ゴブリンキラー・魔物を喰らう者

暇野無学

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002 ゴブリンの心臓

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 「おい、しっかり押さえていろ。ハルト今からお前の魔力を増やしてやる、しっかり噛んで味わって喰え」

 両手両足を押さえられ、無理矢理ゴブリンの心臓の切れ端を口に捩じ込んできた。
 臭い! 納豆やくさやどころの臭さじゃない、ヘドロの中に頭から突っ込まれた様だ。
 吐き出そうとした口の中に水が注ぎ込まれ、息が出来ない苦しさから水共々飲み込んでしまった。

 「おー、食った食った・・・どうだ美味かったか、魔力が増えたら教えてくれよな」

 そう言って馬鹿笑いしながらも、吐き出せない様に俺を押さえる手の力を緩めない。
 冗談じゃない! 魔力を増やす為に魔物の心臓を食べる方法が在る事は知っているが、殆どの者は死ぬ。
 助かって魔力が増える者は、100人どころか1,000人に一人と言われている。
 こいつ等の遊びで殺されて堪るか!

 しかし跳ね返せない、1/16竜人族の血が流れているとはいえ、大の男に手足を押さえ込まれては16の俺には無理だった。
 突然胃が焼け付く様な痛みに襲われ、全身に激痛が走り痙攣する。
 その反動で手足を押さえていた奴等は跳ね飛び、拘束は解けたが口から出る息は火を吐く様な熱さで、全身が燃えている様だ。

 俺を押さえていた奴等が振りほどかれ怒っていたが、俺の状態を見て馬鹿笑いしている。
 こんな事で死んで堪るか! 絶対にこいつ等を殺す!
 焼け付く様な痛みと激痛の中で必死に考え、魔力を増やす為に魔物の心臓を食わされた今なら魔法が使えるかも知れない。
 どうせ死ぬならこいつ等を道連れにしてやる、そう覚悟を決めた俺は必死に凍れ! と念じる。
 苦しむ俺を指さし笑っているイリーガを睨み、凍れ凍りついて死ね! と念じる。
 激痛で立ち上がれないので、横になったまま俺を取り囲んで笑っている6人を睨み、凍れ! 凍り付いて死ね!
 奴等の死を必死に願い万能の創造神ラーラに〈俺に魔法を授けたなら一度くらい使わせろ!〉と心の中で怒鳴りつける。

 〈おい〉
 〈何だ冷たいぞ〉
 〈嘘だろう〉
 〈お前、髪に霜がついているぞ〉
 〈おー、凄えなぁ。魔物の心臓を喰うと魔力が増えるって・・・〉

 この糞野郎・・・俺を玩具にしやがって凍り付いて死ね! 死ね! 死ね!

 〈おい止めろ、身体が冷たくて動かな・・・〉
 〈其奴をとめ・・〉
 〈たっ助けてく・・・れ〉

 パーティー仲間全員が凍り、真っ白になって固まり転がっている。
 全身を駆け巡る激痛と燃える様な感覚は、少し収まったが痛みと焼け付く感覚が尚も続く。
 魔法を使って少し良くなったのなら、使い続ければもう少し良くなるかも知れない。
 死にたくない、必死の思いで近くに倒れているゴブリンの死骸を、次々と凍らせてみる。
 8頭のゴブリンを凍らせて激痛から解放されたが、まだまだ鈍痛が頭を痛め付ける。
 凍らせる物がない・・・頭の痛みと多少良くなったとはいえ身体が熱い。
 手を突いた地面を凍らせる事にした。
 魔法が使えた嬉しさは無い、痛みと身体の熱さを何とかしないと死ぬ。
 こんな馬鹿な死に方は御免だ!
 地面に向かい凍れ! 凍れ! 凍れ! ひたすら地面に向かって凍れと念じ続ける。

 気がつけば痛みより、全身を包む気怠さと身体の火照りに動きたくなかった。
 助かった・・・魔物の心臓を喰わされ死ぬかと思ったが、奴等は死んで俺は生き残った。

 生き残ったが・・・この凍ったパーティー仲間とゴブリンをどうしよう。
 冒険者になって三月、冒険者パーティー〔剣風の舞〕をギルドから紹介され、所属していたが奴隷以下の扱いしか受けなかった。
 余りの扱いに紹介した冒険者ギルドの職員に訴えたが、ヘラヘラ笑いながら見習いなら何処もこんなもんですよ、と抜かして相手にもされなかった。

 家を追い出された俺には行く当てもなく、我慢して少しでも早く独り立ち出来る様に耐えてきたが、それも終わった。

 然しどう考えても不味い状態だ、俺は魔力が10しか無いので俺がやったとは思われないだろうが、どう説明する。
 必死に考えるが良い考えが思い浮かばない、取り敢えず俺が疑われない為には、こいつ等を処分しなければならない。
 奴等の身元を隠す為に全ての衣類や荷物を剥ぎ取り、凍った身体を落ちている剣で砕き誰だか判らない様にする。

 荷物をどうしようと考えたが、迂闊に処分出来ないのでキャンプ地に運ぶ。
 此処なら小型の野獣や魔物の攻撃を防げる。
 今夜から一人て見張りも無しで寝なければならないので、安全の為に茨の木を集めて補強する。

 アニメやラノベで見る冒険者の野営は、交代で見張りをしながら火を焚いて眠るものだった。
 然し薬草採取や野獣等を討伐する為に、ベースキャンプを設置するのが此の世界の冒険者達のやり方だ。
 街の周辺なら夜は街に帰れば良いが、往復に結構な時間が掛かるので皆夫々のベースキャンプを持っている。

 茨の木はせいぜい7~8センチの太さの木だが、真っ直ぐに伸び幹には大きな棘が密生している。
 この木で柵や三角屋根の小屋を作れば、少々の野獣や魔物は防げる優れものだ。
 其れに棘を落とすと真っ直ぐな棒になるので、利用方法が沢山有り此の世界では重宝されている。

 然しラノベを読んで野獣と魔物の違いなんか気にした事も無かったが、体内に魔石を有するものが魔物で、魔石を持たない物が野獣って事らしい。
 と言うか草食獣は概ね野獣で、肉食獣は魔物に類するらしいがでかい奴は魔物が多いらしい。

 奴等から剥ぎ取った衣類や刀剣槍等をどうするか考え、先ず奴等の服や荷物を漁り金を集める。
 金は銀貨23枚,銅貨38枚,鉄貨29枚、合計270,900ダーラ
 鉄貨一枚100ダーラ、日本円で100円換算で計算して27万、六人居た割には一人45,000ダーラ少々しか持ってなかったのか。
 俺から取り上げた50,000ダーラを、利子付きで帰して貰う。
 ちょっと罪悪感があるが、此の世界一歩街の外に出れば法は存在しないにひとしい。

 奴等に取り上げられた、テントやタープ等キャンプ用品一式と背負子等を探しだし返してもらう。
 奴等の服は焼き捨てる事にしたが、キャンプ用品に剣やナイフ等は離れた場所に埋め、いざとなったら掘り返して利用するか売る事にする。
 金も銀貨3枚銅貨8枚鉄貨9枚を革の袋に入れ、残りは埋めておく。
 此の世界は現金主義で、彼奴らの様な屑が多いので持ち歩くのは少額でよい。

 その夜、野獣と魔物の咆哮や争う音が朝方まで聞こえていた。
 凍らせた奴等の肉が溶け、野獣や魔物の腹に収まった様だ。
 散々こき使い甚振り、挙げ句遊びでゴブリンの心臓を無理矢理食わせた屑だ、お前達が食われて消えてしまえ!

 このベースキャンプも長くは使えないだろう、俺一人が使っていると判れば乗っ取られて追い出されるか再び、奴隷状態にされるのが落ちだ。
 手頃な木に俺一人のベースキャンプを作る必要がある。
 少し森に入るが、周辺の木々が隠してくれ、遠くからは見えない木を知っている。
 この近辺の地理や木の生え具合は、三月の間に覚え頭に叩き込んでいる。

 10本ほど乾燥した茨の木の棘を落とし、担いで目的の木に向かう。
 思ったとおり好都合の木だ、ユーチューブで見ていたサバイバルキャンプを参考に、樹上のベース作りを始める。
 高い木の上に1.2×2.5メートルのベースを作りタープを張れば寝床の完成だ。
 野獣が登って来られない様に木の周辺には逆茂木を置き、ベース直ぐ下の幹回りに棘の木をびっしりと括り付けている。
 着替えや鍋に食料等の必需品を運び終わった時には陽が傾き始めていた。

 その夜新たなベースで今後どうするか思案する、此処は日本じゃない下手な倫理は身を滅ぼす元だと気持ちを切り替える。
 問題はどうやって生き延びるかだ、もうパーティーに所属するのは懲り懲りだ。

 一人で冒険者を続けるには戦力不足だが、ゴブリンの心臓を喰わされて生きている。
 魔法が使えない筈なのに、ゴブリンの心臓を喰わされて魔法が使えた。
 どれ位魔力が増えたのか知らないが、収納魔法と氷結魔法が使えるならそれなりに生きて行く方法は有る。

 生活魔法のウォーターでカップに水を出してみたが、何時もと変わらぬカップ半分程の水しか出なかった。
 試しに凍らせようとしたが、息を詰め必死にカップを睨んでも冷たくすらならなかった。
 薄々感じていたが、昨日も身体を苛む痛みと熱が下がる程に、魔法で凍らせるのに手間取った。

 ゴブリンの心臓を食った時だけの魔法使いか、がっくりしたけど喰えば魔法が使えるのは確かだ。
 取り敢えずは食料が無くなるまでの間に、ゴブリンの心臓を喰えばどれ位魔力を増やせる調べる必要がある。

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇

 日々の鍛錬の成果に竜人族の力で剣を振り回せば、ゴブリンの振り回す棍棒程度は楽に捌ける。
 〔剣風の舞〕のリーダー,ゴードやガンク達は、力任せに剣を振り回す素人剣法だった。
 奴等は俺を笑い者にする為に、俺一人でゴブリンの群れを殺れと蹴り出した。
 然し俺はユーチユーブ等で見た、剣術を見よう見まねで練習していたので、ショートソードを使い簡単に6頭のゴブリンを倒した。
 其れを見て奴等は俺からショートソードを取り上げ、二度と俺に剣を持たせなかった。

 目覚めてから約三年間、剣と槍の稽古を続けてきたその差が出たってところだ。
 だが6対1では勝負にならないので、大人しく従った結果がこれだ。
 考えても仕方がない、無知な俺が冒険者として最低限の知識を得る代償だと思う事にした。

 三頭のゴブリンを屠り魔石を抜き取ると、一頭の心臓を取り出す。
 赤黒いゴブリンの心臓を、小さな短冊状に切り喰おうとしたが臭い!
 無理矢理口に放り込まれた時を思いだす、ドブの中にある腐った肉を思わせる様な匂いだ。
 とても口に入れる気にならない、此処にはオブラートなんて気の利いた物はない。

 保存食の固いパンを粉にし、其れをまぶして多少でも匂いを抑える。
 覚悟を決めて上を向き、大口開けて心臓の切れ端を落とすと即座に水で流し込む。
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