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第14話
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ルシアの言葉にカトルは次に言うはずだった言葉を失ってしまった。何も言わない彼にルシアは続けた。
「いつか呪いが解けたら、お父様もお母様もそうおっしゃって私は戻った時のための勉学も手習もやってまいりました。」
当初はそうだった。呪いというものは魔術師たちにもよくわからぬ技術でかけられたもので、もしかしたら自然と解けるものやもしない、そんな希望的観測もできたため、ルシアは将来無駄になるかもしれない伯爵令嬢としての教育を受けることとなった。
「ダンスはもちろん、刺繍に音楽、社交界でのマナーや決まり事、時世の話、令嬢たちの間で流行っているドレスの形や流行のファッション。名門ロンディネ家の娘として必要なことは全て学びました。」
定期的にやってくる、ルシアの母であるユリシアも自分が社交界で仕入れた話ばかりルシアにする。それはもし万が一、ルシアが元に戻った時のことを考えてのことだと彼女はわかっていた。
「ですが、呪いも解けず、魔術師たちにも匙を投げられ、それらは全て実を結ばぬまま、私はここで好きなようにやってまいりました。」
手を尽くすと約束したハルガンは様々な魔術を専門とする魔術師たちを紹介してくれたが、そのいずれもがルシアの呪いを解くことはできなかった。呪術が失われた今では呪いを受けた人間というのは貴重なため、解けずとも呪いという事象を解明しようと何度か別邸を訪れる魔術師もいたが、その魔術師もそのうち呪いを解明する事ができず来なくなった。
ルシアはまた、いつか呪いが解けたなら、そんな不確かな言葉に縛られながら別邸で時を過ごしてきた。
「別邸は閉鎖的ですが、それでも緩やかに時は流れています。」
カトルが選んだ使用人たちはルシアを気味悪がらず、呪われる以前と変わらず接してくれていた。入れ替わりもないのでこの10年でルシアはこの屋敷にいる全ての使用人の顔を覚えてしまった。
けれど、共にいる人が変わらないということは逆に、時の流れを如実に感じてしまうこともある。
「サムも、サディアスも、アンナも、お父様も、お母様も、どんどん変わっていかれる。私はただ、置いていかれるばかりで……私は、私は……。」
ルシアが言葉を詰まらせると、カトルは席を立ち、ルシアを抱きしめた。
「すまない、すまない……お前にばかり負担を強いてしまって……。」
久方ぶりに感じる父親の胸は以前と同じく逞しくて暖かだった。
「夢の話はサディアスから聞いていた。もし、この別邸を出て行ったら、そう考えていたことも。しかし、お前をこの家の娘でなくさせることは親としてできない、できないんだ、ルシア。」
カトルは痛みを堪えるような顔をしてルシアにそう伝えた。父も、痛いのだと思うとルシアは胸が痛かった。
「夢は、諦めなさい。」
そう言われた時、ルシアの目から自然と涙が出てくる。久しぶりにルシアは子供らしい声をあげて泣いた。
「いつか呪いが解けたら、お父様もお母様もそうおっしゃって私は戻った時のための勉学も手習もやってまいりました。」
当初はそうだった。呪いというものは魔術師たちにもよくわからぬ技術でかけられたもので、もしかしたら自然と解けるものやもしない、そんな希望的観測もできたため、ルシアは将来無駄になるかもしれない伯爵令嬢としての教育を受けることとなった。
「ダンスはもちろん、刺繍に音楽、社交界でのマナーや決まり事、時世の話、令嬢たちの間で流行っているドレスの形や流行のファッション。名門ロンディネ家の娘として必要なことは全て学びました。」
定期的にやってくる、ルシアの母であるユリシアも自分が社交界で仕入れた話ばかりルシアにする。それはもし万が一、ルシアが元に戻った時のことを考えてのことだと彼女はわかっていた。
「ですが、呪いも解けず、魔術師たちにも匙を投げられ、それらは全て実を結ばぬまま、私はここで好きなようにやってまいりました。」
手を尽くすと約束したハルガンは様々な魔術を専門とする魔術師たちを紹介してくれたが、そのいずれもがルシアの呪いを解くことはできなかった。呪術が失われた今では呪いを受けた人間というのは貴重なため、解けずとも呪いという事象を解明しようと何度か別邸を訪れる魔術師もいたが、その魔術師もそのうち呪いを解明する事ができず来なくなった。
ルシアはまた、いつか呪いが解けたなら、そんな不確かな言葉に縛られながら別邸で時を過ごしてきた。
「別邸は閉鎖的ですが、それでも緩やかに時は流れています。」
カトルが選んだ使用人たちはルシアを気味悪がらず、呪われる以前と変わらず接してくれていた。入れ替わりもないのでこの10年でルシアはこの屋敷にいる全ての使用人の顔を覚えてしまった。
けれど、共にいる人が変わらないということは逆に、時の流れを如実に感じてしまうこともある。
「サムも、サディアスも、アンナも、お父様も、お母様も、どんどん変わっていかれる。私はただ、置いていかれるばかりで……私は、私は……。」
ルシアが言葉を詰まらせると、カトルは席を立ち、ルシアを抱きしめた。
「すまない、すまない……お前にばかり負担を強いてしまって……。」
久方ぶりに感じる父親の胸は以前と同じく逞しくて暖かだった。
「夢の話はサディアスから聞いていた。もし、この別邸を出て行ったら、そう考えていたことも。しかし、お前をこの家の娘でなくさせることは親としてできない、できないんだ、ルシア。」
カトルは痛みを堪えるような顔をしてルシアにそう伝えた。父も、痛いのだと思うとルシアは胸が痛かった。
「夢は、諦めなさい。」
そう言われた時、ルシアの目から自然と涙が出てくる。久しぶりにルシアは子供らしい声をあげて泣いた。
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