死骸の処理に困って追い払う事にした。
 何せ運搬手段が無いので、狩る度に死骸を持って街に戻るのが面倒だし、魔力を増やす邪魔になるから。

 氷塊もソフトボール大からバレーボール大まで自在に作れる様になると、投擲の練習に励む。
 何日も氷塊を作っては投擲の練習をしたが速度が上がらない、何が悪いのか散々悩んでイメージだと気づいた。
 氷塊を作るのも飛ばすのもイメージなら飛んで行く速度もイメージだと気づき砲弾をイメージしたら格段に早くなった。

 富士の裾野で開催される陸上自衛隊の総合火力演習、ユーチューブで時々見ていたが戦車の砲弾が飛んで行く様子をイメージした。
 速度が上がれば飛距離も伸びる、推定50メートルくらいは飛んでいる。
 最も50メートルは着地点で、狙った所に当たるのは35メートルといったところか。

 氷塊をアイスバレットと命名す、ちょっと砲丸みたいだが格好良いのでよしとする。
 バレットの次はアイスアローとアイスランスだ、強力な投擲武器の攻撃距離は凍らせる方法の倍近い距離まで攻撃出来るから魅力だ。

 ゴブリンの心臓を食って、熱暴走と名付けた激痛と身体が焼ける様な始めの段階を乗り切り、何とか耐えられる様になったらアイスアローをひたすら作り続ける。
 最初に出来たアイスアローは地面に落ちるとポキポキ折れて使い物にならないの。
 作る時には木に突き立っても折れない固い氷をイメージして、作る練習に変えなんとか出来る様になった。
 空中にアイスアローが出現し、地面に落ちるとキンキンと硬質な音を立てる。
 一回ゴブリンの心臓を食べてから、魔力切れ寸前になるまでに約70本のアイスアローが作れる。
 最初のポキポキ折れるアイスアローの時には、楽に百本以上を作れていたのでイメージを高めると魔力を多く消費する様だ。
 此れを立木に突き立てたり撃ち抜くとなると、もっと多くの魔力を消費すると思われる。
 太さ3センチ長さ60センチのアイスアローが立木に半分以上打ち込める様になるのに約一月掛かった。
 アイスアローを射てる数は約35本、作れる数の半分とは随分魔力を使っている事になる。
 アイスアローを作ると射つで、二つの魔力を使っている計算になる。

 毎日毎日同じ事の繰り返し、今日が何日か知らないが少し寒さが緩んできたのは判る。
 繰り返し続けて判った事は、確かに魔物の心臓を食べれば魔力は増える。
 然し増えた魔力がなくなると、ウォーターで出せる水の量は僅かに増えただけだ。
 この調子でいけば、カップ一杯の水を出せる様になるには三月以上掛かりそうである。

 魔力の増える速度が余りにも遅いので何か見落としがないか考える。
 魔物の心臓を食べて魔力が増える・・・これは間違っていない、何故食った分だけ増えないのか。
 アニメやラノベの魔力を増やす方法は魔物の心臓を食うか、元々の魔力を振り絞り魔力切れを起こして増やす方法が有った事を思い出した。
 魔力切れで倒れると無防備になり、死ぬ確率が跳ね上がる。
 最低限倒れない様に魔法を使い、体内に取り込んだ魔力を使っていたが此れからは積極的に魔力切れを起こす事にした。
 ベースキャンプに帰ると就寝前に必ずゴブリンの心臓を食い、魔力切れまでアイスアローやアイスランスを射ち続ける日々が始まった。

 10日程たって魔力切れから目覚めた時生活魔法が強くなっているのに気づいた。
 ウォーターはカップ一杯少々作れる、クリーンは一発で綺麗になりフレイムもピンポン球くらいはある。
 姉のヘレナの生活魔法より、ほんの少し上回っていると思われる。
 嬉しかった、この調子で魔力が増えればゴブリンの心臓とおさらば出来る。

 それから一月以上経ち、ウォーターではカップ二杯近くを出せる様になったが、溢れる水で毎回濡れる為カップ一杯で納めるコツも掴んだ。
 カップの水を凍らせる事は未だ出来ないが、冷たくする事は出来る様になったので、氷結魔法が使える様になる日も近いと確信している。

 春になり木々が芽吹く頃に塩が無くなり、ヨールの街に戻る事にした。
 前日からゴブリンの心臓を食べるのを止め、臭くならない様に気を付ける。
 荷物は背負子に背負った薬草袋とゴブリンの魔石、一日平均二匹は殺していたので150以上有った。
 半分を埋め残りを換金して食糧や香辛料を買う事にする。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 他の冒険者と余り顔を合わせたくないので、朝少し遅くヨールの街に戻った。
 冒険者ギルドの前で深呼吸してから扉を押し開け、薬草買い取りカウンターに行き買い取りを依頼する。

 「坊主は剣風の舞に所属していたよな」

 「そうですが・・・何か」

 「他の奴等はどうした」

 「知りませんよ。オークの群れに襲われた時、俺を置いて逃げやがったきり会ってませんから」

 「大分長い間見なかったが、お前は何をしていたんだ」

 「見てのとおり、薬草採取とゴブリンを狩ってたんですよ」

 考えていた嘘がすらすらと出て来る。
 それ以上は何も聞かれなかったので、ゴブリンの魔石買い取りも依頼してベンチに座る。
 俺を奴等に紹介した職員が、俺の方をガン見しているが素知らぬ顔でやり過ごす。

 名前を呼ばれて買い取りカウンターに向かい査定用紙を貰う。
 風霊草8本、1,000ダーラ×8=8,000ダーラ
 七色草23本、500ダーラ×23=11,500ダーラ
 春待ち草13本、1,200ダーラ×13=15,600ダーラ
 酔い覚め草17束と3本、300ダーラ×173=51,900ダーラ
 腹痛草42束と6本、100ダーラ×426=42,600ダーラ
 血止め草22束と5本、200ダーラ×225=45,000ダーラ
 ゴブリンの魔石は一個2,000ダーラ×81=162,000ダーラ
 合計336,600ダーラ・・・金貨三枚に銀貨三枚と、銅貨が六枚に鉄貨が六枚か。
 三月少々草原に居たが、一月100,000ダーラにもならない。

 ホテルに泊まらずに一月10万ダーラ、魔法の練習をしながらで此れなら何とか生活出来そうだ。
 ホテルが一泊どの程度必要か知らないが、日本のビジネスホテル換算で一泊四千円食費が一日二千円と計算すれば、埋めた魔石分を合わせれば何とかなる。
 当分はベースキャンプ暮らしで、魔力を増やす事に専念だ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...