スクリーム・ノート

藤沢凪

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二十二頁 羊 参 『蛇喰商店街の七不思議 ②』

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 二十二頁
 
 羊 参
 
『蛇喰商店街の七不思議 ②』
 
 猫宮さんからのお誘いは急なものでした。

 なんでも、蛇喰商店街に行くから、わたくしにも来て欲しいというものでした。

 商店街にただ行くだけなのに、何をそんなに怯えているのでしょう? 猫宮さんは、「そんなに仲良く無い奴も誘って、人数は増やしておくべきなんだよ」と、一人言を呟いていました。

 ん? 声に出しちゃってますねぇ。多分、心の中だけに留めて置こうとしている想いが、声に出ちゃってますねぇ? 

 そうですか。わたくしは、数を増やす為に誘われただけなんですか……

 今まで、わたくしの催眠術の能力を知った連中は、わたくしを敬い、奉り、恐る恐る声を掛けて来る者ばかりでした。

 しかしどうでしょう? 

 猫宮さんは、わたくしを特別扱いするどころか、クラスの目立たない奴を誘ってやってるくらいのスタンスで歩み寄って来ました。

 わたくしはそれが、嬉しかった。ただ同時に、わたくしから催眠術を取ると、その程度の立ち位置にしか居られないという事を突き付けられている様で、少し気を落としてしまいました。

「わたくしで宜しければ、同行させてもらいます」

「もうみんな集まっているから、こっちに来るんだよ」

 猫宮さんに連れられて教室から出ると、殆ど喋った事もない人が四人居た。

「それじゃあ、行くんだよ」

 ちょっと待ってー! 紹介くらいしてもらえないですかね?

「ね、猫宮さん? みなさんの、お名前だけでも教えてもらっていいですかね?」

「へっ? みんなメェちゃんの事知ってたよ?」

 わたくしは知りません! みなさんが知ってるのは、転校してきた時のインパクトが強かったからでしょう。

「急に呼び出しちゃって悪いね。猪本は、ふっ、ふふっ、大丈夫なの?」

 あなたの事は覚えていますよ! 女神と呼ばれている三上さんですよね? 完全にイジって来てますよね? ただこの人は、あまり敵に回さない方が良いと、本能が告げています。

「猪本教諭とは何でも無いんで大丈夫です。あなたは、三上恵理奈さんですよね?」

 そう問いかけると、猫宮さんが答えました。

「そ、そうです! あとは、わんちゃんとうさちゃんと天羽だよ」

 他の人の紹介雑ですねぇ。あれ? 猫宮さんとよく喋っている人が、あと一人居たような……

「あの? 他に猫宮さんとよく二人で喋っている方が居た様な気がするのですが?」

 そう問いかけると、猫宮さんの顔は、首を絞めた様に青白く変色していきました。

「こ、小鳥の事か! め、メェちゃんの目には、小鳥と猫が仲良さげに映るか!」

 何かめっちゃ怒ってますね。興味も無いので、そっとして置きましょう。

 
 六人で、蛇喰商店街の入口に着きました。

「三手に別れて七不思議を探ろうと思うんだけど、その前に、みんなが既に知ってる七不思議ある?」

 三上さんがそう問い掛けると、わんさんが答えました。

「あたしと猫宮が知ってるのが四つあるよ」

「どんなの?」

「まず今携帯見てもらえれば分かると思うけど、この商店街の中圏外になるんだよ。あとは突然降り出す雨、傘を貸すお婆さん、雨の中傘を持っているのに差さない少女。これがあたしの知ってる七不思議だよ」

 雨関連多くないですか? 全部そんなに怖そうには思えないんですけど?

「あと三つか。取り敢えず三組に分けるんだけど、どう分けようか?」

「ジャンケンで揃った人同士というのはどうでしょうか?」

 我ながら良い案だと思ったのだけれど、猫宮さんに小声で、「もっと運否天賦の様なやり方じゃなくて作為で、組むパートナーを操作出来る様なゲームは無かったのか?」と、言われてしまった。

 今までの言動を考慮すると、猫宮さんは、三上さんに好意を抱いているのだろう。

 彼女の願いは、「女神と同じチームになりたい」それに尽きるのであろう。

 わたくしは、彼女に最善を尽くしてあげたかったのだが、わたくしが出来得る事と言えば、催眠術で思考を操る他無い。でも、彼女がそれを望まないのであれば、わたくしに出来る事など無いのだ。

「取り敢えず、猫宮さんと十六文字さんはペアだから他を決めよう」

 そーー、ですか……三上さんの中ではここでペアになるのは決まっていたみたいですね。

「三上さん? 何故わたくしと猫宮さんがペアになる事が必然なのでしょう?」

 猫宮さんは、完全にやる気を失って俯いていました。

「だってお前、誰とも喋った事無いじゃん? 逆に他の奴と一緒になって気不味くない?」

 確かに気不味いと思います。ただ、お前って言うのやめてもらえません? どこの学園でも、わたくしにそんな言葉を使った人は居ませんでしたよ?

「まぁ、気不味いですねぇ。配慮、ありがとうございます。でも、出来れば皆さんと同じ条件にしてもらえますか? 不都合も楽しみたいんです」

 出来れば猫宮さんに、運否天賦のチャンスくらいは残してあげたかったのです。

「いいけど、わたしと一緒になったらやり直すから」

 厳し過ぎません? そんなにわたくしと二人きりになるの嫌ですか? まぁ、その方が三上さんと猫宮さんがペアになる確率が少し上がるので良いでしょう。

 それならば、わたくしと猫宮さんが違うものを出し続ければ、より猫宮さんと三上さんがペアになる可能性が増えますね。わたくしは小声で猫宮さんに、「わたくし、パーを出しますので」と言いました。

 猫宮さんは小さく頷き、みんなが手を差し出しました。

「グーチョキパーで別れましょう」

 掛け声と共に各々が手の形を変え、なんと、一回で二人ずつの三チームに別れる事が出来ました。

 グーを出したわんさんと天羽さん。チョキを出した三上さんとうささん。パーを出したわたくしと猫宮さん……

 猫宮さんあなた、わたくしの作為全く理解して無かったんですね。

「じゃあわたしと兎咲は左の路地行くから、猫宮さんと十六文字は右の細い路地行って。佑羽と犬養は正面の大通り進んで行ってよ」

 三上さんがテキパキと段取りを決めて、あっという間にバラバラになってしまいました。

 猫宮さんは立ち尽くしていて、掛けてあげられる言葉が見つかりませんでした。

「何故、パーを出すなどと言ったか?」

「何故って……」

 あなたの為だったんですけど?

「何故猫は、パーを出したか?」

「さぁ……」

 こっちが聞きたいんですけど?

「何故猫は、身に覚えの無い踊りを踊れるか?」

 急に何の話しですか?

「それはわたくしにとっても、謎なんですけど?」

「そんな訳があるか! メェちゃんが、猫を操っていたとしたら全て辻褄が合うんだよ!」

 この人、完全にわたくしのせいだと決め付けていますね……

「わたくしは、そんな器用に四肢を操って踊らせる事なんて出来ませんし、今もあなたに催眠術など掛けていないですよ」

「よく言ったもんなんだよ。そうなのだとしたら、催眠術なんて大したものでも無いんだよ」

 随分と癪に障る物言いですね。

「今、催眠術を掛けているのでは無いか、と疑ってらっしゃいますが、猫宮さんに催眠術は使え無いんです」

「何を言っている? 以前猫に望まぬ踊りをさせたのは誰か!」

「わたくしも望んで無かったんですけど……って言っても、なかなか信じてはもらえませんよね」

「そんな戯言を信じると思ったか? ここで猫と二人きりになる様に仕向け、何を狙っていたか? 猫と二人きりになって、わんちゃんに催眠術を掛けるのを無理強いした復讐をするつもりか?」

「そんなつもり無いです! それに、その理論だと、わたくしは犬養さんに催眠術など掛けず、あなたに催眠を掛けて、望まぬ催眠を掛ける事を阻止しますよ」

「さっき、猫には催眠が使えないと言ったではないか! 矛盾してるんだよ!」

「えっ? だからそれは! もしもあなたの言う事が本当だったらと言う事です!」

「猫が嘘を吐いていると言うか? 猫は、嘘など吐いていないんだよ!」

「嘘を吐いてるなんて思ってません。ただ、あなたの意見が事実だったらという事で話しを進めるとという意味ですよ? それに、二人きりになる様に仕向けたと仰いましたが、三組に分ける提案をしたのは三上さんではないですか!」

「猫が嘘を吐いていないと思うのであれば、猫が正しいという事ではないか! そして、女神が仰る言葉は、全て正しいのだよ!」

 あれぇぇ? 会話が成り立たないですね……この人、良い人なのだとは分かってますけど、頭が、悪いんですね……

「わたくしの話し、ちゃんと聞いてました?」

「メェちゃんは、猫を踊らせ辱めて、みんなの笑いものにしたいのが分かったんだよ」

「全然違います。何と説明すればいいのか……」

 二人で、無我夢中で言い争いをしていたせいで、近くに寄って来る不審者には気付けずにいたのでした。

「おぉぅい?」

「はっ?」

 わたくし達は、気付けば、三人の中年男性に取り囲まれていたのでした。
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