1 / 12
私はいらない子
しおりを挟むお姉ちゃんの名前は結愛。
〝パパとママの愛が実って生まれてきてくれた、夢にまで見た赤ちゃん〟だから。
弟の名前は望。
〝パパとママが熱烈に望んでできた、待望の男の子〟だから。
私の名前は二子……〝二月生まれで二番目の女の子〟だから。
もう名前からしていらない子。
お姉ちゃんはいつも綺麗なお洋服を着ていた。私はいつもお姉ちゃんのお古で、自分のお洋服を一着も買ってもらったことがない。私はおもちゃを一個も持っていなかったけど、お姉ちゃんは新しいおもちゃを買ってもらっていつもにこにこしていた。
お姉ちゃんはかわいくてちょっとやんちゃで、キラキラしたおもちゃのステッキを振り回して私を殴っても全然注意されなかった。
ふたつ違いで生まれてきた弟も、パパとママにかわいがられていた。
一生懸命ひとりで勉強して小学校の先生に学力の太鼓判をもらって、資料も全部自分でそろえてパパとママにお願いした私の中学受験は、資料を見ることもなく「無駄」だし「駄目」だと言ったのに、弟は私立の小学校にいっぱいお金をかけて進学していた。
私立の小学校に進学するお友達と離れるのが嫌だって弟が泣いたから。
まだ子供なのに悲しい思いをするのはかわいそうなんだって、パパとママはそう言った。
お姉ちゃんはピアノとバレエと英会話教室、弟はスイミングと英会話教室とサッカークラブに通っていて、ママはいつも二人の習い事の送り迎えで忙しかった。
私はその間、だいたいひとりでお菓子のパンを食べて待っている。
お菓子パンは好き。甘くて、だいたいどこででも買えるから。
習い事の発表会や試合には私以外の家族みんなで見に行くのが習慣。
だからお姉ちゃんのバレエの発表会があったその日は、日曜日だけれど朝から家には誰もいなかった。
私は昨日の夜から38度以上の熱があった。でも家の中には風邪のときに飲むと良いよと保健室の先生が教えてくれた薬もスポーツドリンクもなかったから、仕方なく近所のコンビニまで買いに行った。
なんとかお会計を終えて帰ろうとしたときに、コンビニの駐車場で女子高校生とすれ違う。私が熱でフラフラしていたから、彼女が持っていたテニスラケットにぶつかってしまった。
倒れそうになったところを支えてもらう。迷惑をかけてしまったことを謝罪をしようと思ったら、それが私たちの足元に現れた。
異世界から聖女を呼ぶための転移魔方陣。
足元からの強烈な光に目を閉じて、ふわりとした浮遊感の少しあとで、目を開けたら異世界だった。
結論からいえば、私は聖女ではなかった。
異世界のとある王国が、魔物とそれを発生させる邪気から国を守る結界を修復するために地球から呼んだのは、女子高生の聖月さんのほうだった。
そうだよねって思った。
もう名前からして、だよねって。
聖女が二子って名前はないよねって、思った。
どちらが聖女かを鑑定するために急きょ呼ばれた魔術軍の支援術師団長と王太子殿下が、「いつ日本に帰れますか」と聞いた聖月さんに「帰れない」と気まずそうに答えていた。
聖月さんは日本に帰れなくて泣いていた。
お父さんとお母さんとお兄ちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんと飼い犬のラッキーにもう二度と会えない。友達とは来週、楽しみにしてた映画を見に行くって約束したのに。
今日はテニスの試合だったのに。試合に勝てたら試合前の食事制限のために我慢していたケーキを食べようと思ってたのにと、泣いた。
日本に残してきた愛する人たちと、きらめいていた日常生活に二度と戻れないことを嘆いた。
私も泣いた。
戻らない日常や、二度と会えない家族のために泣いたんじゃない。
結局この世界でも私はいらない子なのだとわかったから、泣いた。
10
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
私は悪役令嬢マリーナ! 魔法とモフモフ達に囲まれて幸せなので、王子様は嫌いのままいてください。
にのまえ
恋愛
3度のご飯より乙女ゲーム好きな私は、夢にまで見るようになっていた。
今回、夢が乙女ゲームの内容と違っていた。
その夢から覚めると、いま夢に見ていた悪役令嬢マリーナの子供の頃に"転生している"なんて⁉︎
婚約者になるはずの推しにも嫌われている?
それならそれでいい、マリーナの魔法とモフモフに囲まれた日常がはじまる。
第一章 完結。
第二章 連載中。
児童書・童話タグから
恋愛タグへ変更いたしました。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。
夏
恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。
初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。
「このままでは、妻に嫌われる……」
本人、目の前にいますけど!?
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる